稲村順一が徹底レポート「釣技最前線」第144回 「高橋秀樹の春の浅ダナ両ダンゴ釣り」|へら鮒天国

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稲村順一が徹底レポート「釣技最前線」第144回 「高橋秀樹の春の浅ダナ両ダンゴ釣り」

春、ダンゴファンにとっては待ちに待った季節の到来だ!そうはいってもいつからダンゴ?という明確な線引きがあるわけではないが、早いところでは2月下旬頃からバラケ(麩系エサ)への反応が強まり、3月に入ってさらにへら鮒の活性が高まると明らかにセット釣りでの釣り難さを覚え、やがて本格的なシーズン・インを迎えるというのが例年のパターンであろう。今回はこの時季が来るのを、首を長くして待っていた多くのダンゴファンに送る早春の両ダンゴ釣り企画。アングラーは自他共に認める熱烈なダンゴマニアのマルキユーインストラクター高橋秀樹。盛期における彼の両ダンゴ釣りの爆釣ノウハウは過去幾度となく紹介してきたが、今回はそんな高橋をして難しいなかにも格別の面白さがあると公言して止まない、春の浅ダナ両ダンゴ釣りを紹介する。

春のダンゴは軽さとボソ感が命!?

今回の実釣フィールドは千葉県野田市にある「WakuWakuField 野田幸手園」。例年この時季になると自然と麩系ダンゴエサに手が伸びるという高橋は、3月に入ると早くも例会や取材で両ダンゴの釣りを試みており、既に今シーズンの傾向はつかんでいると自信満々で同園もみじ桟橋に降り立った。ところが〝春に三日の晴れ間なし〟のことわざにもあるとおり、晴れの予報は直前に曇りのち雨と一転し、思いのほか早い天気の移り変わりに翻弄された今回の実釣取材。肌寒いのを通り越して3月における日中の最低気温を記録したこの日、取材中に降りだしたみぞれが上昇傾向にあった同園のへら鮒の活性を奪うとウキの動きは激減。ダウンを着込み真っ白な息を吐きながらもウキの動きに集中する高橋の釣り姿は、とても両ダンゴ釣りの取材をやっているとは思えないシチュエーションだ。

「もちろん盛期の激しいウキの動きのなかでのダンゴの釣りは楽しいですが、タックル・エサ・アプローチと、すべてにおいて適合するセッティングが激狭の早春の両ダンゴの釣りも、その難しさゆえに正解を探り当てられたときの面白さは格別ですね(笑)。」

開始から早くも1時間が経過。ウキの動き自体少なく容易にでないアタリに「果たしてやせ我慢なのか?」とも聞こえた高橋のこの言葉。しかし発言は確たる自信からでた言葉であることは間もなく証明さることとなる。ウキ下約1.5mとやや深めのタナで始めた高橋は、間もなく1ボウル打ちきろうとする頃になってナジミ際の早い段階から目立ち始めた上層からのサワリに、即座にウキ1本分タナを浅くした直後にファーストヒットを決めると、この日最初の好時合いを捉えて瞬く間に4枚の良型をキャッチ。ところが一気の固め釣りが影響したのか、その後は再び気配なく、すんなりとウキがナジミきってしまう状態に逆戻りした。

「軽めのエサに仕上げたつもりでしたが、それでも重過ぎるようですのでブレンドを替えます。」

そう言うと「ふぶき」を加えた新たなブレンド(詳細は後述)を手早く仕上げてリスタート。決して強い圧は加えずに軽めにまとめたエサ玉はフワッとエアーを含んだボソタッチ。すると狙いどおりにナジむ速度が遅くなり、再びサワリが現われるとアタリも復活。高橋の爆釣を期待していた読者諸兄には申し訳ないが、この日の彼は1枚1枚辛抱強く粘り強く拾い続ける釣りに終始。しかしその釣りはヒットする1枚ごとにそれぞれ異なる趣があり、すべてのアタリが記者の記憶に残るほど奥深く濃密であった。高橋自身もこの難時合いを心底楽しんでいる様子から、数こそ少ないものの紛れもなく〝爆釣〟であったと断言しよう!

使用タックル

●サオ
がまへら「我楽」10尺

●ミチイト
サンライン パワードへら道糸「奏」1.0号

●ハリス
サンライン トルネードへらハリス「禅」0.6号 上=40→35cm、下=50→45cm

●ハリ
上下がまかつ「リフト」6号

●ウキ
水幸作「H/Tロクゴーネオ」4番
【1.2mm径テーパーパイプトップ10.0cm/6.5mm径二枚合わせ羽根ボディ6.0cm/1.2mm径カーボン足3.5cm/オモリ負荷量≒1.0g/エサ落ち目盛りは全8目盛り中4目盛りだし】

取材時使用エサ

●両ダンゴブレンド①(スタート時の基本ブレンドパターン)

「カクシン」500cc+「コウテン」200cc+「浅ダナ一本」200cc+「カルネバ100cc(軽く混ぜ合わせてから)+水300cc

水を注いだら五指を熊手状に開いてゆっくり丁寧にかき混ぜ、全体に水が回ったら手を止める。仕上がりはしっとり感のあるヤワネバタッチ。軽めで芯持ちの良いこの時季の基本エサだ。

●両ダンゴブレンド②(当日決まりのブレンドパターン)

「カクシン」600cc+「ふぶき」200cc+「浅ダナ一本」200cc+「粘力付属スプーン2杯(軽く混ぜ合わせてから)+水300cc

作り方は前述のとおりで、かき混ぜすぎないことがポイント。このブレンドは「コウテン」を「ふぶき」に替えることで軽量化と粒子感をきめ細やかにすることと、「カルネバ」に代わるまとめ役として「粘力」を新たに加えることでハリのフトコロに残る〝芯〟をより小さくし、数少ないアタリをカラツンに終わらせないという確たる狙いが込められている。その結果はウキの動きとその後の釣況の変化を見れば明らかで、春特有の目まぐるしく変化する時合いに追従するポテンシャルに優れ、加えて食い渋ったへら鮒に対してもスローかつ自然な落下状態を演出することが可能になったことを証明してみせた。

高橋流 春の浅ダナ両ダンゴ釣りのキモ その一:沖め深めに潜むグッドコンディションの良型べらがターゲット!

実釣開始を前に、記者は高橋に「なぜ人よりも早い時期から両ダンゴの釣りを始めるのか?」と素朴な疑問を投げかけてみた。すると、

「もちろん両ダンゴの釣りが好きだからということもありますが、真の理由はこの時季へら鮒よりも早く春を感じて動きだす雑魚類がセット釣りのくわせエサにアタックするため、無駄にウキが動いて釣りが難しくなることを避けるためなのです。おそらく今日のような天候ではへら鮒の活性が鈍く、ウドンなどの固形物を使ったセット釣りでは普段よりも小魚類によるアタリが激しくなることが予想されるので、むしろ厳寒期よりも難しくなる恐れがあります。一方で両ダンゴの釣りではそうした動きがウキに現われにくく、たとえウキの動きそのものは少なくてもアタればへら鮒といった状況下に置けるので、かえって釣りやすく感じるのです。」

セット釣りをメインとするアングラーであれば、そうしたことも折り込み済みでこの時季の釣りを乗りきっているのだろうが、ダンゴマニアの高橋はそれでは満足できず孤高の道を歩んでいるようだ。そんな彼の釣り支度を見ていると竿の長さ選びで思案の最中。てっきり規定最短尺である8尺を継ぐのかと思いきや、13尺を出そうか?それとも空いているから10尺でもイケるだろうかと迷っている。盛期の浅ダナ両ダンゴ釣りならば迷うことなく規定最短尺の竿で規定一杯の浅ダナを攻めるのがセオリーだと思うのだが、訊けばこの時季の攻め方としては中尺竿でやや深めのタナを攻めた方が良いと高橋は言う。

「本格的に麩系ダンゴエサを追い始めるまでは、新べらを含めた比較的食い気のあるコンディションの良いへら鮒の居着く場所をダイレクトに狙う必要があり、まさにそのターゲットが潜むところが桟橋からやや離れたところのタナ1.2~1.5mのレンジなのです。もちろん釣り場や釣り座、混雑度などによっても多少の違いはありますが、基本的には麩系ダンゴエサに対して反応の良いへら鮒がいるところを狙うことも、この時季この釣り方をやるうえでの重要なキモなのです。」

大雑把なようで(失礼!)人知れず緻密な計算のうえに釣りを組み立てている高橋。多くのへらアングラーが時期尚早というなか、両ダンゴで爆釣するにはこうした〝ワケ〟が隠されていたのだ。

高橋流 春の浅ダナ両ダンゴ釣りのキモ その二:「ふぶき」が生みだす唯一無二のボソフワタッチが早春のへら鮒を惹きつける!?

この日は当初から軽めのブレンドで臨んだ高橋であったが、予想以上の食い渋りにさらに奥の手を繰りだした。それが記者も予想だにしなかった「ふぶき」ブレンドの両ダンゴエサであった。発売開始時期が既にセット釣りの季節であったことから、愛用者の多くは記者同様バラケ専用エサと誤認している可能性があるので改めて言い添えておくが、実は「ふぶき」はバラケとしての機能はもちろんのこと、ダンゴエサのベ-スとしても締めエサとしても使える万能タイプの麩材なのだ。高橋は「ふぶき」の持つ特性のうち、その類い希なる軽さと誘導力に着目し、既に独自のダンゴエサの一部として手の内に入れていたのである。

「発売以降初めてのダンゴシーズンを迎えますが、既に何度か使ってみた感じではとても良い感触を得ており、軽さによってゆっくり落としながら上層のへら鮒にエサを追わせ、タナにぶら下がる前に食わせる誘導力が求められるこの時季のアプローチには相性が良いようです。ただし作り方にはチョットしたコツがありますので紹介しておきましょう。それはできるだけ手を加えないこと!基エサを作る際のかき混ぜ方からしてソフトに、そしてできるだけ回数も少なく麩材と水を均一に混ぜることを心がけてください。」

作り方に関しては動画を参考にしていただくとして、記者が実際に仕上がったエサを摘まみ取って軽くまとめたものを水中に放り込むと、水面直下で暫しサスペンドしてからゆっくりと沈んでいくのが確認できた。つまり見た目は麩材が密着した状態の基エサにも十分なエアーが含まれ、素材の軽さが損なわれることなく機能していることが分かる。しかも細い糸を引くように沈下の最中にエサ玉の表面から剥がれる微粒子を見ていると、まだ動きが本格化していないこの時季ならではのへら鮒の活性や摂餌欲求レベルに適したものであることもうなずける。

「ブレンドを変更してから明らかにウキの動きが変わりましたよね。ほかには何も変えていないので、この効果はエサによるものであることがハッキリとしたわけですが、せっかく良いエサができたのであれば効果的に使いきることも大事です。エサ付け時にはエアーを抜き過ぎず、そうかといって丁寧過ぎずラフ過ぎず、状況に応じて微調整をこまめに加えることも忘れてはいけません。」

高橋流 春の浅ダナ両ダンゴ釣りのキモ その三:春特有の不安定な時合いに攻略するキーワードは〝見切り〟と〝辛抱〟

記者はこの日の高橋の釣りを見て思わず〝爆釣〟と表現してしまったが、ヒットペースとしては時間当たり2~3枚。ピーク時でも5~6枚といった感じで決してたくさん釣れたわけではない。しかし1投1投大事にアタリをだそうと丁寧に釣り進める高橋の姿勢からはなぜかたくさん釣れている印象が伝わるのだが、恐らくそれは崩れることのないハイテンポのエサ打ちリズムが深く関係しているのかもしれない。

「テンポが速いのは〝見切り〟の良さに起因していると思います。この釣りでアタリがでるのはナジミきる直前からナジミきった直後までの極めて狭いタイミングに限られており、盛期のように上層で引ったくるように食うこともなく、何度もアタリを見送りながらナジミきったところでのズバ消し込みなどでるはずもありません。ゆっくり落下するエサがウキの直下にぶら下がったらその1投は勝負ありと割り切って、たとえサワリがあっても見切りをつけて次投に期待するのが得策です。またダンゴで釣れるぞ!と聞くとついイケイケの釣りをイメージしてしまいがちですが、実は絶対にやってはいけないのがこの攻め過ぎの釣りなのです。そもそも釣れるとはいっても決して大釣果は期待できません。基本的にはウキの動きが少ない時季の釣りなので、ウキを動かそうとしてつい色々とやりたくなる気持ちは理解できるのですが、ある程度方向性を定めたら焦る気持ちを抑え、どっしり構えて動かないことが肝心。仮にほかの釣り方を選択してもたくさん釣れるわけではないので、動かないこともテクニックのひとつとして覚えておくことも必要でしょう。」

既にお気づきの読者諸兄も多いことだろう。今回の高橋のタックルセッティングは盛期のそれとほとんど変わらず、両ダンゴフリークのなかには明らかに強すぎだろうと思われている方も少なくないはずだ。しかしこの日、高橋が施したタックル調整はわずかにハリスを5cm詰めただけ。後は前述のとおりエサのブレンド変更だけで見事に釣りきってみせた。こうした釣り方の完成度の高さと自信は長年のキャリアによって培われたものであることはいうまでもないが、軽挙妄動を慎み、辛抱することも重要なテクニックであることを身をもって証明してくれたことになろう。

総括

今回もまた両ダンゴ釣りの〝深淵〟に我々を誘ってくれた高橋の妙技。とかく豪快さがクローズアップされがちな両ダンゴの釣りにおいて、極めて繊細なアプローチで見事に難時合いを攻略してみせてくれた彼の釣技は、早期に両ダンゴの釣りに移行することをためらっていたダンゴファンに新たな攻略の糸口を披露してくれたものと高く評価したい。取り分け新エサ「ふぶき」の活用方法と効果については、たとえセット釣りマニアであってもその威力に注目し、新たな使い方を模索するうえでの大いなるヒントになったに違いない。この稿がアップされる頃には春本番、さあ「ふぶき」をバッグに詰め込み2024春の両ダンゴ釣りにチャレンジしてみよう!