稲村順一が徹底レポート「釣技最前線」第154回 「内島康之の超激渋時合を制する段差の底釣り」|へら鮒天国

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稲村順一が徹底レポート「釣技最前線」第154回 「内島康之の超激渋時合を制する段差の底釣り」

内島流 段差の底釣りのキモ その一:徹底した深ナジミを繰り返し、地底にへら鮒を一点集中!

水中落下中のバラケの拡散を極力抑え、毎投ウキを深くナジませることは段底の基本中の基本といわれているが、これはウワズリを抑えてへら鮒を地底に集魚するために必要不可欠なテクニック(作業)だ。元来段底は広範囲に効くバラケにより優れた集魚力を発揮するというメリットがある一方で、そのバラケの扱いを誤ると無用のウワズリを助長してしまうというデメリットを併せ持つ。こうした段底の長所短所を十分に理解することが重要だと内島は力説する。

「ウワズリを起こさないためにはバランスの底釣りの方が優れていると思いますが、それよりも厳寒期の動かないへら鮒をエサに引き寄せそれを口にさせるためには、広範囲のへら鮒にアピールできる優れた集魚力を兼ね備えた段底に分があることは皆さんご承知のとおりです。従ってウワズリというデメリットさえ起こさなければ、段底が持つ大きなメリットを生かしきることができることは想像に難くなく、私が心掛けていることもこの一点にあるのです。」

有言実行。実釣時の内島は7目だしとしたエサ落ち目盛りを最大限生かすように平均5目盛り前後、少なくても3~4目盛り、ときにはトップ先端まで深くウキをナジませる投も決して少なくなかった。

「深ナジミと言っても毎投トップを沈没させるほどナジませるわけではありません。なぜなら深ナジミは地底への集魚とウワズリを抑制することが狙いですが、これだけではへら鮒の摂餌を刺激しくわせエサを口にさせることは困難です。ナジミ幅を変えているのは、いわばへら鮒の興味を引き付けるためで、常に変化を付けながらどのくらいナジませたらアタリにつながるのか、こうしたことを探りながら組み立てるのが段底のコツでもあるのです。」

ナジミ幅のコントロールはおもにエサ付けのサイズと圧加減で行う内島。彼のエサ付けは他のアングラーのそれと比較するとやや大きめで、形状も縦長の水滴型とでもいうのだろうか、多少の大きさの違いはあれど独特の形状を保っている。先にも述べたように、エサが打ち込まれるたびに彼の脳裏には底からやや離れたへら鮒がバラケによって地底へと誘われ、さらに地底に散りばめられたバラケに引きつけられた居着きのへら鮒が少しずつくわせエサに近づく様子がイメージされていたに違いない。ちなみに抜きバラケの宙釣りに比べてやや長めにセットされた上ハリス(13cm)により、繰り返しゆっくりと落下するバラケの動きも、この地底への誘導に一役買っていることも忘れてはならない。

 

内島流 段差の底釣りのキモ その二:へら鮒の好みに合わせた千変万化のバラケ性を担う「段底」のポテンシャル

今回のバラケには2種のペレットと3種の麩材が用いられているが、核となるのはもちろん「段底」だ。ウワズリを抑止しつつ地底に多くのへら鮒を寄せられるという、段底になくてならない性能のすべてを持ち合わせた「段底」は、麩材そのもののポテンシャルだけではなく、バラケ自体のコントロール、すなわちナジませ加減、開き加減、抜くタイミング等々が指先ひとつの調整で如何様にも変えられるという特性に、内島は大きなメリットを感じているという。

「この『段底』をブレンドに加えることで水深2~3mの短竿での段底から、5~6mの長竿での段底まで幅広く使えることはもちろんですが、いずれのシチュエーションでも自在にバラケのコントロールができるところがこのエサの最大の特徴です。かつての段底はウキを深ナジミさせてタナでバラケを抜き切れば比較的容易に釣れたものですが、近年は多くのアングラーにあの手この手で攻められたせいか、単に抜いただけでは簡単に食いアタリがでなくなっているのが実状です。そこで必要になるのが、その日そのときによって異なるへら鮒の食い気や好みの変化に合わせてバラケ方を変えるテクニックです。」

内島が意図するところはこうだ。どのくらいの量のバラケを持たせれば良いのか(トップのナジミ幅)、開くタイミングは早い方が良いのか遅い方が良いのか(トップが戻すタイミング)、バラケ方・抜き方はジワジワゆっくりが良いのか一気抜きが良いのか(トップが戻す速度変化)。こうした違いをエサ付けの際のサイズ・形状・圧加減で調整するわけだが、それがやりやすくきめ細やかにできるのが「段底」なのだという。さらに比較的食いが良いときは粗目の麩材、食いが渋くなればなるほど微粒子系の麩材が適しているという傾向もあり、今回のバラケはまさに後者を代表するブレンドパターンだと言う。なお、この記事がアップされる頃には徐々に食いも上昇傾向に転じることが予想されるので、「ヤグラ」や「セットアップ」といった麩材がブレンドされたバラケも有望視されるだろう。

「肝心なのはバラケのタッチと上バリへの付け方です。タッチに関しては基エサに近いものほど開きが早く横方向への拡散範囲も広いのが特徴で、それを『粒戦細粒』の適宜追い足しと手水調整で徐々に開きを抑えながら拡散範囲を狭める方向で探ります。もし調整が行き過ぎたら基エサを加え、変化が大きいときは一旦基エサ自体に戻るのも効果的です。」

内島流 段差の底釣りのキモ その三:へら鮒が口にしたいものがベスト!? 内島流〝くわせエサアラカルト〟

厳寒期の食い渋り時には軽く小さなフォルムのくわせエサがベストだといわれている。確かに宙釣りにおいてこのセオリーは鉄板ともいえるが、段底においては必ずしもそうではないようだ。

「段底はくわせエサを地底に着底させた状態で食わせる釣り方なので、宙釣りほど軽さを重視する必要はありません。むしろ大きさや色といった違いで摂餌を促すというか、釣り場や釣況によって一番アタリがでやすいものを実際に使い分けながら探り当てるのが、現代の段底のセオリーとなっているように感じます。もちろん1種類のくわせエサで上手に釣りきる方もいますが、自分流としてはくわせエサのローテーションがマストです。」

この日内島が用意したくわせエサは前述のとおり。携行タイプの「力玉ハード」シリーズは、サイズごとに1瓶用意しているが、「魚信」や「感嘆」はカットする長さや押しだす量でサイズにバリエーションを加えられるので使い勝手は良いという。実際にこの日ヒットしたへら鮒が食ったくわせエサはまさに多種多様で、結論から言うと用意したすべてのくわせエサを食い、突出してよく食ったものはなかった。それだけへら鮒の食い気が乏しく、一瞬の目先の変化によってのみ食いつくといった極めて難しい時合であったことがうかがえるわけだが、複数用意しておかなければこの結果すらも得られなかったと考えると、改めて現代段底の難しさを痛感させられると同時に、くわせエサのローテーションもまた最先端の釣技と認識させられた今回の取材であった。

記者の目:動きが少ない厳寒期だからこそエサを信じ、自らを信じきることが大事!

目先の1枚を拾うことすら困難な状況下において奇策を一切用いることなく、基本を徹底して踏襲することで結果を残した内島。段底に限らず、これこそが彼のフィッシングスタイルだ。多少の食い渋りであればイレギュラーな奇策を駆使しながら数を伸ばすこともできようが、今回のようにアタリは疎かサワリすら維持することが困難な状況においては、それすら叶わない。こうした超難時合下において威力を発揮するのは、いつの時代も王道といわれる強くブレない釣り方であると共に、絶対に食うというエサのポテンシャルを信じ、釣れるという自らを信じる強い気持ちだろう。こうした姿勢やメンタルを手にするためには日頃の釣りに対する心構えが肝心だ。釣れないときこそ工夫を凝らし、我慢もし、チャンスが来たら集中力を高めてそれをものにするということを繰り返し実践することが大事であり、今回厳しいなかでも結果が残せたのは、そうした内島の人間力の成せる業に違いない。段底には「段底」。これからも厳寒期に段底で臨む彼の傍らには、頼りになる司令塔「段底」がそっと寄り添うに違いない。