稲村順一が徹底レポート「釣技最前線」第124回 岡田 清の浅ダナ両トロロ釣り|へら鮒天国

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稲村順一が徹底レポート「釣技最前線」第124回 岡田 清の浅ダナ両トロロ釣り

今シーズンは例年になく両トロロの釣りをする機会が増えたというマルキユーインストラクター岡田 清。その理由は新エサ「美緑」の登場にあるという噂を聞きつけた。両トロロといえば一昨年の夏、猛暑の厚木へら鮒センターで彼が魅せた激烈カッツケ釣りが記憶に新しいが、今回釣技披露の舞台に選ばれた府中へら鮒センターでの彼の第一声は「まったく湧きませんよ(笑)」であった。しかも彼は「食い渋るかもしれませんが、それでもトロロなんですよね…」と続けた。湧かない?食い渋り?それでも両トロロ?混乱する記者を尻目に、入場時間となった午前6時半に一般入場者と一緒に釣り場へと向かう岡田。はたしてどんな釣りを魅せてくれるというのだろうか。大いなる疑問を胸に記者も岡田の後を追った。

夏の釣りは両トロロで決まり。口当たりの良いトロロは食ったら離さない?!

近年釣り場で目にする機会が減ったとはいえ、両トロロの釣りは夏を代表するエサ使いであり、トロロの釣りをやらないと夏が来た感じがしないという筋金入りのトロロファンも少なくない。記者がへら鮒釣りを始めた頃はトロロの釣りの隆盛期であり、自身もその渦に巻き込まれるように両トロロの釣りにのめり込んだものだ。その当時の管理釣り場の多くは中小べらが主体で、魚影密度も現代の比ではなく、夏場はいうまでもなく厳寒期でさえ表層にへら鮒が湧く釣り場が数多く存在していた。こうした環境下において夏のへら鮒釣りはいかにへら鮒を寄せ過ぎないかが最重要課題であり、その対策の最大かつ最も効果的な手段が両トロロというエサ使いであった。もちろん岡田自身もそうした時代に鍛えられてきたアングラーであり、彼の周囲に名だたるトロロの使い手が数多く居たことから彼のテクニックも磨きに磨かれ、インストラクターとして活躍する現在、知る人ぞ知るトロロマイスターとしてその技の伝承に余念がない。

「昔のことを褒めていただくのは嬉しいのですが、へら鮒の大型化を含め釣り場環境が大きく変化した現代の両トロロの釣りはまったく別物なので、私自身改めて勉強している最中なのです。」

謙遜しながらも不適に自信の表情を見せる岡田に、まずは現代両トロロ事情について訊いてみた。

「へら鮒の大型化に伴う口数の減少や嗜好の変化ばかりが取り沙汰されますが、両トロロの釣りに関していえば、肝心かなめのトロロそのものの品質の変化が釣りに与える影響の方が大きいと思います。現在のトロロにはかつてのようなネバリの強さがありません。このためブレンドするエサもネバりの強いものを選ぶようになりました。さらに寝る間を惜しんで前夜に基エサを仕込むといったわずらわしさも現代のアングラーには受け入れ難いようで、手軽に両トロロの釣りを楽しむには厳しい環境であることは確かなのですが、今シーズンは『美緑』の登場のお陰で新たなステージでの両トロロの釣りが楽しめそうです。」

岡田の言う「美緑」がもたらすメリットは概ね以下の通りだ。

❶トロロを狙ったタナまで届けるネバリを加えられる
❷麩材の吸水とナジミが速いので、前夜に仕込む必要がなく現場で即使用できる
❸適度な比重でタナを構築しやすい
❹水中での膨らみ(開き)もよく、追わせてヨシ!待ってヨシ!の二枚腰アプローチが可能
❺麩材の持つ強いネバリはトロロのネバリと相俟って、食ったら長時間口腔内に止まり、きわめて離しにくい極ヤワタッチが得られる

実釣でもこれらのメリットを生かして魅せた岡田の釣りは、天才的センスを封印してなお余りある極めてロジカルな組み立て方により構築されている。このことは動画を見れば一目瞭然で、その釣りは今シーズン初めて両トロロの釣りにチャレンジしてみようという好奇心旺盛なアングラーはもとより、レベルアップの手立てを求めていた中級アングラーにとっても参考になるに違いない。

使用タックル

●サオ
シマノ「風切」9尺

●ミチイト
オーナーザイト「ヘラ専用白の道糸」1.0号

●ハリ&ハリス
「リグル」7号/ザイトSABAKIへらハリス0.6号 上=25cm、下=35cm

●ウキ
浅ダナ用プロトタイプ
【細パイプトップ仕様/ボディ5.0cm/オモリ負荷量≒0.7g】
※エサ落ち目盛りは全8目盛り中6目盛りだし

両トロロブレンドパターン

「極上とろろハード」1分包(袋から取りだしてボウルのなかで丁寧に広げて繊維をほぐしておく)+水400cc(途中で繊維をひっくり返して吸水していない部分がないことを確かめ10分程度放置)+「とろスイミー」50cc+「段差バラケ」50cc+「美緑」250cc

五指を立ててトロロのなかに麩材を差し込むように混ぜ合わせ、ある程度混ざった時点でひっくり返しながら指の背側を使って丁寧に押し込み、ムラなく混ざりあったら基エサの完成。

「今日はトロロで釣りきる!」と決めているときは前夜に基エサを仕込むこともあるという岡田だが、新製品「美緑」が発売されて以来、現場で作ることが増えたという。へら鮒釣りには絶対ということはなく、釣れると思って仕込んだトロロエサを追わず、やむを得ずほかのエサ使いを強いられることも決して少なくない。岡田自身もそうした経験を持っており、準備していたトロロエサを無駄にしたことも数知れず。しかし「美緑」の発売以来、現場作りが可能になり、釣況に合わせて両ダンゴから両トロロに替えるなど、臨機応変に対応できるようになったことで手間も無駄もなくなったと「美緑」の登場を歓迎している。

岡田流浅ダナ両トロロ釣りのキモ そのⅠ:簡単かつシンプルなエサ作りと、手水&「感嘆」によるエサ合わせ

トロロのエサの宿命というべきか、エサができあがった時点をピークにトロロの繊維の劣化(というよりはむしろ弱体化というべきだろう)が始まり、さらにエサ調整の段階において手を加えるほどに繊維は切れてエサ持ちが悪くなっていく。かつての強繊維トロロの時代は基エサではほとんど開かず、そのため意図的に開く古いトロロをブレンドするとか、調整段階で基エサにバラける麩材を加えて開き具合をコントロールするという方法でエサ合わせを進めていったが、既にそれほどの強度が期待できない現代のトロロではできる限り手を加える頻度を減らすと共に、「美緑」のようにネバリでエサ持ち具合を補強しなければエサ合わせ自体が成立しなくなってしまう。この日の岡田はいつものとおり「極上とろろ」と「極上とろろハード」を1分包ずつ合わせた基エサでスタートしたが、途中で思いのほか上層に居着いたへら鮒の絡みが激しくなり、狙いどおりにエサがタナに入らないことを見届けると、その後は前述レシピ通りの「極上とろろハード」のみで基エサを仕上げ、イメージどおりのウキの動きをだしていた。

「持たせるだけであれば水量を減らすか麩材を多くしてエサを硬くする手もありますが、おそらくそれではウキがナジミ過ぎてアタリにならない投や、アタリがでてもカラツンになってしまう投が増えてしまうでしょう。やはり両トロロのエサは繊維が中心に構成されるべきものであり、繊維がハリに絡んだ状態を維持することで〝食ったら離さない〟釣りが可能になるので、エサ合わせの段階で手を加え過ぎてエサ持ちが悪くなるとか、寄りが増え過ぎて上層で止められる投が目立ち始めたら一旦基エサに戻るか、場合によっては基エサの作り替えも考えなければなりません。」

今回の主役はもちろん「美緑」であり、実釣の過程においてそのポテンシャルと使い方のコツについて十分に理解することはできたが、要所要所で行っていた「感嘆」によるタッチの調整は脇役ながらいい仕事をしていたと認めざるを得まい。

「夏のへら鮒が好むトロロを用いた極ヤワタッチのエサは、水量と『感嘆』によって手にすることが可能です。明らかにやわらかな基エサでも十分エサが持つことが分かったときは、基エサを作る時点であらかじめ水量を多くしておくことも一手ですが、短時間でコロコロと釣況が変化することを考慮した場合、基エサ自体はややしっかりめに仕上げておいて、調整段階で手水を加えながら徐々にやわらかくしていく方が失敗は少ないと思います。」

動画では「感嘆」を用いた調整方法も紹介しているので是非参考にしていただきたいが、加えてエサ付けも重要なファクターとなっていることにも注目したい。エサ付けも動画にて確認できるが、ポイントはハリのフトコロに繊維を引っ掛けるようにして付けること。慣れないと分かり難いところではあるが、エサを指先で摘まみ取った際に繊維の方向が確認できるので、繊維に対して90度の方向からハリを引っ掛ければよいだろう。このことを岡田自身は「ハリのチモト部分に抱かせるように」と表現しており、途中記者も試させていただいたが、実際そのくらい上(チモトに近いハリスのところ)からトロロをまとわりつかせた方が、結果的にハリのフトコロ部分に繊維が残るようなので、ぜひお試しあれ!

岡田流浅ダナ両トロロ釣りのキモ そのⅡ:「トロロらしいアタリでしょう!」が連発すればコンプリート?!

動画の落ち着いたウキの動きはもちろんのこと、水面にまったくといっていいほどへら鮒の姿が見えないことから「本当にこれが府中へら鮒センターなのか?」といぶかる読者諸兄も居られることだろう。訊けば先般同センターでは底ざらいを行ったとのこと。その際、既存のへら鮒を入れ替えたためにかつての釣り場とは釣況が一変したようだ。この変化を岡田はむしろ喜び、最近足繁く通っているらしいが、取材中そんな彼の口から度々「トロロらしいいいアタリでしょう!」という言葉が発せられたが、これが続いているときがベストの状態だと岡田は言う。

「食いアタリの多くは縦にしっかりアタるパターンなのですが、これだけ狙っていたのでは他のエサ使いと同じかそれ以下の釣果にとどまってしまいます。両トロロ釣りではこの釣りならではの固有の食いアタリがあるので、これを見逃しては両トロロの釣りをやっている意味もメリットもありません。これは私のイメージですが、へら鮒にとってトロロは極めて口当たりのいいエサなのだと思います。口に入れても違和感が少なく、そうした安心からか口腔内にとどめている時間が長くなり、それが独特な食いアタリとなってウキに現われているのだと思います。」

ちなみにこの日の食いアタリのパターンは以下のとおりだ。

❶サワリながらナジむ途中でしっかりツンと入る
❷ナジミきった直後から1~2目盛り返すまでの間のアオリに連動してズバッと消し込む
❸ナジミすぎたウキを引きサソイで返し、やや待ってからムズッと入る(食い渋り時に多い)
❹ウキが立ち上がった直後に静止し、その後ボディまで戻してくる
❺ウキが立ち上がった直後の止めの後、一旦はナジミに入るが途中で再度止まるかフワッと戻す

このうち❸と❺が両トロロ特有の食いアタリであり、両ダンゴに比べて沈下速度が遅い両トロロの特性、さらには極限までやわらかくしたタッチとセット釣り並みにハリに残るトロロの繊維によって、食いが良いときはもちろん、食いが渋いときであっても待ち気味の釣りでコンスタントに拾い続けることが可能になるという。加えてヒット率の高さも両トロロの大きなメリット。寄りをキープするための意図的な早アワセを除くと、岡田が自信を持ってアワせたアタリの大半はヒットしていたことからも、その事実は証明できたといえるだろう。

「今日はやや食いが渋り気味だったため両トロロならではのアタリは少なめでしたが、半信半疑でアワせた微妙なアタリで食っていたことからも両トロロの食いアタリには特有のパターンがあることが分かります。エサの動きが緩やかであることに加え、食感が極めてやわらかいことがその要因であると思いますが、いずれにしてもメリットが多いことは十分お分かりいただけたのではないかと思います。」

記者の目:シンプルな組み立ての中に光るさりげないアイデアと超絶テクニック

自然が育む海産物である昆布を薄く削り、へら鮒用くわせエサとして加工したトロロエサ。かつての生育環境から大きく様変わりした現在、同じ品質レベルのものを望んでも叶わぬことは明白だが、それでも両トロロの釣りを愛するファンの夢を叶えるべく新エサ「美緑」の開発に取り組んだメーカー、さらにはそうした境遇を憂うだけではなく、すべての思いを汲んで自らの釣りをブラッシュアップさせた岡田の侠気(おとこぎ)。そこには新エサのポテンシャルを引きだす基本的なエサ使いに加え、本来セット釣りのくわせエサとして生み出された「感嘆」をネバリ増強剤として用いる岡田一流のアイデアが散りばめられていた。驚くほどやわらかく調整されたエサの付け方からアタリの取り方に至るまで、長年に渡り培われてきたハイレベルのテクニックに支えられた岡田の浅ダナ両トロロ釣り。まったくへら鮒が湧かない状況下においても、たとえ食いが渋くなっても他の釣り方を圧倒していた彼の釣りは、攻めてヨシ!待ってヨシ!の死角ナシの全方位対応型のフレキシブル釣法。取材前の記者が抱いていた疑問は真夏の暑さと共に氷解した。