稲村順一が徹底レポート「釣技最前線」第131回 「萩野孝之の春の浅ダナウドンセット釣り」|へら鮒天国

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稲村順一が徹底レポート「釣技最前線」第131回 「萩野孝之の春の浅ダナウドンセット釣り」

ひと言に浅ダナウドンセット釣りといってもそのアプローチは多岐に渡る。バラケのブレンドパターンとその抜き方(持たせ方)だけでも数え切れないほど細分化され、極論すればアングラーの数だけアプローチがあるといっても過言ではないだろう。しかし、そうしたなかにあって釣れるアプローチとそうではないアプローチが生じてしまうことはある意味致し方のないことではあるが、できることなら数多くのアプローチを手の内に入れ、釣況に応じてそれらを的確に使い分けたいものだ。そこで今回はそうした悩みをズバッと解決すべく、マルキユーインストラクター萩野孝之に協力を仰いだ。現代浅ダナウドンセット釣りのキモとなるのは、彼自身「ハリスを詰めるためのテクニック!」と断言する〝バラケの抜き方〟である。取材開始早々見事にこれを探り当てた萩野が、春の富里乃堰で躍動するのに時間は要らなかった!

春はゴリ押し厳禁。ライト系とミドル系アプローチを無理なく使い分けろ!

三寒四温という言葉があるように、へら鮒の活性もアップダウンを繰り返す春の釣りでは、先入観に囚われたアプローチのゴリ押しは厳禁であり、たとえ良い釣況が続いていたとしてもまずは一歩下がってライト系アプローチで様子をみたうえで、状況に応じて徐々にミドル系アプローチへと移行するのが無難だと萩野は言う。

「春とはいっても例年早期は冬っぽい釣りになりがちです。特に早朝はへら鮒の動きだしもままならないので、エサ・タックル・アプローチ共に最終的に決まりそうなところよりもワンランク程度ライトなセッティングでスタートするのが、この時季ならではの私のセオリーです。」

萩野が言うライトなセッティングとは、春を意識しながらも冬場に有効とされる微粒子系の麩材を多めにブレンドしたバラケに、やや長めの下ハリスを組み合わせたもので、抜き系・持たせ系のアプローチを交互に打ち比べながら「ご機嫌いかが?」とへら鮒にお伺いをたてるような感じで臨むスタイルを基本とする。こうした萩野の心遣いが富里乃堰のへら鮒に届いたのであろうか、開始10投程でウキに動きが現われ、15分後には早くもファーストヒットを決めるとその後もアタリは続き、一気に釣り込み態勢に突入した。

「バラケは基エサに若干手水を加えてシットリ系に調整したものを、それほど強い圧をかけずにエアーを含んだまま表面を滑らかにする程度に整え、ウキのトップにバラケの重さがかかった直後に一気に抜けるようにハリのチモトを押えるパターンでアタリがでています。しかも新べらを含めてコンディションのいいへら鮒が多いのでヒット率もかなり高いですね!」

予想していたよりも好調な滑りだしにご機嫌な萩野。意地の悪い記者は途中で釣れなくなることで新たな小技・裏技が飛びでないかと願っていたが、この日の萩野と富里乃堰のへら鮒は見事に噛み合い、途中、風流れで一時アタリが飛ぶまで順調に釣れ続いたのであった。それだけ萩野のアプローチが的確であった証であるが、そこには今シーズンの攻め方の基準となるヒントが散りばめられていた。

使用タックル

●サオ
シマノ飛天弓「閃光LⅡ」12尺

●ミチイト
オーナーザイト「白の道糸」0.8号

●ハリス
オーナーザイトSABAKIへらハリス 上=0.5号-8cm、下=0.4号-50→40→35cm

●ハリ
上=オーナーばり「バラサ」6号、下=オーナーばり「へら軽玉鈎」3号

●ウキ
一志「セットスピリット時田光章V3バージョン」3番
【1mm径テーパーPCムクトップ11cm/5.8mm径羽根二枚合わせボディ4.5cm/0.8mm径カーボン足8.0cm/オモリ負荷量≒0.55g/エサ落ち目盛りは8目盛りトップの5目盛りだし(くわせエサを付けると約1目盛り沈む)】

取材時使用エサ

●バラケエサ(当日の決まりブレンドパターン)

「粒戦」100cc+水150cc(吸水のため約10分放置後)+「ヤグラ」100cc+「セットアップ」100cc+バラケマッハ」100cc

五指を熊手状に開いてザックリとかき混ぜ、全体に水が回った程度で止めるのが萩野流。使用する際はボウルのなかで1/4程度小分けし、主に手水調整のみでタッチを合わせる。

●くわせエサ

「感嘆」(「軽さなぎ」入り)10cc+水12cc

「感嘆」は1袋に対して「軽さなぎ」25ccをあらかじめ加えてよく混ぜ合わせておいたものを使用。ほかにジャミの多い釣り場用として何も加えていない「感嘆」を用意し、釣況によって使い分ける。

萩野流 春の浅ダナウドンセット釣りのキモ その一:麩材の特性を生かしたメリとハリ。バラケは無理くり合わせない!

エサ合わせの難しさがへら鮒釣りの奥深さのひとつではあるが、できればもっと楽に釣りたいと思うアングラーの気持ちも偽らざる真実であろう。実際競技の釣りに勤しむ多くのアングラーにとっては簡単かつ再現性があるエサを手にすることは必須の条件であり、勘に頼って常にいじくり回して正解に辿り着くエサ合わせは、余程天才的なエサ感をもつアングラーでもない限り不可能というものだ。

「難しさを楽しむ一面がへら鮒釣りにあることは否定しませんが、それは勝負を分ける最後の最後の詰めの部分での話であり、基本的には誰がやってもある程度のレベルまでは同じ結果が得られる方が楽しめるに違いありません。もっともそうしたところを目指したエサ開発に貢献することが私達インストラクターの役目のひとつですので、今回は実釣を通じてそこのところをしっかり伝えたいと思っています。」

今回萩野は最初のバラケ作りでは前述のブレンドパターンとは異なるもので実釣をスタートさせた。彼にとってはやや冬っぽいものだといって「粒戦」100ccを「粒戦」50cc+「粒戦細粒」50ccに、さらに「セットアップ」100ccと「バラケマッハ」100ccは「バラケマッハ」150ccと「カクシン」50ccに置き換えたもので打ち始め、ウキの動きが徐々に活発化するのに伴い、2ボウル目からはよりタナまで持たせやすい前述の決まりブレンドとしたのだ。

「最初のバラケでも手を加えることである程度合わせることは可能ですが、無理くり合わせることは得策ではありません。今回は途中から明らかにへら鮒の方がエサに対して距離を詰めてきたのが分かりましたので、無理せずタナまで楽に持ってそこで抜けるブレンドに変更しました。結果として先のブレンドでは持たないことが多かったタナまで確実に持ちこたえるようになり、そこでタイミングよく抜くことでややウワズリ気味のへら鮒の動きを抑制すると、さらに直下に落ちる『粒戦』と『ヤグラ』の特性によってウキの動きにメリハリが生まれ、効果的にくわせエサへ誘導することができるようになりました。」

バラケのブレンドを決める際には必ず狙いを明確にし、個々の麩材の特性をよく理解したうえで品種や量を組み合わせることが肝心だと萩野は力説する。実際に過去の釣技取材においてもわずかな違いによって釣況を好転させてみせたケースは少なくない。たかが1杯されど1杯、場合によってはわずか50ccの違いで劇的なウキの動きの違いをみせつけたこともあり、ブレンドの重要性は想像以上に大きいことを肝に銘じたい。

萩野流 春の浅ダナウドンセット釣りのキモ その二:〝抜き〟はハリスを詰めるためのテクニック。仕組みを正しく理解せよ!

へら鮒の動きそのものが鈍くなると同時に、食いが渋くなる冬場に有効とされる抜きバラケのセット釣りだが、もちろんへら鮒が動き始める春にも有効だ。ただし無闇に抜いただけでは上手く釣れないことは読者諸兄も十分承知されていよう。そもそも抜きバラケのセット釣りはなぜレスポンスが低下したへら鮒に有効なのだろう。

「エサの芯から遠巻きになることが常態化し、接近戦が効かない冬のへら鮒に対して一定の間合いを取ることでアタリがでやすくなることは当然のことですが、そのためにはどうしても下ハリスを長くしなければなりません。しかし長いハリスはサワリやアタリがでやすい一方で、無駄な動きや糸ズレを含めた動きが多くなるというデメリットも生じます。そうしたなかで生まれた抜きバラケの釣りですが、基本的な仕組みはバラケとくわせエサの間合い(距離)を人為的に操作することで、短バリスでも長ハリスと同様の効果を得ることを可能にするというものです。」

萩野の理論をイラストで紹介しているので参考にしていただきたい。イメージとしては持たせバラケではタナ1mにあるオモリよりも下に位置する(ぶら下がる)バラケを意図的に上層で抜くことで、その位置を仮想のバラケ位置とみなしたうえでハリスの長さを決めるという感じであろうか。たとえば持たせバラケでは50cmの下ハリスが必要なケースでも、10cm程度上層で抜くことで40cmの下ハリスでも理論上適切な間合いが取れるようになり、無駄な動きを極力抑え明確なアタリがだしやすい短バリスのセット釣りが可能になるというわけだ。

「100%上手くいく保障はありませんが、こうした考えで組み立てる習慣をつけると大きく外れることはなくなり、さらに状況にマッチしたブレンドのバラケを使うことで、その精度は飛躍的にアップするはずです。抜きバラケというと単にウキがナジむ前にバラケを抜くものと誤解されている人も少なくないようですが、肝心なのはへら鮒とくわせエサとの距離感であり、離れたままで接近してこないときほど早く(上層で)抜き、接近して来るに従い遅く(下層で)抜くことがキモになります。」

萩野流 春の浅ダナウドンセット釣りのキモ その三:抜きバラケを支える小技の力

春の浅ダナウドンセット釣り攻略のカギはバラケのブレンド、そして扱い方(抜き方)にあることは萩野の釣りからも明らかだが、それだけで釣りきれるほどへら鮒釣りは甘くない。彼は明確極まりない基本の釣りを柱に、随所にキラリと光る小技を交えながら富里乃堰のへら鮒を見事に攻略してみせた。記者は最後にそれらを紹介しておかなければなるまい。

❶基エサのブレンドはもちろんのこと、適宜「粒戦」や「粒戦細粒」を追い足しすることで抜きを維持しながらも確実にタナを下げ、へら鮒の口をくわせに向けさせる。

❷正確なエサの打ち込みと適切なラインメンディングによりウキの立つ位置の直下にバラケを落とし込み、くわせとのシンクロ率を高次元で維持し続ける。

❸風が強く吹く日が多い春の釣りに流れはつきもの。取材時も途中から吹きだした強い南西風による流れにアタリが寸断。まずはバラケのサイズをひとまわり小さくして拡散範囲を抑えると、緩やかな流れに対しては水中でのバラケの流され方(速度と範囲)をイメージしながら、エサの打ち込みポイントを適宜流れの上方に変えることで凌ぎ、強い流れに対しては踏ん張りの利くパイプトップウキに交換して、流される幅を極力抑えながらアタリを維持することに努めた。

❹ハリスワークは大胆かつ繊細に。決まるであろうと想定される長さよりもやや長めから入り、徐々に詰める方向で合わせるのがセオリー。ただし今回は状況がまったく分からない状態で臨んだためスタート時の設定が長過ぎたようで、最初の調整で一気に10cm詰めることでへら鮒との間を詰めたが、通常は5cm単位で詰めるのが萩野流だ。

管理がゆき届いた富里乃堰のへら鮒のコンディションと、攻め方を的確に合わせた萩野のテクニック。動画の映像からも分かるように両者が噛み合った釣りはとても早春とは思えないほどのウキの動きをみせたが、釣りが決まるとこれほどまでに気持ちよく釣れるものかと驚くと共に、紹介する小技が少なくて申し訳ない気持ちもありつつも、まだみていない萩野の珠玉のテクニックはまたの機会にと取っておくことにしよう。

記者の目:無理なく無駄なく、釣況に応じてやるべきことをタイムリーに行う萩野流

いつもながら明快この上ない釣りを披露してくれた萩野。端境期のやや難しい時合いのなかにあってもそのスタンスは変わることなく、スカッと釣りを決めてみせた。キモはなんといってもバラケのエサ合わせとエサ使いに尽きるが、これほど無理なく無駄なく気持ち良く決めるためにはバラケそのものが時代に、そして釣況にマッチしていなければならないことは明らかだ。今回の釣技でぜひ参考にしていただきたいのは、バラケのブレンドはもちろんのこと、それを端境期特有の時合いに応じて的確に合わせること。バラケはブレンドする麩材個々の特性を生かしきってこそ100%のパフォーマンスが果たせることを認識し、過剰にいじくり回したりしないで打ちきることを習慣づけたい。そしてバラケを抜くタイミングや持たせ具合を釣況に応じてタイムリーに打ち分ける萩野流のエサ合わせ&アプローチを参考にして、間もなく絶好機を迎える春の浅ダナウドンセット釣りを思う存分楽しんでいただきたい。