稲村順一が徹底レポート「釣技最前線」第127回 吉田康雄のチョーチンウドンセット釣り|へら鮒天国

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稲村順一が徹底レポート「釣技最前線」第127回 吉田康雄のチョーチンウドンセット釣り

新型コロナもやや落ち着き、ようやく全国レベルのトーナメントが再開された今年。3年振りの開催となったシマノジャパンカップでその栄冠を見事手中に収めたのは、ご存知マルキユーインストラクター吉田康雄その人だ。彼には今春「釣技最前線」に登場していただき、ブラッシュアップされた近代チョーチンウドンセット釣りを披露してもらったばかりだが、そのとき彼は「早く勝負の場に立ちたい、熱い釣りを魅せたい!」と心の叫びを憚ることなく記者にぶつけており、JC戴冠はまさに絵に描いたような有言実行劇となったことになる。当然、今回の釣技最前線ではそのときの釣り方を再現か…と期待された読者諸兄もおられるだろうが、今回スタッフが企画したのはJCを制したチャンプの至極のテクニックではなく、現代チョーチンウドンセット釣りを知り尽くした吉田康雄に、新エサ「ヤグラ」のファーストインプレッションを伝えてもらおうというものだ。そしてその舞台は、なんとJC全国決勝大会が開催された友部湯崎湖。早速彼は発売されたばかりの「ヤグラ」のパッケージを手に取り、裏書きにあるチョーチンセット釣り用のブレンドでバラケエサを作り始めた。

「これは釣れる!」チャンプ吉田の第六感

この日初めて「ヤグラ」に触れ、裏書きどおりのレシピでチョーチンウドンセット釣り用のバラケを作り始めた吉田。仕上がったボウルの中のバラケを改めて手に取り…

「あくまで直感ですが、これは釣れるエサですね。僕はもちろん使われている素材については知りませんが、できあがったエサを摘まんだりまとめたりしたときの手触りはもちろんのこと、エサ作りをしているときに感じた粒子感や色なども含め、現代チョーチンウドンセット釣りに必要不可欠な要素をすべて兼ね備えており、まだ実際に使っていない現時点でも間違いなく釣れるエサだと感じますよ。」

これこそがJCチャンプ吉田のファーストインプレッションであり、まだエサ打ちも始めていない段階での率直な感想である。決して自らインストラクターを務めるマルキユーの製品だからというエコ贔屓や忖度ではなく、トップアングラー吉田康雄の第六感が言わしめた言葉であることはいうまでもないが、トーナメントにおける数多の修羅場をくぐり抜けてきた彼ならの言葉に記者はうなずくばかりだ。実際に吉田が仕上げたバラケを手に取ると、既存の麩材では感じたことがない粗い麩が際立つ一方で、指先で摘まんでギュッと圧を加えたときのまとまり感がまるで反比例しているようで、正直このようなバラケに触れたことがない。

「確かに基エサはかなり粒子感の際立つタッチですので、まだ両ダンゴでも釣れる状況下では手水と撹拌によってシットリ系でさらにまとまるタッチに調整しなければ、へら鮒を自在にコントロールできないことは明らかです。しかし、いま手水で調整した感じではかなりきめ細かくタッチが変化してくれるようですし、初めてのエサでもあるので今日のところは思い切っていじりながら釣り込んでみましょうか。」

この日のへら鮒はゆっくりと動き始めたが、一旦食い気のスイッチが入ると堰を切ったように釣れ始まり、入れ食い状態に突入するまでそれほど時間はかからなかった。ここまで吉田が行ったことはバラケの手水調整とハリスを段階的に詰めただけであり、基本的には新エサ「ヤグラ」のポテンシャルに任せただけで釣りを決めたことになる。

「だから言ったでしょう、釣れるエサだって(笑)!ただし問題はこの後です。これだけへら鮒が挑んでくる状態ですから、このまま簡単に釣れ続くとは思っていません。重要なのは調整の容易さと幅ですから、ここからさらに本格的に釣り込んでみましょう。」

使用タックル

●サオ
シマノ 普天元「獅子吼」9尺→飛天弓「皆空」8尺

●ミチイト
東レ「将鱗へらTYPEⅡ道糸」1.0号

●ハリス
東レ将鱗へらハリス「スーパープロプラス」
上=0.6号-8cm、下=0.5号-40cm~18cm
※下ハリスの長さは状況に応じて調整。最終的には24cmで決まる。

●ハリ
上=ハヤブサ鬼掛「極ヤラズ」8号、下=ハヤブサ鬼掛「軽量関スレ」4号→「ストロングストレート」3号

●ウキ
吉田作「深ダナパイプ(改)」8番
【1.4mm径中細パイプトップ13.0cm/6.3mm径カヤボディ8.0cm/1.2mm径カーボン足6.0cm/オモリ負荷量≒1.24g】
※エサ落ち目盛りは空バリの状態で11目盛りトップの7目盛りだし(くわせエサを付けると6目盛りだし)。なお途中でウキがナジミにくくなった時点でオモリ負荷量≒1.78gの九番にサイズアップ。

取材時使用エサ

●バラケエサ

「粒戦」100cc+「とろスイミー」50cc+水150cc(吸水のため約10分放置後)+「ヤグラ」200cc(一旦ザックリと混ぜ合わせてから)+「BBフラッシュ」100cc

粗い白い粒子が目立たなくなるまで丁寧に撹拌し、ダマをほぐして仕上げる。タッチの調整は手水+撹拌が基本(詳細は動画参照)。

●くわせエサ

「魚信」2分包+水140cc

近年はウドンを電子レンジで加熱処理したあと、ラップに包んでポンプだしで使うアングラーが増えたが、吉田は昔ながらの鍋炊き+絞りだし+安定材(「わらび職人」漬け)スタイルを貫く。そのこだわりの理由については「わずかな違いかもしれないが…」と前置きしたうえで「しっかりしたコシのなかに独特のやわらかさがあり、それがウドンを口にしたへら鮒の口腔内に長時間留まる要因となり、カラツンの軽減に寄与していると感じている」とのこと。

吉田康雄の「ヤグラ」ファーストインプレッション&推しポイント そのⅠ:現代セット釣りに最適化された重さ・開き・まとまり感

初めて使うエサにもかかわらず、あっという間に連続ヒットさせるテクニックはさすがにJCチャンプと見とれていると、

「打ち始めのナジミ方には正直驚きました。軽くまとめただけでもトップが沈没するくらい深くナジんだため普段よりも縦サソイを多めに繰り返してバラケを促進しましたが、このときのバラケの開き方も縦サソイの強弱に高精度でシンクロしていることが感じられました。このことから分かったのは『ヤグラ』が重く、持ちがよいのでナジませやすいこと。それも単にナジませやすいだけではなくタナでの開き加減をコントロールしやすいこと。さらに特筆すべきことは、特に自分は意識していなかったのですが、タナに寄ったへら鮒が勝手にというか、自然にくわせエサに誘導されているような感じがしましたね。おそらく粒子の沈下の仕方がへら鮒をそうさせているのだと思いますが、従来のバラケエサのように不用意に開かせると途端にウワズったり、タッチや開き方をきめ細やかに調整しないとくわせエサに誘導できなかったりということが少ないように感じます。これは極めて重要なことであり、『ヤグラ』の重さや開き具合、まとまり感といったものが現代セット釣りにマッチしていることの証ですね。」

わずか1時間足らずの実釣にもかかわらずここまで新エサの特性を見抜いた吉田。もちろん好調の要因には友部湯崎湖のへら鮒のコンディションの良さがあることはいうまでもないが、自らのテクニックに奢ることなく新エサのポテンシャルを引きだすことに専念したアプローチに徹することで、こうしたエサの特性にいち早く気づくことができるのも吉田のセンスに違いない。この日のへら鮒は両ダンゴでも釣れるほど活性が高く、エサを打つほどに水面直下のへら鮒の群れが大きくなるような状態であったため、バラケが上バリに残っていないとほぼ食いアタリがでなかった。

「へら鮒の活性が高い方が新エサのポテンシャルを実感できるかもしれませんが、これほどの誘導力があれば間違いなく抜きバラケの釣りもイケるでしょう。たとえば厳寒期の浅ダナでのゼロナジミの釣りや、しっかりナジませて自在にバラケを開かせタイミングよく抜く段差の底釣りでもハイレベルのパフォーマンスを発揮するに違いありません。」

吉田康雄の「ヤグラ」ファーストインプレッション&推しポイント その:類い希なる誘導力で寄せたへら鮒がくわせエサに一直線!?

開始から2時間が経過した頃から、それまで深ナジミしていたウキがナジまない投が少しずつ増えてきた。この状況に対して吉田は、

「ウキがナジミにくくなりましたが、さらに手水と撹拌を加えてまとまり感を増しただけでウキがナジむようになり、バラケを食う投も増えましたが相変わらず高ヒット率で釣れ続いています。これこそが『ヤグラ』の誘導力の強さなのでしょう。」

ウワズリ抑制はもちろんのこと、バラケに寄ったへら鮒を最終的な目的地点であるくわせエサの位置まで誘導し摂餌を促すために「粒戦」や「粒戦細粒」といったペレット系添加材が有効であることは多くのアングラーの知るところであるが、これらの添加剤が多く含まれたバラケはまとまりにくく、エサ付けが大変難しいという致命的な欠点がある。特にバラケを持たせなければアタリがでにくい高活性時にはなんとも扱いづらいシロモノであり、セット釣りの名手でさえも扱いに難儀しているといった事実がある。もちろん吉田自身もこうした苦労を経験してきたひとりである。

「抜きバラケの釣りが成立するくらい活性が低いときはこうした悩みや苦労は感じませんが、へら鮒の動きがまだ活発で持たせバラケのアプローチでなければアタリがでないといった状況下では、とにかくバラケをタナまで持たせることが必要不可欠です。しかし単に塊のまま持たせたところでアタリがでるはずもなく、タナに入ったところで的確に開いて直下に位置するくわせエサに誘導できなければ何の意味もありません。こうした釣りの組み立て方をセット釣りの名手だけでなく一般的な多くのアングラーでもできるのが『ヤグラ』の最大のメリットかもしれません。」

吉田康雄の「ヤグラ」ファーストインプレッション&推しポイント その:軸が決まれば展開は自由自在。攻めのバリエーションは無限大

取材中、何気なくつぶやいた吉田のひとことが記者の脳裏に深く刻まれている。それは…「自分自身得意なブレンドパターンは決まっていても、釣況にマッチしたベストのタッチを探り当てるのは決して簡単ではなく、いつも数多くの手を加えながらその日その時の釣況に対しベストと思われる唯一無二のタッチを作り上げている…」というものだ。当然ながらタッチはその都度異なるが、その狙い(目的)は常に変わることなくタナに寄せたへら鮒をくわせエサへと導くことである。およそどんなバラケであってもタナの近くにへら鮒を寄せることはできる。しかし問題はその後であり、肝心のくわせエサにへら鮒の口が向かわなければいい釣りは望むべくもない。今回、吉田にはJCを制した得意のチョーチンウドンセット釣りで「ヤグラ」のポテンシャルを体感してもらったわけだが、最後に吉田に新エサの感想を聞いてみた。

「今日の釣りを見ていただければ僕が最初に感じた〝釣れるエサ〟であることは間違いなかったことがお分かりいただけたでしょう(笑)。正直、今日は何も特別なことはやっておらず、バラケに関しては手水と撹拌によるタッチの調整だけに止め、タックルではハリスの長さ調整をメインにカラツン軽減を図り、予想をはるかに上まわる過剰なへら鮒の寄りに対してはウキのサイズアップで対応しました。基本的にはこれだけで、あとは『ヤグラ』のポテンシャルに完全に身を任せて楽な釣りをさせていただきました(笑)。これからは徐々に抜きバラケの釣りがよくなる季節ですが、アプローチは異なっても組み立て方は大きく変わることはありません。『ヤグラ』によって軸が決まれば後の展開はアングラーの意のままに自由自在にコントロールできると思います。今回は持たせバラケのチョーチンウドンセット釣りでしたので『BBフラッシュ』でまとまり感を強化しましたが、抜き系の釣りであれば『セット専用バラケ』などをブレンドするのもいいでしょうし、厳寒期に有効な段差に底釣りで使うのであれば『粒戦』と『ヤグラ』だけでもいけるかもしれません。もちろんブレンドは自由自在ですから、攻めのバリエーションも無限に広がることでしょう。」

記者の目:「ヤグラ」は近代トーナメントに射し込んだひと筋の光!?

吉田が制したシマノJC(ジャパンカップ)がそうであるように、多くのメジャートーナメントの決勝戦は晩秋に開催されるため〝セットを制するものがトーナメントを制する〟といった図式が確立されており、それは昔も今も変わらぬ法則であり、定説となっている。そんなセット釣りを得意とするトップアングラーのみが活躍できる舞台と化している近代トーナメントシーンに、一石を投じる可能性を秘めているのが新エサ「ヤグラ」の登場であり、間違いなく現代セット釣りを容易にしてくれると同時に、これまで埋もれていた(であろう)未来のトップアングラーが台頭する可能性を秘めている。長いへら鮒釣りの歴史を紐解くと、釣り方の大きな転換期を迎えるきっかけとなるようなエサがいくつか生まれている。記者の記憶に刻まれているのは「バラケマッハ」や「ダンゴの底釣り夏/冬」、取り分け「粒戦」の登場は自身の釣りをも大きく変えた革新的なエサとして今も鮮明に覚えている。これらに共通するのは、よく釣れるエサことであることはいうまでもないが、加えて初中級者にも簡単に扱えて釣れるという極めて高いハードルをクリアーしている点が挙げられる。「ヤグラ」にはそんな臭いが感じられ、そのポテンシャルに吉田もすぐさま気づいた。そして記者が言葉にするまでもなくその意図を汲み取り、自ら簡単に釣れる扱い方を実践してみせることで、エサ自体のポテンシャルだけで釣れることを証明してくれたのだ。今シーズン間違いなく台風の目となるであろう「ヤグラ」。来年のトーナメントシーンでは新エサで活躍するニューカマーがチャンプ吉田の座を脅かす存在になるかもしれない。