稲村順一が徹底レポート「釣技最前線」第151回 「杉本智也のチョーチンウドンセット釣り」
杉本流 チョーチンウドンセット釣りのキモ その一:ウキをナジませる(バラケをタナまで持たせる)ことこそマスト!
取材冒頭「チョーチンウドンセット釣りのキモはズバリ何?」との記者の問いに杉本は、
「ウキをナジませることが最も大切なことであり必須条件です。理想はウキのトップ先端ギリギリまで深くナジませることですが、バラケのエサ付け時の圧加減が上手くできないときは持たないよりも持ち過ぎるくらいの方が良いので、もしトップが沈没したときはサオ先を1回シャクり、バラケを促進してトップが水面にでるようにすることをお勧めします。」
と即答。一般的にへら鮒の活性が高い時季は上バリにバラケが残っているときの方が食いアタリはでやすく、活性が低くなるほどバラケを抜いてから食いアタリがでる確率が高まるといわれている。取材時のへら鮒の活性はまだ高い時季であったが、やや食いが渋り気味だったせいかアタリがでにくく、つい抜き系アプローチで攻めたくなるような難しい時合であった。実際に杉本がエサを打ち返しながら試したところ、明らかにバラケを残しているときの方がサワリもアタリも多く、バラケが完全に上バリから抜けてしまうと極端に反応が鈍く、たとえアタッたとしても空振る確率が高かった。
「バラケをタナまで持たせることのメリットは、無用なウワズリを抑え、へら鮒を狙いのタナに集中して寄せられることです。実際のところ上層から早抜きした方がウキの動きは簡単にだせるのですが、よく見るとその動きはフワフワとした感じの力強さに欠けるものです。これは狙ったタナよりも上に居着くへら鮒の仕業なので、ぶら下がったくわせエサの位置まで下がってきて食うことはないと考えられます。あくまでターゲットはナジミきったバラケの位置よりも下に入ってくるへら鮒であることを考えれば、いかにバラケをタナに送り込むことが大切であるかが分かるはずです。」
杉本は解説どおり、ときにトップを沈没させながら常にウキを深くナジませることに注力。すると時間はかかったものの次第にウキの動きは増え、やがてアタリにつながりそうな気配が漂い始める。そして数枚をヒットさせた後、さらにここから杉本はどのようなバラケが良いのか、数種類の特性の異なるバラケを試すというプロセスを踏んだうえで、遂にエサ持ちがよく適度に開くバラケが良いというへら鮒の声を訊きだした。その結果、トップのエサ落ち目盛りを2目盛りも多くだしてまで徹底してバラケを持たせたアプローチに活路を見いだすと、極めて難しい時合を攻略してみせた。
杉本流 チョーチンウドンセット釣りのキモ その二:ウキの動きはへら鮒の〝声〟 求めているものを正しく見極めろ!
中小型のへら鮒の口数が多かった頃には、ある程度タナに寄せられればコンスタントに釣れたものだが、放流量が減少しへら鮒のサイズも大型化した現代の管理釣り場においては、エサの種類やブレンドパターンだけではなく、タッチやバラケ加減に加え、抜いたり持たせたりといったアプローチのバリエーション、さらにはウキやハリスワークといったタックルセッティングの緻密さを追求しなければ、容易に釣ることができなくなっているのが実状だ。こうした状況をへら鮒の嗜好の変化と捉えるのが正しいかどうかは分からないが、明らかにへら鮒の求めるものが至極狭い範囲のなかで驚くほど多岐に渡り、その内のひとつでもマッチしないと釣りが成立しないところまで来ているような気が記者にはするのだが……。いずれにせよへら鮒が求めるものが何なのか、それを見極めることの重要性が高まっていることは確かであろう。杉本曰く、
「現代セット釣りにおいてはウキの動きを読む力が求められています。とはいえ、さほど難しいことではなく、いくつかポイントを押えれば必ず身につくものと考えています。私の場合チョーチンウドンセット釣りにおいて着目しているのは、一旦深くナジませたウキが戻し始めた際の動きです。基本はジワジワと比較的ゆっくり均等に戻すようにバラケをコントロールしていますが、このとき戻しながら振幅の小さな上下動が伴うときは食いアタリにつながることが多く、12月末頃までは一気に抜けるバラケよりもこうした感じのバラケの方が釣れる確率が高いと思っています。」
こうしたウキの動きをだすためには、第一に踏ん張りの効くバラケに仕上げることが肝心だと杉本は続ける。そしてエサ付けの際にしっかり圧を加えてエサ持ちを強化すること。さらにへら鮒の寄り具合によってバラケのサイズや形状に微調整を加え、常に同じような動きになるように心掛けることも肝心だと付け加えた。
ウキの戻し際の動きはアタリにつながる重要な要素の代表格だというが、ここ以外にも重要なウキの動きがあるので、杉本の解説をもとに以下にまとめたものを紹介しよう。
❶バラケが残っているうちに現われる比較的明確な振幅の大きな上下動
バラケが残っているうちにアタリがでるときは比較的活性が高いときで、状況によっては下ハリスを詰めて短めのハリスでの接近戦が可能になることも。特にバラケが残っているうちに途切れない動きが現われているときは大きなチャンス。一方でバラケが抜けてからしかウキが動かないときは成立しにくいアプローチといえよう。
❷バラケが抜けてから数秒後のウキの動き
杉本が理想とするのは、バラケが抜けて微細な上下動が現われ、5~6秒経ってから食いアタリがでるパターン。これは下ハリス45cm(基準の長さ)の場合、上バリから抜けたバラケが丁度下バリのくわせエサに被るタイミングであり、まさにセット釣りにおけるシンクロの醍醐味だという。
❸サソイに対してのウキの動き(リアクションバイト)
シャクリを含め、サソイにはあまり頼らないという杉本。サオ先を煽る動作はバラケが持ち過ぎてトップが沈没してしまったときに1~2回行うのみで、トップが水面上にでた後は静かにアタリを待つか、サオ先を水中に突っ込むような動きでウキを沈めるサソイを繰りだす。それも闇雲に行うのではなく、バラケがくわせエサの周辺に残っているタイミングで行うのが杉本流。これも1~2回行ってリアクションバイトがないときは速やかに打ち返す。
杉本流 チョーチンウドンセット釣りのキモ その三:アタリを待たないリズミカルなエサ打ちで時合を引き寄せる
へら鮒の食いが良いときは単に寄せただけでもアタリがではじめるものだが、盛期であっても食いが渋いときや、これから迎える冬の釣りではコンスタントに食いアタリをだすことは困難だ。これから紹介するポイントは杉本がマストと言いきるバラケを持たせることに次いで重要なポイントで、すべての釣りに共通するテクニックであると同時にへら鮒釣りにおける大切な心構えのひとつでもある。それは無駄にアタリを待たずに見切り、テンポの良いリズミカルなエサ打ちを実践すること。
「くわせエサが付いているセット釣りでは、サワリでウキがわずかでも動いていると、ついアタリを待ってしまいがちですがこれはNG!食いアタリがでるタイミングというのはたとえ食い渋っていても思いのほか早く、食いが良いときには深ナジミしたトップが戻し始めた直後、悪いときでもバラケが抜けきって間もなくの比較的早いタイミングででることが多いことに気づいてください。これを理解し納得できれば、自ずと待つことなくリズミカルなエサ打ちができるようになるはずです。」
とはいえ、〝言うは易く行うは難し〟で、一体どのようにすればできるようになるのだろうか。実践するポイントとしては、理想とされる食いアタリのでるタイミングに近いところで現われる、わずかな動きを打ち返しのきっかけにすることである。この日スタート直後の杉本は、まずへら鮒を狙ったタナに寄せるために若干あまめのエサ付けで始めたため、一旦深くナジミきったウキが戻した直後、動きが見られなければ打ち返していた。そしてへら鮒が寄り始めてからは、ナジミきったウキが戻し始めて以降最初に現われる動き(仮想アタリ)に聞きアワセをして、早めのリズムをキープし続けた。具体的にはたとえ食ってなさそうな「チクッ」といった小さな動きでも、そのでるタイミングが食いアタリのでるタイミングに近ければ躊躇なくアワせるのである。すると何投かに1回は力強いアタリがでるようになり、やがてその確率が高まると真の食いアタリが徐々に増え始め、明らかに食い渋りの時合下でありながらもへら鮒の気配を喪失することなく攻め続けられたのである。
記者の目:動きも食いも渋いときだからこそ気持ちの強い釣りを心掛けよ!
これから冬本番に向かうこの時季は、たとえ食い渋ったへら鮒であっても中途半端に活性が残るため、ウキが動く割にはアタリがでにくく釣れないケースが少なくない。こんなときつい目先の一枚欲しさに小手先のテクニックに頼りがちだが、むしろこんなときだからこそ気持ちを強く持って軸のブレない王道の釣りを貫くことが大切であることを、杉本は実釣を通して示してくれた。バラケの開かせ方や上バリから抜くタイミングの差こそあれ、最初から最後までバラケをタナまで持たせてウキを深くナジませることを徹底し、たとえ時間がかかったとしても最後には悪いながらも納得のアタリで納得の釣果を得た杉本。こうした地道な積み重ねが必ずや花開くことを信じ、一枚を得るプロセスに重きを置いたアプローチをいつもの釣行時に心がけてみてはいかがだろうか。