稲村順一が徹底レポート「釣技最前線」第139回 「萩野孝之の底舐めチョーチン両ダンゴ釣り」
萩野流底舐めチョーチン両ダンゴ釣りのキモ その一:下バリ着底後のヒット率を高めるタナ設定
カテゴリーとしてはあくまで宙釣りであるチョーチン両ダンゴ釣りなのだが、キッチリ釣りを決めるためには底釣り並みの正確なタナ設定が必要だと萩野は言う。基本はエサが付いていない状態では両バリ共に底から離れており、エサを付けて打ち込み、下バリに付けたエサが着底した状態でウキのトップ先端から3目盛りが水面上にでるようにすることがポイント。このときのエサ落ち目盛りは9目盛りだしに設定されているため、上下2つのエサの重さで6目盛り以上ナジむようにすれば確実に下バリが底に付くことになる。事実序盤の萩野のエサ打ちでは毎投ナジミ始めたウキのトップが2~3目盛り残しで一旦静止し、確実に下バリが着底したことを表わしていた。
念のためタナ取り手順を整理すると、
●エサ落ち目盛りを9目盛りだしに決める。
●下バリにタナ取りゴムを付けて水深を計測し、トップ先端3目盛りが水面上にでるようにウキ下を調整する。
●目印のトンボを3目盛りのところに移動してエサ打ちを開始する。
釣り進むなかで着底後のアタリが頻繁に空振るなどヒット率が低下したときはタナを測り直すことが肝心だ。この日も同様の事象が発生した際にタナ取りをやり直したら1目盛りほど底が掘れていたことが確認でき、調整後に再び高ヒット率で釣れるようになったことは、この釣りにおけるタナ合わせの重要性を如実に物語っている。
「キチンとした底釣りほどシビアではないにしても、それなりにタナを合わせないとアタリが不安定になったりヒット率が悪くなったりするところは、やはり底釣りの特徴が現われていると思います。またエサ持ちが悪く、ナジミ幅が6目盛り以下になると下バリが底に着かずに単なるチョーチン両ダンゴ釣りになってしまいますので、くれぐれもナジミ幅には注意が必要です!」
萩野流底舐めチョーチン両ダンゴ釣りのキモ その二:ブレンド&エサ付けでへら鮒を惹きつけ深場へと誘引
エサ合わせの方向性としては生理的に深場へとタナを下げるへら鮒にアピールしながら着底前に食わせることを最優先に考えつつも、二段構えの二段目となる底へとへら鮒を誘引し溜めるエサ使いが必要不可欠だと断言する。この日、萩野はスタート時点では「カクシン」+「コウテン」の鉄板ブレンドで始めたが、思いのほか深場のへら鮒が上っ調子であったことからエサ持ちが悪くなったため、エサ持ちを強化するための対策として硬さで持たせることを選択。それには「GD」の特性が最もマッチすると考え、前記ブレンドで正解を導きだしたわけだが、常に当該ブレンドが合うとは限らないと言う。
「今回は放流から一定期間を過ぎた新べらが底近くに着いていたことから、膨らみ重視のエサ使いが決まりましたが、状況によってはヤワネバ系のエサがマッチするケースもあるので、特性の異なるいくつかのブレンドパターンを手の内に入れておくと、この釣りも幅が広がると思います。」
いうまでもないが、エサ合わせはブレンドだけで完成するものではない。今回萩野が強調したのがエサ付けの重要性だ。一般的にチョーチン両ダンゴ釣りはタナが深い分、エサは丁寧に付けることをヨシとしているが、残念ながらそれではこの釣りの核心部分にまでは踏み込めないと萩野は言う。
「明らかなラフ付けではもちろん底までエサは持ちませんが、ただ持たせれば釣れるかといえばそうではないと言わざるを得ません。言葉で表現するのは難しいのですが、〝丁寧なラフ付け〟とでもいえばよいでしょうか。角張らせるというほどではありませんが、決してハリのチモトをキッチリ押えるという感じではなく、エサのタッチを信じて微妙に圧加減を控え、形も整え過ぎないようにしています。」
エサ付けは動画ならびに写真で確認していただければお分かりいただけるだろうが、実際に的確なエサ付けになっているか、その答えはへら鮒がだしてくれるはずだ。
萩野流底舐めチョーチン両ダンゴ釣りのキモ その三:〝底舐め〟の釣りならではの独特な食いアタリを逃さず捉えろ!
この釣り方には独特なアタリが存在する。それこそがまさにこの釣りにおける〝打ち出の小槌〟であり、下バリが着底した後にでる食いアタリだ。これが取れるか否かで釣果に大きな差が生じてしまうので、こうしたアタリがでることを知ったうえで慣れることが先決だ。アタリの特徴としては正真正銘の底釣りアタリと同じく小さな動きとなってウキに現われるので、一般的なチョーチン両ダンゴ釣りと同じタイミング、同じ強さの動きを食いアタリとだけ認識しているとアワセ損なう恐れがある。この日の荻野の釣りを見ていると、始めこそナジミきる直前にでる深宙釣り特有のアタリが多かったものの、次第に〝底舐め〟のアタリがではじめると釣果は右肩上がりに急上昇。折しも新べらの回遊と重なり一時は盛期を凌ぐ入れ食い状態を演じてみせた。
「宙釣りの食いアタリは動いているエサをへら鮒が口にするため比較的大きな動きとなってウキに現われますが、着底した後の静止したエサを口した場合は比較的小さな食いアタリとなることは容易に想像できることです。この釣りのメリットはこのアタリをだしてこそのものですので、読者の皆様には動画をご覧いただき、どのタイミングでどういった動きのアタリになるのかを参考にしていただきたいと思います。」
下バリ着底後のアタリはいわば深宙釣りにおける食いアタリのエキストラ(追加)だ。活性が高くエサを食うタイミングが早い場合は着底前にでる宙の食いアタリが多くなる傾向だが、晩秋から初冬にかけて少しずつ活性が低下するのに従い、エサ追いが鈍くなるとともに食うタイミングも遅くなり、必然的に下バリ着底後のアタリが多くなる。これが取れるのと取れないのとでは釣果は大違い。次第に両ダンゴでの釣果が落ちる時季にあっても、底での上乗せが可能になれば、より長きに渡って両ダンゴの釣りが楽しめるに違いない。
記者の目:〝底舐め〟は、もはや異次元の宙底二刀流のハイブリッド釣法!!
理論的には宙釣りと底釣りのいいトコ取りの釣り方とはいえ、萩野の実釣を目の当たりにするとそれが単なる取りこぼしを回避するための二枚腰、二段構えの釣り方ではないことがよく分かる。記者もかつてこの釣り方を試したことがあるが、決してシステム化された釣り方ではなかったため、いわゆる〝なんちゃって底釣り〟の域を超えることができず、釣れることもあれば極端に釣れないこともありその波が激しかったことを記憶している。今回、萩野の釣り方をつぶさに見られたことで、この釣りの奥深さを知ることができただけではなく、既に彼の〝底舐め〟の釣りは、異次元の領域というべき「宙釣りをしながら同時に底釣りもしている」といった宙底二刀流のハイブリッド釣法として確立していることが理解できた。近年へら鮒の放流量の減少や大型化によって厳しさや難しさを増す一方のへら鮒釣り。釣果を得ようとするとどうしてもセット釣りをする機会が増えてしまうが、あくまで基本は麩系ダンゴエサを食わせる両ダンゴの釣りであり、オールシーズン楽しめるへら鮒釣りにあって、「少しでも長く両ダンゴの釣りを楽しみたい」というアングラーは決して少なくないはずだ。今回の釣技最前線は自身「両ダンゴの釣りが好きだ」と言ってはばからない萩野からの、すべての両ダンゴ釣りファンに向けてのエールともいえる取材であった。