稲村順一が徹底レポート「釣技最前線」第97回 西田一知の両グルテンの底釣り|へら鮒天国

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稲村順一が徹底レポート「釣技最前線」第97回 西田一知の両グルテンの底釣り

へら鮒釣りには〝春は底を釣れ〟という格言がある。厳寒期を深場で過ごし、巣離れから乗っ込み期にかけてカケアガリを浅場へと上がってくる、食い気旺盛なへら鮒を狙うには底釣りがベストだという先達の教えである。多くの釣り場では管理、野を問わず、こうしたカケアガリを有する好ポイントが点在するが、なかでもひと気が無く、へら鮒の警戒心が薄れる対岸の逆カケアガリは、これからのひととき、良型の抱卵べらが集結するパラダイスと化す。釣り方としては高難度のテクニックを要するが、いくつかのキモを押さえれば未体験ゾーンの爆釣劇も夢ではない。今回、この難しいオファーを引き受けてくれたのはマルキユーインストラクター西田一知。取材スタッフが用意した舞台は茨城県筑西市にある筑波湖の一号桟橋で、へらアングラーの間では知られた〝壁〟のごとき逆カケアガリのポイントだ。そんな早春の底釣りを至高の理論とテクニックで攻略する様をとくとご覧あれ!

①早春②逆カケアガリ③良型べらの接岸、これだけ条件が揃えば両グルテンの底釣りで狙うしかない!?

正直、この釣り方で臨むことは時期尚早と思われたが、期せずして前月末に新べらの追加放流が行われ、これに刺激を受けた既存旧べらの活性は例年よりも高いとの評判を聞きつけた。とはいえ、難しい釣りには違いない。完全に浅場にへら鮒が回ってきていれば規定最長の21尺で攻めるのがセオリーだが、まだ本格的な巣離れが済んでいない現在、カケアガリの最上段ではなく一段下のレンジを攻めるべく、西田は20尺を継いだ。

「釣果だけを考えたら、さらに手前にある緩やかなカケアガリの深場を、穂先一杯でタナが取れる長さの竿を使って攻める方が確実性は高いでしょう。しかし、今回の狙いはあくまで浅場のカケアガリに居着く、もしくは回遊してくるコンディションのいい良型ですので、多少アタリは減るかもしれませんが、とりあえずこれで行ってみましょう。」

そう言いながら支度を調えると、小さめのタナ取りゴムを両バリに刺してタナを計り始めた。すると予想はしていたことだが、打ち込むたびにトップが沈没したり、逆にまったくナジまなかったりと、想像以上に傾斜が大きいと同時に地底の起伏が激しいことが分かった。普通に考えたらとても底釣りをするようなポイントではないが、上手く攻めれば爆釣につながるとの期待を込めたタナ取り作業が続く。実際のタナ取りの手順ならびにコツは動画を見て頂くこととして、まずは今回の釣りにおけるポイントを西田に訊ねてみた。

「一般的な底釣りであれば重めのダンゴエサで、ウワズリに注意しながら組み立てるのが一般的ですが、ここは傾斜が大きく凸凹した地底ですので、軽めのエサで底に着底した瞬間に食わせるように組み立てるつもりです。しかも今回は既存の良型べらに加えて新べらもターゲットに含まれますので、エサ使いは両グルテンがベターでしょう。もちろん底釣りですのでアタリがでるタナを探りあてることが先決ですが、おそらく今日のキモはそのために必要なロッドワーク(振り込み+ウキのさばき方)になると思いますよ。」

最後に口にした「ロッドワーク」について、記者はこの時点では「?」であったが、実際に目の当たりにすると納得のテクニック。それについては後述するとして、早速実釣の様子を紹介することにしよう。

使用タックル

●サオ
シマノ 飛天弓「閃光L」20尺

●ミチイト
オーナーばり 「ザイトSABAKIへら道糸」0.8号

●ハリス
オーナーばり 「ザイトSABAKIへらハリス」上0.4号-40㎝/下0.4号-47㎝

●ハリ
オーナーばり 「サスケ」上=6号、下=5号

●ウキ
忠相 「S PositionBOTTOM」No.12
【PCムクトップ160mm/一本取り羽根ボディ125mm/竹足50mm/オモリ負荷量≒1.9g ※エサ落ち目盛り=全11目盛り中7目盛り出し】

●ウキゴム
忠相Foot Fit (S)パープル

●ウキ止め
忠相Dual Hold(M)

●オモリ
0.3mm厚板オモリ(ウレタンチューブ装着)

●ジョイント
オーナーばり 「ダブルクレンヨリモドシ」22号

今回使用したタックルにおいて、西田がポイントとして口にしたのはPCムクトップウキとハリス段差であった。ウキに関しては、パイプトップの場合は軽いエサでは底から離れていてもさも着いているようなバランスになる恐れがあるが、PCムクトップではそうしたリスクもなく底の変化もリアルにトップに現れるので、タナに関する迷いがなくなるという。ハリス段差に関しては、一般的な沖に向かって深くなるカケアガリでは傾斜が大きくなるほどに段差を広げることが多いが、逆カケアガリで段差を広げるとかえって下バリが前方の浅いところに着底しやすくなる可能性が高くなるため、狙ったところにピンポイントでエサを送り込むためには、むしろ段差を狭めた方が良いという。

西田流両グルテンの底釣りのキモ 其の一:タナ取りはあくまで目安。数cmの精度にこだわるべからず!

西田のタナ取りは、大雑把に見えて実は繊細。何度も何度もウキ下を調整しながら繰り返しポイントに打ち込んでいく。しかし、今回は一般的な底釣りにおけるタナ取りとは様子が異なり、水深を測るというよりも、水面に出たトップの目盛りの違いによって底の傾斜角度と起伏の状態を確かめているように見てとれた。

「予想していたよりも複雑な地形ですね。ウキが立つ位置の直下の傾斜は45度くらいの感じですが、少し先に打ち込んだところはそれ以上で60度近くあるかもしれません。実際、タナ取りゴムが傾斜を転げ落ちるような動きが見られますし、ここまで大きな傾斜となると逆カケアガリというよりも壁(崖)みたいなもので、エサを着底させるのではなく〝張りつけるイメージ〟で臨む方が良さそうですね。」

そう言うと一旦〝仮決め〟したタナでエサを打ち込み始めた西田。予想通りというべきか、僅かに打ち込む位置がずれただけでナジミ幅に5~6目盛りの差が生じることを確認できた。すると西田は、大胆にも一度に5cm以上大きくウキの位置を変えながら、ナジミ幅が安定し、理想のウキの動きからアタリがでてヒットするタナを探り始めた。

「こうした傾斜地では数cmの違いにこだわるよりも、そこに居るへら鮒が最もエサを食いやすい状態にエサを着底させることを優先することが大切です。そのためには少なからず勘というか感性というべき経験値も必要ですが、とりあえずアバウトに決めたうえで絶対に底から離れないタナでスタートし、ウキのナジミ幅とアタリの出方を探ることが肝心です。こうしたタナ合わせは管理釣り場では絶対と言っていいくらいやらない方法ですが、山上湖やダム湖などの野釣り場では至極当たり前のことですので、私にとっては特に違和感はありませんね。」

そうこうするうちに、ウキの動きに変化が現れ始めた。深ナジミしてしまうとまったく気配は見せないが、1~2目盛り程度の浅めのナジミ幅で落ち着いたときに限ってサワリがでるようになり、それから程なくして「ムズッ」と抑えるアタリでファーストヒット。苦戦が予想されただけに思いのほか早い釣れ出しにホッと胸を撫で下ろす西田ならびにスタッフ一同であった。

西田流両グルテンの底釣りのキモ 其の二:緻密なロッドワークを駆使し、狙った地底にエサを送り込め!

こだわるべきはタナ取りではなく、その後毎投繰り返される緻密なロッドワークだと力説する西田。決して強風ではないが、タナ3本弱のいわゆる半端ダナを攻めている彼にとって、目まぐるしく変化する風向きがそれを阻む。

「意外に厄介な風ですね。振り込むのに支障があるほどの強さではありませんが、それによって生じた流れがエサの着底位置を微妙にずらしているようで、へら鮒は結構寄っているように感じるのですが、思うようにアタリがだせません。」

そう言いながらも、大きな穴を開けることなく堅実なペースで良型のへら鮒をヒットさせ続ける西田。この時点で分かっていたこと、それを受けて心掛けていたこと、実践していたことは以下の通りであった。

分かっていたこと
①逆カケアガリの傾斜は45度以上。加えて底には複雑な起伏があり、不安定な地底である。
②振り切って打ち込むとまったくウキがナジまず、一般的な落とし込みではトップが沈没するくらいまで深ナジミを示す。また両グルテンでは普通といえる3目盛り前後のナジミ幅では、戻してからのアタリは空振りが多く、ヒット率が著しく悪かった。
③深めのナジミ幅がでたときは直後のアタリ(おそらくはエサの着底直前)、1~2目盛り程度の浅ナジミのときは戻してからすぐのアタリでヒットした。
④サワリがあってもアタリを待っていると手前の深い方へと流され、アタリはでなかった。
⑤早いアタリはバラケ系の開くグルテンの上バリ、待ってからのアタリはくわせ系の持ちの良いグルテンの下バリにヒットすることが多かった。

実践していたこと
①手前への流れを考慮してエサの打ち込みポイントをやや沖めに決め、完全落とし込みではなく気持ち振り切り気味としながら、アタリのでるナジミ幅がでるように打ち込みポイントを調整し続けた。
②振り込み時に跳ね上げて送り出したウキの、着水した位置と足の向きによって仕掛けが引っ張られることを計算に入れて、水中落下するエサが深い方から傾斜面に着底する(張りつく)ようにロッドワークを駆使していた。
③流される前にアタリを出すべく、エサのアピール度を増すタッチ、ならびに早いアタリで空振ってもウワズリ難いエサ付けとした。
④アタリがでるナジミ幅が分かっていたので、それ以外のナジミ幅となった際にはサワリがあるときを除き、できる限り早めの打ち返しを心がけた。
⑤深い方にエサが落ち込むとアタリがでないので、基本的に手前に引くサソイはかけず、逆に前方に送り出すことによってラインテンションを解放してアタリを誘発させた。

西田がエサを打ち込んでいるポイントは複雑な地底のようで、底の状態を把握するのにしばらく時間を要した。しかし、ある程度イメージがつかめた時点でやるべきことを絞り込むと、新べらの群れが回遊してきた際に連続ヒットを決めるなど、逆カケアガリの底釣りを見事に攻略してみせた。

「やはり決め手はロッドワークですね。タナが決まってエサが決まっても、エサの着底ポイントが少しでもずれてしまうとアタリがでません。エサを打ち込む位置・ウキの着水位置と向き・水面に浮いたミチイトのさばき方等々、風が吹くと難易度が増してしまいますが、すべてが噛み合うとアタリにつながりますので、どれも疎かにすることはできません。とはいえ、浅場に数多くのへら鮒が移動するようになってカケアガリの上部に回遊が多くなると、多少ポイントがずれてもまったく関係なく貪欲にエサを追って来ますので、それほどシビアにやらなくても結構楽しめると思いますよ。」

西田流両グルテンの底釣りのキモ 其の三:軽いグルテンをさらに軽く使い、宙釣り感覚で追わせて食わせる

この日のエサ使いは両グルテンであったが、一般的な上下同じエサを使うものではなく、あえて上下のハリに異なるブレンドのグルテンを使った西田。その意図をまとめると、

①両グルテンを選択したのは本格的な春の底釣りを想定し、釣りやすさを第一に考えたため。仮に集魚力の高い麩系両ダンゴ釣りやバラケを使ったセット釣りを行うと、本来ターゲットとするべき新べらやコンディションの良い大型旧べら以外の、いわゆる気難しいへら鮒まで寄せてしまう恐れがあり、それを避けて釣りやすい環境を整えるためである。
②エサの軽さを最大限生かし、難しい逆カケアガリの底を攻略しやすくしようという狙いも含まれている。すなわちエサを軽くすることで落下速度が遅くなり、アピール度が増すことによって着底直前からのヒットチャンスが広がるのだ。いわゆる深宙釣りの延長である追わせて食わせる〝なんちゃって底釣り〟だが、食い気のあるへら鮒が数多く寄ればこれで爆釣間違いなしだ。
③上下のグルテンを分けた狙いは、上エサは「グルテン四季」のマッシュフレークによる集魚性を損なわずにエサを軽くするため、下エサは「野釣りグルテン ダントツ」の集魚材による集魚力を損なわずに比重のみを軽くするためで、いずれも軽い「わたグル」をブレンドすることでその狙いを果たしている。とりわけ下エサのベースとなっている「野釣りグルテン ダントツ」は、巣離れ間もないへら鮒の回遊の足止めと傾斜地特有の不安定になりがちな時合いを安定させる働きも担っており、速攻、待ち、いずれの攻めにも対応可能だ。

「ロッドワークでまかないきれない部分は、エサの性能でカバーします。幸いマルキユーのグルテンラインナップにはこうした釣りに適したものが多く、今回はベースとなった『グルテン四季』と『野釣りグルテン ダントツ』の個性的な長所を生かしつつ、『わたグル』で軽くすることで逆カケアガリに対応する狙いがうまく果たせました。この記事がアップされる頃には巣離れも終わり、乗っ込み気配のなかで狙うことができるでしょう。そのときは今以上に活発にエサを追ってきますので、多少タナ合わせのズレがあっても数釣りが楽しめるはずですから、決して臆することなく逆カケアガリの底釣りにチャレンジしていただきたいと思います。」

記者の目【風流れのなかでのロッドワークの巧みさとグルテンブレンドが秀逸】

今回の取材では、確かに西田のロッドワークが際立っていた。「さすが野釣り場にも長けた百戦錬磨の名手が見せる技は違うものだ」と感心させられたが、取材時のような厳しい条件下の釣りでは高精度のテクニックが欠かせないものの、彼が言うように多くのへら鮒が浅場を回遊するようになると、ある程度タナが合っていれば、食い気に勝るへら鮒は着底する前にエサを食うことが多くなる。従って多少精度が低下したとしても、深宙釣りの延長的な底釣りは極めて有効な戦術だといえるだろう。そして、こうしたケースで力を発揮するのが軽めのグルテンである。「グルテン=放流直後の新べら狙い」と思われがちだが、この巣離れ期から乗っ込み期にかけてのへら鮒に対しては、新旧問わずすべてのへら鮒に有効である。なかでも抱卵した大型べらを狙うにはうってつけのエサ使いであり、今回はそうした狙いを明確にしたグルテンの選択とブレンドの妙がそれを証明してくれた取材となった。