稲村順一が徹底レポート「釣技最前線」第138回 「吉田康雄のカッツケウドンセット釣り」|へら鮒天国

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稲村順一が徹底レポート「釣技最前線」第138回 「吉田康雄のカッツケウドンセット釣り」

〝食欲の秋〟は人もへら鮒も同じなのか?そんな錯覚さえ覚えた今回の釣技最前線取材。例年ならば夏から秋の釣りへと移行するこの時季の釣りは、両ダンゴでは釣り込めず、そうかといってセット釣りでしぶとくコンスタントにという雰囲気にもなりにくい。すなわち、それは端境期特有の不安定な時合いに起因する難しさであり、トップトーナメンターとて同じように難しさを感じていると、マルキユーインストラクター吉田康雄は言う。実は何を隠そう今回の釣技最前線は、今なおトーナメントの第一線で活躍する彼の奥義(秘技)を公開してもらおうというのが狙いである。今シーズンもメジャートーナメントのファイナルを目前に控えた吉田を誘って訪れたのは埼玉県加須市にある加須吉沼。奥義の真価を確かめるにはニュートラルなアプローチで始めた方が良いだろうと、まずは普段通りの釣りでスタート。開始早々不安定な釣況に翻弄されつつも粘り強く凌ぎながらチャンスをうかがう吉田。やがて、難時合いを制する〝奥義〟のベールが剥がされるときが訪れる。

バラケで逃したターゲットはくわせで仕留める二段構えのアプローチ

現在のウドン系固形物をくわせエサとしたセット釣りは、持たせバラケに抜きバラケ、パワー系にライト系と、実に数多くの攻め方が存在する。アングラーはそれらをTPOに合わせて使い分けているが、その多くは水中で浮遊する(もしくは上方から降り注ぐ)バラケの粒子のなかにくわせエサを紛れ込ませ、さらに警戒心を解くために可能な限りナチュラルな状態に漂わせて食わせることを基本としている。しかし、今回披露してもらったアプローチはそうした基本とは一線を画する特異なアプローチである。

「今回紹介する(つもりの)釣り方は、僕自身過去のトーナメントシーンのなかで、特に予選突破の際に幾度となく助けられた釣り方ですので、正直いうとあまり公開したくはなかったのですが、これからトーナメントを目指す人達はもちろんのこと、いまなおライバルとして切磋琢磨しているトップトーナメンターにも手の内を明かすことで、僕自身さらなるレベルアップが果たせるのではないかと、思い切って紹介することにしました。一体どのような釣り方かというと、ひとことで言い表せば〝バラケを積極的に食わせるアプローチ〟なのですが、単にバラケをメインに食わせるだけではなく、バラケを食い損なった(食わせきれなかった)へら鮒もくわせエサの『感嘆』で拾うことができる、いわば二段構えの釣り方なのです。」

恐らく似たような釣り方でバラケを積極的に食わせるセット釣りを実践している読者諸兄も居られるだろう。ただ、中途半端といっては語弊があるかもしれないが、思うほどはバラケを食わせきれず、かといってくわせエサを確実に食わせることも満足にできてはいないのではないだろうか。詳細は後述するが、吉田のよりダンゴタッチに近いバラケは単なるセット用のバラケではなく、多めに加えられた「粒戦」が食い気のあるへら鮒に対しても、やや食い渋り気味のへら鮒に対しても等しく誘引する働きを担っており、食い気のあるへら鮒はナジミ際の早いタイミングでダイレクトに引きつけ、食い気に乏しいへら鮒は「粒戦」の誘導力でやや距離を置いたところに位置するくわせエサに惹きつけることができるといった、いずれも取りこぼしなく拾えるというメリットを有する希有のバラケなのである。

「実際にそうした釣り方ができる時合いにならないと効果のほどをお見せすることはできませんし、そもそも理論だけではリアリティーに欠けてしまいますので、とりあえずは僕のスタンダードな釣り方で始めさせていただき、状況次第でとっておきのバラケを使ったスペシャルバージョンのアプローチを披露できる時合いになることを願って始めてみましょうか。」

取材フィールドの加須吉沼には数年振りに訪れたという吉田。近況は聞き及んでいたようだが、入場前に改めて池主の及川氏から状況を伺った結果、基本の釣り方で入った方が今回紹介しようとしているアプローチとの違いもでやすいだろうと考え、前述のタックルセッティングのうち強めのセッティングとし、バラケも標準ブレンドパターンでスタート。タナをウキ下40cmとやや深めにとって数投早めの打ち返しを繰り返すと、すぐにアタリがではじめ、間もなくファーストヒットが決まる。果たしてこのまま普段の釣りのまま推移してしまうのか、はたまた〝とっておき〟バラケの奥義が登場する場面が訪れるのだろうか!

使用タックル

●サオ
シマノ普天元「獅子吼」7尺

●ミチイト
東レ「将鱗へらTYPEⅡ道糸」1.0号

●ハリス
東レ将鱗へらハリス「スーパープロプラス」
上=0.6号-8cm、下=0.5号-35cm

●ハリ
上=オーナー「バラサ」6号〜7号
下=ハヤブサ鬼掛「軽量関スレ」3号〜4号
※下バリのサイズは状況に応じて2種を使い分け

●ウキ
吉田作「パイプストローク」2番→1番
※1番のスペック【中細パイプトップ7.0cm/6.2mm径カヤボディ4.0cm/1.0mm径カーボン足7.0cm/オモリ負荷量≒0.45g ※エサ落ち目盛りはくわせエサをつけた状態で7目盛りトップの4目盛りだし】

取材時使用エサ

●標準バラケエサ(参考データ)

「粒戦」100cc+「粒戦細粒」50cc+「サナギパワー」100cc+水200cc(吸水のため10分程度放置後)+「セットアップ」100cc+「セット専用バラケ」100cc(一旦ザックリと混ぜ合わせてから)+「BBフラッシュ」50cc

全体に絡めるように混ぜ合わせる。調整は少量の手水+撹拌からボウルの底に擦りつけるような練り込みまで幅広い。これは練ってもバラケ性を失わない「サナギパワー」のなせる業と、このエサのポテンシャルあってこその吉田流セット釣りの基本バラケである。

とっておきのバラケエサ

「粒戦」100cc+「特S」100cc+水180cc(吸水のため10分程度放置後)+「ペレ軽」200cc+「バラケマッハ」100cc

ザックリと混ぜ合わせたら手を止め吸水を待つ。タッチが安定したら半分くらい別ボウルに取り分け、少量の手水と撹拌(40~50回)を加えてから使い始める。仕上がりのタッチはまとまりのよいネバボソダンゴタッチ。取材当日は先の標準バラケではソコソコ釣れるものの、吉田がイメージする釣りには程遠い状況が続いたため、タックルを一旦ライト系にチェンジしたうえで当該〝とっておき〟のバラケに切り替えたところ、変更直後こそ不安定な動きが目についたものの、さらに練りを加えて締め気味に調整を加えると、吉田が意図するナジミ際の早いアタリで上バリにヒットする投が増え始めた。

くわせエサ

「感嘆」(「さなぎ粉」入り)15cc+水17cc

「感嘆」は1袋に対して「さなぎ粉」30ccと「粘力」スプーン2杯をあらかじめ加えてよく混ぜ合わせておく。作り方は200ccカップにあらかじめ水17ccを注いでおいたところに「感嘆」(「さなぎ粉」入り)15ccを入れたらフタをして素早くシェイク。固まったらフタを取り指先で30回程度練り込んでからポンプに詰めて使用する。

吉田流カッツケウドンセット釣りのキモ その一:基本はノーマル。爆釣のチャンスを伺い一歩ずつ着実に詰めていく

開始早々にファーストヒットを決めた吉田。ところが毎投のようにアタリはでるものの強いアタリがことごとくカラツンとなり、容易にカウントが進まない。すると吉田はすぐさまタナを10cm浅くして数枚を連釣。再び空振りが続くと今度はハリスを5cm詰めて立て続けに数枚をものにする。さらに表層近くに寄った大型べらのアオリがきつくなると、躊躇することなくバラケに練りを加え始めた。それも簡単な練り込みではなく、まるで両ダンゴの麩エサにネバリを加えるような強烈な練り込みを加えたのだ。

「硬く粗めの麩が特徴の『サナギパワー』がブレンドされたエサはどんなに練ってもバラケ性を失いません。へら鮒の活性がまだ高い時季のセット釣りではバラケを持たせ気味にした方がよいケースが多いのですが、今まさにそんな感じなので思い切って手を加えていきます。」

この手直しでへら鮒との〝間〟がさらに詰まるとナジミ際の早いタイミングでバラケを食う投が徐々に増え始めたため、ここで吉田はウキの番手を下げて1番とし、一気の釣り込みをみせた。ところが突如ブレーキがかかり、ペースダウンを余儀なくされる。するとここから目まぐるしく動き始めた吉田。ウキが動かなくなったところでタナを再び40cmに戻して数枚。練り込みによって集魚性を抑え過ぎたと感じたところで、基エサを加えてバラケ性をアップ。「まだアタリが少ない」と言いながら、タナをさらに深くしウキを2番に戻すと、「強めのセッティングがマッチしそうだ」と上バリを7号にサイズアップ。下バリも4号と大きくしてハリスを35cmに戻すと一応の正解に辿り着いたようで、ヒットペースの上昇と共に型もよくなり始めた。ここまでにかかった時間はわずかに1時間半。この間どれだけの手を尽くしただろうか、その見極めの速さと判断の正確さには驚くばかりだが、しかし当の本人の表情に納得した様子はみられない。

「釣れるには釣れますが、このアプローチではこれが限界のようです。このままポツポツ釣り続けても面白くないでしょうから、決まるかどうか分かりませんが〝とっておき〟のバラケを使ったアプローチにチャレンジしてみましょうか。」

悪戯っぽい笑みを浮かべながらそう言うと、手際よくバラケを作り替え、タックルも最もライトなセッティングに整え、改めてタナをウキ下30cmと表層狙いに切り替え、リスタート。ウキの戻しが思いのほか早いことから徐々に練りを加えて持たせ気味にすると、ウキの立ち上がり直後からナジミきるまでの間にアタリが集中するようになり、およそ半分が上バリにヒット。しかもその多くがキロクラスの大型揃いなのだ。

「やはり接近戦には『特S』が効いたこのバラケですね。どうやら狙いどおりの展開になりそうです(笑)。」

実釣開始から2時間半、ようやく納得の笑みがこぼれた。

吉田流カッツケウドンセット釣りのキモ その二:距離感を意識せずに攻められるダンゴタッチバラケ

バラケに「特S」?と思われた読者諸兄も居られるだろう。記者ですらバラケを作り始めた吉田の手元に「特S」があるのに気づいたときには二度見したくらいだから、ある意味希有なエサ使いといえよう。

「比率的には『ペレ軽』メインのバラケですが、あくまでバラケとしての機能の軸は自らまとまる力のない『粒戦』であり、これを補助し全体のまとめ役となっているのが『特S』です。このエサは適度な比重があるのに加え、粒状のスイミーがタナで抜けることでウワズリを抑制し、さらにダンゴのベースエサとして不可欠な機能である独特のまとまり感が『寄せて食わせる』という働きを担っています。つまり今回私が意図したバラケを食わせるセット釣りに、実に適したバラケなのです。」

吉田の言葉どおり、釣りが決まっているときのバラケを食う確率は極めて高く、ピーク時には6~7割と、果たしてセット釣りといえるのか?と思えるほど特異なアプローチであったが、そのアタリの早さとヒット率、さらには釣れてくるへら鮒のサイズの良さを目の当たりにすると、この釣り方の有効性を認めざるを得ないだろう。

「あくまでウドンセット釣りの基本はバラケに対して接近するへら鮒とくわせエサとの距離感を測り、合わせることですが、バラケとの距離が縮まりがちな高活性期のセット釣りではそれが難しく、かといってトロロをくわせエサにしたセット釣りほど引きつけられない時合いでは、どうしてもウドン系固形物をくわせエサとしたセット釣りにならざるを得ません。そうしたケースでは距離感をあまり意識せず、バラケを食わせにいって食えばヨシ!それを逃したとしてもウドンで拾えるというスタンスで臨む方が楽ですし、実際に難しい時合いに見舞われやすいトーナメントシーンでは極めて有効であることは、僕自身の戦歴を見れば理解していただけると思います。形態こそセット釣りですが、僕的には両ダンゴの釣りをしているのと同じ感覚です。現代の両ダンゴの釣りはナジミ際が勝負所と思っています。しかしこの時季はそのワンポイントだけでは勝負になりませんので、エサがナジミきった後でもくわせエサが働くことでプラスαの釣果が期待できるこのアプローチが生きてくるというわけです。適切な距離を保つのが難しいのであれば、たとえどんな距離感にあってもすべて拾うつもりで攻める!これが僕の信条です。」

語弊があるかもしれないが、近年釣り場で目にする機会がめっきり減った「特S」にスポットライトを当てた吉田のエサ使い。この秋再び脚光を浴び〝台風の目〟になるのだろうか?

記者の目:積極果敢なバラケの攻め&くわせによる援護射撃で隙はなし!

この時季のセット釣りが難しいのは、へら鮒との一定の距離感が保てないことに尽きるだろう。とりわけ食い気旺盛なへら鮒と食い渋り気味のへら鮒が混在するシャローレンジの釣りでは、バラケに接近するものとそうでないものが入り交じり、安定的な釣りを維持すること自体難しいことは容易に想像ができよう。こうした状況下において一定の距離感を保ちながらスマートに釣ろうとしても、土台無理があることは火を見るよりも明らかであり、ならばバラケに近づくものはバラケを食わせ、離れたものはくわせによる援護射撃で仕留めてしまおうという発想で生まれた吉田流二枚腰のアプローチ。実際のところ緊迫したトーナメントの最中に平静を保ち、なおかつへら鮒とエサの距離感まで適切に維持し続けるのは至難の業であろう。それはメジャートーナメントの常連である吉田ですら難しいといい、そうした極限状態のなかで生まれたというアプローチ。旬はまさに今だとしながらも、新べら放流後にも新旧いずれのへら鮒も狙える釣り方として有効だという。来年のメジャートーナメントファイナル進出に向けて、今から練習に勤しんでみるのも悪くはないだろう。