稲村順一が徹底レポート「釣技最前線」第135回 「都祭義晃の浅ダナ両ダンゴ釣り」
梅雨前線による集中豪雨に見舞われたかと思うと、一転真夏のような猛暑日が続く近年の異常気象。へら鮒釣りも少なからずそうした気候の変化に左右されることが多いが、とりわけ頭を悩ませるのが夏の浅ダナ両ダンゴ釣りのエサ合わせであろう。ようやく釣れ始めたかと思う間もなく突如アタリが途切れたり、釣れる気配がまったくみられない状況からいきなりアタリがではじめて入れ食いになったり。なにより難しいのはコンスタントにアタリが続かず、正解(とはもはやいえないかもしれないが…)といえるような好時合いが続く状況が維持できないことだ。以前は一定のパターンを探り当てられればある程度長い時間釣り続けることができたが、近年そうした釣り込める時間帯が極端に少なくなり、大抵は短い周期で目まぐるしく変化する時合いに翻弄され、拾い釣りを余儀なくされるケースがほとんどであろう。今回の釣技最前線では、そんな高難度の夏の浅ダナ両ダンゴ釣りにひと筋の光明を示すべく名乗りを上げてくれたマルキユーインストラクター都祭義晃の「足し算引き算方式」のエサ合わせのプロセスを紹介。その極めてロジカルでクレバーな組み立て方は、エサのブレンドや扱い方、さらにはタックルアジャスティングに至るまで行き届き、夏の浅ダナ両ダンゴ釣りの〝解答〟をズバリ示してくれた!
難解にみえるエサ合わせの方程式も「都祭流足し算/引き算方式」でズバリ解答!
夏の釣りの主役といえば、もちろん両ダンゴ。とりわけ管理釣り場における規定1mを攻撃的に狙い撃つ浅ダナ両ダンゴ釣りは、競技の釣りにおける突出した釣果を得る力はもちろんのこと、たとえ食い渋った状況下においても、そのバリエーション豊かなアプローチとエサ合わせによってへら鮒釣りらしい妙なる釣趣を生みだす。
「へら鮒の活性がピークに達する夏の管理釣り場において結果(釣果)を求めるのであれば、浅ダナ両ダンゴの釣りは絶対に外すことはできません。実績的にも決まれば大釣りが期待できることが一番の理由ですが、競技をはなれたシーンでもへら鮒釣りの真髄といわれるエサ合わせのプロセスが楽しめることが自分的には大きいかもしれません。一方でいつまでもエサが決まらず堂々巡りで終わってしまうアングラーが多いことも承知していますので、今日はできるだけシンプルに、そして効果的に正解へと辿り着ける組み立て方を紹介しましょう。」
茨城県筑西市にある筑波湖の3号桟橋に歩を進めた都祭は、桟橋中程でバッグを降ろすと浅ダナ両ダンゴの釣り支度を手早く調え、淡々とエサ打ちを始めた。そして近年の浅ダナ両ダンゴ釣りの傾向や釣り方のコツに対する記者の質問に対し、
「以前のようにエサのタッチを合わせるだけでは釣りきれなくなっており、タックルを含めたトータルバランスを高い精度でマッチさせる必要があります。とはいえ、釣果を左右する要因としてエサが占めるウェイトは今でも大きく、多くのアングラーの迷いの根源にもなっています。今日は両ダンゴの釣りのエサ合わせのプロセスを分かりやすく見ていただくために、普段よりも意識的にメリハリのあるエサ使いを心がけていきますのでしっかり取材してくださいね。」
と力強く宣言すると、間もなく動き始めたウキの動きを的確に捉え、スローペースながらヒットを重ねていく都祭。そしてウキの動きの変化に合わせて随時エサのブレンドを加減しながら、決して絶好調とはいえない時合いのなか、タイムリーなタックル調整や変幻自在にアタリを取るタイミングを変えるなどのテクニックを織りまぜ、見事〝正解〟を導きだした!
使用タックル
●サオ
がまかつ「がまへら我楽」9尺
●ミチイト
サンヨーナイロン「バルカンイエローへら道糸」1.0号
●ハリス
サンヨーナイロン「クレバー」0.5号
上=25cm~40cm、下=35cm~50cm
●ハリ
上下=がまかつ「リフト」6⇔5号
●ウキ
水幸作「H/Tロクゴー」五号
【1.4mm径テーパーパイプトップ10.0cm/6.5mm径二枚合わせ羽根ボディ7.0cm/1.0mm径カーボン足5.0cm/オモリ負荷量≒1.0g/エサ落ち目盛りは全8目盛り中6目盛りだし】
取材時使用エサ
①基準となるベースブレンド
「カクシン」200cc+「バラケマッハ」200cc+「浅ダナ一本」200cc+「カルネバ」200cc+水200cc
4種の麩材をエサボウルに取ったら水を注ぎ込んでザックリとかき混ぜ、完全に吸水が完了するまで数分間放置する。小型の雑魚が多い釣り場ではそのまま使い始めるとエサ持ちが悪いときがあるので、そうしたケースでは小分けしたものに軽く練りを加えてから打ち始める。エサ付けは軽くまとめただけでチモトを強く押えない歪型(ラフ付け)と、しっかり揉み込んでからチモトを指先でクルクルと抑えた水滴型(丁寧付け)の、主に2タイプを使い分ける。
②最終的に導きだした当日の正解ブレンド
「カクシン」400cc+「バラケマッハ」200cc+「浅ダナ一本」200cc+「カルネバ」100cc+水220cc
数度のブレンド変更を経て導きだした当日の正解パターンがこのブレンド。いうまでもないがこの答えが絶対というわけではなく、これが今シーズンのスタンダードかといえば決してそのようなこともないと都祭は言う。あくまで基本のプロセスを踏んだ結果、取材当日の筑波湖のへら鮒に気に入られたというだけの結果であり、日が変わり場所も変われば正解もまた変わることをご承知おき願いたい。
都祭流浅ダナ両ダンゴ釣りのキモ その一:両ダンゴの釣りは「エサ持たせゲーム」!? ウケる(興味を抱く)エサを持たせることを意識せよ!
「基本的な話ですが、両ダンゴの釣りはタナの浅い深いに関わらず、エサを持たせてナンボのいわばエサ持たせゲームなのです。もちろん、ただ単に持たせれば釣れるかといえばそうではなく、エサを打ち込んでウキが立ち上がった直後にウケるエサを、へら鮒が口にするまで持たせることが肝心なのです。ウケるということはへら鮒がそのエサに対して興味を抱いてアタックしている証拠であり、気に入らないとスルーされたり、すんなりナジミきったりしてしまいます。極論すればウケないエサはタナに入ってもアタらないか、アタったとしてもカラツンになる確率が高くなります。ウケさせるためにはタックルセッティングも重要ですが、最終的にエサを口に入れさせるためには何よりエサのブレンドとタッチが決め手になることはいうまでもありません。」
取材が始まってすぐに都祭の口をついてでたこの言葉に記者は共感を抱いた。確かにこうした考え方はエサをハリから抜いたり持たせたりするセット釣りには見られない、両ダンゴの釣りならではの考え方であろう。とかくエサを持たせるというとネバリや硬さを強化して毎投ウキを深くナジませようとしがちだが、都祭がいうところの〝持たせる〟とは、いうまでもなく食うタイミングで食い頃のサイズ・タッチになる絶妙の持たせ具合と解釈しなければなるまい。
「麩エサの性能は以前に比べると格段に進歩しています。最も優れた点は加える麩材の種類と分量、そしてそれに加える水量によって自分が意図する性能を発揮してくれるエサが簡単に作れることでしょう。わずか100cc加減するだけでかなり特性の異なるエサに変わるので、普段から何をどのくらい加減すればどの程度タッチが変わり、水中での開き具合や持ち具合にどのような変化が生じるのかを確認しておくことも必要でしょう。」
さらに理想のウケをだすためにはタックルセッティングも疎かにしてはいけないと都祭は言う。上層でへら鮒にエサをトメさせたりウケさせたりするにはウキを小さくしたりハリスを長くしたりといった対応が有効と思われがちだが、へら鮒のコンディション如何によっては必ずしもそうではなく、エサが合っていれば大きめのウキに短バリスといった、かなり強めのセッティングでウケることも少なくないようだ。実際、最短で上25cm/下35cmというハリスセッティング時にも明確なウケが現われ、そこからの戻しアタリやナジミ際からの消し込みアタリで釣り込んだシーンには、トータルバランスの重要性を改めて感じさせられた。
都祭流浅ダナ両ダンゴ釣りのキモ その二:エサ合わせの方程式を解くカギはシンプルな+/-(足し算/引き算)
以前都祭に浅ダナヒゲトロセット釣りの取材をさせて頂いた際、当時の両ダンゴのエサ使いはヤワネバタッチのエサが主流だと言っていたことを記憶しているが、その傾向は今も変わらず続いているのか訊いてみた。
「確かにそうした傾向は続いていますが、単にヤワネバ一辺倒というわけではなく、ヤワネバのなかでもブレンドによるタッチの変化によってへら鮒の反応が大きく変わることがあります。そうしたところにも現代両ダンゴ釣りの難しさがあるのではないでしょうか。だからこそ正解を導きだすためには常にウキの動きを注視しながら、いま、へら鮒がどんなエサを求めているのかを正しく読み解き、エサ合わせに生かしていくことが肝心なのです。その際カギとなるのがシンプルなブレンド変更、すなわち使用している麩材の種類や量の+/-(足し算/引き算)によるエサ合わせなのです。」
この日、都祭は彼が基準としているブレンドパターンからスタートし、概ね1ボウルのエサを使いきる毎にブレンドに調整を実施。当日の〝正解〟を探り当てるまでに、なんと6回もの変更を試みる結果となったことはお伝えしておかなければなるまい。それだけ当日は、へら鮒の口が肥えた難時合いであったことの証であり、彼自身が苦労した結果であることはいうまでもないが、逆の見方をすれば、常にこうしたプロセスを辿りながら釣りを組み立てる習慣づけがあるからこそ、たとえ遠回りになったとしてもへら鮒が求めるエサを導きだし、正解に辿り着くことができたのだといえるだろう。
「今日はへら鮒のコンディションが不安定だったためか、いつもよりも多く、倍近いステップを踏んでしまいました。しかし、普段通りの比較的安定した時合いであれば多少食いが渋くても2~3回のブレンド調整で正解に近いところまで辿り着くことは可能です。肝心なことは、いま何が不足し、何が多過ぎるかを正確に読み解くことで、基エサをベースに手水や押し練りといった微調整でその方向性を探り、ある程度絞り込めた時点でブレンドから見直すというのが正しいエサ合わせの方法なのです。」
とはいえ、やはり難しいのはどんな状態になったら何をどのくらい加減すればいいのかというところであろう。当日の都祭の釣りを振り返ってエサ合わせのプロセスをまとめてみると、概ね以下のとおりとなるので参考にしていただきたい。
●基準となるベースブレンドで始め、トメ/モドシの早いアタリが少なくウキがナジミきる投も多いことから、その要因をエサの持ち過ぎと判断し「カルネバ」を200ccから100ccに減らす【引き算】
●上記ブレンドにした際、水量を変えなかったため、やわらかめに仕上がったことでエサ持ちがやや心許なくなったことから、基エサに「カルネバ」を少量追い足すことも【足し算】
●へら鮒の寄りが増したことでエサが持たない投が増えたため、持たせようとして練りを加えたり、エサ付けに気を配ったりするなど、多少のストレスを感じたことから持たせる力をパワーアップするために「カクシン」を300ccに増量【足し算】
●へら鮒の寄りが増してもウキの動きにやや乏しさを感じたことから「バラケマッハ」を「コウテン」に入れ替え、やや粗めの麩材でへら鮒の摂餌を刺激する【足し算/引き算】
●仕上がった時点では良いウキの動きをみせていたが、時間と共にネバリが増してきて持ち過ぎ感が現われたことから「カルネバ」100ccを抜き、その分「カクシン」を300ccに増量することで適度なエサ持ち力をキープ【引き算/足し算】
●午後になり、予報通りの南風で水面がさざ波立つとへら鮒の活性が高まり、必要以上に水面直下のへら鮒がハシャギ始めたことから「コウテン」を「バラケマッハ」に戻し、一旦スタート時の基本ブレンドに立ち返る【足し算/引き算】
●これまでの流れのなかから、エサ持ち力の軸を「カクシン」に置き、その不足分を「カルネバ」にサポートさせるブレンドが適していると判断した都祭は、ここでようやく最終的に導きだした前述の正解ブレンドに辿り着いた【足し算/引き算】
都祭流浅ダナ両ダンゴ釣りのキモ その三:戻しアタリに消し込みアタリ。変幻自在なアワセで一気呵成に釣り込む!
持たせたエサをタナに送り込んだ直後にでるズバッと消し込む豪快なアタリ。そんな明確なアタリばかりで釣れ続けばエサ合わせの難しさを感じている暇もないだろうが、現実にはそんな夢のようなアタリばかりが続くことはあり得ない。以前はある程度我慢して打ち続けていれば次第に良型のへら鮒が狙いのタナに溜まり、パターン化された明確な縦方向のアタリで釣り込めたものだが、管理釣り場のへら鮒の大型化がピークに達した現在、口数が減り、エサ慣れした手強いへら鮒が増えたことで、かつてのような時合いが成立しにくい状況になっている。そうした釣り難しい状況下においては、理想的なアタリを追い求めるだけでは釣りきれなくなっていることは火を見るよりも明らかだ。
「大会によってはアタリに関するレギュレーションが設けられていますが、プライベートはもちろんのこと、そうした縛りがない競技会や大会では、食ったと思えるアタリは積極的にアワセにいっています。理想としては5回アタリがでて釣れたなかで1~2回がトメやモドシのアタリであればかなりの釣果が期待できるでしょう。とはいえ、ある程度釣り込んだ人でないとトメやモドシのアタリは手がでにくいと思いますのでぜひ動画を参考にして頂きたいと思います。」
トメやモドシのアタリも下方向に力強く入るアタリと同様に、自信を持ってアワせてもヒットしないものも少なくない。ツンと入るアタリではないので〝カラツン〟とは表現できないが、あえていうならばカラモドシ(空戻し)とでもいえようか。序盤戦は都祭自身も空振ることが少なくなかったが、エサ合わせが徐々に煮詰まり、その完成度が高まるにつれて戻しアタリのヒット率も次第に高まって来るのが、記者の目には興味深く映った。
「両ダンゴはエサ持たせゲームだと言いましたが、要はへら鮒が食うまでハリに残っていれば良いわけで、無理にナジませる必要はありません。エサを食うタイミングは状況によって早くなったり遅くなったりします。そのうち早いタイミングのアタリがトメやモドシのアタリであり、これを見逃すことは実に勿体ないことだと思います。」
動画を見れば一目瞭然だが、ウキが立ち上がった直後にウケたからといって、またナジミかけたトップが戻してボディの上部が水面上にでたからといって、何でもかんでもアワせているわけではない。頻繁にそうした動きがでているなかでも都祭は冷静に食いアタリを見極め、必要であればナジミに入るまで静観することもしばしば見られ、エサ合わせが完了した時点では戻しアタリでヒット、次投は消し込みアタリで連チャンと、まさに変幻自在のアワセでこの日の釣りを締め括ってみせた。
記者の目:エサ合わせの基本を分かりやすく表現した〝都祭流足し算/引き算方式〟
両ダンゴの釣りはへら鮒釣りの基本といわれるが、そこで求められる必須テクニックであるエサ合わせには一筋縄ではいかない難しさがある。しかし近年その性能を飛躍的に高めた麩エサをもってすれば、流行のブレンドやタッチのエサに仕上げるだけでそれなりに釣ることは可能だ。従ってエサ合わせで悩むということは、より高みを目指しているアングラーのいわば宿命のようなものであり、今回都祭が示してくれた〝足し算/引き算〟を用いたエサ合わせのプロセスは、難解といわれるエサ合わせを簡素化・明確化するための大いなる手助けとなるだろう。かくいう記者も彼と同じく両ダンゴ釣りファンのひとりであり、いまだにエサ合わせに悩める当事者であるため、今回の取材は個人的にも極めて興味深く臨むことができた。そして得た結論は「都祭流〝足し算/引き算方式〟を用いればエサ合わせは決して難しくない!むしろプロセスさえ誤らなければ面白いものであり、へら鮒釣りをより広く深く楽しむためには必要不可欠な重要なピースである!」と断言しよう。インストラクターとして魅せる釣り、教える(理解させる)釣りに益々磨きがかかる都祭義晃。これからも難しいといわれるへら鮒釣りをより易しく、より楽しく伝えていってくれることを期待したい。