稲村順一が徹底レポート「釣技最前線」第134回 「岡田 清のカッツケウドンセット釣り」
過日行われた某メジャートーナメント予選。残念ながらファイナル進出とはいかなかったものの、その戦いのなかで今シーズンのセット釣りのキモというべきヒントをつかんだというマルキユーインストラクター岡田 清。いつもならばトーナメントの覇者にその釣りを再現してもらうことが多い釣技最前線だが、今回はより多くのへらアングラーの参考になればと、予選敗退の傷心を癒やす間も与えずにこの男に白羽の矢を立てた。釣技披露のステージはもちろん予選の会場となった武蔵の池。当然ながらプラクティスでも幾度となく通った釣り場だが、責任感の強いこの男は「取材のために」とさらなる下調べに通い万全の態勢(?)で取材に臨んだ。しかし難攻不落として知られた武蔵の池のへら鮒たちが百戦錬磨のトーメントモンスター岡田 清を苦しめる。負けても負けても決して消えることのない負けじ魂を持つ岡田のメンタルとテクニックは、果たして武蔵の池の大型べらの口を開かせることはできたのであろうか?
強い釣りでなければ勝てないトーナメント。だからこそギリギリを攻めたい!
「もう過去の栄光は忘れました。でも決して競技の釣りを諦めたわけではなく、いまでも一生懸命もがき苦しみながらトーナメントに参戦し続けています。目標はトーナメント優勝最高齢記録更新ですので、引退はまだまだ先の話ですね(笑)。」
先釣者の邪魔にならないようにと事務所から最も遠い南桟橋29番に釣り座を構えると、過日行われたトーナメント予選と同じ直結仕掛けのハリスカッツケ釣りの準備を進めながら口を開いた岡田。今回は幾度となく繰り返されたプラクティスの結果、この釣り方が最も釣れると判断し選択したわけだが、単に釣れるというだけでは勝つことは難しいと岡田は言う。
「たとえ意識はしていなくても様々なプレッシャーがつきまとうので、できるだけ強く簡単に釣れる釣り方を探り当て、さらにそれを練り上げて誰も真似できないような高みまでブラッシュアップさせないとトーナメントでは勝つことはできません。自分は同じ釣り方同士で競り合いながら僅差で勝つよりも自分らしい強い釣りで、しかもブッチギリで勝つことを理想としています。とはいえ、なかなか思うようにはいかないのが現実です(苦笑)。」
今回は事前プラクティスを複数回重ね、最も釣れる釣り方として導きだした答えが表層をダイレクトに攻めるハリスカッツケ釣りであったわけだが、多くの参加者がややタナをとったセミカッツケ釣りであったのに対し、遊びをまったく取らない直結仕掛けでのハリスカッツケ釣りを選択したのにはこうした岡田流のこだわりが隠されていたのだ。実際のところプラクティスの結果、半端ダナでは今の自分には半端な釣果しか得られないと感じた岡田は、勝つならギリギリを攻めなければ勝てないと思いやってみたところ、十分な手応えを感じることができたと言う。
「特に今回の予選はタナとバラケがキモだったと思います。プラクティスではあまり釣れなかったのですが予選当日は想定していたよりもウキが動き、自分なりにも『これは釣れるぞ』と思ったのもつかの間、極端に低いヒット率に悩まされて撃沈してしまいました(苦笑)。今日はそのときの反省を含めて取材に臨みたいと思います。」
サンデーアングラーの岡田のプラクティスは当然ながら釣り人が多い日曜日が中心で、トーナメント本番ではさらにへら鮒へのプレッシャーが高まるため、プラクティスよりも弱めのセッティングで臨むことが多いと言う。ちなみに取材当日はウィークデーながら釣り人は多かったが、岡田の周囲には数名しかおらず、ほぼ空いた平日といった状態であったためやや強めのセッティングで始めたが、これが大誤算。前日まで続いた降雨が響いたのか釣り場全体で竿の立ちが悪く、岡田自身もどんよりとした重苦しい展開に、反省のうえに反省しなければならない状況に陥ってしまった。しかしそこは百戦錬磨のトーナメントモンスター、ウキのサイズダウンと的確なバラケ選択によって釣況を好転させると、最後は納得(?)のコメントも飛びだして、ひとりきりで臨んだ〝仮想トーナメント〟を見事勝ち抜いてみせた。
使用タックル
●サオ
シマノ「普天元 獅子吼」7尺
●ミチイト
オーナーザイト「ヘラ専用白の道糸」0.8号
●ハリス
オーナーザイトSABAKIへらハリス
上=0.6号- 8cm、下=0.5号-35cm
●ハリ
オーナー「バラサ」上=5号、下=2号
●ウキ
本多作 カッツケ用プロトタイプ
①【パイプトップ仕様/ボディ4.0cm/オモリ負荷量≒0.3g】②【パイプトップ仕様/ボディ3.5cm/オモリ負荷量≒0.25g】※エサ落ち目盛りは全6目盛り中3目盛りだし
取材時使用エサ
●バラケエサ① 「粒戦」の入った粒状ブレンド
「粒戦」100cc+「浅ダナ一本」50cc+「セットガン」100cc+水150cc(吸水のため5分程度放置、より強いボソ感が良いときは長めに放置後)
+「GTS」100cc+「バラケマッハ」100cc
五指を熊手状に開いてよくかき混ぜ、全体にまんべんなく水分を行き渡らせる。使用する際はひとつかみ別ボウルに取り分け、主に手水調整のみでタッチを合わせる。
●バラケエサ② 「粒戦」の入らない麩系ブレンド
「バラケマッハ」300cc+「凄麩」100cc+「浅ダナ一本」100cc(軽くかき混ぜてから)+水100cc
かき混ぜ方ならびに調整方法は前述同様。この日は明らかなダンゴタッチでは寄りがキープできずアタリがでにくかったため、ボソを残したしっとりヤワボソタッチで攻め続けた。
●くわせエサ
「感嘆」10cc+水10cc
盛期においてへら鮒以外の雑魚が動くようになると、ときとして「さなぎ粉」を入れた「感嘆」はターゲットになりやすくなるため、ウキの動きが複雑になることを避けるためには混ざり物のないプレーンな「感嘆」が適しているという。
岡田流カッツケウドンセット釣りのキモ その一:狙うはギリギリ激狭シャローレンジ。リスクを恐れず果敢に攻めろ!
何事にも〝ギリギリ〟はリスクを伴うが、他人に真似のできないこと(勝つこと)をやり遂げるためには、その領域は決して避けては通れないと岡田は力説する。
「釣り場によっても、もちろん季節によっても勝つための釣り方は異なります。今回は事前情報や仲間達から得た情報を元に竿をだしてみたところ、自分なりに勝てると感じたのはカッツケウドンセット釣りでした。とはいえ、カッツケ釣りにもバリエーションがあり、タナひとつとってもハリスカッツケから50~60cmタナをとったセミカッツケまで様々ですが、私が勝つためには水面直下ギリギリのシャローレンジがベストであると、これまでの経験と試釣の結果から確信することができたのです。」
実際に予選を勝ち上がったアングラーの多くは、セット釣りの定番「粒戦」をブレンドした粒状バラケを用いてのややタナをとったカッツケウドンセット釣りであったが、これはギリギリ表層を「粒戦」を用いない麩系バラケで臨んだ岡田とはある意味真逆のアプローチとなる。果たして彼の選択に誤りはなかったのであろうか?
「これは決して選択の誤りではありません。いまの私にはタナをとった粒状バラケのセット釣りで勝てるだけのテクニックがないと自覚しているので、形だけ真似してみても勝負になるはずがないじゃないですか。逆の見方をすれば、私が選択したアプローチは他のアングラーにとって自信を持って臨めない釣り方なのでしょう。実際、同じ攻め方をしていた参加者が周りにいなかったので比較はできませんが、一時的にも釣りが決まったときには『やっぱり俺、イケるじゃん!』って思いましたからね(笑)。」
リスクといえば、ヒットした瞬間にへら鮒が激しい抗いをみせるカッツケ釣りにはハリス切れやラインブレイク、さらにはウキの破損やロストといったリスクが常につきまとう。セット釣りとはいえ一瞬で勝負が決まる盛期の釣り方なので、どんなに静かでソフトなアワセをもってしても、瞬時に沖走りしたり激しく暴れたりするへら鮒によるタックルへの負担は大きく、ましてやタックルの繊細さが欠かせないカッツケ釣りで、しかも良型が多い武蔵の池とあってはその負荷は計り知れないものとなる。取材時もハリス切れは数知れず、トップが曲がったり折れたりするアクシデントに幾度となく見舞われたが、岡田はこうした展開になることをあらかじめ想定していたのか、この日のために同じサイズのプロトタイプのウキを複数用意し、不意に起こるアクシデントにも顔色ひとつ変えず淡々と対処しながら滞りなく取材を進めていった。まさに〝備えあれば憂いなし〟というわけだ。
岡田流カッツケウドンセット釣りのキモ その二:微粒子ベースの麩系バラケで超接近戦の舞台を演出?!
この日岡田は対極的ともいえる特性の異なるふたつのバラケを使い分け、その違いを明確に見せてくれた。スタート時に使用していたのは、彼自身カッツケ釣りではコントロールしきれていないと自信なくつぶやいていた「粒戦」がブレンドされた粒子感の強いものであり、そして途中からは実際にトーナメント予選時に使用したという「バラケマッハ」をベースとしたダンゴタッチの麩系バラケに切り替えての釣りを披露してくれたのだ。
「カッツケウドンセット釣りで粒状バラケを使う狙いは、たとえ浅いタナとはいっても一定の距離感を保ちつつウワズリを抑えながらタナを作って釣り込むためのもので、どちらかといえばへら鮒の動きが鈍く食いが悪いときに摂餌を促すことを目的としたものです。一方、麩系バラケは表層近くにへら鮒を足止めするために意図的なウワズリ状態を作り上げ、これ以上ない接近戦を挑むことが狙いです。従って粒状バラケはハリに掛かった(持たせた)としてもごくわずかで、基本的には抜くアプローチに適しており、麩系バラケは結果的に抜けることはあっても基本的には持たせたままアタらせるアプローチで成立するものと考えています。」
カッツケ釣りはへら鮒の寄り方やコンディションの違いによって左右されることが多いが、この日も粒状バラケを使った釣りではアタリをだすこと自体難しく、麩系バラケに替えた後も多少アタリは増えたもののコンスタントにだし続けることが困難な状況であった。しかし、そこは手練れの岡田のこと、ウキをサイズダウンさせてから比較的反応がよかった麩系バラケのタッチを完璧に合わせると徐々にペースアップし、後半戦はバラケとくわせの食う確率がおよそ5:5にまでなったところでこの日のクライマックスを迎えた。
「ハリスカッツケ釣りをやるからには超接近戦で釣らなければ勝てる気がしません。ハリスカッツケ釣りで勝つためには水面直下にへら鮒を足止めし、長時間居続けさせることが何より大事であり、そうした状態を作り上げられなければ超接近戦は成立しません。微粒子麩材をベースとした麩系バラケはそうした状態を作るのに適しており、ギリギリの狭い接点での勝負が決まるハリスカッツケ釣りには欠かせないのです。」
岡田流カッツケウドンセット釣りのキモ その三:狙うアタリは〝ブレない〟縦アタリ!
盛期におけるハリスカッツケ釣りの食いアタリというと、ウキが立ち上がった直後にでるいわゆる〝振れ(ブレ)アタリ〟を連想するが、ウドンセット釣りではこのアタリは皆無といってもいいだろう。ならば食いアタリはというと、それは明確な縦アタリ。カチッ、チクッ、ズバッとパターンは様々だが、ウキが立ち上がった直後から大きく煽られながらナジミ始めると、完全にトップがナジミきるまでにでるアタリでは上バリのバラケを食う確立が極めて高く、トップがナジミきってからでるアタリの大半は下バリのくわせを食うアタリであった。
「超接近戦であっても振れ(ブレ)アタリは両ダンゴ等の共エサ特有のアタリですので、たとえバラケのタッチはダンゴっぽいものでも、ウドンセット釣りではほとんど見られません。基本的な食いアタリはタナ1mでのセット釣りと同様、縦方向に力強く入るアタリであり、こうしたアタリをコンスタントにだし続けることがこの釣りでの〝ブレない〟軸となるのです。」
ハリスカッツケ釣りで縦に強くアタらせることは言葉で言うほど簡単なことではない。エサの周りに寄ってくるへら鮒のなかには食い気のないものも多く、一歩間違うと糸ズレによるスレアタリや食い損ないによるカラツンが多発し、まともに釣りをさせてもらえないケースが少なくないのだ。
「一見するとウキの周りに寄っているへら鮒は完全にウワズった状態に見えますが、コンスタントに縦アタリがでているときは極限の状態でウワズリが抑えられていることを示していますので、激しい寄りを見せるへら鮒の動きに惑わされず、縦アタリが続けてでる状態を維持することに注力することが肝心です。」
記者の目:勝つために必要なのはへら鮒釣りに真摯に向き合う姿勢と強靱でひたむきなメンタルだ!
取材中、岡田に「記者さんはトーナメントには参加しないのですか?」と逆質問を受けた。生来プレッシャーに弱い私はメジャートーナメント独特の、あのスタートと同時にシ~ンと静まりかえる緊張感が大の苦手で、「過去に幾度かチャレンジした経験はあるものの、とてもじゃないが耐えられないと感じ、トーナメント以外のへら鮒釣りを楽しむことに専念している」と回答すると、「自分はあの雰囲気、嫌いじゃないですね。むしろやってやるぞ!という気持ちになります。」と岡田。さらに彼は「以前は勝ち続けることで有名になってやろう!そしてインストラクターになってやろう!と、とにかくひたすら釣りまくることに夢中になっていました。もちろん今でもたくさん釣ることにはこだわりをもって競技の釣りに臨んではいますが、さらに恩返しのつもりで今後は自分の経験や技術をできるだけ多くのへらアングラーに伝えていきたいと思っています。」と付け加えた。負けを潔く認め、その反省をリアルに伝えることでさらなる高みを目指そうと臨んだ今回の釣技最前線。若くして勝つことの喜びを知り尽くし、そしていま、勝つことの難しさを痛感している彼が、多くのへらアングラーのために今後もトーナメントに挑み続けると力強く宣言。これからも比類なきメンタルと共に最前線の釣技を披露し続けてくれることを願って止まない。