稲村順一が徹底レポート「釣技最前線」第132回 「高橋秀樹のイケイケ爆底両ダンゴ釣り」
はたしてこれは底釣りなのか?茨城県古河市にある三和新池の西桟橋で繰り広げられているマルキユーインストラクター高橋秀樹の底釣りは、記者がいまだかつて見たことのないハイテンポで、しかも驚くべきヒット率をキープしながら突き進んでいく。ウキを深くナジませ、サワリと共にゆっくりとウキが返すのを静かに待ち、エサ落ち目盛り近くまで戻してからでる小さなアタリに狙いを絞るといった、かつての古典的(?)な釣り方とは真逆ともいえる高橋の超速攻スタイルの底釣りは、ウキが戻すのを待つことなくトップがナジミきった直後にキレのある鋭いアタリが連発。しかも完璧にコントロール下に置かれた底べらが連チャンに次ぐ連チャンでハリ掛かり。それはまるで盛期における両ダンゴのチョーチン釣りと見まがうばかりの、異次元の驚速アプローチであった。
必然の驚速アプローチを可能にした「芯華」ベースの極ヤワダンゴエサ!
手早くタナ取りを済ませると、上バリトントンのタナから約3cmタナをズラして実釣スタート。ウキが立つ位置よりもやや沖めにエサを打ち込むと3目盛りのナジミ幅を示し、これを確認すると概ねタナは合っていると確信して速いテンポで打ち返していく。すると間もなくウキが動き始め、底釣りらしい小さな食いアタリで順調に釣れ始めた。あらかじめある程度の量のへら鮒が地底に居着いているようで、初めは古典的な底釣りらしい小さなアタリで釣れ始めた実釣取材は、スタートから1時間も経たないうちに驚くほどハイペースな釣りに激変。傍目にはこれで十分な釣れっぷりなのだが、釣況とは異なり高橋の表情は冴えない。
「食いアタリがでるのが遅いです。単に楽しむだけであればこれで良いかもしれませんが、まだ自分が魅せたい底釣りになっていません。」
そう言うと次第に激しさを増すウキの動きにあわせ、小分けした基エサを手水で少しずつやわらかくしていく。基エサ自体標準よりもやわらかめの仕上がりだというから、いま釣れているタッチはかなりやわらかくなっているはずだ。試しにボウルのなかにある調整済みのエサを摘まみ取ると驚くほどのやわらかさであり、余程丁寧なエサ付けをしない限り底まで持つようなシロモノではない。ブレンドについては後述するが、このタッチに到達するとアタリのでるタイミングが格段に早くなり、2~3目盛りのナジミ幅をキープしつつも、エサの着底直後からウキの戻し際に食いアタリが集中。さながら盛期のチョーチン両ダンゴ釣りをみせられているようだ。
「良い感じになってきましたね。でもまだまだです。ややウワズリの兆候がみられますし、アタリのタイミングもバラバラで不安定です。エサのブレンドとタッチはこれで良い感じですが、ハリスが少し長いように感じます。それに加えて釣り始めて間もない時点で既にこの状態ですから、先々のことを考えるとウキもワンランクサイズアップした方がよさそうですね。」
本来であればハリスとウキの変更は別々に行うのがセオリーというが、今回は〝特例〟ということで同時に対策を施してその効果を確かめてもらうべく、ハリスを約5cm詰めると同時にウキを一番手サイズアップ。するとウキのナジミはスムーズになったものの明らかに食いアタリが減少。この結果を見た高橋がウキをそのままにハリスだけを元の長さに戻すとこれが見事に決まり、理想的な早い食いアタリでイケイケ爆底両ダンゴ釣りはコンプリートに向かって一気に加速した。
使用タックル
●サオ
がまへら「天輝」15尺
●ミチイト
サンライン パワードへら道糸「奏」0.8号
●ハリス
サンライン トルネードへらハリス「禅」 上=0.4号-35→30cm、下=0.4号-43→37cm
●ハリ
上下共がまかつ「角マルチ」5号
●ウキ
水幸作「底釣り2015」15番
【1.2mm径テーパーパイプトップ13.5cm/6.0mm径二枚合わせ羽根ボディ15.0cm/1.2mm径カーボン足6.0cm/オモリ負荷量≒1.9g/エサ落ち目盛りは両バリが底を切れた状態で全10目盛り中4目盛りだし(両バリが底に着くと約5目盛りだし)】
取材時使用エサ
「ダンゴの底釣り 芯華」100cc+「ペレ底」100cc(軽く混ぜ合わせてから)+水100cc
グルテンが含まれるエサなので、全体に水がゆきわたってからも十分にかき混ぜ、ボウルの隅に寄せて完全に吸水するのを待つことが肝心。打ち始めは基エサを軽くまとめる程度にしてテンポよく打ち返すが、釣れ始めてからは高橋が目指す早いアタリがでるように、手水と折り畳むような押し練りを加えながら徐々にエサをやわらかく調整する。
高橋流 イケイケ爆底両ダンゴ釣りのキモ その一:絶対的底釣りエサ「芯華」を軸にしたブレンドパターン&異次元の極ヤワタッチ
この時季は両ダンゴの底釣りを選択する機会が増えるという高橋。理由は何よりも数が釣れるからに他ならない。春以外にも秋から冬にかけての新べら放流シーズンにおいて同様の理由で両ダンゴの底釣りを好んでやるようだが、それぞれ異なる季節やシチュエーションによってマッチするエサを「芯華」と組み合わせることで、常に高橋が目指すイケイケの底釣りが可能になるという。
「普通の底釣りで普通の釣果を求めるのであれば『芯華』単品で十分だと思いますが、残念ながらそれでは私は満足できません(笑)。さらに上の釣果を求めるためにはそれ相応のエサが必要になるのは当然のことですから、ブレンドにはこだわりを持って臨んでいます。」
参考までに紹介すると、状況別に高橋がベストマッチと考えるブレンドパターンは以下のとおりだ。
①今回のようにある程度活性が高まったへら鮒に対するイケイケの攻めには、集魚力と比重に加えてエサ切れが良い「ペレ底」がベストパートナーとなる
②大型が少なく中小型の旧べらがカチカチとアタってくるような釣り場では「へらスイミー」の方がより速い釣りが可能になる
③秋の旧べらをメインにひととおり口を使った新べらまでもターゲットにする場合は「ペレ道」との相性が良い
④上層からのエサ追いが鈍いときには「芯華」よりも比重が軽い「ダンゴの底釣り夏」がベター
ブレンドパターンによる緻密なエサ合わせも高橋らしいが、それ以上に驚かされたのは爆底が決まっているときのエサのタッチだ。早いアタリで次から次へとヒットさせている状況下ではかなりの数のへら鮒が地底付近に集まっているはずなのだが、そのとき食わせているエサのタッチが驚くほどやわらかいのだ。正直このタッチで底までエサが持つのか?と疑ってしまうが、目の前で繰り広げられている現実を見る限り確実に持っていることを認めざるをえないだろう。
「レシピどおりにエサを作ると一般的な底釣りエサよりもやわらかめに仕上がります。しかし私としてはこれでも硬すぎるので、早いタイミングで食わせるために少しずつ手水を加えながら押し練りを加え、やわらかくても底まで持つようにしています。それでもここまでのタッチになるとエサの性能だけでは持たないこともあります。それを補っているのがエサ付けですが、毎投確実に持たせるためにはエサ玉の中心にハリを位置させ、さらに表面を滑らかにして打ち込む必要があります。ほかの人よりも早いタイミングで数を釣るためには、エサが底に着いたと同時に食い頃になっていなければなりません。極ヤワタッチはそのために必要不可欠なものなのです。」
映像でタッチを伝えることは困難だが、その実態は上から落とすと転がることなくペタリと潰れてしまうほどやわらかいエサであり、これこそが高橋流爆底両ダンゴのまさに生命線といえよう。
高橋流 イケイケ爆底両ダンゴ釣りのキモ その二:短いハリスと大きなウキ。特徴的なタックルも爆底の重要なファクターだ!
釣り支度の最中から気になっていたのが、短めのハリスと水深に対して大き過ぎるのでは?と感じたウキのサイズだ。へら鮒の活性が高く、ウワズリ傾向になればあり得るセッティングだが、スタート時のセッティングとしてはいささか攻め過ぎなのでは?と感じていたので、ハリスを詰めてウキをサイズアップさせたタイミングで高橋に訊ねてみると、
「釣り場の状況がつかみきれていないのでやや遠慮気味ではありますが、これが私のスタンダードなのです。確かにほかのアングラーと比べるとハリスは短く、ウキは大きいと思いますが、私の底釣りを成立させるためには無くてはならないセッティングであり、アイテムなのです。すべては食い頃のエサを確実に底へと送り込むための対策なのですが、エサがナジんでいく途中で止められたり叩き落とされたりすることを防ぐためには必要不可欠な短バリスと大ウキなのです。」
ただし、このセッティングには条件があるという。それは釣れるへら鮒が高橋自身得意な相手という中小型のへら鮒が比較的多い釣り場であること。かつて短バリス+大ウキの組み合わせで見事な釣りを披露してくれた盛期の浅ダナ両ダンゴの釣りと同じ状況が、いま異なる季節と釣り方で再び眼前で繰り広げられているわけだが、ここまで得意な釣りを手の内に入れた者の釣りは見事というほかあるまい。さらに記者は気になっていたエサ落ち目盛りについて訊ねてみた。
「エサ落ち目盛りですか?訊かれると思っていましたよ(笑)。確かに特徴的ですよね。明らかに人よりも上で取っているので違和感を覚える人は多いかもしれませんが、これも私の底釣りには欠かせないセッティングなのです。狙いはもちろん少しでも早くエサをナジませることと、風や流れの影響を受けにくくするためであり、折角食い頃に仕上げたやわらかいエサに余計な力が加わらないようにするために、このエサ落ち目盛りが有効に作用するのです。さらにもうひとつ秘密を教えましょうか。途中でウキを交換しましたが、ボディサイズが大きくなったことで浮力(オモリ負荷量)は大きくなりましたが、実はトップの長さは交換前と変わらず同じなのです。」
そう言って取りだしてくれたウキを手に取ると、なるほど特異なスペックのウキであることが分かる。もちろん高橋自身が設計監修に関わったもので、いわば高橋スペシャルとでもいえる底釣りウキであり、間違いなく高橋流爆底におけるマストアイテムといえよう。
高橋流 イケイケ爆底両ダンゴ釣りのキモ その三:積極果敢なアワセと優れた危機管理能力
高橋流爆底両ダンゴ釣りの仕上げのキモは、エサの着底と同時にでる早い食いアタリに対して躊躇することなくアワセにかかる積極性と、地合い崩壊につながりかねないウワズリをいち早く察知する危機管理能力だ。早いアタリをだす術については既に述べたが、仮にでたとしてもそれに気づかず見逃してしまうとか、マト外れのアタリに手をだしてスレやカラツンを繰り返していたのでは元も子もない。ひと言に早いアタリといってもそのパターンは様々だ。食いアタリがで続けているときは時折複雑な動きをみせることがあっても、ナジミきる直前から直後にかけては比較的落ち着いた規則性のある動きに変わっていることが分かる。ナジんで「チャッ」、戻しかけて「ムズッ」、少し待って「ツンッ」、さらに待てば「ググッ」と食い上げ。ヒットパターンはいくつもあるが、へら鮒の食い気と高橋のアプローチが噛み合っているときは自ずと前者の「チャッ」と「ムズッ」に食いアタリが集中する。
「ここで食って来るのであれば釣りは速いし、数が伸びます。もちろんへら鮒のコンディションが悪くて狙いどおりの速い釣りに持ち込めないこともありますが、そんなときは潔く底釣りを諦めて宙釣りに活路を求めます。ゴールデンウィーク前後まではこうした速い底釣りが可能な絶好期が続くので、しばらくは『芯華』が手放せないですね。」
昔ながらの底釣りでは考えられないほど早いタイミングででる(意図的にだしている)アタリで次々とヒットを重ねる高橋だが、決して闇雲に早いアタリに手をだしている訳ではない。ウキの動きに違和感を覚えるとすかさずウワズリを疑い訂正する投を挟んでウキの動きを整えるなど、その優れた危機管理能力によって地合いの崩壊を未然に防いでいるのだ。
「アプローチそのものがウワズリと背中合わせの極めてリスキーな釣りであることは自覚していますし、だからこそわずかな異変も見逃すまいと集中してウキの動きに注目しています。その際ハッキリと目に見える動きよりもウキが立ち上がるまでの時間が長くなるとか、ナジミの速度が遅くなることについては常に警戒を怠りません。終日釣りきるためには常にギリギリのところで絶妙なバランスを取り続ける必要がありますが、それができれば確実に釣れる自信があるのでこの底釣り決してやめることはできませんね(笑)。」
総括
かつて底釣りは「しっかりとウキをナジませ、エサ落ち目盛り近くまで戻してからのアタリを狙え」と教えられたものだが、当時の底釣りエサは塊感が強く長時間待たないと食い頃にはならなかったことを考えると、そうしたアプローチもやむを得ないものだと頷ける。釣り場の状況も大きく様変わりし、エサの性能も格段にアップした現在、新たな底釣りアプローチが生まれても決して不思議なことではなく、むしろ当然のことであろう。底釣り愛好家のなかには自ら編みだした個性的なアプローチで楽しむアングラーも少なくないが、今回高橋が魅せてくれた両ダンゴの底釣りは、その圧倒的な速さとヒット率からまさに「爆底」の名にふさわしく、あらゆる面から今後のスタンダード釣法となり得る正攻法の底釣りとして君臨することだろう。