稲村順一が徹底レポート「釣技最前線」第93回 長村康義のカッツケウドンセット釣り|へら鮒天国

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稲村順一が徹底レポート「釣技最前線」第93回 長村康義のカッツケウドンセット釣り

リズム(テンポ)と手返しの速さが生命線といわれるカッツケ釣り。表層近くの狭いレンジをビデオの早送りのような速度で積極果敢に攻め、ウキが立った直後にでる電光石火のアタリで次々と釣り上げるイメージがあるが、今回はスピード感とはおよそかけ離れたマイペースで高釣果をたたき出す名手のカッツケウドンセット釣りを紹介する。アングラーは中京地区を中心に活躍の場を関東や関西にも広げるマルキユーインストラクター長村康義。彼のカッツケ釣りは一見すると緩く遅いように目に映るが、終わってみれば竿頭ということが珍しくない。その秘密を探るべく愛知県海部郡蟹江町にある佐屋川温泉前寄せ場での実釣をオファーした記者の目の前で繰り広げられたのは、「サナギパワー」の類い希なる集魚力とタナ構築力を最大限引き出した、現代カッツケ釣りのバイブルともいえるウドンセット釣りであった。

狭いレンジだからこそ生きる「サナギパワー」のポテンシャル!

カッツケ釣りの取材の際に、記者がアングラーに必ず聞くことがある。それはタナ規定1mの浅ダナの釣りと異なるポイントである。未明から降り始めた雨のなか、釣り支度が整った長村にもこのことを訊ねてみた。

「釣りの組み立て方としては基本的に同じなので、特に意識することはありません。強いて言うならばタナが浅くても1mのタナを釣るときと同様にタナを意識することぐらいですが、タナ規定がないのであれば無理にタナを作ろうとはせず、へら鮒がストレスを感じることなく居るタナ(変化するタナ)を探り当てて攻めるのも一手ですね。」

そう言いながら、未明から降り出した雨の波紋が広がる水面にウキを立たせた長村。ナジむと同時に1投目からアタリがでるが、落ち着いた表情で

「この釣り場は河川を網で仕切った寄せ場ですし、歴史も古いので魚種が豊富なんです。おそらくあの動きはブルーギルやモロコの類い、ひょっとするとティラピアかも知れませんね(苦笑)。」

すると次投、「カチッ」と鋭く入るアタリで小型のブルーギルがハリ掛かりしてきた。

「へら鮒が寄るまでは仕方ありませんが、ある程度の量が寄せきれればそれほど気にならなくなると思いますよ。それまではしばらく辛抱して打ち込み続けるしかありませんね。」

その後もウキは節操なく動き続けるが、思いがけず初ヒットは早かった。数投後ウキが立ち上がった直後に激しく揉まれたが、それを凌いで一旦深くナジんだトップが戻しかけた瞬間、目の覚めるような消し込みアタリ。鋭くアワセが決まると愛用の竹竿が穂持ちまで一気に水中に引き込まれるが、それを巧みな操竿術でいなすと良型のへら鮒が水面を割って出た。この1枚を皮切りにコンスタントに竿を絞り始めた長村だが、そのいずれもが良型ばかり。これには当の本人も驚きの表情を隠せなかったが、その背景には「サナギパワー」の集魚力とタナの構築力、さらにはウキの動きの激しさに惑わされない長村流のゆるくマイペースなアプローチが一役買っていたことに疑いの余地はなかった。

使用タックル

●サオ
こま鳥「別作」7尺

●ミチイト
オーナーザイト「白の道糸」0.6号

●ハリス
オーナーザイトSABAKIへらハリス 上=0.5号-7cm、
下=0.35号-30→25→23cm

●ハリ
上=オーナー「バラサ」5号、
下=オーナー「バラサ」2号→同3号→「リグル」4号

●ウキ
忠相「TSバレット」Mサイズ
【一本取り羽根ボディ4.5cm/パイプトップ ※エサ落ち目盛りはくわせを付けて全6目盛り中3目盛り出し】

●ウキゴム
オーナー「浮子ベスト」

●ウキ止め
オーナー「スーパーストッパー」

●オモリ
内径0.3mmウレタンチューブ装着2.5mm板オモリ1点巻き

●ジョイント
回転サルカン

長村流カッツケウドンセット釣りのキモ 其の一:「サナギパワー」の集魚力とタナ構築力を最大限引き出すエサ使い

カッツケ釣りでは一定量以上のへら鮒を表層近くに寄せ続けなければならない。そのためには何よりも回転の速いエサ打ちが必要不可欠であり、カッツケ釣りの名手といわれるアングラーはひとりの例外もなく打ち返しが速い。ところが長村のそれはというと決して速いわけではなく、むしろ毎投の丁寧なエサ付けを見ていると遅いくらいに感じる。

「確かに速くはないですね(笑)。でも現代のバラケエサの性能であれば、エサ打ち速度のハンディキャップを補って余りある集魚力があるので心配ありません。特に『サナギパワー』を核としたエサ使いであれば、集魚力もさることながらタナを安定させるポテンシャルが高いので、変化しやすいカッツケダナの不安定な時合い下でも、高確率の安定した釣りが可能になるのです。」

発売から2年が経過し3度目の本格的なセット釣りシーズンを迎えたいま、改めて「サナギパワー」の特性を理解しておこう。

●圧倒的な集魚力
大小さまざまなサイズや色に加工された粒状さなぎによりアピール力を増強。しかもその含有量は対重量比で過去最大級といわれるほど多く、類い希なる圧倒的な集魚力を発揮する。

●タッチの持続性
大量投入された粒状さなぎはタッチの変化を最小限に抑えるのに効果絶大。独特の「シャリッ」とした手触りが続き、最後の1投まで使用感を損なわない。

●最強クラスのバラケ性
マルキユー製品のなかでは最強ランクに位置するバラケ性を持つ「サナギパワー」だが、とりわけ縦(直下)へのバラケ性が際立っている。こうした性能は寄せること以上に難しいとされるくわせへの誘導力アップに寄与し、確実に降り注ぐ麩の粒子がバラケ本体の直下に位置するくわせにシンクロ。さらにカラフルで大小さまざまな粒状さなぎがへら鮒の摂餌本能を刺激する。

●タナの安定性
直下へのバラケ性強化はタナの安定性・構築力アップに寄与。横方向への粒子の広がりを抑えることでその効果はさらにアップし、神経質にならずともへら鮒のハシャギを抑えることが可能になったことは、へら鮒の大型化により時合いが目まぐるしく変化する現代セット釣りにおいて、コンスタントにアタリをだすことができる大きな武器となる。

こうした特性を持つ「サナギパワー」だが、特に長村が頼りにしているのがマイペース(スローペース)でも寄せ負けしない集魚力と、多少ラフに攻めたり誤って表層でバラケが抜けたとしても崩れ難いタナの構築力だという。

「見て頂いて分かるとおり、急がなくても良い感じで釣れますよね。短時間勝負のトーナメントでは、やはり手返しの速さといった部分は有利に働くかもしれませんが、1日かけた大会や例会では決して劣ることはないと自信を持って言いきれますね。」

長村流カッツケウドンセット釣りのキモ 其の二:〝ニュートラルからのスタートと無駄のない理詰めの手順が長村流の真骨頂!

カッツケ釣りというと経験や直感をもとにスピードと勢いで押し切るイメージがあり、記者もそうした釣りで名を馳せた多くのアングラーを見てきた。しかし長村のそれは、そうしたスタイルとは真逆ともいえる印象が強い。

「余程のことがない限り、煮詰めきったキメキメのセッティングで臨むことはありません。それは普段の釣りでも、大会や例会でも変わりなく、スタート時は常にニュートラル。多少の余裕というか〝遊び〟を持ったうえで、ウキの動きに合わせて徐々にセッティングを煮詰めていきます。」

こうしたスタンスは取材でも変わらず、長村自身この時期のカッツケセット釣りの平均的という前述のセッティングでスタートした後、この日の釣況に合わせてひとつずつ調整を加えていく。それは具体的には以下のような流れであった。

❶ニュートラルなタックルセッティングでスタート。およそ30分が経過した時点で5~6枚ヒットさせた頃からハッキリしたアタリがでなくなり、不明確なアタリでスレが続いてハリス切れとなる。
❷先の原因を「下ハリスが張り難く、くわせがナジミにくい状態」と判断し、ハリス交換時にハリを「バラサ」3号にサイズアップ、ハリスの長さを25cmに変更。これで良いアタリが復活し再び釣れ始まったが、さらに30分が経過したところでウキは動くが再びアタリがでにくい状態に陥り、時折くわせの「感嘆」がハリに残らなくなることも。
❸この原因を他魚種のアタック激化と判断し、下バリを「リグル」4号に変更してくわせの持ちとナジミやすさを強化。この変更により再度カウントが伸び始めたが、徐々に雨脚が強まるのに従いへら鮒の姿が水面直下に見え始め、再びスレが連発する事態に。
❹明らかにへら鮒の状態が上っ調子になり、他魚種とタナが混在するようになってしまったことを察知した長村はハリスを23cmに変更。さらにこれだけでは不十分と判断すると最後にタナをさらに浅く(ウキ下約30cm)して釣況は一転。連釣の末、最後の1枚を理想的なアタリで仕留めて竿を納めた。

概ねこのような流れで取材時の釣りを組み立てた長村。状況判断→原因分析→対策実施→効果確認というプロセスをブレずに繰り返すことを常としており、その結果、大きく釣況を読み誤ることが極めて少ない。そのため安定した釣果は勿論のこと、ときとして「こんなマイペースでのんびり釣っているアングラーにしてやられるなんて…」と驚かされるほどの高釣果を叩きだしてみせるのだ。

長村流カッツケウドンセット釣りのキモ 其の三:狭いレンジだからこそタナを強く意識。仕上げはタナ合わせでコンプリート!

カッツケ釣りではタナ合わせも重要だといわれる。スタート時にウキからオモリまで50cmのタナで始めた長村であったが、このセッティングについて訊ねてみると、

「釣り場の状況がよく分かっていないときは、私の基準であるこのくらいのタナから始めることが多いですね。タナ規定のない釣り場が多い中京や関西の管理釣り場では、浅ダナといえば1mではなく、それよりも浅いタナを攻めるのがセオリーです。季節や釣り場によってはオモリのすぐ上にウキが位置するような極めて浅いタナで釣れることもありますが、現在の管理釣り場ではへら鮒が大きくなった反面、中小べらの口数が減っていますので、以前のような直結仕掛けでブレアタリ(ウキが立った直後にトップが横に振れるような動き)をメインに狙っていくような釣りをしにくいのが実情です。従って表層の狭いレンジであっても、昔以上にタナを作ることを強く意識し、縦に強くアタらせて釣ることを心掛けています。もしタナができにくかったり、今日のようにへら鮒以外の魚が混在する釣り場では、バラケで他魚種を浮き上がらせて、その下に入ってくる良型のへら鮒を狙い撃つという作戦も有効ですね。」

ここでこの日の釣りの流れを振り返ってみよう。ファーストヒットから30分ほどで5~6枚を追釣すると、ウキの動きから徐々にへら鮒のタナが上がってきたことを察知した長村はタナを5cmほど浅く調整。たったこれだけのことでウキの動きが沈静化し、落ち着いた前触れから明確なアタリでさらに3枚を立て続けにヒット。しかも釣れてくるへら鮒がひとまわりサイズアップしたのだ。その後、前述のようなタックルセッティングの調整を行いつつ、さらにヒットを重ねていく長村であったが、雨脚が強まったところでさらにへら鮒が上っ調子となり、ここでさらにタナを5cm浅くして40cmとするが、本来徐々に収まるはずの他魚種の反応がヒートアップ。横に走るような動きでさまざまな魚がハリ掛かりし、気がつけばへら鮒を含めて五目釣りを達成。これにはさすがの長村も苦笑いを隠せない。

「先ほどまではバラケによってタナが二分されていましたが、今はへら鮒と他魚種が混在している感じですね。これならもっと浅いタナの方がへら鮒がエサを食いやすいかもしれませんね。カッツケ釣りでは僅かにタナを変えるだけで、それまでの不調が嘘のように釣況が好転することがありますから…」

と言いながらウキ下を30cmと、この日最も浅いタナにしてリスタートすると、それまで見られたウキの横走りが収まり、ズバッとキレのあるアタリでアメ色に輝く地べら化した大型が連続ヒット。「最後の仕上げはタナ合わせで決まり!」とばかりにさらに雨脚が強くなるなか笑顔で取材を締め括った。

記者の目【円熟したアングラーが示す、これからのへら鮒釣りの楽しみ方】

長村の釣りをひとことで表すと〝円熟したミドルアングラーの落ち着いた釣り〟とでもいえようか。知ってのとおり、へら鮒釣りは老若男女を問わず楽しめる釣りである。若い頃はエネルギッシュな釣りに夢中になっていたアングラーも、年を重ねるごとに円熟味を増し、老いてもなお自分なりのスタイルで楽しめるといった懐の深さがある。カッツケ釣りはどちらかといえばヤングジェネレーション向きの釣り方だが、体力的に同じ土俵に上がることができなくなっても「サナギパワー」のようにハイポテンシャルなエサを効果的に使うことで、体力的、精神的にも無理なく同等以上の釣果を上げることが可能であることを今回の取材で長村は示してくれた。また釣果的なハードルが課せられた(記者はまったく気にしておらず、無理なプレッシャーをかけた記憶もないが…)なかでも、お気に入りの竹竿で見事なパフォーマンスを魅せてくれた長村流のへら鮒釣りの楽しみ方にも感服。さらに釣り場環境作りや後に続く若いアングラーの育成にも惜しみなく力を注いでいる、ナイスミドル長村に敬意を表したい。