稲村順一が徹底レポート「釣技最前線」第129回 「西田一知のチョーチンバラグルセット釣り」
昨秋の発売以来、既に多くのアングラーの支持を得ている新エサ「ヤグラ」。そのテリトリーは管理釣り場にとどまらず野釣りにまで及ぶ。今回それを実証してみせてくれたのがマルキユーインストラクター西田一知。管理釣り場のへら鮒も食い渋るウィンターシーズン真っただなかに彼が訪れたのは、埼玉県本庄市児玉町にある間瀬湖だ。夏場には地べら化した良型が数多く釣れる釣り場として人気が高い準山上湖だが、長年に渡る地道な放流が実り、冬場にも釣果が得られる貴重な野釣り場として人気が高い。今回の西田へのリクエストは「ヤグラ」を使ったバラケで数釣りをみせてもらうこと。手堅く攻めるのであれば桟橋に居着いた放流べらを狙う方が無難なのだが、なんと彼は盛期の釣りのようにボートで深場を攻めるという。直近の釣果情報が少なく不安視する記者を尻目に、彼はボートの舫いを解き1本オールで静かに漕ぎだした。
野釣り場における「ヤグラ」の可能性にいち早く気づいていた西田。躍動感溢れる幅広い攻めが炸裂する
桟橋を離れた西田が向かった先は、通称「第二石垣前」と呼ばれる深場のポイントだ。盛期にはボートで狙うアングラーの姿が絶えることのない人気ポイントだが、この日は居着きの新べらが釣れていると情報があった桟橋や、底が取れる陸釣りの限られたポイントに10名ほどのアングラーの姿がみられるだけで、この寒空のもとボートで狙おうというアングラーはみられない。状況はよくわからないが深場であればウキを動かすことはできるだろうと読んだ西田はロッドケースから22.5尺を取りだすと穂先一杯の位置にウキをセットし、チョーチンバラグルセット釣りの支度を始めた。
「桟橋で釣れているタナはそれほど深くないので21尺でも釣れるとは思うのですが、念のため深めのタナから始めて様子をみましょう。比重が大きくまとまり感の強い『ヤグラ』がこうした深場の釣りに適していることは容易に想像ができると思いますが、今回みていただきたいのは単に比重やまとまり感だけではなく、私がこの時期のチョーチンバラグルセット釣りにおいて理想としている「追わせながら食わせる」攻めの釣りにも適応できるポテンシャルを持っているところですので、カメラマンさんにはそのウキの動きをバッチリ収めていただきたいと思っています(笑)。」
西田には過去何度かチョーチンバラグルセット釣りを披露してもらっているが、そのアプローチの基本は開きながら水中を落下する軽いバラケを追わせながら次々とタナにへら鮒を呼び込み、ナジミきるや否や食い頃に膨らんだグルテンを食わせるというもの。果たして「ヤグラ」の特性がこうしたアプローチに適応できるのだろうか?
「ちょっとしたコツはありますが、それさえ体得できれば従来のバラケよりもいいと感じるに違いありません。キモになるのは、強烈な個性である重さとまとまり感を余力を持って活用し、メリットとして生かしきるエサ作りと扱い方であり、今日はそのあたりをみていただきたいと思います。」
支度が整うと早速エサ打ちを開始した西田。山並みに朝陽が遮られ、ストーブを焚いていないとエサ付けもままならないほど冷え込んだ早朝、アタリだしには時間がかかるだろうと言いながらテンポよくエサ打ちを繰り返していると、思いのほか早くウキに魚信が現われはじめた。しかしここはワカサギ釣りもできる間瀬湖なので、ウキを動かしているのがへら鮒以外の可能性も否定できない。しかし乗らないと分かっていても小さな動きに積極的にアワせながらさらにリズムよく打ち返していると、やがてそれまでとは異なる明らかに力強いアタリがでるようになり、早々にファーストヒットが決まる。そしてこの1枚が真冬の爆釣劇場開幕の合図となった。
使用タックル
●サオ
シマノ飛天弓「閃光LⅡ」22.5尺
●ミチイト
サンライン パワードへら道糸「奏」1.0号
●ハリス
サンライン パワードへらハリス「奏」 上=0.5号-25cm、下=0.4号-65→60cm
●ハリ
上=オーナーばり「バラサ」7号、下=オーナーばり「セッサ」3号
●ウキ
忠相「ツアースペックF」 No.13
【パイプトップ180mm /一本取り羽根ボディ135mm/竹足60mm/オモリ負荷量≒2.1g/エサ落ち目盛り=全11目盛り中9目盛りだし】
取材時使用エサ
●バラケエサ
「グルバラ」200cc+水200cc(水を加えてドロドロになればOKで、特に吸水時間をとることはない)+「段差バラケ」200cc+「バラケマッハ」200cc(2種の麩材を加えたら一旦水がゆきわたるようによくかき混ぜておく)+「ヤグラ」200cc
五指を熊手状に開き、掘り起こすように大きくかき混ぜて全体に均等にゆきわたらせる。今回「ヤグラ」は締めエサ的な役割を果たすわけだが、不要なネバリや経時変化を抑制するためにできるだけかき混ぜる回数を少なく仕上げるのがポイント。エサ付けサイズは直径15~16mmの球形に近い形でまとめたものにハリを押し込むようにして行い、チモトを押える回数と強さだけでエサ持ち具合を微調整。ラフ付けと丁寧付けの差は極端に目立つものではなく、注意して見ていないと分からないレベルの違いであり、西田が基本としているバラケを追わせながらタナに呼び込みグルテンを食わせるアプローチには欠かせないエサ付け方法である。
●くわせエサ
「わたグル」50cc+「凄グル」50cc+水120cc
水を加えたら指を使ってよくかき混ぜ、ややかたまり始めて指先に引っ掛かるような感じになったら手を止め、ボウルの隅に寄せて吸水を待つ。使用時にはゴルフボール大のかたまりを小分けしたものに30~40回押し練りを加えて用いるのが基本。標準的なエサ付けサイズは直径8mm前後の水滴型で、打ち始めはややラフ付けもみられたが、アタリが続くようになってからは毎投丁寧にエサ付けをして落下途中で早く開きすぎないように注意していた。
西田流「ヤグラ」バラケのチョーチンバラグルセット釣りのキモ そのⅠ:ウドンセット釣りとは一線を画する西田流バラグルセット釣り特有のアプローチ
西田には過去何度かチョーチンバラグルセット釣りを披露してもらっているが、時代は変われどもその基本的アプローチは今でも変わらない。
「まず理解しておかなければならないのは冬期におけるウドンセット釣りとバラグルセット釣りの違いです。端的に言ってしまえばグルテンを追わないくらい食いが渋くなればウドンセット釣りの出番ということになるわけですが、間瀬湖のような野釣り場のへら鮒はグルテンを好む傾向が強く、厳寒期といえどもバラグルセットで攻めるのがセオリーです。そのときのアプローチとしては管理釣り場のウドンセット釣りのようにバラケを意図的に抜いてくわせのグルテンだけで待ったり、バラケを持たせたまま縦サソイを繰り返してアタリを引きだしたりするようなことはしません。たとえへら鮒の動きは鈍くてもバラけるエサに興味を抱かせ、動くエサを追わせながらタナを作り、安定した時合いのなかで攻めの釣りを貫くのが自分流の理想のアプローチなのです。」
そのために必要なのは狙いにマッチしたエサはもちろんのこと、アプローチを全うするための適切なタックルセッティングが必要不可欠であることはいうまでもない。前述のタックルからもわかるとおり、キモになるのはへら鮒にバラケに対して興味を抱かせることができる上ハリスの長さと、タイミングよく膨らみ自らその存在をアピールするグルテンの動きをナチュラルに演出する下ハリスの長さ。さらに水中にある上下のエサの位置と動きを正確に表現できるウキの存在を忘れてはならない。過度にナジミすぎず比重のあるバラケを支えきれるパイプトップウキが西田流のアプローチを下支えしていることは明らかだが、ここまで整えたタックルを生かすも殺すも、バラケの特性を引きだす使い方が疎かでは決して目的を果たすことはできない。そこで次に紹介するのは肝心要のバラケの扱い方についてだ。
西田流「ヤグラ」バラケのチョーチンバラグルセット釣りのキモ そのⅡ:追わせるバラケは重くしすぎない、まとめすぎない
西田は取材冒頭で「ヤグラ」の持つ個性的ともいえる重さとまとまり感を大いに評価する一方で、扱い方を誤るとかえってアタリがでにくくなってしまうこともあるので注意が必要だと言う。
「ウドンセット釣りでは『ヤグラ』の個性である重さとまとまり感が大きなメリットになりますが、バラグルセット釣りでは逆にデメリットになる恐れがあることを理解し、そうならないための作り方や扱い方を心がけることが必要です。ポイントは基エサ作りの段階ではまとまり感を抑えるためにできる限り加える手数を減らすことと、経時変化によりエサが締まったときには適宜ほぐしながら使うこと。さらにエサ付けの段階では圧を加えすぎず、かといって甘すぎず、常にへら鮒がバラけるエサに興味を抱き追ってくれるようなエサ付けが肝心で、タナに入った時点でバラけた粒子のなかにくわせのグルテンをシンクロさせることこそが重要なのです。」
西田はバラグルセット釣りをする際、バラケをウドンセット釣りのバラケのように上からくわせエサに被せる(降り注がせる)ようには考えず、両ダンゴ釣りにおけるダンゴエサのようにへら鮒の興味を惹きつけながら上から追わせるイメージを持って臨んでいる。従ってバラケを持たせることに重きを置き単にウキを深ナジミさせるだけのバラケではこの釣りは成立しない。西田が最も気を遣っているのがエアーのかませ方で、基エサ自体ふっくら仕上がり粒子同士が密着することなく十分な空気が含まれていることがわかる。さらにエサ付け時にはウキの動きを見ながらナジむ速度が速いときは圧を弱め、ナジミ途中で止められたりナジミ幅が十分にでないときには適宜圧を強めたりするなど、常にベストのエサ付けを怠ることはなかった。
西田流「ヤグラ」バラケのチョーチンバラグルセット釣りのキモ そのⅢ:緩急自在なアタリの取り方・狙い方
これは何も「ヤグラ」バラケに限った話ではなく、バラグルセット釣りにおけるアタリの取り方が西田流チョーチンバラグルセット釣りを成立させる上での極めて重要なキモとなっていることは過去の釣技最前線の実釣においても明らかだ。この釣りは厳寒期のウドンセット釣りのようにバラケを抜いては成立しない。読者諸兄も実際に試していただければおわかりいただけると思うが、バラケを抜いてしまってはアタリがでないのだ。従って持たせることが絶対条件なのだが、単に持たせればアタリがでて釣れるというものでもない。持たせるだけであれば「ヤグラ」の重さとまとまり感があれば十分に果たせるだろう。否、むしろ「ヤグラ」にすべてを委ねてもよいくらいだ。しかしそう上手くいかないところがへら鮒釣りの難しいところであり面白いところでもある。
「開きがよすぎるバラケやタナまで持たないバラケでは言語道断、逆に粘土や石のようなかたまりバラケでもコンスタントに釣れ続くようなアタリは期待できません。ダンゴエサのようなエアーを程よく噛んだ(含んだ)適度に開くバラケでへら鮒の興味を惹きつけながら、自ら膨らみその存在をアピールするグルテンをその粒子と同調させることが肝心です。こうした狙いを達成するのに『ヤグラ』は実に好都合で、エサ付け時のコツさえつかめれば重さとまとまりのよさが自然とへら鮒の摂餌を刺激しながらタナへと導き、ナジミ際の早いアタリを演出してくれるのです。もちろん状況によっては早いタイミングばかりではありません。ウキが完全にナジミきってからのモドシ際にでることもありますので、アタリに対して常に臨機応変にアワせることが必要です。これはバラグルセット釣りの特徴なのですが、中小型の新べらが口を使ってくるときは比較的アタリは早く、一方で地べら化した良型のへら鮒が口を使うときはアタリが遅くなる傾向です。」
こうした状況は実釣時にも明確に見てとれた。始めに反応したのはエサに対するレスポンスがいい8~9寸級の新べら。バラケがナジミきるか否かの早いタイミングで小さくチャッと落とすアタリでヒットしていたが、タナが安定し、新べらの動きが落ち着いた頃には良型の地べらがこれに代わり、深くナジんだウキのモドシ際にカチッと力強く入るアタリが多くなるとさらにヒット率が向上。長竿で深場から抜き上げるダイナミックな釣りに酔いしれる西田。
「この釣りではアタリがでるタイミング、また新べら旧べらといった違いによってもアタリ方が異なります。比較的長めのハリスを使うためハリスが張る前の早いタイミングで食うと小さくソフトなアタリになることが多く、また動くエサを積極的に追う新べらは必然的に早いタイミングで食う傾向なので、新べらが釣れているときは積極的にこうしたアタリを狙います。一方でウキがナジミきりハリスが張った状態ででるアタリは力強く大きなアタリになることが多く、じっくりとエサを見極めるエサ慣れした地べらはこのタイミングで食うことが多いようです。こうした違いを意識してアタリを選別するのもこの釣りならではの面白さで、狙いどおりにアタリがでるようになれば冬場といえども大釣りの期待が膨らみます。」
記者の目:クセ強「ヤグラ」はこう使え!じゃじゃ馬を乗りこなすがごとき西田流エサ使いの妙
ひとことでいえば「ヤグラ」はその個性を前面に押しだしたクセの強いエサである。重さやまとまり感といった特性が明確であり、分かりやすいエサといえばこの上なく分かりやすいが、扱いようによっては時にその個性が前面にですぎてしまい釣りを難しくしてしまうことがある。たとえば今回のような釣りがその好事例であろう。西田はじゃじゃ馬のようなクセ強「ヤグラ」をその類い希なるテクニックでマイルドに変化させ、その特性をMAXではなく内包する重さとまとまり感のうち必要な分だけを引きだしてみせた。「へらエサはブレンドされた個々の特性をすべて引きだしてこそヨシ!」と思い込んでいた記者にとって、そのエサ使いはまさに目から鱗の新たな気づきであった。実際、西田のエサを手に取り指先で揉み込んでみると、その度合いによって大きくタッチが変化することが実感でき、基エサのいじり方次第ではブレンドされた麩材の特性を自在にコントロールでき、必要なレベルまで余裕を持った状態で扱うことで西田のように爆釣に持ち込むことができることが分かった。たとえるならば「高性能のスポーツカーを高速道路の制限速度内で余裕を持って運転するようなもの」とでもいえばお分かりいただけるであろうか。名手の技に触れれば触れるほど新エサ「ヤグラ」のポテンシャルは未だ計り知れず、なお奥深く未知なる可能性を秘めていると感じた取材であった。