稲村順一が徹底レポート「釣技最前線」第84回 伊藤さとしのチョーチンバラグルセット釣り&両グルセット釣り
春夏秋冬オールシーズン楽しめるへら鮒釣りだが、さすがに厳寒期の釣果には厳しいものがある。容易に動かぬウキを見つめながら、そのアプローチは貴重な一枚を求めて自ずとディフェンシブなものへと変わっていることだろう。ところがそんな真冬の釣りでも、条件さえ整えば守りに入る必要がないほどウキの動きを出すことができる釣り方がある。それが新べら放流量の豊富な準山上湖やダム湖での、長竿を使って深宙ダナを攻めるチョーチンバラグルセット釣り&両グルセット釣りだ。今回は毎年冬になると積極的にこの釣りを楽しんでいるというマルキユーインストラクター伊藤さとしに、この釣りの魅力を紹介してもらおうと群馬県藤岡市にある三名湖での網中の釣りをオファー。そこで繰り広げられたのは「グルテンα21」のポテンシャルを最大限生かしきる、冬とは思えないほど攻めに徹した超攻撃的アプローチであった。
特性を生かした使い分けで、グルテンはさらなる力を発揮する!
徹底した基本の踏襲を軸としながらも、ときになるほどと唸らされる新しい釣り方やあっと驚くような奇抜なアイデアを繰り出す伊藤さとし。あらゆる釣り方を受け入れる懐の深さと柔軟な発想が、彼の釣りの根幹にあることは誰もが認めるところであろう。それだけに彼の口から飛び出す〝金言〟は多くのアングラーの指針となって広く受け入れられている。
「一年中釣れるへら鮒も1月~2月の厳寒期になると簡単には釣れないよね。だからこそ新べらの放流は必要不可欠なんだ。そしてこの時期に好釣果を臨むのであれば、その新べらをメインターゲットにするのがセオリー。でも管理釣り場では既存の旧べらも多く、新べらだけを狙うことは意外に難しい。そこで新べらが狙いやすい放流量の多いダム湖や準山上湖に出かけるんだ。」
放流事業にも携わる伊藤は、2週間前自身が立ち会った同湖での新べら放流時にも竿を出したという。そのときはバラグルセット釣りでは旧べらばかりでカラツンも多かったことから両グルテンのセット釣りに切り替えたところ、良い感じで放流したての新べらが釣れ始まったという。
「バラケが旧べらを刺激し過ぎるということは往々にしてあるんだ。新べらにはグルテンが良いということは昔から言われているが、これは新べらがグルテンを好むということではなく、既存の旧べらを避けて新べらを釣りやすい状態にするのに、集魚材を含まないグルテンの方が良いということかもしれないね。それにグルテンは思っている以上に奥が深いエサで、現在ラインナップされているグルテンにはそれぞれ特徴があって、状況に合わせて使い分けることが肝心なんだ。硬めが良いエサ、軟らかめが良いエサ。ボソが良いエサ、しっとりが良いエサなど、それぞれの違いについては実釣を見てもらえればよく分かると思うよ。」
桟橋の一部が凍るほどの冷え込みに見舞われた取材当日。これが影響したのか伊藤が意図するウキの動きが両グルテンでは出し切れなかったため、途中でバラグルセット釣りに切り替え、さらには竿も21尺から24尺→27尺と交換し、最終的に当初の狙いであった両グルセット釣りで決めてみせたが、年明け以降2月上旬頃までのエサ使いとしてはバラグルセット釣りをメインとし、ある程度アタリが続くようになったところで両グルセット釣りに切り替えるというのがベターだと伊藤は言う。従って今回はバラグルセット釣りでのアプローチを中心に紹介することにしよう。
使用タックル
●サオ
シマノ 飛天弓「閃光L」21尺〜27尺
※へら鮒が居着いているタナに届く長さを選択する
●ミチイト
東レ「将鱗へらTYPEⅡ道糸」0.8号
●ハリス
東レ「将鱗へらTYPEⅡハリス」上0.4号-40cm、下0.35号-70cm
●ハリ
オーナーばり 上「バラサ」7号/下「バラサ」3号
※両グルテンのセット釣りの場合は上下「バラサ」4〜5号
●バラグルセット釣りでの使用ウキ
SATTO(イエローグリーン/レッドラベル)13番
【1.0mm径PCムクトップ23.0cm/6.5mm径カヤボディ13.0cm/1.2mm径カーボン足7.0cm/オモリ負荷量≒2.5g/エサ落ち目盛りは全11目盛り中7目盛り出し】
●両グルテンのセット釣りでの使用ウキ
SATTO(イエローグリーン/グリーンラベル)13番
【0.8mm径グラスムクトップ24.5cm/6.5mm径カヤボディ13.0cm/1.2mm径カーボン足9.0cm/オモリ負荷量≒2.5g/エサ落ち目盛りは全11目盛り中7目盛り出し】
●ウキゴム
オーナーばり「浮子ベスト」2.0mm
●ウキ止め
オーナーばり 「へらテーパストッパー」1.5-S
●オモリ
0.4mm厚板オモリ(ウレタンチューブ装着)
●ジョイント
オーナーばりダブルサルカンダルマ型22号
タックルセッティングのポイント
サオ
厳寒期のへら鮒は深いタナに居着くことが多く、また途中で容易にはタナを変動させない。このためタナ(竿の長さ)が合えばエサ打ち数投で釣れることも珍しくないが、その一方でタナが合わないとサワリすら出せないこともある。従って竿の長さの選定、および途中での交換は極めて重要な要素となり、この釣りが成立するか否かを決定づけるほどの大きな意味を持っている。奇しくも取材では21尺→24尺→27尺と伸ばすことで良いウキの動きを出すことができたが、釣果云々にこだわらなければ21尺のままでもポツポツは釣れ続いたに違いない。しかし経験上長くすることで目指すウキの動きが出ることが分かっていたため、またその動きを是非読者諸兄に見ていただこうという伊藤の強い思いも重なり、積極的に動いた結果がこれであったことをご理解いただきたい。念のため朝から27尺でスタートしていた近くのアングラーのウキは開始直後から動き始め、終日アタリが途切れることはなかった。
ミチイト
厳寒期といえども数が釣れ、しかも引きの強い新べらがメインターゲットとなるため、繊細過ぎるセッティングはむしろ逆効果。しかも深いタナを攻める釣りなのでアタリの伝達を確かなものとするために、ナイロンラインのなかでもしなやかで張りのあるタイプを選択してラインテンションを確保した。
ハリス
前述のセッティングがこの釣り方の基準となる太さ・長さであり、ウキの動きを見ながら5~10cm程度の調整を加えていく。なおカラツンを含めてコンスタントにアタリが続くようになったときや、またウキのナジミ際でのトメ・サワリが多くなったときには、エサ使いを両グルテンに切り替え、ハリスも20cm以上の段差をとりながら長さを調整する。これが両グルテンのセット釣りのポイントのひとつ。
ハリ
竿が長くタナも深くなるが、水中を落下していく途中でのへら鮒によるアタックはほとんどないので、特別ハリを大きくしてエサ持ちを強化する必要はない。このため前述のセッティングを基本とし、両グルテンに切り替えるときには上下共に4~5号とサイズダウンして落下中のエサを捕食しやすくする。
ウキ
アプローチによってウキを使い分けるのが伊藤流。取材時も両グルテンのセット釣りでスタートした際には、ナジミ際のアタリが狙えるグラスムクトップ仕様のイエローグリーン(グリーンラベル)を使っていたが、途中でバラグルセット釣りに切り替えてナジミきった後のアタリに狙いを変更した際には、PCムクトップ仕様のイエローグリーン(レッドラベル)に交換し、その狙いを明確にして釣りやすさを追求していた。
伊藤流チョーチンバラグルセット釣り&両グルセット釣りのポイント 其の一:深いタナにサスペンドする新べらに対し、躊躇なく長竿を繰り出す!
長竿というだけでネガティブな感情を抱かれる読者諸兄も少なからず居られるかもしれない。しかし、心の垣根を取り払うだけで高いと感じていたハードルが下がり、今まで体感することのなかった世界観に触れることができるということは往々にしてあることだ。元来へら鮒釣りは自由なスタイルが尊ばれ、他人に迷惑のかかる釣り方さえしなければ思い思いの釣り方で楽しめる釣りであり、記者もそうした考えに異論はない。伊藤もそうしたマルチアングラーのひとりであり、野の巨べら釣りから厳寒期の繊細かつテクニカルな釣りに至るまで、その広く深い懐であらゆる釣り方を受け入れつつ、常に自らの釣りをブラッシュアップさせ続けている。凍てつく朝の空気の中、テキパキと釣り支度を始めた伊藤に今回使用する竿の長さを尋ねると、
「今継いでいるのは21尺。まだ放流から間もないので、できればこれ以下の竿で釣れてくれると良いのだが…。確かにこれ以上の長竿は一般的とは言えないかもしれないけれど、釣りは水物だからやってみなければ分からないね。状況によっては24尺、さらに27尺と長くしなければ釣れないかもしれないが、メインターゲットは今シーズン放流された新べらだから、居着いたタナに届く長さの竿でうまくグルテンエサを送り込むだけで、厳寒期とは思えないようなウキの動きで釣ることができるんだ。とはいえ、この記事がアップされる頃が1年のうちで最も厳しい時期だから、そうした超ロングロッドが必要になる可能性は否定できない。でも2月に入れば少しずつ釣れるタナが浅くなってきて、再び21尺以下の竿でも釣れるようになるので気軽にチャレンジして欲しいんだ。」
この時期はどんなに魚影の濃い管理釣り場でも簡単にはアタリを出すことができない。そんな厳しい状況下においてストイックに攻略するのも悪くはないが、それでも厳寒期はアタリに飢えた釣行が重なり「早く春になってウキが動くようにならないかな…」と思うもの。実は記者もそんなアングラーのひとりであり、今回伊藤が披露してくれた釣りを実践し、厳寒期の〝釣れない症候群〟のリハビリとしているのだが、事実記者のつたないテクニックでも容易に釣れるのだから、やらない手はない。
「単にタナ(竿の長さ)だけを合わせれば釣れるとは言わないが、長竿ということをいとわなければ基本的なテクニックだけで十分釣れるんだ。何よりこの時期簡単にウキが動くのがありがたいし、今回はそんなウキの動きが出せたので、これを見てくれた多くのアングラーがやってみようと思ってもらえれば嬉しいね!」
伊藤流チョーチンバラグルセット釣り&両グルセット釣りのポイント 其の二:『グルテンα21』の特性を最大限引き出し、そして生かしきる!
取材中、伊藤は「グルテンα21」を愛用している理由として、繰り返しこう述べていた。
「何かひとつだけグルテンを選べといわれたら迷わず『グルテンα21』だというくらい、使えるシチュエーションが幅広く使いやすいエサなんだ。特性的には微粒子タイプのマッシュと、太く強めのグルテンを組み合わせたくわせ系のグルテンで、思った以上に膨らみが良くマッシュの抜けが良いから集魚力もあるし、何よりハリのフトコロへのグルテンの絡みが良いので、安心して釣りに集中できるのが良いね。このように優れた『グルテンα21』だが、この釣り方ではくわせに徹して使うことがポイントになる。従って集魚力については麩系のバラケエサ、もしくは集魚性の高いボソ系のグルテン(今回は『グルテン四季』がその役を担った)に任せるのが良いね。」
そう言いながら伊藤は、打ち返しのために手元に引き寄せたハリスを掴み、グルテン繊維がハリに絡んだ状態であることを示して見せた。以降記者は打ち返しのたびに気にしてハリを見ていたが、伊藤が言うように毎投小さなグルテンの塊がハリのフトコロについたまま戻ってくる。それはアタリがあってヒットしなかった投でも同様に見られ、これこそが伊藤が「グルテンα21」に寄せる信頼の証なのであろう。
「エサ持ちが良いという特性を最大限引き出すには、軟らかいタッチで使うのが一番。厳寒期はへら鮒の吸い込む力が弱いので、間違いなく軟らかいエサの方が吸い込みやすくなる。数あるグルテンのなかでも『グルテンα21』は、このソフトタッチにしたときの膨らみが優れていて、食い渋った厳寒期のへら鮒に口を使わせるには大きな武器となるんだ。使い方のコツは多少硬めに仕上げたものに手水を加え、徐々に軟らかくしながら手揉みでまとまり感を増す方法がお勧めだね。」
そう言ってボウルの中のエサの一部を指で摘まんで突起させると、その先端に水を張ったボウルに浸した五指から流れ落ちる水滴を適宜垂らし、軽く揉み込んでからハリに付けて見せた。状況によってはこれを数回繰り返した極ヤワタッチで決まることも多く、こうしたタッチの幅の広さも長年伊藤が手放せない大きな理由のひとつとなっているに違いない。
伊藤流チョーチンバラグルセット釣り&両グルセット釣りのポイント 其の三:エサを止めて食わせるならバラグル!動きの中で食わせるなら両グル!
取材当日の伊藤のシナリオはこうだ。2週間前の放流立ち会い直後に竿を出したときは、バラグルセット釣りではほぼ旧べらばかりでカラツンも多く、目指す釣況には達しなかったという。そんなときバラケが旧べらを過剰に刺激してしまい、新べらの寄りを妨げているのではないかと気づき、途中から両グルテンに切り替えたところ新べらが釣れ始め、以降ナジミ際の早いアタリでコンスタントに釣れ続いたという。こうした経緯があったことから取材時は両グルテンでスタート。それもボソタッチで集魚効果が高い「グルテン四季」を上バリに、軟らかく仕上げたくわせ系の「グルテンα21」を下バリに使うという、伊藤流の両グルテンのセット釣りでコンスタントかつ高ヒット率を目論んでいたのである。ところが当日は釣れ出しこそ早かったものの伊藤が目指すペースにはほど遠く、しかもナジミ際のアタリが極端に少なく周囲の釣況も芳しいものではなかったため、開始2時間ほどでバラグルセット釣りに変更を余儀なくされたのである。
「今日は両グルテンでも旧べらが釣れてくる確率が高いし、放流から2週間が経過しているので既に新べらの群れが分散してしまったのかもしれないね。でもこの記事がアップされる頃はさらに水温が下がって新べらの動きも鈍くなっていることが予想されるので、バラグルセット釣りで始めた方が確実性は高い。いずれにしても釣り方を限定して決めつけることは良くないね。新べら狙いでも寄りがキープできずにアタリが続かないのであれば迷わずバラグルセット釣りを選択するが、たとえアタリが多くてもナジミきって動きが停止したくわせを食うようなら、バラグルセット釣りの方が釣果は伸びるだろう。そのうえでナジミ際のアタリが頻繁に出るようであれば両グルテンに、それも寄りがキープできてアタリが持続する両グルテンのセット釣りに切り替えるというのが正解だと思うよ。」
エサ使いをバラグルセット釣りへ切り替えるに際し、伊藤は前述のPCムクトップ仕様のウキに交換していた。ちなみに両グルテンのときに使用していたウキのスペックは以下の通りで、注目すべきはオモリ負荷量がほぼ同じで、トップの仕様だけが異なる点である。
★SATTO(イエローグリーン/グリーンラベル)13番
【0.8mm径グラスムクトップ24.5cm/6.5mm径カヤボディ13.0cm/1.2mm径カーボン足9.0cm/オモリ負荷量≒2.5g/エサ落ち目盛りは全11目盛り中7目盛り出し】
「アプローチに合わせてウキを替えるのは必須テクニックだよね。今回のケースではオモリ負荷量に過不足は感じなかったので、同じオモリ負荷量でトップだけを替えて、グラスムクトップウキで追わせる(エサを動かしながら食わせる)釣りから、一旦ウキをナジませてエサを止めて食わせる釣りに適したPCムクトップウキに替えたんだ。これならオモリ負荷量が同じなので、トップの違いによるウキの動きの違いがハッキリ分かるよね。」
PCムクトップに替えた直後のウキの動きを注視していると、バラケの重さが加わった分だけナジミ幅が大きくなり、トップ先端1目盛り残しまで深ナジミすることも多く、これではグラスムクトップではエサの重さを支えきれず毎投沈没してしまうに違いない。こうしたウキの使い分けもバラグルセット釣り&両グルセット釣りという、言わば二刀流のアプローチを支える大きな力となっていることは明らかだ。
総括
真冬の野釣りという厳しいシチュエーションにおいて超長竿で深いタナを狙うというと、いかにもハードルが高そうな釣りと思われてしまいそうだが、そんな心配は一切無用だと伊藤は言う。
「真冬の釣りというと繊細なタックルでのウドンセット釣りと誰もが思うかもしれないが、たとえどんなに魚影の濃い管理釣り場でも厳寒期にウキを動かすことは至難の業だろう。一方で今回見てもらったグルテンを主役としたセット釣りだが、映像で見てもらえれば一目瞭然、厳寒期にこれだけウキが動く釣りは他には無いと思うよ。もちろんウキを動かすために必要なテクニックは不可欠だが、長竿で食い気のある新べらが居着くタナを探り当てるだけで第一のハードルはクリアーできるし、食い渋ったへら鮒でも容易にエサを吸い込むことができるソフトタッチの『グルテンα21』をタナまで送り込めれば、それで好釣果は約束されたようなもの。その際バラグルセット釣りが良いか、それとも両グルセット釣りが良いかは状況次第だが、いずれの釣り方も本格的に両ダンゴで釣れ始まるまで長期間通用する釣り方なので、食わず嫌いにならずに是非ともチャレンジして欲しいんだ。」
ある意味期間限定の釣りだが、季節毎の釣りを楽しむ一面のあるへら鮒釣りならそれもありだろう。なによりこの時期、これだけウキが動いて釣果にも恵まれたら、きっとへら鮒釣りに対する世界観が変わるに違いない。