稲村順一が徹底レポート「釣技最前線」第133回 「杉本智也のパワー系浅ダナウドンセット釣り」|へら鮒天国

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稲村順一が徹底レポート「釣技最前線」第133回 「杉本智也のパワー系浅ダナウドンセット釣り」

決してマストではないが、手の内に入れておくと大変心強いという釣り方がある。今回紹介するパワー系浅ダナウドンセット釣りもそんな釣り方のひとつだろう。選択肢の多い盛期の釣り方のひとつという立ち位置からだろうか、多くのアングラーの注目を浴びる機会は少なく、システムそのものも不明確な部分が多いというのが記者の偽らざる思いであったが、だからこそ「釣技最前線」においてスポットを当て深掘りしてみようという思いに至り、マルキユーインストラクター陣のなかでもコーチング能力においては一二を争う杉本智也にレクチャーをオファー。折しも新製品「力玉ハード(L)」の発売が1ヶ月後に迫ったタイミングで取材を敢行。今回の実釣フィールドはこの釣りのポテンシャルを推し量るには打ってつけともいえる椎の木湖。言わずと知れた全国屈指の巨べらフィールドだが、気難しい大型べらが相手だけに、たとえ盛期であっても両ダンゴで釣りきることが難しいくらいの難時合いに陥ることも少なくない。そんな時合いのアップダウンが激しい環境下にあってこそ、この釣りの真価が分かろうというもの。早朝気温が一桁台まで冷え込んだためか序盤こそアタリをだすのに苦労した杉本であったが、中盤戦以降は尻上がりに高まるへら鮒の活性も後押しし、これこそが手本ともいうべき正攻法のパワー系浅ダナウドンセット釣りが繰り広げられた!

パワー系浅ダナウドンセット釣りのポテンシャルに杉本も注目!

「私自身、これからのシーズンは余程のことがない限り両ダンゴメインの釣りに終始しますが、その一方で盛期だからといって誰しもが両ダンゴで釣りきれるものではないことも承知しています。実際、両ダンゴに代わる釣り方としてはヒゲトロセット釣りや、いわゆるホタチョーと呼ばれる強いチョーチンウドンセット釣りなどが夏の定番となっていますが、今回見ていただく強めの浅ダナウドンセット釣りもまた、今後有望な釣り方として広がる可能性を秘めていると思います。」

春から初夏にかけてへら鮒が本格的に麩系ダンゴエサを追うようになって以降は、シーズン中ほぼ両ダンゴの釣りに終始するという杉本だが、そんな彼が快く浅ダナウドンセット釣りの実釣取材に応じてくれた背景にはこうした彼自身興味があることに加え、自らが主宰するフィッシングクラブに参加するアングラーからも、近年この釣り方のレクチャーを望まれることが多くなったということも少なからず影響しているようだ。実際のところ両ダンゴの釣りが苦手なアングラーに、盛期だからという理由だけで「両ダンゴの釣りという同じ土俵に上がって来い!」的な上から目線の指導では人望は得られず決して人は集まって来ない。釣果だけでは推し量れない釣り本来の楽しみ方はもちろんのこと、釣技のレベルアップのために必要な環境が整えられているクラブだからこそ、幅広いニーズに応えられる指導者もまた必要不可欠であることはいうまでも無いだろう。

「自分は決してこの釣り方のスペシャリストではありませんが、釣りの基本的なシステムやプロセスについては理解しているつもりですので、今回は決まったときの爆発的釣果や面白さを含めて見ていただきましょうか。」

4~5日前には日中の最高気温が30℃を超えた日があったかと思うと、一転この日の朝の最低気温は6℃台。ジェットコースター並みに激しい気温のアップダウンは、当然のことながら巨べらの食いに影響を及ぼすことになる。思ったとおり実釣開始直後は極端にウキの動きが鈍く、アタリはおろか、サワリを維持することすら難しい状況であったが、そんななかでも強い釣りを維持しながら数少ないチャンスを生かしてアタリを引きだす杉本。思うようにウキを動かせないもどかしさを感じながらもブレることなく基本を貫いた序盤戦の我慢が功を奏したのか、中盤戦にさしかかったところで徐々にウキの動きがよくなり始めると、やがて大きめに付けられたバラケがドップリとウキを深くナジませた直後、セット釣りとは思えないようなズバ消し込みアタリが連発。さらにハリスを詰めてヒット率を高めると1㎏超級の大型ばかりがハリ掛かり。狙いどおりの釣りに仕上げられた満足感に浸りながら、最後は満面の笑みで「ハード(L)、サイコー!」を連発していた。

使用タックル

●サオ
がまかつ「がまへら天輝」8尺

●ミチイト
東レ「将鱗へらTYPE-Ⅱ道糸」1.0号

●ハリス
上=東レ「将鱗へらTYPE-Ⅱハリス」0.6号-12cm
下=東レ「将鱗へらSUPER PROハリス」0.5号-35cm
※下ハリスは30cmを基本に25~40cm程度の範囲内で適宜調整

●ハリ
上=がまかつ「ギガリフト」9号、
下=がまかつ「クワセマスター」5号→「角マルチ」5号

●ウキ
TOMO「A-1」No.8.7(番号はボディ長を表わす)
【元径1.3mmテーパーパイプトップ10.5cm/直径6.0mm二枚合わせ羽根ボディ8.7cm/直径0.9mmカーボン足6.7cm/オモリ負荷量≒0.95g ※エサ落ち目盛りはくわせエサを付けて全7目盛り中5目盛りだし】

取材時使用エサ

●バラケエサ
「バラケマッハ」800cc+「軽麸」200cc+「ダンゴの底釣り 芯華」25cc
(軽く混ぜ合わせてから)+水200cc

五指を熊手状に開いて大きくかき混ぜ、全体に水が均等にゆきわたったら完成。バラケ性に富み、集魚力に優れた「バラケマッハ」をいかにタナまで無駄なく送り込めるのかがキーポイントになるが、ネバリよりも圧で持たせた方が効果的だという杉本自身が、多くの「釣技最前線」愛読者のためにと考案し、披露してくれたのがこのブレンドだ。もちろん微量ながらも加えられた「芯華」が適度な重さとさらなる集魚力を加えるために大きな役割を担っており、安定的にタナに留まるへら鮒を落ち着いた状態でキープすることに重要な役割を果たしていることはいうまでもない。ちなみにエサ付けサイズは平均直径18mm程で、常に形状を整え表面は滑らかに仕上げたうえで丁寧な打ち込みを心がけていた。

●くわせエサ
力玉ハード(L)

形状は従来の「力玉」ハードシリーズ同様に俵型ながら、その大きさは直径6mm程と冬場の浅ダナウドンセット釣りのくわせエサとしては到底使用することはない大きさだが、盛期のウドンセット釣りではまさに適切なサイズ感であると同時に、厳寒期の段差の底釣りでもちょうどいい大きさと思えるものである。また発売前とあって今回は「さなぎ粉」に漬けたりしないでそのまま使用したが、エサ持ちに関してはまったく問題なく、既存の「力玉ハードⅡ」と同等かそれ以上のエサ持ちのよさを体感。また改良点として縦長の俵型ではなく直径と同等程度の長さに揃えられているので、手作りのウドンのようにへら鮒にとって水中での動きに違和感は少ないものと思えた。

杉本流パワー系浅ダナウドンセット釣りのキモ その一:バラケに惹きつけた超接近戦

この釣り方の最大のキモは?という記者の問いに対する杉本の回答はズバリ〝接近戦〟であった。

「これからの時季のへら鮒は食いがいいときはもちろんですが、たとえ食い渋っていたとしても麩系エサを好んで口にしようとします。この釣り方はそうした高活性期におけるへら鮒の食性に合わせたアプローチですので、自然にバラケ(麩エサ)に近づいて来る状況のなか積極的にバラケを食わせに行きながら、それを食い損なったものを『力玉ハード(L)』のような存在感抜群のくわせエサで拾うといった超接近戦で臨むのが理に適った攻め方なのではないでしょうか。」

ウドンセット釣りにも様々なカテゴリーがあるが、大別すると

①厳寒期に有効とされる「抜きバラケのセット釣り」

②今回の釣り方のような決してバラケを抜かない「持たせバラケのセット釣り」

③残るは①と②の中間的ともいえる、抜いたり持たせたりを繰り返す「フレキシブルなセット釣り」

となるだろう。「抜きバラケのセット釣り」はバラケとくわせの距離を一定間隔とった、いわば遠隔戦であり、「持たせバラケのセット釣り」こそが接近戦で、「フレキシブルなセット釣り」はときに押したりときに引いたりと、接近戦と遠隔戦をタイミングよく繰りだす奇襲戦とでもいえようか。

「『積極的に』とはいっても、バラケはバラケ。完全にダンゴタッチにしてしまうと集魚性に劣るばかりか、へら鮒が微妙に距離をおいてアタリがでにくくなるうえに釣れる型も悪くなる傾向がみられます。あくまで開きのよいバラケを打ちきることが肝心で、これによりボソタッチを好む大型がタナに集まりやすくなり、さらに早いアタリではサイズの大きなバラケを一気食いするグッドコンディションのへら鮒が釣れるようになるという好循環が生まれます。食い渋り時にはアタリがでるのが遅くなりウドンを食う確率が高まりますが、理想としてはバラケとくわせに5:5の割合で食ってくる状況ができれば、この釣りもほぼ完成といえるでしょう。」

杉本流パワー系浅ダナウドンセット釣りのキモ その二:煙幕(漂う麩材の粒子量)を切らさない

最大のキモである接近戦を成立させるためには常にバラケに興味を惹きつけ、狙ったタナに適量のへら鮒を留めておくことが肝心であり、そのためには落下途中のバラケの開きを極力抑え、タナに入った瞬間強烈にへら鮒を惹きつけるようなバラケ方を演出することが必要不可欠だと杉本は言う。

「接近戦を成立させるカギは微粒子系のバラケをうまく使いこなすことでしょう。厳寒期の抜きバラケのセット釣りで常用される『粒戦』や『セットアップ』のような粗く比重のある麩材を加えるとへら鮒は一定距離をおいてしまうことがあるので、『バラケマッハ』のような開きのよい微粒子系麩材をベースに、それらをまとめる役割を果たす『軽麸』や『浅ダナ一本』のような白系麩材でコーティングするイメージで構成するのが接近戦バラケの基本です。」

そのうえで水中の煙幕(狙ったタナで漂う微粒子麩材)を切らさないよう、早めの打ち返しを心がけることもこの釣りを支える大切なポイントだという。基本的にへら鮒の動きが活発な時期の釣りなので、バラケが抜けてくわせエサだけで待っていても途絶えることなく微動が続くが、これをサワリと誤認してさらにアタリを待ってしまうとバラケの効果が薄れてしまう。肝心なことはバラケの効果が途切れる前に次の1投を間断なく打ち込み続けることであり、これ無くしてパワー系ウドンセット釣りは成立しないのだ。総じて大きなバラケを使うパワー系のセット釣りではエサ付けが重要なテクニックとして知られているが、慣れないアングラーにとっては意外なハードルとなっているケースがみられる。ただでさえウキが動き、アタリが頻繁にでる時季の釣りなので、釣りたい気持ちが先走ってアタリ欲しさ、ヒット欲しさにエサ付けが甘くなりがちだと杉本は警鐘を鳴らす。

「この時季のウドンセット釣りでは、バラケが抜けたらほぼアタリは期待できません。バラケを持たせるためにはネバリや硬さを増す方法もありますが、この釣り方ではいずれもいい選択ではありません。なぜなら基本のタッチが変化してしまうと水中の煙幕が薄れてしまうからです。従ってベストは圧力で持たせる方法であり、バラケ性を保ったままへら鮒の寄る量や動きによって変化する持ち具合を圧加減でコントロールすることがキモになります。さらにエサ付けにも注意を払いたいですね。たくさん釣りたい気持ちは分かりますが、焦りは禁物。たかがエサ付け、されどエサ付け。決して疎かにしてはいけません。」

杉本流パワー系浅ダナウドンセット釣りのキモ その三:アタリ負けしない強めのタックルセッティング

浅ダナの釣りというと、とかく小さなウキを使うことが多いが、同じタナ1mの釣りでも両ダンゴの釣りと同等もしくは大きめのウキを使うことも重要なことだと杉本は言う。

「見てのとおりバラケがバラケですので、むしろ両ダンゴの釣りよりもエサ打ちポイント周辺に群がるへら鮒の数は多くなります。それだけに激しいへら鮒のアタックにも耐え、さらにアタリがでるまでバラケを支えられるタックルセッティングが必要です。そのための軸となるのはもちろんウキですが、この釣りではパイプトップウキがマストアイテムであり、浮力のあるもののなかからその日の状況にマッチしたベストなオモリ負荷量のものをチョイスすることが肝心です。今回は朝の冷え込みもあり序盤の食い渋りを想定してベストよりも小さめのものを選びましたが、結果としてはもうワンサイズ小さくてもよかったもしれません。もちろんハイシーズンにはさらに大きめのウキが合うはずです。」

スタート時のウキを杉本は小さめと言ったが、両ダンゴの釣りではハイシーズンに使うほどのサイズ感と浮力を持っており、決して小さくはないと記者は思って見ていた。序盤の食い渋りタイムにあってはウキには手をつけず、下ハリスを5cm伸ばす対策や下バリを「クワセマスター」5号から「角マルチ」5号に交換するといったマイナーチェンジ程度のアジャストで凌ぐと、釣況が上向き始めた中盤戦以降は徐々にハリスを詰め、最終的には25cmという短バリスで見事に時合いをものにしてみせ、タックルセッティングの精度の高さを示してくれた。

記者の目:慣れない人でも大釣り必至!?ホタメーターとはひと味違う新パワー系アプローチ

かつて「芯華」をわずか50ccブレンドした麩系ダンゴエサで新境地のチョーチン両ダンゴ釣りを披露してくれた杉本が、またしても「芯華」をブレンドしたバラケエサで魅せてくれた浅ダナウドンセット釣りのパワー系アプローチ。「芯華」が持つ適度な比重と高集魚力が、狙ったタナにへら鮒を分厚く引き寄せ、安定的な時合いを維持する効果を生みだすことは既に周知のことだが、今回はさらに微量の25ccというブレンド量にもかかわらず、この釣り方の最も難しいポイントといわれるラージサイズのバラケエサを無駄なくタナに送り込み、かつ激しいアタックにも耐えられるようにエサ付けするためのタッチを生みだす効果は絶大であった。ただし、50ccと重さをさらに増すようにすると極端にへらの寄りが悪くなったため、この釣りに関して重さアップの限度は25ccとする方がよいだろう。バラケエサがうまく持たせられないというアングラーにとっては、またしても朗報となる〝杉本のアイディア〟がお届けできたことは記者冥利に尽きるというものだ。さらに今回はこの釣りの主役ともいうべき「力玉ハード(L)」が狙いどおりの働きをしてくれた。常にバラケの傍にあって明らかな存在感を示し、食い気旺盛な盛期のへら鮒のアタックに負けない大きなフォルムで自らを強烈にアピールしたことで「ナジむ→煽る→ズバ消し込み」という完璧なまでの決まりパターンを創り上げた。今回もまた夏のへら鮒釣りは単純明快なアプローチ&豪快なアタリで釣ることこそが王道ということを示してくれた杉本インストラクターに感謝!感謝!