稲村順一が徹底レポート「釣技最前線」第94回 高橋秀樹の段差の底釣り
このコーナーに登場するアングラーには、それぞれ個性的なフィッシングスタイルがある。パワー系の激しい釣りを得意とする者、デリケートなアプローチで難しい時合いでも必ず結果を残す者など様々だが、今回のテーマである冬の定番「段差の底釣り」(以下、段底)は緻密さを要求される釣り方なので、当然ながら繊細な釣りを得意とするアングラーに登場頂くところだ。しかし、実釣のオファーをしたのは意外(?)とも思える、高活性期の激しい両ダンゴの釣りを得意とするアングラーであるマルキユーインストラクター高橋秀樹。読者諸兄もご存じのとおり〝平成の爆釣王〟の異名をもつ熱きオトコだが、実は冬の痺れるような時合いの釣りも秀逸で、僅かなチャンスも見逃さず釣り込むスタイルは一見の価値あり。釣り人の間では〝段底の聖地〟とも称される埼玉県白岡市にある隼人大池で取材を行った11月下旬の時点では、まだへら鮒の活性が落ちておらず、ウキの動きを抑えることに苦労させられるような難時合い。そんな状況下にもかかわらず、核となる「段底」に「粒戦細粒」を多めに加えたバラケで、攻守のバランスのとれたキレのある段差の底釣りを披露してくれた。
ウキを深くナジませキレ良くバラケを抜く段底の基本は絶対にブレさせない!
冬になると多くのアングラーが段底での釣りを選択するようになるが、たとえ新べら放流など、へら鮒の入れ替りはあったとしても、手を変え品を変えて攻められ続けた結果、年々その難易度は高まっていると誰しもが感じているはずだ。しかし高橋はこう言い切る。
「確かに難しさは増しているかもしれません。その理由は以前ほどパターン化できないことが原因だと思いますが、あまり簡単に釣れ過ぎても面白くないじゃありませんか?段底が難しいと感じている人は恐らく自分で釣りを複雑にし、気がつかないうちに難しくしているのだと思います。私自身は今も昔も段底の基本はそれほど大きく変わったとは思っていません。ポイントになるのはバラケの使い方で、心掛けているのはウキを深くナジませることと、自分が狙ったタイミングでスムーズに上バリから抜けること、そしてバラケさせた粒子で底に数多くのへら鮒を寄せることです。そのためにバラケに必要な性能は、
①比重が大きいこと
②タナまで持つホールド力とハリから抜けるキレの良さ
③ハシャがせず底に大量のへら鮒を寄せる集魚力の強さ
であって、これらがすべて実現できるバラケに仕上げることです。このエサを軸とすれば、後はへら鮒の食いの善し悪しに応じてアタリが早くだせるのか、それとも待たなければアタリがでないのかを見極め、攻めるのかそれとも守るのかを誤りなく選択すれば良いだけですからね。」
記者も段底は好きで、厳寒期には自ら進んでやる釣りである。それだけに高橋の言うことには思わずうなずいてしまった。確かに冬場段底が良く釣れる〝仕組み〟が広く知れ渡って以降、それまでよりも釣り難しい場面に遭遇することが多くなっていることは確かだ。しかし、釣るための方向性は何も変わっておらず、普遍的アプローチである「ウキを深くナジませること、そしてタナに数多くのへら鮒を寄せて確実なアタリを取ること」に変わりはない。高橋の言葉にあるように難しくしている(感じている)のはアングラー自身であり、長時間安定して釣れ続かなくなっていることで自ら動き過ぎて、その結果迷路に迷い込んでしまうケースが多くなっているのだろう。そんな迷える子羊達にとって今回紹介する高橋の段底は必見!見るものに希望を与えてくれるような、そんな爆釣の可能性を秘めた段底をお届けする。
使用タックル
●サオ
がまへら「我楽」16尺
●ミチイト
サンライン トルネードへら道糸「禅」0.8号
●ハリス
サンライン トルネードへらハリス 上=0.6号-15cm、下=0.4号-55→50cm
●ハリ
上=がまかつ「リフト」8号、下=がまかつ「ギガボトム」3号→4号
●ウキ
水幸作「H/T底ムク 」12号
【0.9mm径ストレートPCムクトップ17.0cm/6.0mm径二枚合わせ羽根ボディ12.0cm/ 1.4mm径カーボン足5.0cm/オモリ負荷量2.2g ※エサ落ち目盛りは宙の状態で全12目盛り中6目盛りだし(底に付けて7目盛りだし)】
●ウキゴム
ラインシステム「ウキゴム」SS
●ウキ止め
サンライン「へら浮子止め糸」(下側ダブルで補強)
●トンボ
サンライン「とまるウキ止め糸」転用
●オモリ
フィッシュリーグ絡み止めスイッチシンカー0.8g+0.25mm厚板オモリ(ウレタンチューブ 装着)
●ジョイント
極小丸カン
高橋流段差の底釣りのキモ 其の一:釣れる段底の絶対条件は、確実にくわせエサを底につけること
片ズラシの底釣りの変形スタイルといわれる段底は下バリにタナ取りゴムを付けてタナを計り、下バリトントン(エサが付いていない状態で下バリがギリギリ底につくタナ)を基準にズラシ幅を調整しながら釣り進むのが一般的だが、高橋のタナ取り手順をつぶさに見ていくと、ウキのトップの目盛りにして約2目盛り分(3~4cm)ズラしたタナでエサ打ちを開始した。
「人によってタナ設定は異なると思いますが、私はくわせエサが底から離れたら釣れないと考えているので、確実にくわせエサを着底させるためにトップ2目盛りほどズラしてスタートするようにしています。理由は釣っている最中でタナが狂ってしまう要因が様々あり、1~2cm程度の変化はいつ起きても不思議はなく、そうしたときでもくわせエサが底についている状態をキープしておきたいためなのです。実はPCムクトップウキを使うのもこうしたタナの変化がいち早くキャッチできるからであり、途中で縦サソイを繰り返しながら、バラケが上バリから抜けたところで下バリのくわせエサが底についたときに水面上にでるエサ落ち目盛り(先端から7目盛り目の赤)が見えていることを確かめているのです。」
取材時は弱いながらも吹き続ける冷たい北東風によって緩やかな流れが生じ、高橋のウキを最も釣り難い手前方向に押し流し続けていた。撮影の都合でこの釣り座で実釣をお願いしたのだが、悪いことにこのポイントは手前に来るほど深くなる逆カケアガリが残る釣り座であり、アタリがでるのを待ってウキを流していると、やがてシモリに加えてくわせエサが底から離れてしまうようで、良いアタリがことごとくカラツンになってしまったり、シモったままトップが戻さなくなることもしばしばであった。
「こうしたことは冬の釣りでは良くあることなので仕方ありません。それでもタナが合っていればアタリがでる確率が高まるので、流れの強弱や底の傾斜に合わせてタナを微調整して、へら鮒にとって食いやすい状態でくわせエサが底につくようにしてやることが大切です。ちなみに底から離れるとアタリはでなくなり、タナをズラシ過ぎるとスレが多くなるので、こうしたこともタナ調整が必要であるかないかの判断材料になりますね。」
高橋流段差の底釣りのキモ 其の二:段底のバラケに求めるものは「高比重・キレの良さ・高集魚力」
段底用バラケに求められるスペックについて高橋に尋ねると、冒頭で述べているように「ウワズリを抑えてタナを安定させるために必要な重さ、底にへら鮒を誘導して摂餌を促すためのエサ切れの良さ、寄せ負けすることなく終日アタリを持続させるために必要な集魚力」だと力説する。こうした彼の考え方は使用するバラケのブレンドに如実に現れている。
「段底では上層で広範囲にバラケを開かせてへら鮒を寄せるというよりも、一度タナでぶら下げたバラケを塊で抜いて、それを地底に敷き詰めるようにして寄せるイメージで釣りを組み立てます。そのために欠かせないのが『粒戦細粒』で、へら鮒を過剰に刺激することなく底から離さずに集められると思っているためです。大きな顆粒状の『粒戦』をメインに使っている人もいますが、私はへら鮒の反応が強過ぎる感じがするので、ブレンドに加えても50ccが限度と考え、それ以上は加えません。集魚という点においては『サナギパワー』の力も必要不可欠です。顆粒状に加工されたさなぎはペレットに対して反応が鈍いへら鮒の摂餌も刺激できるので、ペレットとさなぎのいわば二刀流で寄せることができるという訳です。そしてこれらの集魚力の高い素材を無駄なくタナまで送り込むためのまとめ役が『段底』です。このエサがでるまでは『セット専用バラケ』を主体としたエサ使いをしていましたが、自分がイメージする〝塊抜き〟を自在にコントロールするには『段底』の方が向いていると思います。」
バラケの大半がタナまで持っていることはウキのナジミ幅を見れば一目瞭然だが、そのバラケが塊でキレ良く抜けているか否かはウキの戻し方で判別できる。ジワジワと徐々にウキが戻すのは、バラケの表面から少しずつ粒子が剥がれ落ちていることを意味しているので、これは意図する抜き方ではない。これに対して1~2目盛り戻すまではゆっくりと、そこから一気に速度を速めて戻すのが塊で抜けている証である。上バリから抜けたバラケの塊は一定距離を落下した後に砕けるように広がる。これによりペレットとさなぎの粒子がまるで絨毯を敷き詰めたように底に広がり、周辺のへら鮒を強力にポイントへと引き寄せると考えられる。しかも高橋の「塊抜き理論」は記者も大いに頷けるところがあり、この塊には集魚力だけではなく、底からやや離れたところでサスペンドしているへら鮒をも底へと導く誘引力があるものと推察される。見た目は繊細な組み立て方だが、こんなところに高橋らしいパワーを垣間見ることができるのはなんとも興味深いとろである。
高橋流段差の底釣りのキモ 其の三:高橋流アタリの待ち方・出し方・選別方法
動画でも分かるとおり、高橋は頻繁に縦サソイ(くわせエサの置き直し)を入れる。ウキを深ナジミさせることを常に心掛けているためトップが沈没することも多々あるが、このときの縦サソイはバラケの促進が目的であることは明白だ。そしてバラケが抜けた後の縦サソイは、先に述べているようにタナの変化を察知するための置き直しであり、流れによるシモリやウキが流されてくわせエサの着底位置が本来の位置からズレてしまったときなど、サソイの直後にくわせエサが着底した瞬間にエサ落ち目盛り(宙での目盛り+1目盛り)が水面上にでていることを瞬時に見極め、でないときはタナが狂った(底が掘れて深くなるなど)ものと判断し、速やかにタナの微調整を行っていた。そして実はもうひとつ目的があり、それが底に広がるバラケとのシンクロである。
「私自身は単純に底にあるバラケの位置にくわせエサを戻してやっている作業だと思っているのですが、今日のように常に流れがあって長時間アタリを待っていると、折角地底に溜めたバラケの中に位置しているくわせエサが遠く離れてしまいます。これではますますアタリがでにくくなってしまうので、へら鮒が寄っているであろうバラケの中心まで戻してやってアタリをでやすくするのです。」
当日は比較的早いタイミングでアタリがでることが多く、長時間アタリがでるのを待つといった状態にはならなかったが、もし厳寒期の超食い渋りに遭遇したときの対処方法として、極力打ち込むバラケを絞って、縦サソイを繰り返しながら徹底して待つことも有効だと高橋は言う。
「アタリのでるタイミングはアングラーが決められない部分もあるので、早く出るのであればどのタイミングででるどのようなアタリがヒットするのかを見極めることが肝心です。私は比較的早いアタリを好む性格なので、とりあえず最初にでるアタリをメインにアワせます。それはたとえウキが深くナジんでいるときでも躊躇せず行きます。乗らなければその後見送ればいいだけです。もしこれがヒットするのであれば段底でも70~80枚を超える大爆釣になるので見逃せません。」
取材時も「あれも行くのか?」と記者が感じるタイミングでアワせ、見事ヒットさせることもあったが、この日はそれを追いかけ過ぎるとあっという間にウワズリの兆候が見られたため、行けば乗ることが分かっていてもグッと堪える場面が数多く見られ、熱きオトコの冷静沈着な攻め方が強く印象に残った取材であった。
記者の目【バラケの特性を無理なく引き出すアプローチで冬時合いを攻略】
セット釣りでは狙いにマッチしたバラケのコントロールが重要であり、段底も決して例外ではない。高橋が意図するバラケの扱い方は冬時合いを攻略するのに極めて有効であり、多くのアングラーも理想とするところであろう。しかし軸となるバラケの特性がマッチしていないと、タッチやエサ付けだけのコントロールではどうしようもできない場面が少なくない。やはりバラケはブレンドで特性の軸が定まるので、個々の素材が持つ特性を十分に理解したうえで、バランス良く配合したブレンドで臨むことが望ましい。今回は本来ブレンドの主軸である「段底」が脇役のような立ち位置となり、「粒戦細粒」と「サナギパワー」のエサ切れの良さと集魚力を余すことなく引き出していた。この冬は定番「段底」に加え、このふたつのエサからも目が離せない。