稲村順一が徹底レポート「釣技最前線」第145回 「萩野孝之のマッシュ系両ダンゴ釣り」|へら鮒天国

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稲村順一が徹底レポート「釣技最前線」第145回 「萩野孝之のマッシュ系両ダンゴ釣り」

萩野流マッシュ系両ダンゴ釣りのキモ その一:雑魚の猛攻や巨べらのアオリに負けない芯持ちの良いマッシュエサ

今回の釣りの主役はいうまでもなくマッシュをベースとしたダンゴエサであるが、萩野のブレンドを見ると「カルネバ」に含まれたわずかなさなぎ粉を除き、集魚材は含まれていない。マッシュそのものには特段のネバリはないが、野べら釣りでもとりわけ巨べら釣りには欠かせないエサ持ちを強化するためには、相当な練り込みを加えなければ必要とされるネバリを得ることはできない。

「確かにマッシュベースのエサは大型の野べら釣りに欠かせないものですが、粒子が細かいだけに作り方や扱い方によってはサラッとしたタッチになりやすく、亀山湖では数多く棲息する尺ワタカやブルーギルといった雑魚の猛攻や、ターゲットである巨べらが寄ったときに生じる強烈なアオリに対して堪えきれるタッチを得られないことが少なくありません。そこで頼りになるのが『カルネバ』に含まれる増粘材によるネバリです。これがブレンドに加わるだけで格段にエサ持ちは良くなるので、マッシュだけでは得られなかった異次元のヤワネバタッチも可能になり、狙いどおりの追わせ釣りのアプローチがさらに効果的に機能するのです。」 

萩野が仕上げた基エサに触れてみるとホクッ、サラッとした手触りなのだが、これを半分程度別ボウルに取り分けて手水を加えながら練り込みを加えていくと徐々にシコッ、ムチッと変化しはじめ、さらに手水を加えていくと、やがてきめの細かい口当たりの良さそうなマッシュ系ダンゴエサ特有のヤワネバタッチに仕上がるという寸法だ。

「マッシュ系ダンゴエサに求められるエサ持ちの目安ですが、魚(へら鮒に限らず)に触られてすぐにウキが戻してくるようではそのエサはエサ付けも含めてNGです。たとえ揉まれながらもタナに入り、そこでひと踏ん張り堪えてくれなければ不合格。その踏ん張りを簡単に手にするために必要なのが『カルネバ』のネバリなのです。」

萩野流マッシュ系両ダンゴ釣りのキモ その二:上層から追わせるアプローチに適したマッシュ系両ダンゴ釣り専用ウキ

従来のマッシュ系両ダンゴ釣りでは大エサを抱えきれる浮力を持った極太パイプトップウキでエサをぶら下げ、警戒心の強い巨べらの食い気のスイッチが入るまでじっくりとアタリを待つというアプローチがセオリーといわれてきた。しかし萩野が実践しているマッシュ系両ダンゴ釣りは管理釣り場の浅ダナ両ダンゴ釣りと同様、水中を自然落下するエサを上層から追わせながらタナに呼び込み、そのエサの動きが止まるまでの間、もしくはへら鮒のアオリによって動いた直後のアタリで仕留めるというスタイル。こうしたアプローチはダム湖の釣りが盛んな関西地区をはじめ、全国的にも近代マッシュ系両ダンゴ釣りのスタンダード釣法として定着しつつあるようだ。

「自分が欲張りなのかもしれませんが、せっかく野釣り場に来たのですから、どうせなら型だけではなく数も釣りたいじゃないですか。そうした思いから自分なりに試行錯誤を繰り返した結果、ムクトップ(状況に応じてPCとグラスムクを使い分ける)を使った追わせ釣りアプローチを確立したわけですが、もちろんエサを止めて待った方が良いときはパイプトップウキを使います。そのあたりは無理に決めつけずに臨機応変、管理釣り場の釣りよりも柔軟に考えた方が良さそうです。」 

ちなみに今回萩野が使ったウキはマッシュ系両ダンゴ釣りに特化したものであったが、こうしたタイプのウキでなければ狙いどおりの釣りはできないのであろうか?

「決してそのようなことはありません。もちろんマッシュ専用ウキがあるに越したことはないのですが、普段両ダンゴの宙釣りで使っているウキよりも2~3サイズ大きめのものを使えば十分通用すると思います。」

事実、萩野の右隣の先釣者はスタンダードタイプながらやや大きめのパイプトップウキで朝から好調に釣れ続いており、萩野が移動して来る直前には48.5cmの見事な巨べらまで仕留めていたのだ。もっともあまりにも華奢なウキではハリをワンサイズ大きくしただけでトップが沈没してしまうこともあるので、実際にやってみてエサの重さに浮力が負けているなと感じたら、トップが沈没しなくなるまで大きくしても大丈夫だろう。目安としては当日の亀山湖のへら鮒のコンディションであれば、タナ2mくらいと仮定した場合、通常15尺一杯で使うくらい大きなウキでも問題なさそうである。

萩野流マッシュ系両ダンゴ釣りのキモ その三:野釣りにおける〝変化〟はピンチであると同時にチャンスでもある!

普段の「釣技最前線」の取材であれば、アングラーにとっての釣りやすさや撮影上の都合を考慮すると天気は良いに越したことはないが、今回のような大型の野べらをターゲットとした取材の場合、雨や適度な波立ちは臆病で用心深いへら鮒の警戒心を解く方向に働くことが多いので、むしろウェルカム。当日の天気は朝方の雨雲が通過するタイミングにわずかな降雨があるとの予報であったが、いざ蓋を開けてみると一時は周囲が霞み、萩野の声も聞き取れないほどの激しい雨に見舞われることに。最初に目をつけたポイントで釣れなかったことから、もしや荒天が悪い方向に作用したかと心配されたが、結果的には的確な場所移動が功を奏し、雨による増水や濁りによって活性が高まったへら鮒が活発にエサを追ってくれたお陰で、良いウキの動きが撮影できたと取材クルーはもちろんのこと、萩野自身も納得の釣りができたに違いない。

「確かに今回は天候にもへら鮒の活性にも恵まれた取材でしたね。特に天候に関しては水位や濁りが大きく変わってしまうほどの極端な変化は良いことが多い一方で、稀にまったく釣りにならなくなってしまうほどの悪影響を及ぼすこともあるので注意が必要です。また野べら釣りでは管理釣り場のように1日コンスタントに釣れ続くことはなく、大抵は時合いや環境の変化によって突然釣れはじめたり釣れなくなったりと波が大きく、たとえ釣れたとしてもポツポツと拾い釣りになることが多いのが実状です。だからこそわずかな変化も見逃さず、ウキの動きが悪くなりかけたら早めに対処し、少しでも長く、少しでも多くアタリをだすことを心がけています。また変化はピンチであると同時にチャンスでもあります。今回も風向きや強さが変わりはじめた途端にアタリがではじめることがあり、雨足の強弱によってもへら鮒の反応に違いがみられました。肝心なことは良くなる変化は確実に捉えて1枚でも多くヒットさせることに努め、悪くなる変化に対しては的確な対処法で悪化を最小限に抑えること。これを徹底することが野べら釣りでは必須であるとぜひ覚えておいてください。」

ちなみに、今回の実釣で萩野が実践したおもな対策は以下のとおりだ。

●タナ調整
いうまでもなく野釣りの必須テクニックであり、アタリがでにくくなった際にウキの位置をこまめに変える、いわゆるエレベーターの釣りである。この日は8尺竿での釣りであったが、上限はタナ1m程まで浅く、下限は竿一杯のタナまで深くなっていた。また釣れているときでも型が小さくなった際には大型べらのタナが別のレンジに変わってはいないかと探る目的で変えることもある。

●オモリ飛ばし
これもまた野釣りでは当たり前のテクニックであり、狙ったタナにいる気配があるにもかかわらずエサ追いが鈍くなった際に、ハリスを長く伸ばしてヒットチャンスを増やすことと同様の効果が期待できる手法である。取り分け萩野流の追わせるアプローチには誠にうってつけの対策といえよう。

●エサのタッチ調整&エサ付け調整
管理釣り場における両ダンゴ釣りのテクニックだが、野釣りにおけるマッシュ系両ダンゴ釣りでも効果のある対策だ。へら鮒の寄りが少なくアタリも散発な状況下では練り込みをやや控えたものや「藻べら」を加えた開きの良いものを用い、回遊によりへら鮒が寄って来たときや突如食い気のスイッチが入ったときには、やや練り込みを強め手水で軟らかく調整したエサで一気に釣り込んだ。

参考までにこの日の萩野の釣果は45.3cmを筆頭に良型ばかり20枚以上。この時期の釣りとしては上々の結果であった。万一釣れなかった場合を考えて予備日としていた翌日、桟橋を離れてボートで笹川上流部に向かい数ヶ所で竿をだした萩野からは、前日と打って変わって冷え込みのため釣果は数枚に止まり、前日あれほど好調だった桟橋でもへら鮒の気配は遠く、常連の釣果も数枚に終わったという一報が届いた。これが野釣りの難しさであり、怖さでもあるが、取材本番が好時合い下で行えたこと、さらには読者諸兄にマッシュ系両ダンゴ釣りとしてはベストともいえるウキの動きを動画でご覧いただけることを幸いとしよう。

記者の目未知との遭遇のドキドキ感がたまらないマッシュ系両ダンゴで攻める野べら釣り!

野べら釣りは枚数や型の善し悪しでは計ることができない、なんとも形容しがたい満足感が得られる釣りだ。「今日はどれだけ大きなへら鮒が釣れるだろうか」「へら鮒以外にもどんな魚が釣れるのだろうか」といった、管理釣り場では決して味わうことのできないドキドキ感がそうさせるのかもしれない。野べらは自然の変化に対してとても敏感に、かつ鮮明に反応するので、そうしたことからへら鮒の生態や習性を学ぶことも多く、結果的に管理釣り場の釣りに役立つことも少なくない。とはいえ、野釣りは釣行時の道具が重装備になりがちで、事実それが要因で足が遠のくアングラーが少なくない。今回萩野が訪れた亀山湖ボートハウス松下では、桟橋に固定されたへら鮒釣り専用ボートが数杯用意されており、ラインやハリといったタックルだけ大型べらに耐えられる仕様に整えるだけで、管理釣り場並みに気軽に釣行することができる。少ないながらも全国にはこうした釣り場も存在するので、ぜひ読者の皆さんもマッシュ系両ダンゴで気軽に手軽に野べら釣り・巨べら釣りにチャレンジしてみてはいかがだろうか。