稲村順一が徹底レポート「釣技最前線」第126回 綿貫正義のスーパー(特別な)カッツケウドンセット釣り
立て続けに襲来した台風に居座る秋雨前線、さらには季節外れの寒波と三重苦に見舞われた今秋。難しい時合いに悩まされた読者諸兄も多いのではないだろうか。こうした悪条件は容赦なくへら鮒の活性を鈍らせ食い気を奪ってしまうが、名手のテクニックを紐解く釣技最前線の取材を決行するにはまたとないチャンス。今回のテーマは端境期における浅ダナウドンセット釣り。それもタナ規定のないフィールドでのカッツケウドンセット釣りのプロセスを紹介すべく、スタッフが目指したのは千葉県柏市にある清遊湖。この日は土曜日とあって午前6時前の集合時には例会組をはじめ多くのアングラーで賑わうなか、最後尾で入場した一行が向かったのはもちろんタナ規定のない最奥マスにある東桟橋。先頭を行くのはマルキユーインストラクター綿貫正義。同湖は6月以来の釣行でありカッツケ釣り自体も久し振りだというから、ゼロからの組み立て方を披露するにはまさにうってつけの人選であろう。ところが予想以上に釣り座周辺のモジリは少なく前日の降雨による食い渋りは必至とみられ、さらには人気釣り場ゆえの混雑も追い打ちをかけるなか、入場の喧噪が収まり落ち着きを取り戻した湖面に、大きめにエサ付けされたバラケが静かに打ち込まれた。
力任せに決めようとするとドツボにハマる現代カッツケウドンセット釣りの難しさ
「タナが上がったら上がったなりにウキ下を浅くして釣れるカッツケ釣りは楽だと思うのは大きな間違いで、タナを絞れるようで絞りきれない、釣りが決まりそうで決めきれないことが現代カッツケウドンセット釣りの難しさだと思います。かつてはエサが決まれば時間当たり20枚、30枚といった釣果も可能でしたが、へら鮒が大型化するのに伴い数釣りはもちろんのこと、長時間同じペースで釣れ続かせることができなくなってしまいました。特に近年は時合いの変化が激しく、背ビレをみせて水面に湧いたかと思うとすぐに落ち着いてしまったり、4~5枚続けて釣れたかと思うといきなりノーサワリになってしまったりと、とにかくへら鮒の状態が安定しないのです。」
支度をしながら近年のカッツケウドンセット釣りの傾向についてこう語る綿貫。例会や取材等でタナ規定のある釣り場で釣りをすることが多い彼にとってカッツケ釣り自体頻繁に行う釣り方ではないというが、決して敬遠しているわけではなくむしろ好きな釣り方なので、こうした機会にカッツケ釣りのコツを披露することはむしろウェルカムだと自信を覗かせる一方で、まるで自戒するように、
「安定しないからこそアングラーサイドで力任せにイニシアチブを握ろうとすることはタブーです。決めようとすればするほどドツボにハマってしまう危険性が高まるので、常にニュートラルに対峙すると同時に、釣れないからといってただ漫然とエサ打ちを繰り返すのではなく、考えられるすべてのことを躊躇せず実践してみることが大切であり、ダメなら次の一手、さらに次の一手というように諦めずに続けることも必要なことだと考えています。」
こう解説をしながら支度を調えた綿貫は、ウキ下を約75cmとやや深めにとってこの日の釣りをスタート。恐らくアタリだしは遅いだろうとスローペースで打ち返していると、開始10分ほどで何の前触れもなく突然アタリがでてファーストヒット。しかしアタリは続かずその後しばらくウキは沈黙を続けたが、開始30分を過ぎた頃から徐々にウキの動きは活発化。やがて頻繁にアタリがでるようになったものの、そのほとんどがことごとくカラツンとなり、ヒットペースは上がらない。果たして綿貫はこの状況をどのように打開し攻略したのであろうか?
使用タックル
●サオ
シマノ 特作「伊吹」8尺
●ミチイト
ルック&ダクロン 「ナポレオン」0.8号
●ハリス
上=ルック&ダクロン 「ナポレオン」0.5号-8cm
下=ルック&ダクロン 「ナポレオン」0.4号-20cm〜40cm
●ハリ
上=ハヤブサ鬼掛「極ヤラズ」5号、下=ハヤブサ鬼掛「喰わせヒネリ」3号
●ウキ
弥介「チャカA(太)」2番
【1.8-1.2㎜径テーパーパイプトップ6.0cm/6.0㎜径カヤボディ5.0cm/1.2㎜径カーボン足5.0cm/オモリ負荷量≒0.6g】
※エサ落ち目盛りはくわせエサを付けて7目盛り中3目盛りだし。なおタナを深めにとりバラケをしっかり抱えさせた方が釣れると判断した時点で三番(ボディ5.5cm/オモリ負荷量≒0.7)にサイズアップ。
取材時決まりエサブレンドパターン
●バラケエサ
「粒戦」50cc+「とろスイミー」50cc+「セットガン」100cc+水200cc(5分以上放置して吸水させたあと)+「セット専用バラケ」100cc+「セットアップ」100cc+「パウダーベイトスーパーセット」100cc
3種の麩材を加えたら五指を熊手状に開き、丁寧にかき混ぜて均一に水分をゆきわたらせたら基エサの完成。ボウルのなかで半分に分けて手水を加えてしっとりさせたもので打ち始める。へら鮒のウワズリを抑制しつつもくわせエサへの誘導力を増すときには吸水させていない「粒戦」を適宜基エサに添加。寄せながらもバラケを意図的にくわせにかかるときは「パウダーベイトスーパーセット」の追い足しでダンゴタッチに調整する。
●くわせエサ
「感嘆」10cc+水13cc
あらかじめ「感嘆」1袋に対し「軽さなぎ」20ccと「粘力」スプーン2杯を入れたものを用意。カップに水を注いだところに「感嘆」を加えて指でかき混ぜ、ダマが無くなるまで十分練り込み、コシがでたところでアルミポンプに詰めて使用する。なお、硬さは加える水の量(10~15cc)で調整。
綿貫流 カッツケウドンセット釣りのキモ そのⅠ:こまめな〝タナ合わせ〟で口を使うへら鮒にロックオン!
カッツケ釣りというと小エサで回転の速い釣りが信条だと記者は思い込んでいたが、今回綿貫が披露してみせたカッツケウドンセット釣りにはまったく慌ただしい様子は見受けられず、むしろ意図的にスローペースで攻めているのでは?と思うくらいゆったりとエサ打ちを繰り返す。
「特にカッツケ釣りだからといって速攻で決めようとは思っていませんし、そもそも大型べらが多くなった現代カッツケ釣りは速攻で仕留めようとしても決まるものではありません。基本的にはタナ規定のある管理釣り場のメーターセット釣りと同じような感覚で組み立てていますが、大きな違いとしてはウワズリに対しては無理に抑えようとはしないで、ある程度へら鮒の動きに合わせてタナを浅くするなどして、できるだけストレスなく釣るようにしています。」
この言葉どおり序盤戦はバラケのタッチ調整とハリスワークを軸にポツポツと拾いながら釣り進め、ウキのナジミがでにくくなった時点でタナを15~20cm刻みで徐々に浅くしながら本格的なカッツケモードに突入。しかし「あのアタリが乗らないの?」というほどいいアタリがことごとくスレやカラツンとなり、ヒット率が上がらない。
「これが要警戒のシグナルです。確かにアタリはでていますが、おそらく大半がバラケを食い切れていないか糸ズレの動きなのでしょう。周囲はまだアタリも十分にでていないようなので、明らかな食い渋りであることは間違いありません。しかしこれ以上私自身がヒートアップしてはへら鮒の思う壺なので、とりあえずここではこれ以上深くは踏み込まずに別の対策を考えてみましょう。」
そう言いながらウキを二番から三番にサイズアップさせると、タナも一旦ウキ下50cmほどに深く戻し、その分エサ持ちを強化すべく手水と「パウダーベイトスーパーセット」を追い足してバラケを大きな塊のままタナへと送り込む。この対策によりウキは度々沈没したが綿貫は意に介さず、サソイでバラケを促進させることもなく静かにウキが戻すのを待っている。もちろんこの間もタナの微調整を怠らない。すると間もなくトップが戻した直後、フワフワとした小さなアオリに連動するようにスパッと消し込むアタリがでるようになり、カッツケ釣りとは思えないほどの良型がヒット。しかも2枚、3枚、4枚とそれが続き、前半戦のヤマ場を見事に捉えた綿貫。この要因については改めて次項「キモ そのⅡ」で解説しよう。
綿貫流 カッツケウドンセット釣りのキモ そのⅡ:しっとりタッチの大バラケで、ウキ下に食い気のあるへら鮒を呼び込む!
綿貫が今回使用したバラケのブレンドでは「パウダーベイトスーパーセット」が大きな役割を担っていることは明らかだ。その効果は前述のとおり、綿貫ならではの大きめのバラケを上手くまとめるための適度なネバリを得るためだが、もうひとつの効果として端境期ならではのへら鮒の活性に合わせたエサ合わせ、すなわち食い気のスイッチが入った際にバラケを意図的に食わせるアプローチに適したタッチを得るために他ならない。
「魚をたくさん寄せるためには水分量の少ないボソタッチのバラケエサがよいことは分かっていますが、自分はそうしたタッチのバラケエサをコントロールするのが苦手なのです(苦笑)。そのため私のバラケは他のアングラーに比べて水分量が多く、明らかにやわらかいのですが、水分量の多いエサは粒子の沈下速度が速く、ウワズリ抑制には適しているものの集魚力の点でやや難があります。従ってそうした欠点を補うために大きめのバラケになっていることが私流であることは間違いありません。」
カッツケ釣りのターゲットゾーンは水面下30cmから深くても1m前後までとかなり狭いレンジで勝負する釣り方である。それにも関わらず大きなバラケを使う狙いとは、とにかくウキ下に多くのへら鮒を寄せ、その中に少しでも食い気のあるものを足止めしておくことだと綿貫は言う。
「バラケのタッチには個人差があると思いますが、私には『パウダーベイトスーパーセット』がブレンドされたやわらかめのタッチが合っているようで、これなら大きなバラケでもタナまで送り込めますし、たとえ混雑しても寄せ負けする心配がありません。もちろん抜きも持たせも自在に操れますが、今日のへら鮒の活性レベルから判断すると、たとえ食い渋っていたとしても持たせ系のアプローチが基本になるはずです。」
この言葉どおり常にウキを深ナジミさせて釣り込んだ綿貫。ときにトップを沈没させたまま水中アタリでキロクラスの良型べらを引き抜いてみせたが、このくらい深ナジミを徹底すればたとえ早いタイミングのアタリにアワせてもウワズリを恐れることはないと言う。それどころか深い位置でバラケを切ることでより深いタナにコンディションのよいへら鮒が溜まるケースもあり、こうしたチャンスを見逃すことなくタイムリーにタナを変えて仕留めることも、現代カッツケウドンセット釣りのキモであり、これこそが綿貫が意図する「パウダーベイトスーパーセット」の真骨頂といえるだろう。
綿貫流 カッツケウドンセット釣りのキモ そのⅢ:あらゆる手を尽くし、釣れても釣れなくてもアタリでフィニッシュ!
予想どおりこの日のへら鮒は食い渋った。しかし綿貫の攻略法が決まると連続して釣れ続くシーンも多く見られたことから、攻め方によっては大釣りとはいかないまでも上手く釣果をまとめることができることが分かった。事実、綿貫は目まぐるしく変化する難時合いのなか、ウキの位置をこまめに上下させながら口を使うへら鮒が溜まるレンジを探り当て、食いが悪いとみるとタナを深めにとってアタリを送りながらヒット率を向上。さらに、食い気のスイッチが入ったとみるやタナを浅くして意図的にバラケを食わせる速攻の釣りを織り交ぜ、多くのアングラーがアタリをだすことすら難しい釣況のなか、ベストの釣りを披露してみせてくれた。
「どんな釣りでもアタリをだせなければ釣ることはできませんが、取り分けカッツケ釣りは釣れたり釣れなくなったりの波が激しく、安定して釣れ続かせることが大変難しい釣り方です。だからこそ、なおさらアタリをだし続けることが重要で、たとえそれがカラツンであってもへら鮒の興味を惹き続けるためには、考えられることは何でもやってみることが必要だと思います。数投アタリがなければバラケのエサ付けを変えてみたりタッチを変えてみたり、もちろんタナを変えたりハリスの長さを変えてみるのもよいでしょう。とにかくアタリでフィニッシュすることが肝心で、一番ダメなのはアタリが無いにも関わらずただ漫然とエサ打ちを繰り返すこと。新たな一手を次々と繰り出せれば、たとえ遠回りであっても必ずアタリにつながりますよ。」
自信たっぷりにこう言いきった綿貫。この日も自ら実践してみせ、見事結果に結びつけたわけだが、やはり注目すべきは状況に応じてこまめにタナを変えたこと。なかでも一度は釣れないタナと判断したタナに戻したところで、この日一番の見せ場を作ったシーンには驚愕と感嘆しきりの記者であった。
記者の目:イニシアチブは50:50。力に頼らず技に奢らず、己の土俵で勝負する綿貫流カッツケウドンセット釣り
手返しの速さやアタリの早さがキモになるものと思って取材に臨んだ記者にとって、今回綿貫が魅せてくれたカッツケウドンセット釣りは良い意味で予想を裏切るアプローチであった。最も記者の目を惹きつけたのが、綿貫流浅ダナウドンセット釣り最大の特徴であるバラケのサイズだ。チョーチンウドンセット釣りならいざ知らず、水面直下を攻めるカッツケ釣りにしては記者が知る限り最大サイズのバラケであり、これをカッツケ用の小ウキで沈没気味にタナに送り込み、確実に食い気のあるへら鮒の層を構築して釣り込む様は、およそ1年前に武蔵の池で彼が魅せてくれた浅ダナウドンセット釣りに通じるところがあった。大型べらの過密放流によって大きく様変わりした現代管理釣り場にあって、水面直下という極めて狭いレンジに多くのへら鮒を呼び込み、そのなかから食い気のあるものが居るタナを探り当て、1枚1枚丁寧かつ確実に引き抜く釣りは記者のカッツケ釣りの概念を覆すエポックメイキングなアプローチ。無闇に力に頼ることなく、また自らのテクニックに奢ることなく、自分の得意な土俵に持ち込んで勝負する綿貫流のカッツケウドンセット釣りは、今後スタンダード釣法のひとつになり得るものと強く感じた今回の取材であった。