稲村順一が徹底レポート「釣技最前線」第137回 「石井忠相のチョーチン両ダンゴ釣り」|へら鮒天国

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稲村順一が徹底レポート「釣技最前線」第137回 「石井忠相のチョーチン両ダンゴ釣り」

かつてオートマチックと称された〝持ってけ泥棒〟の食いアタリ。激しくウケた後にアワせる暇もなくズバッズバッと水中に消えていくウキに良型べらが次々とハリ掛かり。重厚に構築された時合いはエサが持てば必ずアタるという安定した釣況を生みだし、数々の記録的な爆釣をアングラーにもたらした。当時のカタボソタッチの大エサが効かなくなった現在、以前のような魚任せに食わせる爆発的釣果は望むべくもないが、現代主流となっているヤワネバ系ダンゴエサであっても決して劣らぬ釣果を得る術はあると、マルキユーインストラクター石井忠相は断言する。ならばその技を披露してもらおうじゃないかとスタッフが用意したステージは関東屈指の魚影を誇る準山上湖、群馬県藤岡市にある三名湖だ。一般アングラーの出船を見送ったあと、石井が向かったポイントは通称「水神カド」。湖のほぼ真ん中に張られた中央ロープが水神と金市田ワンドの丁度境目で折れ曲がるポイントで、水通しが良いことから魚影も濃く、加えて振れ止めロープが張られていることからもボートの安定感は抜群で、石井自身同湖では好んで入るポイントだという。舟付けを終えた静かな湖面にはそこかしこにモジリがみられ、同湖の好調を物語っている。1投目からウキに動きが現われたが、果たして石井は初秋の気配漂う三名湖をどのように攻略していくのだろうか。

無理な力技も小手先のテクニックも、もはや通用しない現代チョーチン両ダンゴ釣り

へら鮒釣りには昔から〝秋はタナを釣れ〟という格言がある。気温や水温の低下に伴い、日毎タナを変動させつつ徐々に深場へと落ちる秋のへら鮒の生態に合わせ、最も居心地の良いタナに居場所を変えたへら鮒をたくさん釣るためにはタナ(竿の長さ)の選定が重要であることを指した格言であることはいうまでもないが、チョーチン釣りを得意とするアングラーにとっては、秋に限らずベストなタナを探り当てて釣ることは極めて重要な要素として知られている。もちろん石井自身も深宙ダナの釣りをこよなく愛するチョーチンフリークのひとりである。

「西湖や精進湖といった山上湖や、ここ三名湖のような準山上湖での舟釣りの場合、私はほぼ間違いなくチョーチン両ダンゴ釣りを選びます。もちろん理由はたくさん釣れるからにほかなりませんが、その他の釣り方と同じような釣果であってもワンランク型が大きかったり引きが強かったり、また釣れたり釣れなかったりの波も少なく、パターン化された安定した時合いで釣れ続くことも大きな魅力のひとつであると感じています。特にこれから迎える秋の絶好期は徐々にへら鮒のタナも下がり、大好きな長竿でのさらにダイナミックな釣り味が楽しめるので、身体がいくつあっても足りません(笑)。しかしそんな魅力たっぷりのチョーチン両ダンゴ釣りですが、かつて主流であったカタボソタッチの大エサを力でタナにねじ込むパワー釣法や、小技を随所に散りばめたテクニカルな釣り方も通用しにくくなっているのが実情であり、釣れるツボを外してしまうと意外に釣果が伸びずに貧果に終わるアングラーも多いと聞き及んでいます。特にタナ(竿の長さ)の選定は重要なので、今回は標準的な15尺から始めて様子をみながら長い方が良いのか短い方が良いのかを見極め、また途中で良いとき悪いときのウキの動きの違いもハッキリとカメラで捉えられると思いますので、悪い動きから良い動きにするためのプロセスを含めて見ていただければ幸いです。」

そう言いながら15尺チョーチン両ダンゴ釣りの支度を済ませると、静かにエサ打ちを始めた石井。さすがに魚影の濃い三名湖。開始早々からウキは動きだし瞬く間に入れ食い状態になるも、次第に激しさを増すウキの動きにやや苦戦を強いられる。しかし序盤の不安定なウキの動きに対しタナ(竿の長さ)・エサ・ハリス調整を的確に繰りだし時合いを引き寄せると、中盤以降はアクセルを踏まないブレーキもかけない文字どおりの自動運転〝オートクルージング〟の快適なひとり旅であった!

使用タックル

●サオ
かちどき「匠絆忠相」15尺→「Kachidoki S」17尺

●ミチイト
オーナーザイト「白の道糸」1.25号

●ハリス
オーナーザイトSABAKIへらハリス 0.6号
上=55cm→50cm、下=70cm→65cm

●ハリ
上下=オーナー「バラサ」8号

●ウキ
忠相「TourSpec F」 11番(オモリ負荷量≒1.8g)→12番(オモリ負荷量≒2.0g)
【エサ落ち目盛りはいずれも全11目盛り中9目盛りだし】

取材時のベストブレンドパターン

「カクシン」400cc+「コウテン」200cc+「凄麩」200cc+水250cc(3種の麩材をエサボウルに取ったら軽く混ぜ合せてから水を注ぎ、エサの芯を強化するため熊手状にした五指でしっかり混ぜ合わせ、1~2分放置して吸水を待つ)+「BBフラッシュ」200cc

五指を熊手状に開いて混ぜ合わせる(「練る」とは違うので動画参照)。使用する際は半分ほど別ボウルに取り、少量の手水を加えてややシットリさせたもので打ち始める。エサの持ち過ぎによるカラツンが収まらないときはエサの芯をソフトにするため『コウテン』を『ガッテン』に替えた。なお打ち始めのエサ付けは野釣り場だからといって過度に大きくすることはなく、管理釣り場と同様に直径が100円硬貨と同じくらいのサイズ感で、これをこの日の最大と位置付けし、これよりもひとまわり小さめのものを標準サイズとして組み立てた。

石井流チョーチン両ダンゴ釣りのキモ その一:パイプトップで強くウケさせ、エサの動きを止めないフリーフォールアプローチ

時間をかけて大量のへら鮒をタナに寄せ、エサをぶら下げ、しっかり止めてアタらせる釣りは、もはや通用しない時代になっていると石井は言う。

「現代チョーチン両ダンゴ釣りのアプローチは大別すると概ね2とおりに絞れるでしょう。ひとつはセミロングタイプのムクトップウキを使い、そのストロークを生かしてできるだけ長い時間エサを動かしながらも、やわらかめのエサを静かにタナに送り込んで食わせるアプローチ。もうひとつはパイプトップで意図的にウケさせ、タナに入ってからもエサの動きを止めることなくフリーフォール状態を維持し続けながら、食い頃になったエサを食わせるアプローチ。私が得意とするのは後者のアプローチですが、かつてボソの大エサでタナを二分し、良いへら鮒を釣り分けた時代に培ったアプローチを現代流にアレンジしたスタイルを踏襲しています。分かりやすく解説すると、ただ寄るだけで食い気のないへら鮒を狙ったタナよりも上層に置き去りにし、食い気のあるコンディションの良いへら鮒を下のタナで仕留めるイメージです。」

石井の解説は動画のウキの動きを見れば概ね理解していただけるだろう。ムクトップウキの場合、立ち上がり直後のウケは比較的抑えやすいが、パイプトップ仕様の『TourSpec F』のウケは、ときに大きくときに長く、さらにナジミ途中でも激しく上下動を繰り返すこともある。これはいうまでもなくエサがへら鮒によって突かれたり煽られたりすることによって動いている証であり、この後エサがハリのフトコロに確実にホールドされていれば食いアタリへとつながることになる。さらにその動きがナチュラルであればあるほどへら鮒は警戒することなくエサを口にするチャンスが増え、石井がチョーチン両ダンゴ釣りの理想形と公言する、食ったら離さずハリ掛かりする〝持ってけ泥棒〟のオートクルーズが完成するというわけだ。

石井流チョーチン両ダンゴ釣りのキモ その二:岐路の選択ミスは命取り!? タイムリーかつ的確な対策で良い流れを呼び込め!

釣りの流れについては前述のとおり。結果だけみれば〝爆釣〟というひと言でまとめられるかもしれないが、そこに辿り着くまでのプロセスは決して容易いものではなかったことを明らかにしておかなければなるまい。この日最初に石井を悩ませたのが、朝時合いでよくみられる水面直下でハシャぐ不規則なへら鮒の動きであった。自身定番ともいえる得意のブレンドパターンで早々に釣りを決めたかと思われた石井であったが、水面直下の無数のへら鮒が着水直後の無防備なエサに群がり始めると時間の経過と共にその猛攻は激化。立ち上がり直後のウキはボディまで大きく突き上げられるようになり、ナジミに入ろうとしても途中で止められアタリは途切れがちとなった。ここでは急ぎエサを持たせる対策が必要となるが、その方法と手順を誤ると、むしろ状況を悪化させかねない岐路に立たされた。

「エサを持たせる方法は色々ありますが、やりやすい簡単なものから行うことをおすすめします。自分には釣況に応じたセオリーがあり、肝心なことはその都度ウキの動きの変化を注視しながら効果の有無を見極めて進めることです。その際パイプトップウキは水中のへら鮒の動きや様子をリアルに、また正確に伝えてくれるというメリットがあり、自分にとって大きな戦力となっています。」

この日石井が進めた対策と手順は概ね以下のとおり。

①ハリスを上下5cmずつ詰めてエサの沈下タイミングを早め、表層のへら鮒のアタックをかわすようにすると、再び順調にヒットを重ね始めた

②表層のへら鮒の動きが徐々に落ち着き始めると、かわりにタナよりもやや上層に食い気のないへら鮒が寄り始めたのか、再びエサ持ちが悪くなったところでウキをサイズアップし、落下途中のエサの沈下速度を速めるとアタリが復活

③エサが安定的にナジむようになり強いアタリが復活すると、今度は持ち過ぎ(石井は芯が強過ぎると表現)により良いアタリがカラツンになるケースが多発。ここではブレンドの変更(『コウテン』を『ガッテン』と入れ替え)を試したが目立った効果は得られず、エサ付けサイズや形状に変化を加えたり、アタリを取るタイミングを変えたりしながらヒットパターンを探り続けた

④さらに食い気のないへら鮒がタナに入り始めると強いアタリが途切れがちとなり、15尺では良いへら鮒とそうではないへら鮒を二分することが困難と判断した石井は、ここで17尺に替えてより深いタナを攻める選択をした(イメージ的には15尺のタナに食い気のないへら鮒を置き去りにし、下のタナに溜まっているであろう食い気のある良いへら鮒をダイレクトに狙う作戦)

釣りの流儀は人それぞれであり、朝のハシャギ時合いのときにひとしきり浅ダナの釣りで拾ったうえで、その動きが落ち着いてからチョーチン釣りに変更するとか、エサが持たなくなった時点で石井のように深いタナにシフトするのではなく、逆に短竿に替えて釣りが決まるケースもあるだろう。しかし石井の流儀はあくまで深めのタナを攻め抜き、コンディションの良いへら鮒をターゲットとするスタイル。この姿勢は終始一貫ブレることは無く、これからも変わることはないだろう。

石井流チョーチン両ダンゴ釣りのキモ その三:タナはアングラーとへら鮒が作るもの。もちろん秋は深めのタナが面白い!

「予想どおりというか狙いどおりというべきか、竿を長くしたところで釣況が好転しましたが、途中エサ持ちが悪くなったりアタリが不安定になったりした時点でさらに深いタナを狙えば、もっともっと良い時合いをつかめた可能性大でしたね。」

湖水のチョーチン両ダンゴ釣りを知り尽くした石井ならではの言葉だが、秋の深まりと共に取材時のような表層に居着くへら鮒の朝のハシャギも起きにくくなり、さらに徐々にタナを深くするへら鮒とのやり取りを楽しむのであれば、長めの竿の方がよりその釣趣を味わうことができると強く推す。

「へら鮒釣りはとかくエサのブレンドやタッチばかりに注目が集まりがちですが、もちろん狙うタナや使うウキ等々釣況にピタリとマッチさせなければ満足できる釣果をあげることはできません。秋は自然とへら鮒のタナが下がりはじめる時期なので、必然的に竿は長めのものが良くなる傾向です。また長竿の釣りは難しいと思い敬遠される方が多いようですが、溶存酸素量の少ない深場に居続けられるへら鮒の方が体力のあるコンディションの良い大型が多いという傾向もあります。こうしたことからむしろ釣り自体は浅いタナよりも簡単になるので、今回見ていただいたポイントをしっかり押さえれば、これから本格的なシーズンインとなる秋のチョーチン両ダンゴ釣りを十分楽しめると思います。」

記者の目:〝オートクルージング〟とはチョーチン両ダンゴ釣りにおける『鬼決まり』の証!

竿を長くしてから劇的に変わった釣況に驚く記者に対し、これが取材ではなく例会等を含めたプライベートの釣りであれば最初から17~18尺でスタートし、状況に応じてさらに長い19~21尺といった長竿に切り替えることで、さらなる良型の数釣りに持ち込めた可能性が高いことを示唆した石井。これは彼の豊富な経験による自信の表れにほかならないが、無理をせず良いへら鮒をターゲットとすることで釣りは易しくなり、石井が理想型として目指す〝オートクルージング〟に持ち込める可能性は高くなる。さらに、そうした状況下でさらにエサ・タナ・ウキといったトータルバランスのセッティングを完璧に整えられれば、何も引かない何も足さない、只エサを付けて打ち込めば勝手にへら鮒が食ってくる、いわゆる〝鬼決まり〟状態が完成されるのだ。また今回石井が披露してくれた長竿の釣りは決して管理釣り場での中尺竿や短竿の釣りを否定するものではない。むしろ釣り方そのものは管理も野も変わりなく、管理釣り場では周囲との兼ね合いで使うことをためらう長竿も、広大な湖水のボートの上では誰にも迷惑はかからず誰への遠慮もいらない。今回石井が披露してくれたチョーチン両ダンゴ釣りのキモをしっかり押さえ、秋の絶好シーズンにダイナミックな釣趣を味わいながら、自らの釣技スキルアップを兼ねた長竿の世界を堪能してみる良い機会と捉えていただければ幸いである。