稲村順一が徹底レポート「釣技最前線」第123回 杉本智也のチョーチン両ダンゴ釣り|へら鮒天国

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稲村順一が徹底レポート「釣技最前線」第123回 杉本智也のチョーチン両ダンゴ釣り

近年チョーチン両ダンゴ釣りが変わりつつあると感じているのは記者だけだろうか。かつて真夏の管理釣り場を席巻した短竿チョーチン両ダンゴ釣りだが、ここ数年の釣況を見る限りトップはおろか上位に食い込むことすら少なくなっている。これに替わって幅を効かせているのがホタチョーやヒゲチョーと称されるセット釣りだが、こうした状況は両ダンゴファンにとっては寂しくもあり嘆かわしいことであるに違いない。確かにダンゴの釣りそのものの難易度が高まっていることは間違いないが、チャンスがあればすぐにでもリベンジを果たしたいと思っているのは記者だけではあるまい。今回釣技披露の白羽の矢を立てたマルキユーインストラクター杉本智也もそうした両ダンゴファンのひとりだが、プロフィッシャーマンの彼にとって特定の釣り方に肩入れするのは本意ではないかもしれない。しかしここはぜひともひと肌脱いでもらおうと、あえて梅雨時の不安定な時合いが続く椎の木湖に招集をかけた。はからずも当日は同湖愛好会の月例会が開催されており、輪を掛けた難時合いが杉本に襲いかかる。果たしてその結末やいかに?

ネバリだけでは解決できない時合いに遭遇した杉本が導きだした答え、それが「芯華」の重さと膨らみ、そして集魚力だ!

今回杉本はチョーチン両ダンゴ釣りのブレンドに底釣りエサの「ダンゴの底釣り 芯華」(以下「芯華」)をブレンドしている。あらかじめお断りしておくが、今回の企画は決して奇をてらったものではない。実際取材当日まで記者はこの〝秘策〟を知らされてはおらず、エサ作りを始めた杉本の傍らに置かれた「芯華」のパッケージを誤って取りだしたものだと思っていたのだ。ところが実際にエサを作り始めると、間違いなく「芯華」を50ccのカップで正確に計量しブレンドに加えたのである。

「わずか50ccですが、ある意味これが今日の主役になるかもしれません。エサがタナまで持たなくなって釣れなくなるといった経験は誰しもあり、僕自身も多いのですが、とある野釣り場に釣行した際にたまたま持ち合わせていた『芯華』を少量加えたところ、それまで持たなかった軟らかいエサが持つようになり、しかもウキがナジミきった後の返しのアタリで釣れたことが自信となって、これなら管理の釣りでも十分通用するのではと考えていた矢先に今回のオファーを受けました。実際のところ未知数なところもあり、釣れるかどうかはやってみなければ分かりませんが…。」

言葉はいかにも慎ましやかだが、その横顔には不敵な笑みが浮かんでおり、今回使用するブレンドにはかなりの自信があるようだ。

「ブレンドに『芯華』を加える狙いは主に比重をつけてタナに届きやすくすることと、その特性である膨らみと特殊ペレットやエビ粉といった集魚材の力を利用するためです。かつて重いエサが全盛期の頃は上層の中小べらの群れを突破するために『ダンゴの底釣り夏』を使うアングラーが多かったようですが、狙いはそれとほぼ同じです。」

意地の悪い記者はその効果の程を検証すべく、杉本に無理を言ってコンスタントに釣れ始めた時点で「芯華」を加えないエサを試してもらったのだが、その結果はハッキリとウキのナジミとアタリの数に現われた。「芯華」を加えていないエサに替えた途端にウキの動きにメリハリがなくなり、それまで当たり前のようにでていたアタリが激減してしまったのである。今回はやや渋り気味の時合い下での検証であったことから、その違いがより鮮明に現われたものと推察されるが、たとえ食いが良い状態であってもこれだけの違いがあることを鑑みれば、現代チョーチン両ダンゴ釣りのエサ使いにおいて〝重さ〟を加えることにより一筋の光明が差すであろうことは疑うべくもないだろう。

使用タックル

●サオ
がまかつ「がまへら天輝」8尺→10尺

●ミチイト
東レ「将鱗へらストロングアイ道糸」1.0号

●ハリス
東レ「将鱗へらSUPER PROハリス」0.5号 上=35cm、下=50cm
※上記でスタートし、状況に応じて上30~40cm/下40~50cmの範囲で随時調整

●ハリ
上下=がまかつ「リフト」8号→「ギガリフト」9号

●ウキ
①TOMO「C-1」No.10
【元径1.2mmテーパーPCムクトップ16.0cm/直径6.0mm二枚合わせ羽根ボディ10.0cm/直径1.0mmカーボン足7.0cm/オモリ負荷量≒1.7g/全11目盛り中8目盛りだし】
②TOMO「C-1」No.12
【元径1.2mmテーパーPCムクトップ18.0cm/直径6.0mm二枚合わせ羽根ボディ12.0cm/直径1.0mmカーボン足7.0cm/オモリ負荷量≒2.3g/全11目盛り中8目盛りだし】

●ウキゴム
かちどき「フィットホールド」

●ウキ止め
かちどき「魔法の糸」

●オモリ
0.3mm厚板オモリ一点巻き(内径0.5mmウレタンチューブ装着)

●ジョイント
サルマルカン

基本エサブレンドパターン

「バラケマッハ」400cc+「カクシン」400cc+「ダンゴの底釣り 芯華」50cc(ザックリと混ぜ合わせてから+水300cc(全体に水をゆきわたらせてから20回程度擦りつけるように練ったあと+「浅ダナ一本」200cc

五指を巧みに使いボウルのなかに残った塊をほぐすように混ぜ込んでいく。使用する際は半分を別ボウルに取り分け、エサ付け前にウキの動きを見ながらその都度手揉みの回数で調整するのが杉本流。

杉本流チョーチン両ダンゴ釣りのキモ そのⅠ:徹底したタナ作りはエサ作りから始まる

麩系ダンゴエサで寄せて食わせる両ダンゴの釣りでは、そもそもエサがハリに付いていない(残っていない)とアタリはでないし釣ることもできない。従ってエサを持たせることが両ダンゴ釣りにおける最重要課題となるわけだが、短竿といえども浅ダナの釣りに比べて攻めるタナが深いチョーチン両ダンゴ釣りでは、肝心のエサの持ち具合をウキのトップのナジミ幅で判断することが多い。スタート直後の杉本もこの点には十分な注意を払い、ナジミ幅が十分ではないとみるとエサ付け前の手揉みを増やしたり形状を丁寧に整えたりしながら、確実にナジミ幅がでるように心がけていた。

「両ダンゴ釣りでは基エサの時点である程度完成されたものに仕上げることで、その後のエサ合わせが格段にやりやすくなります。今回使用したエサは自分が慣れ親しんだエサをベースに近年の釣況に合わせてアレンジを加えたもので、基エサの状態でも十分なまとまり感がありエサ持ちは良いのですが、それでもへら鮒が大量に寄ったときやエサ付けがあまいときにはウキのナジミ幅が十分にでないことがあるので、そうした状態を放置することなく確実にエサをタナに送り届けなければなりません。ではなぜ私がウキのナジミ幅をだすことにこだわるのかというと、狙ったタナに数多くのへら鮒を寄せて分厚い集魚層を作ることで、崩れにくく長時間釣り続けることができる強い時合いを構築するためにほかならず、これこそがチョーチン両ダンゴ釣りのキモだと考えているからです。」

へら鮒のコンディションによってはタナに寄せきれず、単発的にでるアタリを取りながらの拾い釣りに徹しなければならないときもあるが、たとえわずかであっても釣り込めるチャンスがあるとみてとれば、目先の1枚2枚を取りに行くことなく、さらに先の10枚、20枚を目指すのが杉本流の真骨頂。釣り始めはもとより、釣り続ける状況下においてもなお徹底した深ナジミを貫き、そして迎えた後半戦、タナに十分な量の食い気のあるへら鮒が寄りきったとみるや、それまでの深い位置のアタリに加えて明らかに食ったと思われる早いタイミングのアタリにも積極的にアワせ、中盤の難時合いを乗りきったご褒美とばかりに怒濤の釣り込みで締め括ってくれた。

杉本流チョーチン両ダンゴ釣りのキモ そのⅡ:カラツンを恐れず毎投アタリにアワせてフィニッシュすることが重要!

記者もチョーチン両ダンゴ釣りが好きなアングラーのひとりだが、かつて食いが素直なへら鮒が多いといわれた深宙ダナでのカラツンが近年ことさら増えたように感じており、このことを杉本に問いただし効果的なカラツン対策を尋ねてみた。

「カラツンの原因はエサ慣れした大型べらが増えたためだと思われますが、確かにそうした傾向は近年多く見られるようになっています。実際この釣りを難しくしているのが、カラツンを解消しようとしてあれこれ手を尽くしているうちにカラツンどころか肝心のアタリ自体がでなくなり、釣れなくなってしまうといった現象です。これには私自身も幾度となく悩まされてきましたが、正直言って特効薬はありません。そこで私が実践しているのは無理に解消しようとはせずに、毎投アワせることができるくらい強いアタリをだしてフィニッシュすることです。常に強いアタリがでるということはエサもタックルセッティングも概ね合っている証拠ですので、何かを大きく変える必要はありません。従ってわずかにエサ付け時の圧を変えるとか、アタリを取るタイミングを遅らせるとかいった微調整に止めておき、決して無理にアタリのすべてを食いアタリに変えようとはせずに、カラツンのなかから拾いつつ、徐々にヒット率が上がるのを待つ方が得策なのではないでしょうか。」

取材フィールドとなった椎の木湖に代表されるような大型べらが多い釣り場では、風が吹いてさざ波立ったりベタ凪になったり、陽が射したり雲で遮られたりといったわずかな天候の変化がへら鮒の活性や食い気に変化をもたらすことがある。こうしたことを鑑みると、意外にカラツンを耐え忍び我慢しているだけでも釣れるようになることもあるだろうし、事実そうしたことはあると杉本は言う。

「カラツンはエサが合っている証拠といわれますが、何よりエサがタナまで持っていなければカラツンさえだすことはできません。今日の釣りにおいては『芯華』が果たしている役割が大きいと思いますが、それでもエサ持ちが完璧だとは言い切れません。これは小技として紹介しておきたいのですが、短竿チョーチン両ダンゴ釣りで失敗しがちなのがウキを穂先で吊り上げてしまいその動きを阻害してしまうことです。対策として有効なのは、サワリがあってアタリがでそうなときには竿を前方に送りだしナジミやすくしてやることです。地味なテクニックですがやる価値は十分あると思います。」

杉本流チョーチン両ダンゴ釣りのキモ そのⅢ:梅雨明け前はやや深めのレンジが◎!?

取材が進むうちに杉本が面白い話を口にした。彼のなかではへら鮒釣りは四季ではなく春と夏の間に梅雨を加えた〝五季〟で考えているというのだ。

「季節の変わり目に明確な線引きはできませんが、例年梅雨時には他の季節ではみられないような独特な時合いになることが多く、取り分けチョーチン両ダンゴの釣りでは一筋縄ではいかない難しい釣りを余儀なくされることが珍しくありません。そんな梅雨時に、わずかに攻めるタナを深くすると釣況が好転することがあります。周囲では8尺9尺で攻める人が多いなか、私がだした10尺がベストだった経験が度々あるのですが、良い機会ですので一応確かめておきましょうか。」

ひとしきり8尺で攻めきった杉本はスタッフに10尺竿に交換することを宣言すると、同時にウキの番手を10番から12番に上げ、ハリスはそれまでの8尺で得た感触から上30cm/下40cmとしてリスタート。エサはもちろん前述の「芯華」を加えたブレンドだが、竿の変更による効果はすぐに現われた。ウキのオモリ負荷量が増したことによる効果もあり、8尺のときには目立っていたナジむまでのフワフワした上下動が収まると、タナにエサが入ってからのいかにもアタりそうなフワリとしたアオリが頻繁にみられるようになり、直後にガツンと入って立て続けに良型がヒット。その後ナジミ際のウキの上下動は少なくなったものの、明らかに縦に強く入るアタリが増えると同時にヒット率が向上したのだ。

「良い感じで釣れ始めましたね。やはりこれが正解のようです。理由はハッキリとは分かりませんが、8尺9尺といった短竿で本格的に釣れ始めるのは梅雨明け後の〝夏〟であると私自身感じていて、その直前にあたる現在は、それよりも若干深めのタナが良いようです。これはあくまで想像ですが、アタリはだすが食い気は今ひとつといったへら鮒がいるタナの下の層に、比較的食い気旺盛なへら鮒が入ってくる傾向があるように感じています。事実8尺ではカラツンが多かったエサでも10尺に替えただけで決まってしまうのは、そうしたことが要因である可能性が高いのではないでしょうか。」

記者の目:持って膨らみ摂餌を刺激。宙でも発揮、量にも勝る「芯華」の真価!

この日の釣りはこれで決まった。傍目には決め手は竿の長さ(タナ)と思われがちだが、やはりこの日の主役はわずか50ccの「芯華」がもたらした結果であろう。底釣り用エサとして人気の「芯華」だが、今回の杉本が披露してくれたような使い方は記者も初めて目にした。たまたま巡り会ったブレンドパターンだというが、「芯華」の特性を熟知した杉本だからこそ、また少量でもブレンド全体にもたらす影響を知り尽くした彼だからこそのエサ使いであろう。かつて重めのエサが良い時代、「ダンゴの底釣り夏」を加えたブレンドが流行したことがあった。その狙いは今回の杉本とほぼ同じだが、時代はめぐり巡って再び時機到来といったことなのであろうか。その答えは今後の流行に目を配らなければならないが、その効果の程は取材の結果明らかとなった。最先端のエサ使いのポイントは、絶対的なまとまり感と適度な重さ。確実にタナまで持って膨らみ厳選された集魚材でへら鮒の摂餌を刺激する、わずか50ccの「芯華」がもたらす効果は果たして今シーズンのチョーチン両ダンゴ釣りの目玉となるだろうか!