稲村順一が徹底レポート「釣技最前線」第148回 「都祭義晃の短竿チョーチン両ダンゴ釣り」
近年その釣り難しさゆえに、もっぱらウドンやトロロをくわせとしたセット釣りにその座を奪われつつある盛期のチョーチン両ダンゴ釣り。とりわけ桟橋際を狙う短竿レンジの釣りでは、かつてのような良型バクバクの爆釣シーンを目にする機会がめっきり減り、往年の勢いがみられない昨今の釣況を嘆くチョーチンファンは決して少なくない。今回の釣技最前線は、そんな短竿チョーチン両ダンゴ釣り愛好者に送る応援企画。名手マルキユーインストラクター都祭義晃の力を借りてその魅力と威力を再確認するべく、茨城県結城郡八千代町にある筑波流源湖での実釣取材を敢行。いつもながらの明快な解説と、確実に結果を導きだす力量はさらに研ぎ澄まされ、今回もまた数々の〝金言〟を残して我々の期待に応えてくれた!
難しさの元凶は〝道中〟にあり!? エサを持たせてヒットチャンスを絞り込め!
映像(おもにウキの動き)を通してへら鮒釣りのキモをお伝えしている釣技最前線。へら鮒という生き物相手のことなので、どうしてもこちらの都合の良いようにいかないことも多いなか、本番の撮影が始まる前にあらかじめ当日のへら鮒のコンディションを確認し、いざ本格的に実釣が始まると無駄なく的確なプロセスを踏んで理想の完成形を目指す都祭義晃。マルキユーインストラクターという立場を最もよく理解し、どのように魅せたら読者諸兄が分かりやすいだろうかと、スタッフ以上に気を配る姿勢とスキルは今回の取材でもいかんなく発揮された。
「確かに難しさを楽しむのもへら鮒釣りの一面ではありますが、過度に難しすぎる昨今の釣りでは、楽しむどころか逆に離れていってしまう可能性の方が高いのではないでしょうか。自分の釣りもそうですが、人に教える立場においてもできるだけシンプルで簡単に釣れる方法を伝えることが肝心であり、今回頂いたお題(テーマ)である短竿チョーチン両ダンゴ釣りにおいてはまさに単純明快『エサを持たせてアタリを絞り込むこと』のみ!今日はこれだけで劇的に釣りが変わることをお見せしたいと思います。」
入念な下調べに加え、当日の検証作業を手際よく済ませると、自らが描いた〝シナリオ〟どおりに事が運ぶかを確かめながら慎重かつ大胆に実釣を進める都祭。未来永劫残るかもしれない実釣映像に迷走する姿は残したくないという陳腐な考えではなく、あくまで真面目に、決していい加減なことはできないという真摯な姿勢は、この日も流源湖の大型べらを見事に攻略。開始約2時間をかけた試行錯誤(おもにタックル調整とエサのブレンド検証)の後にカメラを回し始めると、その後は順調にカウントを重ね、実釣開始4時間が経過する頃にはどれだけ釣れるのか?と思うような爆釣モードに突入。ウィークデーの流源湖はパラダイス!まさに「へら鮒天国」だと結果を残せた実釣取材に自らOKをだした。
「はじめは不安定な時合いに悩まされましたが、いくつかのブレンドパターンとハリスワークを交互に試したところ、最後はイメージどおり深くウキがナジんだ直後にでる本命アタリに加え、ウキが立ち上がった直後にでる戻しアタリのオマケまでついて良い感じで釣れました。この釣りの食いアタリはこの一択(アゲはあくまでエキストラ)で〝道中〟は完全無視。これはあくまで想像ですが、ウキのナジミ際ではまだエサが残り過ぎている可能性が高く、またエサも揉まれて動きが不安定になっていることを考えれば、たとえ良いアタリでもヒット率が低くなることは当然の結果で、これに惑わされてしまうと自らの釣りに迷いが生じてしまうのです。」
エサの性能が向上した今の釣りでは無理に(無駄に)エサに動きを持たせなくても十分へら鮒の興味を惹きつけることが可能になったという都祭。詳細については後述するが、エサのポテンシャルを信じて焦らず組み立てることが重要だという、かつてへら釣り界を席巻した〝ナジませ釣り〟を彷彿とさせる都祭流短竿チョーチン両ダンゴ釣りをとくとご覧あれ!
取材時使用タックル
●サオ
がまかつ「がまへら天輝」9尺
●ミチイト
サンヨーナイロン「バルカンイエローへら道糸」1.2号
●ハリス
サンヨーナイロン「クレバー」0.6号 上=40cm→25cm、下=50cm→35cm
●ハリ
上下=がまかつ「改良ヤラズ」7号
●ウキ
水幸作「ディープポジション」パイプトップ
【テーパーパイプトップ15.0cm/二枚合わせ羽根ボディ9.0cm/カーボン足7.0cm/オモリ負荷量≒1.75g ※エサ落ち目盛りは全10目盛り中8目盛りだし】
取材時使用エサ
「カクシン」500cc+「凄麩」100cc+「カルネバ」100cc+「浅ダナ一本」100cc+水225cc
4種の麩材をエサボウルに取って軽く混ぜ合わせ、水を注ぎこんだら五指を熊手状に開いてかき混ぜ、全体に水が行き渡ったら手を止めて完全に吸水が完了するまで数分間放置。使用する際は半分ほど小分けし、適宜押し練りを加えてからエサ打ちを始め、状況に応じて手水を加えながらさらに押し練りを加える。確実にタナまでエサが持つことを絶対条件に、へら鮒の反応が引きだせる(ウケが現われる)タッチを探り当てることが肝心。エサ付けサイズは寄せとエサ持ちを意識しての最大サイズが直径18mmほどで、釣り込む際に多投する最小サイズは直径15mmほどとなる。なお、このブレンドパターンは始めから決められていたものではなく、最初は「凄麩」が「コウテン」と入れ替わったものでスタートし、へら鮒の反応がやや鈍かったことから多少粗めの麩材が入った「凄麩」にしたところイメージどおりにアタリがで始めたことで辿り着いたものである。またへら鮒の寄りが増すに従い、エサ持ちが悪くなった時点で「カルネバ」を200ccとしたブレンドも試したが、これではネバリが強過ぎて返ってアタリがでにくくなったことから、基エサは100ccに抑えたうえで、適宜そのままの「カルネバ」を追い足す手法でへら鮒の動きと摂餌を完全にコントロールしてみせた。
都祭流 短竿チョーチン両ダンゴ釣りのキモ その一:単に持つだけではダメ! アタリにつながる機能を生みだす「凄麩」の力
実釣取材が始まってすぐに、記者は以前都祭に浅ダナ両ダンゴ釣りを披露してもらったときに彼が口にしていた言葉を思いだした。それは「両ダンゴの釣りは浅い深いに関わらずエサを持たせてナンボの〝エサ持たせゲーム〟だ!」という言葉だ。
「エサを持たせることは両ダンゴ釣りの基本中の基本ですが、チョーチン釣りはいかに短竿といってもタナ1mの釣りよりも攻めるタナが深くなる分、さらにエサを持たせることが難しくなるため、より持たせる意識を強く持つことが肝心です。近年は高性能なエサが多いので、その特性を生かしたエサ作り・エサ使いを心がけることが大事であり、方向性としては現在主流のタッチのエサが簡単にできる『カクシン』を軸に、状況に応じてバラける麩材やまとまる麩材を足し引きすることで狙いのタッチに仕上げます。」
実釣が平日ということもあり、筑波流源湖特有の大型べらの激しい寄りと強烈なアタックに耐えられるよう、自身が基準とするなかでもどちらかといえば持つタイプの基エサからスタートした都祭。しかし、釣れるには釣れるが理想とするペースには程遠いことからブレンドを見直し、先の「凄麩」が入ったものに変更。さらに最もネバリが強い「カルネバ」をやや控えめにし、釣況に応じて後から適宜追い足しする手法に切り替えると、都祭が理想とするナジミきった直後にアタリが集中するようになり、釣れてくるへら鮒の型もひとまわり大きくなってきた。
「エサはこれでほぼOKです。アタリをだすためにはタナまでエサが持つ(ハリから抜けない)ことが絶対条件ですが、単に持つだけではコンスタントに釣れません。肝心なのは持ったエサがタナで機能すること。具体的にはへら鮒の好みに合う開き方(膨らみ方)をさせてやる必要があるのですが、今回はその重要な役割を担ってくれたのがわずか100cc加えられた『凄麩』です。適度に粗めの麩材が入った『凄麩』がタナで膨らむことでへら鮒の摂餌を刺激してくれたので、中盤以降は狙いどおりにウキを動かすことができました。」
都祭流 短竿チョーチン両ダンゴ釣りのキモ その二:ウキ&ハリスワークを軸としたトータルバランスでより釣りをシンプルに
この釣りを組み立てるうえでキモとなるのはエサばかりではなく、軸となるパイプトップウキに加え、タイムリーなハリスワークなくしては成立しないものと断言しよう。実は今回の取材を前に、記者も同釣り場で竿をだして試し釣りをしてみたのだが、自らが理想的と考えているアタリがことごとくカラツンとなり、思うように釣れなかったことからこの日の都祭の釣りから対策のヒントを得ようと、公私混同を承知のうえで興味深く彼の釣りを見ていた。その違いは一目瞭然!記者のアプローチはPCムクトップウキ&長めのハリスを組み合わせた、ナジミ際のアタリで食わせる典型的な〝追わせ釣り〟であり、都祭が「一切、目もくれない!」と言いきった、そのタイミングのアタリを一生懸命追いかけていたのである。
「ムクトップを使った釣りは今でもよく釣れますので、カラツンが収まらない原因はエサの残り過ぎ(エサ付けサイズが大き過ぎ)による可能性が高いと思われます。かつては硬めの大エサを削らせながら追わせ、食い頃になったところで食わせるというまさにナジミ際に狙いを絞った釣り方が主流でしたが、エサの性能自体が飛躍的に向上した現在では、容易にエサを持たせることができるようになっているので、始めから食い頃タッチに仕上げたエサをサイズ感に注意して打ち込むだけでカラツンは激減するはずです。」
記者の釣りが時代遅れではないことに加え、都祭からありがたいアドバイスをいただいたところで改めて彼の釣りと比較してみると、決定的に異なるのがウキとハリスの長さだった。ウキはウケがでやすくナジミ際のアタリとサワリの識別がしやすいパイプトップウキがマストであり、これに比較的短めのハリスを組み合わせることで無駄なエサの動きが抑えられ、ウキがナジミきったところで確実に食いアタリがでるという理想的な状況が構築されるという。
「ウキが立ち上がった直後のウケは必要不可欠な動きであり、これが現われるということはへら鮒がエサに興味を示しているサインなので、いわば釣れる前兆の動きと捉えます。もしウケがでにくいときはエサのタッチにボソッ気を持たせることに加え、ハリスを伸ばして意図的にウケやすい状況を作りだすことも必要です。」
都祭流 短竿チョーチン両ダンゴ釣りのキモ その三:〝道中〟には良いアタリが目白押し!? グッと堪えて一点集中!
この釣りにおける都祭のアタリへのこだわりは尋常ではない。繰り返し述べているが、都祭がベストと考え、狙っているアタリはウキがナジミきって(エサがタナに入って)へら鮒にエサを揉まれるなかででる強烈なアタリである。その多くはウキが深くナジんだ状態ででるため大抵は消し込みアタリとなるが、彼が〝道中〟と表現するナジミ際の小さなアタリには目もくれず平然と見送るため、水中アタリになることも少なくない。
「この釣りのキモはまさにこのアタリの取り方にあり、道中のアタリは一切無視して、狙いはナジミきり一択。ただしウキが立ち上がった直後のウケやモドシといった動きのなかで、確実に食ったと思えるアタリは躊躇なくアワせますが、これはあくまでオマケであり、決して積極的に狙うことはありません。」
こう言いきった都祭。動画をご覧いただければ一目瞭然だが、ヒットするアタリの大半はトップ先端が水没する寸前からの消し込みアタリであり、結果だけみれば釣れて当然のアタリともいえる。その一方で、多くの読者諸兄が「なんであのアタリはアワセないの?」と思える動きが幾度となくナジミ際にでていることも確認できるだろう。
「道中には『甘い誘い(良いアタリ)』が目白押しですが、そこはグッと堪えるのがミソ(笑)。安定した時合いを少しでも長く続けたいのであれば、ヒット率が低く不安定要素の多いナジミ際のアタリには目もくれず、狙いはあくまでナジミきり後の一点に集中させることが肝心です。」
記者の目【短竿チョーチン両ダンゴ釣りのキモを見事に押えた都祭流ナジませ釣り】
今回都祭が披露してくれたアプローチは、これまで主流とされていたムクトップウキを使ったナジミ際のエサを追わせて食わせるアプローチとは対極に位置する組み立て方であるが、この釣り方もかつては「ナジませ釣り」と称され、多くのへらアングラーに親しまれていたアプローチである。もちろん現在でも追わせ釣りで多くの釣果を上げているアングラーも少なくないが、釣りの組み立て方における簡単さという点ではこちらのアプローチの方が優っており、不慣れなアングラーにとっては様々なアタリが多いナジミ際に食わせる釣り方よりも、ナジミきり一点にアタリを絞った都祭流のアプローチの方が釣りやすく、今シーズンの短竿チョーチン両ダンゴ釣りを楽しむには最適なのではないだろうか。