稲村順一が徹底レポート「釣技最前線」第151回 「杉本智也のチョーチンウドンセット釣り」|へら鮒天国

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稲村順一が徹底レポート「釣技最前線」第151回 「杉本智也のチョーチンウドンセット釣り」

例年になく難しさを感じた今年のチョーチンウドンセット釣り。年初の厳寒期から始まり真夏の盛期を過ぎてもなお、釣りが決まったという実感が得られなかった読者諸兄も多かったのではないだろうか。こうした傾向はこれからも続くことが予想されるが、だからといってただ手をこまねいてばかりもいられない。もちろん特効薬など望むべくもないが、こんなときだからこそ迷える多くの読者諸兄に救いの手を指し延べてくれるトップアングラーの力が必要だ。この難しいオーダーを快く引き受けてくれたのはマルキユーインストラクター杉本智也。オールシーズンあらゆる釣りをハイレベルでこなす彼のフィッシングスタイルは正真正銘、理詰めの正統派。迷ったときこそ一本筋の通った杉本流王道釣法が大いなる力となり、迷える我らを明るい未来へと導いてくれるに違いない!

難時合になればなるほどシンプルに考え、ロジカルに組立てる

今回の取材フィールドは埼玉県幸手市の神扇池。早朝記者と顔を合わせるや否や「いま、バラケに迷走しているんですよね(苦笑)」と杉本。名手をしてそう言わしめるほど昨今のセット釣りが難しいということの証ともいえるのだが……。しかも公私共に多忙な彼は今回の取材にあたり事前のプラクティスはおろか、直近の釣況さえも十分には把握できていないという。それだけに今日は手探り状態になりかねないという不安が大きいというが、それはむしろ記者にもスタッフにとっても好都合。チャチャッと釣りを決められるよりも、悩みに悩み抜いた結果正解に辿り着いてもらった方が、読者諸兄にとってはより参考になるプロセスやテクニックが露わになるに違いない。杉本はさくら桟橋東向きの70番座席に釣り座を構えると、今回のテーマである冬(時期的には年内一杯頃まで)のチョーチンウドンセット釣りに最適と目される10尺竿を継ぎ、手早く釣り支度を調えた。

「近況が分からないので何ともいえませんが、数少ない情報では比較的釣れだしが遅く、簡単には釣れないようです。おそらく一発で決まることはないでしょうから、すべてニュートラルなセッティングでスタートしてみて、焦らずに状況をみながら徐々に合わせていくといったへら鮒釣り本来の基本スタンスで始めてみましょうか。」

SNSが全盛の昨今、釣り場ごとにほぼリアルタイムの釣況を正確に把握することは決して難しくはないが、仮に分かっていたとしても攻略の糸口がつかめないほどの難時合では、そうした情報は何の役にも立たないばかりか、かえって悩みの要因になりかねない。今回の杉本はまさにそうした状況に追い込まれた形となったわけだが、決して悲観する様子はみられない。むしろこの後どういった展開になるのか興味津々といった体で、支度が整うとすぐにエサ打ちを始めたが、やはり予想どおりというべきか、ウキはそう簡単には動かなかった。しかし開始から30分が過ぎた頃に大量の泡づけが現われると、直後に突然ウキのすぐ横で良型がモジった。これを合図にウキを通して感じる生命反応が徐々に高まり、4~5投に1回深くナジんだトップが返し始めた直後に小さなアタリがではじめると、乗らないとわかりつつもこれに聞きアワセをしながら良いリズムをキープする。

「まだ釣れそうなアタリはでていませんが、かなりへら鮒は寄ってきたように感じます。ここまでほぼ毎投バラケをタナまで持たせ、ウキを沈没ギリギリまで深くナジませることを心掛けていますが、やはり早抜きよりもこちらの方が釣れそうです。とかく難しいと複雑に考えがちですが、むしろそれは逆効果。できるだけシンプルに、そして決して思いつきではなく理詰めで組み立てることが肝心です。とりあえずまずは深ナジミありきで、そこから何が良いのか悪いのかをへら鮒に訊きながらやっていきましょう!」

その言葉が終わるか終わらないうちにでたこの日初めての力強いアタリに、遅れることなく鋭いアワセを決めた杉本。強烈な引き込みに耐えつつも、巧みなロッドワークでいなしながら徐々に手元に引き寄せ、玉網に収める。この日のファーストヒットは尺超級の良型だ。これをきっかけに……と言いたいところだが、そう容易く続けて釣れないところが今シーズンのセット釣りの難しいところ。杉本自身そのことはよく知っていて、ここまでの釣況から分かったことを基に、ここから先の組み立て方をシンプルかつロジカルに思考回路をフル回転させて練り始めた。

取材時使用タックル

●サオ
がまかつ「がまへら千早」10尺

●ミチイト
東レ「将鱗へらストロングアイ道糸」0.8号

●ハリス
東レ「将鱗へらスーパープロ PLUSハリス」
上=0.5号-10cm、下=0.35号-45cm(調整幅35~50cm)

●ハリ
上=がまかつ「アラシ」7号、下=がまかつ「クワセマスター」3号

●ウキ
TOMO「C-2」#7【元径1.0mmテーパーグラスムクトップ18.0cm/直径6.0mm一本取り羽根ボディ7.0cm/直径0.8mmカーボン足7.5cm/オモリ負荷量≒1.0g/エサ落ち目盛りは全11目盛り中6目盛りだし→後に8目盛りだし】

取材時使用エサ

バラケエサブレンドパターン

「粒戦」100cc+水200cc(10分程度放置して完全に吸水させる)+「セットアップ」200cc+「セット専用バラケ」200cc+「軽麸」200cc

五指を熊手状に開いて下から掘り起こすように大きくかき混ぜ、全体に水が均等にゆきわたったら手を止め5分以上放置して吸水を待つ。調整は基エサの乾燥を防ぐ程度に加えるわずかな手水のみで、加える水量は水を張ったボウルに浸けた五指で全体をかき混ぜる程度にとどめる。エサ付けは杉本特有の縦長の水滴型。肝心のバラケ性のコントロールはハリに付ける前の手揉み加減とエサ付け時の圧加減。さらにサイズと形状でバラケの拡散範囲とタナで抜けきるタイミングをきめ細やかに調整する。

くわせエサ

「力玉ハード(S)(M)(L)」

この日最も使用頻度が高かったのはSサイズ。このことからもこの日はへら鮒の寄り自体が少なく、動きも鈍かったことがうかがえるが、時折ウキの動きが活発化し、いいアタリがカラツンになった際にMサイズを使用。すると一時的にヒット率がアップしたシーンが見られたことからも、的確なサイズチェンジが難時合下では効果を発揮することが証明されたことになる。ところで3種のサイズの重さの違いだが、杉本が使用するグラスムクトップウキでは、トップの目盛りにしてそれぞれ半目盛り程度の差が認められた。ちなみにSサイズでは約半目盛り、Mサイズで1目盛り強、Lサイズで2目盛り弱のナジミ幅であった。


また杉本は使用する直前に現場で「さなぎ粉」をまぶしていた。これは長時間の漬け込みにより小さく萎んだ力玉がふやけて大きくなることで、へら鮒の興味を削いでしまう(へら鮒に警戒されることも含め)ことを避けたいがための、彼一流のこだわりである。