稲村順一が徹底レポート「釣技最前線」第167回 「石倉義久の浅ダナウドンセット釣り」|へら鮒天国

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稲村順一が徹底レポート「釣技最前線」第167回 「石倉義久の浅ダナウドンセット釣り」

トーナメントに向けたプラクティスにおけるキモ【浅ダナウドンセット釣り編】 その一:「そこまでやるか!」 微に入り細を穿つプラクティス

競技の釣りに勤しむ者であれば誰しもが行うであろうプラクティス。今回の取材を通して明らかになったのは、石倉にとってのプラクティスは釣れ具合を確かめるための単なる〝試し釣り〟ではなく、情報収集に始まり事前準備、実践(会場となる釣り場での練習)を繰り返すことで練り上げた戦略を元に、可能な限り不安材料を取り除いたうえで大会に臨むためのいわばトーナメント仕様のルーティンだということだ。ただし、事前準備ひとつとっても常人には及びもつかないほどきめ細かく、練習となる実際の会場における実践においては、本番さながらのシチュエーションに身を置き、どうしても試釣と本番で生じてしまう釣況のギャップを可能な限り埋める工夫を凝らしている。もっとも石倉自身はプライベートを含めた普段の釣行すべてにおいて、トーナメントに直結する勝つための考えや姿勢を崩すことなくへら鮒釣りに取り組んでいるので、本人は当たり前のことを淡々と繰り返しているように感じるかもしれないが、傍から見ると隅から隅まで行き届いた、まさに微に入り細を穿つプラクティスだ!

「準備は決して手を抜かずしっかり行い、試釣もできるだけ行くようにしています。直近での試釣では人災によるプレッシャーを加味して、あえて混雑した場所や向かい風になるポイントにも積極的に入って釣況を確かめます。もちろん天候が悪くても釣行しますし、万一試釣できないときは行った人に聞いて情報収集を行います。また試釣では面倒くさがったり、これくらいでいいやと妥協したりしてはダメです。すべては本番で勝つことを目標にやっていることなので、不安や悔いを残さないために準備万端怠りなく行います」

心構えもさることながら「そこまでやるか!」と驚くほど用意周到に整えられた事前準備の数々は、記者がいまだかつて見たことがないほどきめ細やかなものであった。競技の釣りに勤しむアングラーほど手の内を見せたがらないことは重々承知だが、折角の機会なので石倉の許しを得た公開可能な事前準備の数々を紹介しよう。

●ミチイト

東レ「将鱗へらタイプⅡ道糸」0.6~0.7号と「将鱗へらスーパープロプラス道糸」0.6~0.7号の2種類を準備。これは大会が開催される釣り場の座席や、当日の天候等によって異なる水面の反射による視認性を重視するためのものだ。

●くわせ用下ハリス

東レ「将鱗へらスーパープロプラスハリス」0.25~0.35号をおもに使用。ウキの動きが弱く少なければ細く、逆に強く多ければ太くしてアタリのでかたを確認する。

●くわせ用下バリ

オーナー「リグル」2~4号、「サスケ」2~3号、「タクマ」2~3号、「バラサ」1~2号、「セッサ」2~3号は必携。多くの銘柄、サイズのハリを用意するのは単に重さによるマッチングを狙ったものではなく、線径や形状の違いによる沈下時の動きや速度の違いをも加味した精度の高い緻密なアジャストを可能にするためだ。

●ウキ

可能性のある釣り方においてはパイプ、PCムク、グラスムクの各種トップのウキを用意し、さまざまな局面でどのタイプのトップがマッチするかを確認する。これは今回実践した浅ダナウドンセット釣りに限った話ではなく、いかなる釣りであっても最善を尽くすために必要不可欠な準備である。

●バラケエサ

必携エサは「セットガン」「セットアップ」「セット専用バラケ」「ふぶき」「ヤグラ」「段底」「BBフラッシュ」「軽麸」「とろスイミー」「粒戦」「粒戦細粒」の11品種。麩の粗さや硬さ、粒子の大きさが酷似した麩材であっても比重の違うものや、まとめる役割を担う麩材であってもギュッと締まるタイプやフワッとまとまるなど、いずれも特性の異なる麩材なので何ひとつ欠かせない勝負エサだという。

●くわせエサ

メインは「感嘆」(「さなぎ粉」あり/なし両方)としながらも、「力玉ハード」のS/Mサイズや「魚信」への反応も必ず確かめる。なお経時変化(おもに吸水)によって膨らんでしまったエサは反応が極端に鈍くなるため、特に食い渋りにおける「感嘆」については直径2mmにも満たないほどの小エサが良いときがあるとのこと。取材当日もそうした傾向が顕著に見られた。

トーナメントに向けたプラクティスにおけるキモ【浅ダナウドンセット釣り編】 その二:バラケの経時変化を最小限に止める超デリケートなエサ作り&エサ使い

今回は仮想試釣というスタンスで実釣に臨んでもらったわけだが、おそらく普段から思いついたことは即実行するという習慣が身体に染みついているのだろう、開始直後から食い渋り気味のへら鮒の動きを察知すると、トーナメントさながらに短時間のうちにタナや下ハリスの長さ、下バリのサイズやそれに付けるくわせエサのサイズ等々、誰の目にも分かる対策を次々と繰りだし、アタリに結びつけようとする石倉。しかし、この日のへら鮒はそうした対策にも明確な反応を示さなかったが、唯一興味を示し、釣果につながる答えを導きだしたのがバラケを軸としたエサ使いであった。石倉の釣りを知らない人達には、目に見える突出した特徴の少ない彼の釣りの、どこに勝てる秘訣があるのだろうか?と不可思議に思うに違いない。その答えを記者なりに考えた末の結論が、このエサ使いなのである。

まず、バラケに関しては各麩材の特性を生かしきるため、基エサ作りの時点から使用時まで極力手を加えないことに注力している点が特筆すべきところであろう。

「バラケは水を注いだところから変化が始まります。基本的には作りたてが最もネバリが少なく、時間が経つほどに経時変化によりネバリが増してきます。このネバリはバラケをコントロールするうえで必要不可欠なものですが、過度なネバリは決して良い結果には結び付かないので、制御不能になる前に使いきることが肝心です。たとえば同じようにバラケを持たせようとした場合、使い始めは手揉みの回数を増やしたり圧を強めたりしますが、自然のネバリによってまとまり感が増してきたら手揉みの回数を減らしたり圧を弱めたりしています。またブレンドについては各麩材の特性を知ったうえで、状況に応じてその組み合わせや配合を替えています。特に近年は『粒戦』の使い方(特に加える量)がキモになるケースが多く、必ずしも多ければ良いというわけではないので、その扱い方にはよりきめ細かく気を配っています」

石倉は仕上げた基エサを別ボウルに取り分けて使用することはなく、常にひとつのボウルの中ですべてを完結させている。一度仕上げた基エサを繰り返しかき混ぜることはなく、手水調整ひとつとっても基エサの一部に指先に付けた水を数滴垂らすだけの調整に留め、ほかの部分には一切手を触れず人為的なネバリが加わることを避けている。このため仕上げる基エサの分量には相当気を遣っているようで、エサ付けが小さく盛期ほどエサ打ちの回転数があがらないこの時季は水100ccで、エサ付けが大きくなり消費量が多く短時間で使いきる盛期においては150cc、またはそれ以上になるケースが増えてくる。

トーナメントに向けたプラクティスにおけるキモ【浅ダナウドンセット釣り編】 その三:石倉流セット釣りの根幹をなす千変万化のエサ付け(超絶フィンガーワーク)

おそらくここまでならばある程度石倉流を真似ることはできるかもしれない。しかしどうしても真似することができない釣技だと記者が感嘆したのが、臨機応変に施される千変万化のエサ付けだ。

「セット釣りにおいては釣り方やタナの浅い深いに関わらず、必ず張りきった(沈みきった)オモリ付近までは多少でも上バリにバラケを残しタナまで持たせています。残る量を少なく素早く抜きたいときは、エサ付け時の圧を弱めてエサ落ち目盛りからわずかにナジんだ直後に戻すように、またタナまで十分な量のバラケを持たせてからタナで抜くときは、エサ付け時の圧を強め、トップ先端まで深くナジませてからジワジワとバラケさせたり一気に抜いたりしながら、その都度最もアタリにつながるパターンを細かく探るのがセット釣りの基本だと考えています」

石倉はこう簡単に解説するが、傍目にはほとんど見分けがつかぬほど微妙な違いだ。このエサ付けは、彼ならではの超絶フィンガーワークによって成り立っており、細分化されたそれは記者の想像など到底及ばぬ領域に到達しているに違いない。さらに石倉自身の水中を読み解く人並み外れた洞察力によって、水中でのシンクロ精度をさらに高めるエサ付けが可能になるとアタリが激増。加えて、高度にアジャストされたタックルセッティングも相俟って、完成度の高いセット釣りが構築されるのだ。石倉のエサ付けは総じて小さめで、打ち始めにおける寄せ重視のパターンであっても直径は15mmに満たず、釣り込む際にはさらに小さく直径12 ~13mmとなる。ただし、形状はわずかに異なり、寄せ重視の場合はハリのチモトの押さえはあまく、エサ玉の下部はほとんど開いたままで打ち込まれる。一方、釣り込む際のくわせエサとのシンクロ精度を強く意識したエサ付けでは、その都度チモトを押さえる回数や力加減にさまざまなバリエーション(実はこれが微妙な違いで動画や写真でも分かりにくく、圧加減等は結果として現われるウキの動きでしか判断できない)が加わる。基本はあくまで〝持たせ系〟なのだが、真に重要なのは「持たせたバラケをいかに抜くか」という点に尽きる。最も早いのは、オモリが張りきった直後に上ハリスが倒れ込み始める瞬間で、このときウキのトップにはわずかにナジミ幅が現われるか否かというくらい微妙な動きが現われる。そして最も遅いのは、上ハリスがナジミきり、上バリに残ったバラケの重さがすべてトップにかかってからで、ジワジワとゆっくりバラケさせるとトップには徐々に戻す動きが現われ、塊状で抜ききるとトップは速いスピードで一気にエサ落ち目盛りまで戻す。いうまでもなく、この両極の間には持たせ方と抜き方に無限のパターンがあるが、あたかも水中のへら鮒が何を欲しているのかが分かっているかのように的確に施される石倉のエサ付けは、誰よりも多くのアタリを誘発し続けるのだ。

記者の目【不安材料を徹底排除し、安心そして自信を得ること!それが石倉流プラクティス

トーナメント本番はもとより、練習までも一切手抜きをすることなく、自身の信じるプロセスを踏みつつ常にベストの釣りを目指すことを心掛けている石倉。数々のタイトル戴冠に加え、メディアへの露出も多い彼でさえ、トーナメントでは気持ちに余裕が無くなることがあるという。だからこそあらかじめ考えられる不安材料を取り除いておくためのプラクティスは、本番に臨むうえでの安心感と自信を得るために必要不可欠な必須ルーティン。多くのトップアングラーが一堂に会し、頂点を目指すトーナメントでは、いかに強いメンタルを持つトーナメンターといえど、予想と異なる釣況に見舞われると自分自身を見失ってしまうことがあるという。また十分な試釣や備えを怠ると、いざ本番でやりたいと思ったことができずに後悔だけが残ることになる。今回、石倉が披露し解説してくれた仮想プラクティスは、そうした不測の事態に対して不安になったり自信を失ったりしないよう、万全の備えを整えることの大切さを改めて知らしめてくれた貴重な実釣取材。自らもトップトーナメンターのひとりとして今年も多くの大会にエントリーを予定しているという石倉。自身にとって不利になる可能性があるにも関わらず、惜しげもなく多くの手の内をさらけだしてくれたことに感謝するとともに、2026トーナメントシーンにおけるさらなる飛躍と活躍を期待して彼にエールを送りたい。