稲村順一が徹底レポート「釣技最前線」第91回 石井忠相の両ダンゴの底釣り
残暑が続く9月はまだ夏の釣りの延長といった感が否めない。従って季節の釣りを先取りした取材テーマを取り上げるには難しい時期なのだが、猛暑がぶり返した8月下旬、難時合いを承知で底釣りのオファーを快く受けてくれたマルキユーインストラクター石井忠相。決して〝火中の栗を拾う〟といった感じではなく、むしろ「待ってました!」とばかりに得意の底釣りを披露すべく全力で応えてくれた。それならば通り一遍の底釣りでは面白くないと、ひと捻り加えた釣りを読者諸兄に見せてくれるよう依頼したところ、「では、底釣りでは難解といわれる『カケアガリ』の底釣りにしましょう。」との提案。果たしてどのような釣りが展開されたのであろうか。
カケアガリ攻略は底釣りの登竜門!?
「カケアガリに限らず藻場やオダ周りなどには居着きのへら鮒が多いので、底釣りでは絶対に外せない好ポイントですね。幸い私もそうした底に変化のある釣り場での底釣りを数多く経験していますし、つい先頃も地底に溶岩による凹凸と藻のある精進湖において両ダンゴの底釣りで良い釣果を残せています。今日は管理釣り場の取材ですが、あえて難易度の高いカケアガリの底釣りをテーマにして、合わせて今シーズン私が自信を持って使っている両ダンゴエサの使い方を紹介させていただきますので、是非難しい釣りにも積極的にチャレンジしていただければ嬉しいですね。」
豪快な両ダンゴのチョーチン釣りのイメージが強烈な石井だが、野釣り場にも足繁く通っている彼にとって底釣りもまた同じくらい得意とする釣り方である。知ってのとおり底釣りは地底が平坦かつ綺麗なところの方が、ウキの戻りが良くアタリも明確で釣りやすい。従って自分が釣ろうとしているポイントの底に数多くのへら鮒が居着いていれば、あたかも判で押したかのごとく同じようなアタリで釣れ続く傾向がある。大きな群れを形成しやすい秋の新べら放流直後や、春の巣離れから乗っ込み期にかけて底釣りで大釣りが見られるのはこのためだが、その一方で群れが大きくない時期や元々魚影密度の濃くない釣り場では、一般的に難しいとされるカケアガリやストラクチャー周りといった、底に変化のあるポイントに居着いたり回遊したりする傾向が見られる。さて今回取材フィールドとなった筑波流源湖は魚影密度の点では申し分なく、8月下旬の取材時点では宙釣りでの釣果が突出していた。肝心の底釣りはというと決して悪い訳ではないのだが、底付近のへら鮒の定着度が低く難易度の高い釣りを強いられているようだ。こうした状況下であるからこそ、少しでもへら鮒の口数が多いことが見込まれるカケアガリでの底釣りをリクエストしてみたのだが、一体どのような釣りが展開されるのかはこの時点では皆目見当もつかなかった。
この日の石井はまず釣り場のポイント図に記載された平水位での水深に、増水により深くなっている分をプラスして19尺一杯で底が取れる場所を探すことから始めた。そして地底に若干の傾斜のあるポイントで一旦は釣りをスタートしたのだが、思いのほかウキの動きが悪かったため釣り座を変更することに。そしてたまたま空いていた背後の釣り座の水深を測ってみるとほぼ同じくらいの水深があり、しかも先ほどのポイントとは比較にならないほどの急な傾斜のカケアガリであることが判明。記者が石井のタナ取り作業を見る限り左斜め前方が深く、右斜め手前に浅くなるカケアガリで、1尺エサの着底位置がズレると約10cmタナが変わってしまうという底の地形がイメージできた。
「これほど急なカケアガリは管理釣り場では少ないと思いますが、野釣り場では〝この程度〟といった感じですから決して釣り難いほどではありません。かえってこちらのポイントの方が居着きのへら鮒が多いはずですし、時間と共に回遊してくるへら鮒も期待できると思いますよ。」
そう言いながらリスタートした石井。すると数投後、その読みがズバリ的中。やや深い方にエサが着底したらしく5目盛りと深めのナジミ幅を示したトップがフワリと動き、ゆっくりと1目盛りが戻した直後にズッと力強く押さえ込むと、切れ味鋭い石井のアワセが決まり、同湖ではレギュラーサイズの700g級の綺麗なへら鮒がヒット。この1枚を皮切りにアタリは途切れることなく続き、石井の顔には〝してやったり〟の表情が見てとれた。
使用タックル
●サオ
かちどき 「S-No.19」19尺
●ミチイト
オーナーばり ザイト「白の道糸」1.0号
●ハリス
オーナーばり ザイトSABAKIへらハリス 上0.5号-45cm/下0.4号-55cm
●ハリ
オーナーばり 上下=「リグル」7号
●ウキ
忠相S PositionBOTTOM No.15
【極細PCムクトップ19.0cm/一本取り羽根ボディ15.5cm/竹足5.0cm/オモリ負荷量2.5g/ ※エサ落ち目盛りは全11目盛り中7目盛り出し】
●ウキゴム
忠相Foot Fit (S)パープル
●ウキ止め
忠相Dual Hold(M)
●オモリ
かちどきノンスリップ板オモリLL(幅22mm)× 0.25mm厚(内径 0.4mmウレタンチューブ装着)
●ジョイント
オーナーばりWサルカン(ダルマ型)24号
石井忠相流両ダンゴの底釣りのキモ 其の一:カケアガリのタナ取りはあくまで目安。正解はへら鮒が決める!
石井のタナ取りの手順は至ってシンプルだ。底付近で両バリが底に着かない状態でのエサ落ち目盛りを7目盛り出しに決めると、両バリ共にタナ取りゴムに刺してポイントに打ち込む。自分が釣ろうとしているポイント(通常は自らの正面)で前述のエサ落ち目盛りが水面ギリギリにでるようにウキの位置を微調整した後、さらにその位置の前後左右に打ち込み、半径30cm四方の水深を確認して底の状態を把握する。このとき石井に聞いた底の状態は記者のイメージとほぼ一致していたが、肝心なことは実際にエサを打ち込んだ状態で常にウキのナジミ幅を〝釣れるナジミ幅〟に安定させて食いアタリを持続させることだと石井は言う。
「底釣りでは『タナ取り』という作業が必要ですが、私はその際の計測精度にはこだわりません。なぜなら最初のタナ取り作業で決めたタナは目安でしかなく、肝心なのは最終的にへら鮒が食うタナに合わせることだからです。とはいえ無闇にウキ下の長さを変えても釣れるわけではありません。その際私が重要視しているのがウキのトップのナジミ幅とその戻り方なのです。これは私の基準ですが、両ダンゴの底釣りで安定的に釣れるときのナジミ幅は3~4目盛りで一定しています。通常ナジミ幅はエサの大きさ(厳密には打ち込んで着底したときの残量)と着底位置で決まります。従って釣れ始めたらエサのサイズや付け方をほぼ一定にすることは当然ですが、今回のようなカケアガリのポイントではエサの着底位置が少しズレただけでもナジミ幅が大きく変わってしまいますので、平坦な底釣りよりもさらに精度の高い振り込みが求められるのです。底釣りで釣れるタナはへら鮒が決めるものであり、それをアングラーがいち早く察知して合わせてやることが、底釣りでは最も大切なことではないでしょうか。ちなみにカケアガリでナジミ幅を安定させアタリをだしやすくする対策として、ハリス段差を広げるというテクニックがあります。今回は10cm段差で臨みましたが、もう2~3cm広くてもよかったかもしれません。もちろん平坦な底であれば7~8cmもあれば十分です。」
そう解説しながらも、一旦釣れ始まるとコンスタントに絞り続ける石井。このときのナジミ際のウキには宙釣りのような小刻みな上下動はほとんど見られず、果たしてへら鮒が居るのかと思うくらい静かにナジミきるとほぼ一定のナジミ幅を示していた。そしてエサが着底したと思われるタイミングでトップにフワッと煽るような動きが現われると、それに続いて1~2目盛り戻し、直後にカチッと目の覚めるような典型的な底釣りアタリでヒットを重ねていくのだ。その動きは動画でも一目瞭然だが、肝心の釣れるタナ(記者は釣れるタナ=へら鮒が食いやすいエサの着底位置と考えている)の目安としているナジミ幅が安定しているのには、石井の卓越したテクニックが隠されていた。それは風によって時々刻々変化する流れの方向と強弱を読み切り、一投ごとにエサの着水ポイントに微調整を加えると共に、振り込んだ直後に竿先を左右にさばいて水面に浮いたラインが沈む際の抵抗を利用してエサの着底位置をコントロールしていたのだ。
石井忠相流両ダンゴの底釣りのキモ 其の二:「ペレ底」の集魚力と「GD」のホールド性能のコラボレーション
「底釣りのターゲットは限りなく底に近いところに居るへら鮒か、もしくは底にこぼれたエサを探しながら回遊してくるへら鮒です。エサを捕食するときには宙層のへら鮒とは異なり、上層から落下してくるエサを追ってきて食うのではなく、あらかじめ底付近に居るもののなかで底に着いたエサを逆立ちするように、地底に頭を下げさせて食わせなければなりません。従ってできる限りウワズリを抑え、底から離れないようにする必要がありますね。」
取材冒頭、底釣りでターゲットになり得るのはどのレンジのへら鮒なのかを石井に訊ねてみたときの回答がこれである。確かに底釣りでのウワズリは致命傷になりかねない。そのため底釣りで使用するエサは総じて比重の重いものが使われがちだが、この点についての石井の考えはこうだ。
「確かに底釣りでのウワズリは厳禁ですね。しかし現代の底釣りは重いだけでは釣りきれません。必要な性能としては比重がソコソコ有って、拡散する粒子による集魚力ではなく魚粉が持つ成分的な集魚力があること。しかも宙層で無駄にバラけさせず底に留めることができれば、それは理想的な底釣りダンゴエサといえますね。実は今回使っているエサがまさにそうしたコンセプトでブレンドされているエサであり、今シーズン私が自信を持ってオススメできる底釣りエサなのです。ポイントになるのは『ペレ底』の集魚力と『GD』のホールド性能。私の狙いは底釣りエサの中でも最強クラスの集魚力を持つ『ペレ底』を『GD』でコーティングして確実に底へと送り込み、これもまた『GD』の特性である〝膨らみ〟によってタイミング良く食い頃にするというものです。」
元来宙釣り用のエサとして開発された「GD」だが、その特性自体は石井の狙いに見事にマッチしている。よく考えればグルテンエサを底釣りで使うのは当たり前であり、従ってグルテンを含んだ「GD」が合わない訳がないということになる。実際にウキの動きを見ていて気づいたのだが、手水でかなり軟らかく調整されたエサであっても、良型のへら鮒による大きなアオリでハリからエサが抜けることはなく、ジワリと1~2目盛り戻すと直後にカチッとアタリがでるシーンが幾度となく見られた。
「こうした特性を持つエサにはもうひとつ利点があるのです。それは食いが良いときには膨らみの良さが早い食いアタリを促し、カラツンが多いときには意図的にアタリを見送って2回目3回目、場合によってはさらにアタリを送って食わせることもできるのです。」
石井忠相流両ダンゴの底釣りのキモ 其の三:PCムクトップウキのポテンシャルを生かしきる
今回、石井は自身作の底釣りウキ、忠相「Sポジションボトム」で実釣に臨んだ。PCムクトップが装着された底釣りウキを使う理由について石井はこう述べた。
「底が平坦で綺麗な地底での底釣りでは、パイプトップのウキの方が明確な戻しがでやすく釣りやすいと思います。しかし今回のようなカケアガリのポイントでは、タナの違い(エサの着底位置のズレ)やエサの残量、さらにへら鮒の位置や動きなどの変化が察知しやすいPCムクトップウキの方が良い動き(働き)をしてくれるのです。」
石井が実釣時に見せてくれたPCムクトップならではの特性がもたらすポテンシャルは以下の通りだ。
①僅かなエサの着底位置のズレをナジミ幅の違いで察知しやすい(タナボケを起こし難い)
②軟らかいエサを底まで送り込みやすい(エサ持ちが良くハリ抜けし難い)
③僅かなサワリが表現できるので、ウワズリや動きの変化を察知しやすい(素早い対処が可能)
④地底が不安定なポイントでも時合いを安定させやすい
さらに石井は底釣りでは何より安定性が重要だと言い、それを損なう行動は厳に慎まなければならないと力説する。たとえばウキのナジミ幅が少なくなっているにも関わらずエサの調整を怠ったり、早いアタリで乗らないにも関わらずアタリを送ろうとはせず、イケイケモードでひたすら早いアタリを追いかけたりするなどはもってのほか。標準的な底釣りアタリがでているときはエサにもタナにも手を加えずにアタリを送るだけで改善されることがよくあるので、地味な作業ではあるがヒット率が高いアタリがでるポイントに丁寧にエサを送り込み、少しの我慢でヒット率が高いタイミングのアタリを見極めることが釣果アップにつながるという訳だ。
記者の目【気持ちも行動もブレない芯の強さこそ石井流底釣りの真髄だ!】
底釣りはへら鮒釣りの基本がすべて詰め込まれた釣りといわれている。今回石井の底釣りをつぶさに見ていると、エサ作りから始まりタナやタックルの調整、そしてアタリを出してヒットさせるまで一切の妥協がないことが分かる。そして徹底した基本の繰り返しによりブレ・ズレ・乱れのない安定した釣りが最後まで貫かれたのだ。彼自身「底釣りは持てるテクニックのすべてを総動員しなければ釣りきれない。だからこそ〝釣った感〟が最も味わえるのが底釣りの醍醐味だ。」と言い切る。今回は急傾斜のカケアガリの底釣りということで、特に記者の目に際立って映ったのがエサの着底位置の精度である。それはただポイントに正確に打ち込むだけで果たせるといった安易なものではなく、打ち込んだ後の計算されたミチイトのさばき方や緻密なロッドワークがなければ実現できないものである。実際こうしたテクニックは口で言うほど簡単ではない。これは余談だが、取材がひと段落ついたところで釣り座を譲ってくれた石井の好意に甘え、記者が同じようにエサを打ち込んでみたのだが1投として同じナジミ幅を出すことができなかった。それどころか折角石井が築いてくれた好時合いにも関わらず、10投連続でのカラツン・ノーヒットという醜態をさらしてしまったことを追記して、今回の取材の総括とさせていただこう。