稲村順一が徹底レポート「釣技最前線」第136回 「綿貫正義の極ヤワエサで挑むチョーチン両ダンゴ釣り」
開始直後から水面直下に無数のへら鮒が群がる真夏の管理釣り場。その動きはエサを打つほどに激しさを増し、やがて背ビレをだすほどに寄りのピークを迎えると、まるで沸騰したお湯のよう沸々と湧き上がり、容赦なくエサを叩き落とそうとハシャギ回る。へら鮒釣りはたくさん寄せれば釣れるというものではなく、むしろ過度な寄り過ぎは忌み嫌われる。夏は両ダンゴ釣りのハイシーズンであるが、こうした状況ゆえの難しさにさじを投げるアングラーも少なくないなか、難時合いをものともせずに驚くほどやわらかいソフトタッチのダンゴエサで釣り抜くアングラーこそ、マルキユーインストラクター綿貫正義だ。夏場の管理釣り場では無理なストレスを避け浅ダナ両ダンゴ釣りを選択することが多いという綿貫だが、今回はさらにハードルを上げさせてもらい、初めてチョーチン両ダンゴ釣りにチャレンジするという千葉県旭市の長熊釣堀センターで珠玉の釣技を披露してもらった。予想どおりというか1投目からウキが動き、エサ打ち数投でアタリがではじめると、黒々としたへら鮒の群れが早くもエサの着水地点で激しい動きをみせ始めた。果たして綿貫流極ヤワダンゴエサの運命やいかに。
主役は「BBフラッシュ」、脇役は「GTS」。個性的なブレンドでストレスフリーにタナに送り込む
「自分のダンゴエサは他のアングラーに比べてやわらかいことは承知しています。そんな私のエサの軸はあくまで『カクシン』と『コウテン』ですが、役割的には主役は『BBフラッシュ』であり、脇役は『GTS』だと思っています。それほどこのふたつのエサには思い入れがあり、私にとって無くてはならないエサであることは間違いありません。」
そう言いながら仕上がったばかりのエサのタッチを確かめる綿貫。ブレンドは後述するが、目を引くのは「BBフラッシュ」が多めに加えられた個性的なエサ使い。これが彼の定番ブレンドであり、浅ダナ及び短ザオでのチョーチン両ダンゴ釣りは終始一貫このエサで通しているという。ほとんど練りを加えられていないその基エサはわずかにボソッ気を残す程度で、シットリした感触が際立つまとまりの良いタッチに仕上げられていた。これを両バリ共に直径20mmとやや大きめの水滴型にエサ付けして打ち込むと、なんと1投目からナジミきったウキに動きが見られたが、ここではアタリを待つことなくすぐに打ち返す。もちろんタナに寄せることを最優先に考えた早めの打ち返しであるが、改めて長熊釣堀センターの魚影の濃さと活性の高さに驚くと同時に、すぐさま寄り過ぎ・ウワズリに対する警戒態勢に入ったことはいうまでもない。2投目以降は寄せを意識しながらもより丁寧なエサ付けに変わっていたが、その数投後に早くもファーストヒットを決めるといきなり4~5枚を釣り込んでみせた綿貫。しかしエサの着水地点に群がるへら鮒の数が徐々に増え始め、予想どおりにエサ持ちが悪くなると突如アタリを喪失。打開策として手始めに軽く練りを加えた基エサをさらに丁寧にエサ付けして打ち込むと、今までよりも激しいウケに見舞われ、ウキはまったくナジまず、人為的に加えられたネバリは悪手として綿貫の頭にインプットされた。
「当初は様子が分からなかったのでとりあえず基本のパイプトップウキで入りましたが、練らずにエサを持たせてタナに送り込んだ方が良さそうですので、始めてまだいくらも時間が経っていませんがここでグラスムクトップウキに交換させてください。」
既にオモリ調整が済まされていたウキの交換をものの数分で完了させると、パイプトップウキではナジませることができなかった基エサをストレスフリーで難なくタナまで送り込む。すると直後にアタリが復活し、再び順調にカウントを重ねる綿貫。結果を先に述べてしまうと今回のタニーングポイントはまさにこの早いタイミングでのウキ交換であったわけだが、ウキが決まると自ずと釣りの組み立ての軸が決まる。開始から1時間経った時点のハリス調整(上下5cmずつ詰めた)だけでタックルがほぼ整うと、あとはエサのタッチ調整に集中するだけでハシャぐ真夏のへら鮒を完全制圧。こうしたシンプルかつ効果的な対処方こそ綿貫正義の真骨頂なのだ!
使用タックル
●サオ
シマノ普天元「独歩」8尺
●ミチイト
ルック&ダクロン「ナポレオン」1.2号
●ハリス
ルック&ダクロン「ヘラヘキロン」0.6号
上=30cm→25cm、下=40cm→35cm
●ハリ
上下=ハヤブサ鬼掛「極ヤラズ」7号
●ウキ
①弥介「足長パイプⅡ(ツチノコ)」七番
【1.2-0.8mm径テーパーパイプトップ17.0cm/7.0mm径カヤボディ8.0cm/1.0mm径カーボン足8.0cm/オモリ負荷量≒1.85g/エサ落ち目盛りは7目盛り中3目盛りだし】
②弥介「チョーチンムク」十二番
【1.0-0.6mm径テーパーグラスムクトップ23.0cm/6.8mm径カヤボディ12.0cm/1.0mm径カーボン足6.0cm/オモリ負荷量≒2.15g/エサ落ち目盛りは13目盛り中7目盛りだし】
取材時のベストブレンドパターン【綿貫定番ブレンド】
「カクシン」400cc+「コウテン」200cc+「BBフラッシュ」400cc+水300cc(全体に水がゆきわたる程度にかき混ぜたら2~3分放置して吸水を待つ)+「GTS」200cc
五指を熊手状に開き、ザックリかき混ぜたら一旦手を休め放置。粗めの麩が吸水しタッチが安定したら基エサの完成だが、既にお気づきの読者諸兄も居られるだろうが、チョーチンとはいえ両ダンゴ釣り1ボウルの量としてはかなり多めである。しかし、この量は最初の1ボウルだけのものであり、理由はその日のエサの傾向を探るために必要な量であると同時に、これでイケると判断した後は残り半分になったところで上記の半分の量で新たな基エサを作り、経時変化による自然のネバリが生じた先の基エサと合体させて使い続けるためだ。このエサ使いは綿貫流チョーチン両ダンゴ釣りのキモにもなっているので後に詳述しよう。
綿貫流チョーチン両ダンゴ釣りのキモ その一:夏べらの激しいアタックにも耐えうるエサと、それを支えるグラスムクトップウキ
チョーチン両ダンゴ釣りで真夏の管理釣り場を攻略するために最も重要なのがエサの持たせ方であり、過度なネバリや硬さで強引にタナにねじ込んでみても、結局はスルーされるかカラツンで終わってしまうのが関の山だ。
「食い頃のタッチのエサをいかにタナに送り込めるかが、現代チョーチン両ダンゴ釣りの生命線であり、私のダンゴエサのブレンドもそこを目指して試行錯誤のうえ辿り着いたものなのです。結果として『BBフラッシュ』が多くなったことで個性的なブレンドと思われるかもしれませんが、比較的サラッとした手触りにも関わらずしっかり持つこのエサのタッチが私の手には合っているようで、今ではこのエサなしでは私の両ダンゴ釣りは成り立ちません。」
現代両ダンゴ釣りのエサはヤワネバ系が主流であることに異論はあるまい。やわらかく、そしてまとまるタッチが得られる麩材は数多く存在するが、比較的短めの竿でのチョーチン釣りでは過度のネバリが生じない「BBフラッシュ」は欠かせないと綿貫。さらに、
「人よりもやわらかいタッチのエサを使う私にとって、確実にエサをタナに送り込むためにグラスムクトップウキは欠かせません。今回打ち始めにパイプトップを使ったのは直近の状況が分からず様子見的な意味合いが含まれていたためであり、もし硬めのエサが良いときはそのままパイプトップウキでエサを削らせながらタナにねじ込むアプローチが決まったと思います。しかし予想どおり、硬くてバラケにくいエサでは上層でのウケやトメが激しくなったため、適度なバラケ性を持ったやわらかめのエサが良いと分かった時点で、エサをタナに送り込みやすいグラスムクトップウキに替えたのは正解でした。」
綿貫が愛用している弥介「チョーチンムク」には細めのテーパーグラスムクトップが搭載されているが、こうしたタイプのウキは比重の大きな硬いエサでは早くナジミ過ぎてしまい、落下途中でのアピール力を発揮できないことが多いが、綿貫オリジナルブレンドのやわらかく軽めのエサとのコラボレーションによる相乗効果により、より大きな力となって彼の釣りを支えていることはこの日の釣りを見れば明らかだ。
綿貫流チョーチン両ダンゴ釣りのキモ その二:時間が生みだす自然なネバリ 忌み嫌われる経時変化を逆手に取ったエサ使い
とかくへらアングラーには忌み嫌われがちな経時変化によるネバリ。しかし綿貫はこの嫌われモノの経時変化を排除するどころか、逆に味方につけて生かしきるエサ使いをみせてくれた。
「行き過ぎた意図しないネバリはいただけませんが、適度な経時変化は安定した時合いを構築するためにはむしろウェルカム。そのためには作りたてのエサや、逆に作ってから時間が経ち過ぎたエサを使うことは避け、常に一定レベルの経時変化によるネバリを維持することが肝心です。私はボウルのエサが残り半分程度になったところでできたばかりの基エサを合体させて使うことを習慣としています。最初に多めに基エサを作る目的を『探りを入れるため』と言いましたが、実はもうひとつ目的があって、それが経時変化によるネバリ(まとまり感)を保つためなのです。」
ネバリは使用する麩材(の特性)や基エサを意図的に練ることで得られるが、こうしたネバリは時に強過ぎてへら鮒に嫌われたり、気温や水温が高い夏場にはエサの消費が変化に追いつかなくなったりする恐れがある。また練ったエサは麩材の特性を少なからず犠牲にしてしまうので、常に安定した性能を発揮するためには時間が生みだす経時変化によるネバリ(まとまり感)を最大限利用するのが得策だと綿貫は言う。綿貫のエサ作りを振り返ると、最初の1ボウル分を麩材の総量1,200ccで作った後は、この基エサが半分になりかけたところであらかじめ準備していた総量600cc(麩材のブレンド比率は同じもの)の麩材に水(これも半分の量の150cc)を注いで新たな基エサを仕上げ、吸水が済んでタッチが安定した時点で先の残りの基エサに加えて合体させていた。そのまま使い続けると過度なネバリが生じる直前にエサをリフレッシュさせ、常に適度な経時変化によるまとまり感でエサを持たせることを実践していたのである。
「近年の夏場の暑さは尋常ではなく、想定よりも早く経時変化が進む傾向がみられます。そんなときには少量の手水で一旦戻し『GTS』を適宜絡めればOK。過度なネバリが緩和され、バラケた粒子にへら鮒を惹きつけている隙に、エサの芯をタナに送り込むことができるようになります。」
綿貫流チョーチン両ダンゴ釣りのキモ その三:狙いは一択!安定時合いに欠かせない、深い位置でのしっかりした食いアタリ
エサ&タックルとトータルバランスが完璧に整っても、肝心要のアタリの取り方を誤ってしまうとこの釣りは成り立たない。ヒット率もさることながら安定して釣り続かせるためにはアタリの取り方を含め、エサ付けから打ち込みまでのすべての動作を丁寧に行うことが肝心だと綿貫は言う。事実エサを持たせるためには様々な要素が複雑に絡み合い、それぞれの役割を100%果たさなければ達成できないことも多くのアングラーの知るところだ。しかし意外な盲点も潜んでいることもまた事実であり、その最たるものが振り込みを含めたエサ打ちだろう。たった1投のラフなエサ打ちにより着水地点に群がるへら鮒を刺激してしまうと、それまで持ち堪えていたエサ持ちが途端に悪くなり、折角築きあげた時合いを一瞬で崩壊させてしまう。この日の実釣でも「あわや!」という局面がしばしば見られたが、綿貫はその都度、より丁寧なエサ付け&打ち込みで凌ぎ続けた。
「エサ打ちに丁寧過ぎるということはないので、エサ持ちで悩んでいる方はできるだけ静かにソフトランディングさせるように着水させることを心がけてみてください。くれぐれもチャポンと大きな音がするようなエサ打ちは厳禁です。また安定して釣れ続いている人のアタリは誰が見ても〝納得〟の良いアタリをだしています。アタリがでるのが早かったり遅かったり、また大きかったり小さかったりと不規則なものでは決して釣れ続きません。アタリを安定させるためには、まずはアングラー自身がアタリを選別することが重要です。それもできるだけウキが深くナジんだところででるものだけに狙いを絞ることが望ましく、そのためには何より食い頃のエサがそこまで持ち堪えることが肝心なのです。」
エサのブレンドは言うまでもなく、グラスムクトップのウキを軸としたタックルセッティングを含め、そのベクトルはすべてこのターゲットに向かい一点の迷いも曇りもない。序盤は不安定だったエサ持ちも「GTS」を用いた綿貫の巧みな調整により徐々に安定してくると、同じくバラツキの目立った食いアタリもエサ落ち目盛りを過ぎてからの深い位置に集中。最後は〝お約束〟のダブルヒットで締め括ってみせた。
記者の目:無理も力みもない綿貫流チョーチン両ダンゴ釣り 鉄板でもあり個性的でもあり!
麩材が持つ特性やタックル個々のポテンシャルを余すことなく引きだす綿貫流チョーチン両ダンゴ釣り。釣技最前線では初のお披露目となったが、今日まで紹介が遅れたことを改めてお詫びしなければなるまい。その理由は今回目の当たりにした釣技が決してハイレベルでも特殊性の高いものでもなく、また綿貫自身無理も力みもないことからビギナーはもとより中・上級者まで多くのアングラーの手本となるべきものと感じたからだ。近年のチョーチン両ダンゴ釣りはやわらかいエサが持たないことが多く、持たせようとして強引にネバリや硬さに頼ろうとするとへら鮒に嫌われて見向きもされなくなることが少なくない。そうした難しさゆえにへらアングラーから敬遠されがちで、かつての夏の定番釣法も見る影もないといった現状は実に憂うべき状況であろう。しかし一見すると鉄板でありながら随所に個性的な面が散りばめられた綿貫の釣りは、難易度の高い真夏のチョーチン両ダンゴ釣りのハードルを下げ、再びハイシーズンを牽引する釣りとなる可能性を大いに秘めていると断言しよう。