稲村順一が徹底レポート「釣技最前線」第153回 「楠 康一の浅ダナウドンセット釣り/ Winter Ver.」

2024年の主要なトーナメントを始め、釣り場という釣り場を席巻した通称〝つぶ(粒)もじ〟。名だたるトップアングラーが凌ぎを削ったメジャートーナメントシーンにあって、その強さが際立ったのがマルキユーフィールドテスター楠康一の浅ダナウドンセット釣りだろう。へら鮒釣り界において最高峰と称されるマルキユーM-1CUPに続きシマノジャパンカップも制覇。ほかの大会においても常に上位に名を連ねた楠の釣りは、この〝つぶもじ〟無しには語れないほど、もはや彼の釣りの代名詞ともなっている。今回はその強さの秘密を紐解くべく、年の瀬も押し迫った12月下旬、千葉県柏市にある清遊湖に楠を誘い、バラケの主役でありキモである「粒戦」活用術を披露してもらうことにした。
「粒」が主役の現代セット釣り 持たせは〝つぶもじ〟、抜きは〝つぶき〟!?
一般来場者の入場を待って楠とスタッフ一行は中央桟橋を奥へと進み、空いていた中央付近の北向き197番座席に釣り座を構えた。時季的には完全に冬の釣りに移行しており、いかに魚影密度が濃い清遊湖といえども盛期のようには釣れないことは百も承知。ただしそこは今シーズンの時の人である楠のこと、難なく釣りを決めてしまうに違いないと考えたスタッフは、決していじめでも試練を与えるつもりでもないが、まずは〝つぶもじ〟で様子をみて、バラケに何らかの調整が必要と判断した時点でアレンジしてもらおうという趣向でスタートすることにした。
「元来、持たせ系バラケである〝つぶもじ〟は盛期向きのブレンドです。しかし冬でも十分通用する汎用性のある優れたバラケであることは、今年2月にこの清遊湖で行われたM-1CUP予選で、私自身が予選突破できたことからも十分証明できるでしょう。ただし何時いかなるときも〝つぶもじ〟がベストというわけではなく、それは実際にエサを打ってみなければ分かりません。」
「釣技最前線」初登場の緊張感を醸しつつも、隠しようのないチャンプのオーラを放ちながら静かに実釣を開始した楠。1投毎にバラケのナジミ幅や抜けるタイミングに変化を付けながら、丁寧かつ早いテンポで打ち返していくが、30分が経過してもウキに何の変化も現われない。これにはいささか戸惑いを隠せない楠。それでも開始から1ボウル分のバラケを打ちきろうとした頃、ようやくウキに明確な生命反応が現われ、やがてサワリと見紛うほどの小さく「ムズ」と押さえるようなアタリでファーストヒットを決めると、その後も比較的小さなアタリでポツポツとカウントを重ね始める。このときのバラケのタッチは、基エサに数回に渡り手水が加えられたことでかなりシットリしたものに変わっていた。
「盛期に感じの良い基エサに近いタッチでは、今日はまったくサワりません。しかもタナまで持たせたバラケでは極端にアタリがでにくく、やわらかめのシットリタッチバラケを小さく付けてタナに届く直前くらいに抜くのがベストのようです。したがって今のバラケでは無理やり合わせている感じがして釣りにくいので、今日の時合に適したタッチのバラケに作り替えたいと思います。」
そう言ってアレンジされたバラケ【仮称:〝つぶ(粒)き〟】に変更すると、それまでの釣りにくさが解消されたためだろうか、楠が理想とする浅ナジミ(時にゼロナジミ)からのアオリ&シモリに連動した、いわゆるハリスの倒れ込みのアタリでコンスタントに絞り始めた。このときのバラケももちろん「粒戦」を軸とした高集魚性・超誘導型のバラケ。ブレンドこそ違えど、楠の真骨頂である正確無比な打ち込みテクニックと、他アングラーとは一線を画するリズムのよさ、さらにはまるで水中のへら鮒の動きと気持ちを見通しているかのごとき洞察力をもとに繰りだされる的確なエサ付けにより、盛期のトーナメントシーンを彷彿とさせるナジミ際の早いアタリで次々とヒットを重ね、厳寒期の難しい時合を見事に攻略してみせた。
取材時使用タックル
●サオ
シマノ「普天元 独歩」8尺
●ミチイト
東レ「将鱗へら TYPE-Ⅱ 道糸」0.8号
●ハリス
上=東レ「将鱗へら TYPE-Ⅱ へらハリス」0.4号-8cm
下=東レ「将鱗へらハリス スーパープロプラス」0.35号-45cm
●ハリ
上=オーナー「バラサ」6号、
下=オーナー「タクマ」3号→「サスケ」2号
●ウキ
①SATTOメタルピーチブラック
【B羽根二枚合わせ4.5cm/細パイプトップ※オモリ負荷量≒0.45g/エサ落ち目盛りはくわせエサを付けて7目盛り中3.5目盛りだし】
②SATTOメタルピーチグリーン
【B羽根二枚合わせ4.5cm/グラスムクトップ※オモリ負荷量≒0.35g/エサ落ち目盛りはくわせエサを付けて7目盛り中3.5目盛りだし】
取材時使用エサ
●バラケエサ【当日の決まりブレンドパターン】
「粒戦」200cc+水180cc(吸水のため10分程度放置後)+「ふぶき」100cc+「軽麸」100cc
五指を熊手状に開いてザックリとかき混ぜ、全体に水が回った程度で手を止める。タッチの調整は手水と押し練りを基本とするが、当日はわずかにトップにバラケの重さがかかる程度の早抜きに反応が良かったため、やわらかめのシットリタッチをベースに組み立てた。
●くわせエサ
「感嘆」(「さなぎ粉」入り)10cc+水道水12cc
「感嘆」1袋に対し「さなぎ粉」20ccを混ぜたものをあらかじめ用意。100ccカップに水12ccと「感嘆」10ccを加えたら均一に混ざるように丁寧にヘラで練り込み、ムラなく塊になったらポンプに詰めて使用。通常は水11ccなのでやわらかめに仕上げた。