稲村順一が徹底レポート「釣技最前線」第153回 「楠 康一の浅ダナウドンセット釣り/ Winter Ver.」

楠流 浅ダナウドンセット釣り/Winter Ver.のキモ その一:〝つぶ〟を生かす冬の珠玉のブレンドパターン!
多くのアングラーに重用されている〝つぶもじ〟は、もはや手を加える余地のないほど完成度の高いバラケブレンドとして認知されており、このバラケのスペシャリストである楠自身、盛期においてはエサの乾燥を防ぐためのごく少量の手水調整以外はほとんど行わない。なぜなら基エサに近い状態のバラケを打ちきった方が「粒戦」のポテンシャルを生かすことができ、また彼自身が理想とする状態を水中に構築しやすいという。
「ご存知のとおり〝つぶもじ〟は大変よく釣れるバラケですが、同時にとても扱いがデリケートなバラケです。ある意味、仕上がった直後がベストの状態なので、時間が経てば経つほど、手を加えれば加えるほどバラケとしての機能が低下してしまいます。元来、盛期における持たせ系のアプローチに適したバラケなので、今日のようにボソッ気が強い基エサのままではアタリを引きだせず、かなりの手水を加えてシットリタッチにして無理に抜かないと釣れないという時合下では、本来このバラケが持つポテンシャルを発揮することはできません。」
前述のとおり、今回の取材でスタッフは楠に、まず〝つぶもじ〟で始めてもらい、そのままでは釣りきれない状況に追い込まれたところで別のバラケで立て直し、悪い釣況を好転させるというシナリオを描いていた。しかし名にし負う〝つぶもじ〟スペシャリストの楠のこと、内心そのまま上手く釣りきってしまうのではないかと冷や冷やものであったが、幸い(?)早めにバラケを持たせてしまうとほとんどアタリらしいアタリがでないという難しい時合に遭遇したことで、新たに冬の抜き系バラケの威力を披露してもらえる機会を得たわけだ。
「このバラケは比率的に『粒戦』が半分を占めるので、大変抜きやすいのと同時に〝粒〟の誘引力・誘導力を増幅する効果も期待できます。またエサ付けをしやすくするために手水を加えて練ることも可能で、それによる効果の減衰もそれほど気にならないのがメリットです。」
抜きに特化したブレンドパターン〝仮称:つぶき〟。この冬、このバラケにも要注目だ!
楠流 浅ダナウドンセット釣り/Winter Ver.のキモ その二:的確なエサ付けと〝粒〟をくわせエサに被せる正確無比な打ち込みテクニック!
セット釣りの基本中の基本であり、当然といえば当然のことながら、ウキが立つところの直下に位置するくわせエサにバラケの粒子を被せることで構築される、くわせとバラケのシンクロモーション。へら鮒の活性が低く動きが鈍い厳寒期においては、打ち込みポイントがわずかにズレただけでもへら鮒の口からくわせエサが遠ざかり、不成立となる。またシンクロは「面」だけで捉えるものではなく、さらに重要なことは楠が理想とするナジミ際(ハリスの倒れ込み)で食わせるためにバラケを抜くタイミングと抜き方を探ること。さらに楠はもう一歩へら鮒の動きを深読みし、数投前のバラケによる変化(効果)を加味し、次投のエサ付け&打ち込みに生かしている。
つまり記者はこう考える。シンクロを二次元である打ち込みポイントだけで考えているのは中級者。水中を三次元で捉え、バラケを抜くタイミングまで考え実行できるのが上級者。さらにその1投だけでなく、時空を超えて四次元的に数投前のバラケの影響まで考慮し、次投に生かせるのが超一流。すなわち楠はこの領域に達した数少ない超一流のトップアングラーということになろう。
ちなみに、楠のエサ付けは総じて小さい。スタート直後の寄せを意識したものでも直径15mmにも満たない小エサで、これ以外はさらにひとまわり小さくなるため集魚力に懸念が生じるのだが、それについては次項で触れるとして、抜きバラケの難しさは何といってもこのくわせとバラケのシンクロモーションに尽きる。それを高精度かつ無限のバリエーションでコントロールしているのがエサ付けだが、この楠のエサ付けが興味深い。右利きの彼は基本的に竿を持たない左手でバラケエサをハリに付けるが、ときどき右手でそれを行う投があることに気づいたのだ。
「抜きバラケの釣りでは大抵左手だけで行うのですが、若干持たせたいときは右手も使います。特にハリのチモトを押えずに持たせるエサ付けができるのが私の右手で、『ここぞ』というときに活躍するこの右手には大変助けられています(笑)。」
楠流 浅ダナウドンセット釣り/Winter Ver.のキモ その三:潔い見切りによる速いリズムの打ち返しでヒットチャンスを見逃さない!
闇雲に速いというわけではないが、確かに楠のエサ打ちのリズムは速く、テンポも良い。これはベストの時合を維持するためのリズムであり、あわせてナジミ際のヒットチャンスを数多く生みだすために必要不可欠なテンポでもある。総じて厳寒期はウキの動きが乏しくなるため、アタリ欲しさにサソイを多用したり、少しでもサワリがあるとどうしても待ち釣りになったりしがちだが、楠の釣りではアタリを待つような守りの姿勢は少しもみられない。むしろ、食いアタリは早いタイミングでしかでないものとでも思っているのか、サワリがみられるときにラインテンションの抜き差しを加えながらわずかに待つことはあっても、一定時間が過ぎると躊躇することなく打ち返す。
「自分のなかでは狙いのタナよりも上のタナに食い気のないへら鮒を追いやり、その下に食い気のあるへら鮒が入り込むスペースを作って、上から降り注ぐ『粒戦』でくわせエサのあるタナへと誘導するイメージで組み立てています。しかし、こうした状態ができたとしてもヒットした直後に水面下でへら鮒が暴れまわると崩壊してしまうので、速やかに群れから引き抜いたら繰り返し速めのテンポで打ち返し、できるだけ同じ水面下の状態を維持することに努めています。」
そして肝心の食いアタリだが、速いリズムを維持する狙いもあるのだろうが、「あの動きで行くのか?」と思えるような小さな動きにも積極果敢にアワせながら、徐々に見るもの皆が納得の理想的なアタリでヒットを増やすと、やがて真冬とは思えないようなハイペースに突入。さらに驚くべきは、傍で見ている記者が決して手をださない(だせない)ようなトップの動きでヒットさせた投がどれほどあっただろうか。正直、アレで乗せられたら勝負にならない。
「盛期も厳寒期もくわせエサが自然落下状態にある〝ハリスの倒れ込み〟の瞬間が最もアタリがでやすく、『粒戦』を生かしたバラケでは、なおさらこのタイミングで食うことが多いので、毎投1回は必ず訪れるこのチャンスをみすみす見逃す手はありません。特にナジミ際の食いアタリはハリスが張る前にへら鮒がくわせエサを吸い込むので、必然的に小さな動きになるのは致し方ないこと。もちろん大半の動きは食ったと判断し、自信をもってアワせていますが、ときには食っててラッキー!と思えるような微妙な動きもあることは確かです(笑)。」
記者の目:横一線のなかで頭ひとつ抜きんでた、読みの確かさと技術力の高さ
横一線とは、言うまでもなく流行のバラケ〝つぶもじ〟を使う数多のアングラーを指すが、そのなかにあって無類の強さを誇る楠の釣りは、へら鮒釣りに必要不可欠な要素をすべて高次元で実践しているところにある。
傍目にはほかのアングラーと同じように見えるエサ付けひとつとっても、毎投明確な狙いや意味を持たせ、無駄な投は1投たりとない。しかもその読み(狙い)の確かさと実践するひとつひとつの技術力の高さは群を抜いている。「粒戦」は今やセット釣りには欠かせない必須アイテムだが、それを意のままに操り結果に結びつけるテクニックにはキレがあり、明らかに頭ひとつリードしていることを見せつけてくれた実釣取材。果たしてこの男の快進撃を止められるアングラーはいるのだろうか。今年も熱き戦いから目が離せない!