稲村順一が徹底レポート「釣技最前線」第152回 「岡田 清のチョーチンウドンセット釣り」
岡田流 抜きバラケのチョーチンウドンセット釣りのキモ その一:独創的抜きバラケのアプローチを支えるタックルセッティング
ズバリこの釣り方のキモはエサ付けにある。バラケをどこまで持たせどのように抜くのか、そのコントロールを指先ひとつで高精度かつタイムリーに行うことが最も肝心なことなのだ。しかしそれはバラケのブレンドやエサ付けそのものだけでできるものではない。およそ独創的な釣り方にはそれに特化したタックルセッティングが必要不可欠であり、とりわけこの釣りでは個々のタックルの個性とバランスが、バラケのコントロールを左右する重要な役割を担っている。そこで記者は、まず岡田に使用しているウキについて訊ねてみた。すると、
「実はこのウキあってこその抜きセットといえるほど、この釣りではウキが重要なアイテムのひとつです。現時点では市販を想定したプロトタイプではないので、紹介する際はくれぐれも『試案品』でお願いします。(笑)」
と前置きをしたうえで、
「ウキはさまざまな情報を我々に伝えてくれます。アオリやシモリといったへら鮒の動きだけではなく、打ち込んだバラケがどのあたりまで持っているのかを把握するのに、このグラスムクトップウキが大変具合が良いのです。基本的にバラケを持たせる必要がないのでエサ落ち目盛りはトップの先端近くに設定しますが、こうしたことがバラケをコントロールするうえでも、もちろんナジミ際の倒れ込みのアタリをとるうえでも重要な働きを担ってくれるのです。」
と、グラスムクトップウキの必要性を力説する。
またウキ以外にも大切なものがあると言い、上ハリスはバラケの抜き差し精度を高めるために5cmと、チョーチンウドンセット釣りにしては短めにすること。また下ハリスは倒れ込みのヒットチャンスを絞り込み、食い損ないによるカラツンを防ぐためにも短めに設定すること。さらにくわせエサは小さい方がナジミ際に食いやすいので、必然的に下バリは小さめがベターだということ。これらのポイントはタックルセッティングを整えるうえで必須条件であり、バランスが悪いとバラケを抜くコントロール精度が低下することはもちろんのこと、最大のヒットチャンスであるナジミ際で食わせることができずに毎投スルーされてしまう。そうなると、結果的に縦サソイに頼らざるを得ないことになってしまうので、実践する際にはよく吟味する必要がありそうだ。
岡田流 抜きバラケのチョーチンウドンセット釣りのキモ その二:「粒戦」のポテンシャルを生かすも殺すもエサ付け次第!?
かつて抜きバラケのセット釣りは浅ダナから始まったと記憶しているが、近年は短ザオチョーチンウドンセット釣りから、さらに深いタナを攻める中尺長尺での釣りでも、至極当たり前のように行われるようになっている。ただしいずれの釣りも縦サソイを多用する待ちの釣りであるのに対し、岡田のような攻めの釣りを実践しているアングラーは少数派といえよう。当然ながら竿が長くなりタナが深くなるほどバラケのコントロールは難しくなる。さらに季節風による流れが生じたときには単にバラケが持つ/持たないというだけではなく、水深4~5m先でのバラケとくわせエサのシンクロ精度の問題にまで発展することになる。
「仮にハリにバラケを付けた時点でベストのエサ付けができたとしても、タナよりも上層に寄ったへら鮒の数や動き方次第では狙ったタナで上手く抜けないことも多々あります。私自身〝勘〟だけを頼りに毎投ベストなエサ付けはできません。だからこそ水中で起きているあらゆる情報が読み取れるポテンシャルをもつグラスムクトップウキが必要であると同時に、読み解いたことを確実にエサ付けに反映できるフィンガーテクニックが重要なのです。」
具体的にどのようなエサ付けが良いのか、時々刻々変化する状況下での岡田の言葉からは拾うことは叶わなかったが、抜くタイミングに関して言えば、最も遅く抜けるのはオモリが垂直に張った直後の上バリが倒れ込むときで、ここで抜いていたのでは下ハリスの倒れ込み時にアタリがでないような場合、徐々に早く抜けるよう形はラフに、圧加減は弱めに微調整を加えながら探っていたようだ。
「集魚力はもちろんのこと、上から降り注ぐことでくわせエサに誘引する力は『粒戦』に優るエサはありませんが、その力を余すことなく引き出すためには何よりもエサ付けが大事です。丁度良いエサ付けがタイムリーにできるようなるには繰り返しやってみて覚えるしかありませんが、これから迎える厳寒期においては、持たせ過ぎるとどうしても縦サソイに頼らざるを得なくなるため、どちらかといえば早く抜けた方がアタリをだせると思います。」
岡田流 抜きバラケのチョーチンウドンセット釣りのキモ その三:ヒットチャンスは〝倒れ込み〟一択。サソイは無用!
アプローチが異なれば、当然ながらアタリがでるタイミングもアタリ方も変わるものだ。それは釣り始めた岡田のウキの動きを見れば一目瞭然だった。前項でも触れたが岡田はウキの立ち上がるタイミングや立ち方からバラケがどこまで持って、どこで抜けているのかが分かるようで、「これは抜けるのが遅かった!」「今度は良いところで抜けた!」と1投ごとに解説。ナジミ際に意図した動きが現われると「これはアタるね!」と宣言。すると直後にカチッと小さなアタリがでてヒットを決めるという、究極のパターンフィッシングでスタッフの度肝を抜いた。これこそが〝倒れ込み〟の食いアタリで、岡田は「ココしか狙っていない」と言いきる。
「この釣り方の旬はもう少しへら鮒の動きが鈍くなってからですが、たとえエサ追いが悪くなっても『粒戦』の誘引力とナチュラルなくわせエサの動きさえ演出できれば〝倒れ込み〟のワンチャンスに食ってきます。もちろん毎投食いアタリがでるわけではありませんが、縦サソイを繰り返してリアクションバイトを待つ釣りと同等、もしくはそれ以上のヒットチャンスがあるはずです。」
実際この日の実釣では、序盤に理想的な〝倒れ込み〟のアタリで好時合をものにしたあと、寄り過ぎによるウワズリ(スタート時のブレンドでは、空いていたことに加え、時期尚早であったために抑制しきれず、途中で吸水させた「粒戦」100ccを追加投入してなんとか堪えた)に手こずりながらも新たなバラケブレンドに手応えを感じると、以降は〝倒れ込み〟のアタリ5割、ナジミきった後のサワリ(アオリやシモリ)を確認して待ってでたアタリ5割という展開で粘釣。へら鮒の活性が高く釣り難しい時合のなか、見事に最先端の釣技を魅せてくれた。
記者の目:じゃじゃ馬「粒戦」を手なずける岡田流フィンガーマジック!
集魚力、誘導力において優れたパフォーマンスを発揮する「粒戦」。今やセット釣りには無くてはならない必携エサであることに異論はあるまいが、その変遷をたどると時代と共にさまざまな使い方がアレンジされ、その都度多くのアングラーの注目を集めてきた。今回岡田が魅せてくれた釣技はまさに〝最前線〟の名にふさわしいアプローチであり、食い渋るへら鮒を相手とする厳寒期の釣りをアグレッシブに楽しむには打ってつけの釣り方だといえるだろう。この釣りのキモは既に述べたとおり、エサ付けのテクニックによるバラケのコントロールである。とはいえ、扱いにくさでは一二を争うじゃじゃ馬のような「粒戦」が多く含まれたエサは、指先で摘まんでも思うようにまとまらない扱いにくさがネックとなる。そんなバラケを意のままに操る岡田フィンガーマジック。彼のように毎投的確なエサ付けができなくても、数投に1投できるだけでも食いアタリを引きだすチャンスは確実に広がることだろう。特に上層のへら鮒の動きが止まる厳寒期は、このアプローチを試みる絶好のチャンス。扱いは難しくとも、じゃじゃ馬はときとして無類の強さを発揮する。この冬「粒戦」に貴方の釣りを委ねてみないか?