稲村順一が徹底レポート「釣技最前線」第121回 都祭義晃の浅ダナヒゲトロセット釣り
古今東西、夏を代表するヒゲトロセット釣り。組み立て方のシンプルさに加えてアタリの明確さ、そして何よりヒット率の高さが人気の釣り方だが、かつては真夏の定番釣法であったヒゲトロセット釣りも、今や長い期間活躍する釣り方へと変わったことでバリエーションが増え、以前よりも釣り難しさを感じている読者諸兄も多いのではないだろうか。そこで今回は自らの得意釣法だけではなく、幅広く奥深く様々な釣技の研究に勤しむマルチアングラー、マルキユーインストラクター都祭義晃に最先端の浅ダナヒゲトロセット釣りを披露してもらい、釣れる仕組み・ポイントを分かりやすく解説してもらった。今も昔も絶対にブレない基本軸に加え、都祭ならではのアイデアやこだわりがちりばめられた珠玉の釣技を紹介しよう!
「ダンゴの底釣り夏」&グラスムクトップウキ。考え抜かれたキャスト(役割/配役)がズバリとハマる!
例年、ゴールデンウィークを境に両ダンゴの釣りが本格化するが、時を同じくしてヒゲトロセット釣りも旬を迎える。実釣取材はそんな時期に照準を合わせ、千葉県印旛郡栄町にある管理釣り場「将監」で行われた。
「5月とは思えないほど冷え込んでいますが、将監のへら鮒達は元気ですから心配ありません。それよりも今日は昼から雨になりそうですから、早めに仕上げましょうか(笑)。」
と、自信たっぷりに釣り座へと向かう都祭。勝手知ったる釣り場でありながら常に事前のリサーチを怠らない彼は、余裕の表情で素早く釣り支度を終えると6時前にはエサ打ちを開始した。まず記者の興味を惹いたのは「ダンゴの底釣り夏」がブレンドされたバラケエサ。そして浮力のありそうなパイプトップウキである。
「浅ダナヒゲトロセット釣りはウキをしっかりナジませ、タナでエサを止めてアタらせることが基本の釣り方です。そのために必要なのがエサ持ち良くタナにへら鮒を呼び込むバラケと、それを支えるウキであることは多くのアングラーの知るところでしょう。まさに自分の釣りもそこのところを基本としていますが、プラスαというか自分なりのアプローチも手の内にありますので、状況によってはそちらも見ていただくことになるかもしれません。」
何やら意味深な笑みを浮かべてこう言いきった都祭。結果を先に述べてしまうと彼の思惑(?)どおりにことが進み、パイプトップの釣りの限界がみえたところでグラスムクトップのウキが登場。シャクリが効かない浅ダナの釣りでグラスムク?といぶかる記者。ところが目の前で繰り広げられたのは、見るも鮮やかに超速攻&高ヒット率で良型べらを次々と取り込む鬼ギマリの釣り。自らがキャストした「夏」や「グラスムク」といったアイテムがズバリとハマった快感を楽しむかのように、釣りの解説にも力が入る。
使用タックル
●サオ
がまかつ「がまへら天輝」8尺
●ミチイト
サンヨーナイロン「バルカンイエローへら道糸」1.0号
●ハリス
上=サンヨーナイロン「クレバー」0.6号-10cm、下=サンヨーナイロン「クレバー」0.6号-15cm
●ハリ
上下=がまかつ「改良ヤラズ」5↔︎6号
●ウキ
①パイプトップ:水幸作「H/Tロクゴー」五号
【1.4mm径テーパーパイプトップ10.0cm/6.5mm径二枚合わせ羽根ボディ7.0cm/1.0mm径カーボン足5.0cm/オモリ負荷量≒1.0g/エサ落ち目盛りは全8目盛り中6目盛りだし】
②グラスムクトップ:テスト用プロトタイプ
【0.8mm径スローテーパーグラスムクトップ14.5cm/6.8mm径二枚合わせ羽根ボディ6.0cm/1.0mm径カーボン足7.0cm/オモリ負荷量≒1.0g/エサ落ち目盛りは全8目盛り中6目盛りだし】
●ウキゴム
オオモリ「一体式ウキゴム」
●ウキ止め
市販木綿糸
●オモリ
厚さ0.3mm板オモリ/ウレタンチューブ装着
●ジョイント
市販スイベル
基本エサブレンドパターン
●バラケエサ
「ダンゴの底釣り夏」50cc+水180cc(やわらかめがよい場合は200cc。瞬時に吸水するので放置する必要なし。麩材が水と混ざり合ったら)+「浅ダナ一本」200cc+「BBフラッシュ」200cc+「バラケマッハ」400cc
まだ吸水していない状態の3種の麩材を軽く混ぜ合わせてから、五指を熊手状に開いて撹拌し、ダマを完全にほぐしておく。仕上がりはしっとりボソタッチで、使用する際は摘まみ取った基エサに適宜手揉みを加えてからハリに付ける。
●くわせエサ
「ヒゲトロ」1袋
袋から中身を取りだして適宜ちぎり、小分けにして使用する。一度に水に浸して使う量は動画をご覧いただくとして、トロロは乾燥に弱いため残りの保管には配慮が必要だ。都祭は残ったトロロを袋に戻して脱気をした後、袋のチャックを閉じて陽の当たらないポーチの中に保管していた。
都祭流 浅ダナヒゲトロセット釣りのキモ そのⅠ:「夏」の膨らみを生かした都祭流ヒゲトロセット釣り不動の鉄板バラケ
まず注目すべきは、バラケに加えられた「ダンゴの底釣り夏」の効用であろう。「夏」を使う狙いを聞いてくれよと言わんばかりに、エサバッグから取り出されたパッケージをこれ見よがしに記者の目に付くところに置く都祭の誘導(?)に乗ってその真意を問うと、
「もちろんヒゲトロセット釣りに必要不可欠なバラケとして、その機能を果たすために他なりません。具体的にはエサを確実にタナまで持たせること。それも単に持てばよいという訳ではなく、タナに入る間際から膨らみ始め、剥がれるようにバラける粒子でへら鮒を引き寄せ、至近に漂うトロロを吸い込ませることを狙ってのことです。長い間このブレンドパターンのバラケを使っていますが、かつて両ダンゴでも使っていたものなので扱いやすさは折り紙付きです。」
近年目立つことはなくなったが、「ダンゴの底釣り夏」をセット釣りのバラケに加えるアングラーは決して少なくない。もちろんその狙いは都祭と同様に〝膨らみ〟を生かすためである。ちなみにこのバラケ、扱いは至ってシンプルで、
①基エサをそのまま摘まんで手揉みを加えただけのもの
②小分けしたものに押し練りを加えてエアーを抜いたもの
③手水を加えてしっとりアマめにしたもの
と、概ね3パターンの調整によるタッチを使い分け、さらに状況に合わせたサイズ調整(標準で直径15mm弱、小さめで直径10mm程度)のみで対応。なお、寄せる段階では主に標準サイズで通し、寄りがキープできてからは小さめとすると、ほぼ毎投アタリでフィニッシュできるようになった。バラケについてはこれが都祭の変わることのない鉄板バラケだが、ペレット系のエサを好む(極端に反応がよい)釣り場ではペレット系の麩材を加えることもあるという。
都祭流 浅ダナヒゲトロセット釣りのキモ そのⅡ:基本はあくまでパイプ。グラスはさらなる高みを目指すスーパーウェポンだ!
話は前後するが、取材冒頭浅ダナ両ダンゴの釣りが得意な都祭に、どういうときにヒゲトロセット釣りを選択するのかと尋ねてみた。
「両ダンゴの釣りのオマケといっては何ですが、位置づけとしては両ダンゴとウドン系セット釣りとの狭間を埋める釣りとでもいえるでしょうか。私自身両ダンゴの釣りで良い釣りができるときは大抵ヤワネバタッチのエサが決まるときですが、ボソが効いたやや硬めのエサへの反応が良いときは両ダンゴでは決めにくくなります。しかしこの硬めのエサがよいときこそが、まさにヒゲトロセット釣りの時合いであり、機会は決して多くはありませんが、このときばかりは迷わずヒゲトロセット釣りを選択します。しかもタックルとエサとアプローチが決まれば両ダンゴを凌ぐ釣果が期待できるので、やるからには徹底して高みを目指します。」
つまり彼がヒゲトロセット釣りをやるときは、周囲を圧倒する釣果で頭を取る可能性が極めて高いことになる。とはいえ、そこに至るためには一辺倒の釣りでは到達できないことは容易に想像ができよう。しかしそれが何かは皆目分からぬままこの日の釣りがスタートしたわけだが、開始わずか2時間で記者はその答えを知ることになる。
この日の釣りをパイプトップウキでスタートした都祭。パイプは浅ダナヒゲトロセット釣りの基本である〝エサを止めて釣る〟ための必須アイテムだとしながらも、「さらなる高みを目指すのであればパイプの限界域を超えることができるグラスムクトップウキを使った〝エサを動かしながら釣る〟アプローチが必要不可欠だ」と断言した。
「自分がグラスムクトップウキの釣りをしているにも関わらず『基本はパイプだ!』と言っても信じてもらえないかもしれませんが、基本はあくまで浮力のあるパイプトップウキを使ってエサをナジませ、一旦動きを止めて食わせることを目指していることに嘘偽りはありません。どれくらい釣れれば満足するのかは人それぞれでしょうが、私自身は他人よりも多くを望む気持ちが強いためなのか、パイプの釣りの限界を感じたときは迷わずグラスムクトップウキに交換し、行けるところまで行くようにしています。実際パイプトップウキでどこまで行けるのか分かりませんでしたが、それでも必ずパイプの限界が来ると思っていたので、結果としてパイプとグラスの動きの違いをご覧いただけたことは幸いでしたね。」
ここでグラスムクトップウキを使うことになった経緯について振り返っておこう。序盤はパイプトップウキでも十分満足できるペースで釣り込んでいた都祭だが、次第にウキのナジミが浅くなりアタリ自体が減り始めると、それを修正すべくバラケに押し練りを加えながら徐々にしっかりしたタッチに調整していった。すると再びウキのナジミがよくなり強いアタリが復活したのだが、乗った!と思う良いアタリでの空振りが目立つようになり、このときパイプトップウキの限界を悟ったのである。こうした場面でも多くのアングラーはさらにバラケ調整やハリスワーク等で状況の打開を図るだろうが、キッチリと釣りを決めたい気持ちが強い彼はその領域に踏み込むことはなく、彼独自の理論に基づきグラスムクトップウキを手にするに至ったのである。
ではグラスにするとどのような効果があるのかというと、ウキをナジませバラケをタナに入れやすくなることでパイプのときよりも強く押し練りを加えない、ややアマめのバラケが使えるようになり、結果としてくわせのトロロへの誘導力・誘引力が高まると共に、バラケを食う確率も増すことで釣果が飛躍的に伸びることにつながるのである。実際のウキの動きの違いは動画をご覧になっていただければ一目瞭然だが、特にナジミ際の動きから食いアタリがでるまでの動きと時間(タイミング)に注目していただきたい。グラスムクトップウキの方が明らかに不規則な動きが少なく、パターン化された動きからでる食いアタリは早く、しかも明確なのだ。
「グラスムクに替えてからアタリ方は100%から120%にアップしましたね(笑)。今日は冷え込みが厳しく決してへら鮒のコンディションはよくありませんでしたが、そんななかでもこれだけのウキの動きがだせたことは、将監のへら鮒の状態がよいことに加え、やはりグラスムクの効果が大きいと思います。」
ちなみに今回都祭が使用していたパイプトップウキとグラスムクトップウキの浮力(オモリ負荷量)はほぼ同じ1.0gほどで、このことからも純粋にトップの違いがアタリの違い、釣果の違いとなって現われていることがお分かりいただけるであろう。
都祭流 浅ダナヒゲトロセット釣りのキモ そのⅢ:「夏」バラケ&グラスムクの脇を固める珠玉のテクニックでコンプリート!
もちろん「ダンゴの底釣り夏」とグラスムクトップウキのダブルキャストだけで釣りきれるほど甘くは無いことは読者諸兄もお分かりのことだろう。ひとしきりパイプトップウキを使った基本の釣りを披露し、これでも十分な釣果が期待できることを証明してみせた都祭が満を持して魅せてくれたグラスムクトップを使ったアプローチ。その脇を固めていた技を最後に紹介しよう。
❶ハリスセッティング
ハリスは上10cm/下15cmで完全固定し、長くしたり短くしたり段差を変えたりすることは無い。その理由はハリスの長さや段差はアタリをとるタイミングと連動するため、くわせエサがナジミきるタイミングをイメージしてアタリをとれば、同等の効果が得られるためだ。つまりアタリをとるタイミングを意図的に遅らせれば、下ハリスを長くしたのと同じことという訳だ。
❷トロロの掛け方
基本的なトロロの掛け方については動画をご覧いただければ一目瞭然。水に浸したトロロをお膳の受け皿部分に置き、そこで直接ハリに引っ掛けそのまま打ち込んでいるが、これは釣れたときにへら鮒の口から外したハリを持ち替えずにそのままお膳に置いたトロロを掛けることができることによって、自らの動きの無駄を省くことを狙ってのことである。なおトロロの長さについては長めが良いときは10cm程度に、短めが良いときは5cmほどにするとしながらも、特に神経質には考えず、掛けたトロロが長過ぎるときのみハサミを使ってカットしていた。
なお、手に持たず、ひと塊で置かれているトロロの自重を使ってハリ掛けするため、一度に戻すくわせのトロロの量は意図的に多めとなっている。
❸上下同じハリのサイズ(重さ)
浅ダナヒゲトロセット釣りをする際、ハリのサイズについては多くのアングラーが上バリは大きめ、下バリは小さめとしているが、都祭は上下共に同じサイズのハリを用いている。このことからも両ダンゴ釣りの一部(オマケ)という意識が見てとれるが、あくまでバラケ主導の組み立て方でバラケ本体に惹きつけ、その直近、すなわち段差にしてわずか5cm離れた位置にあるくわせを吸い込ませるためだ。ちなみにこの日都祭は上下5号でスタートし、途中で6号↔︎5号と替えながらベストセッティングを探っていたが、結果としては6号でハリスを張らせエサの動きを安定させた方がよかったと振り返っていた。
「これらは本来シンプルであるべきヒゲトロセット釣りを、あえて複雑にすることなく釣りきるための自分なりのスタイルとでもいえるでしょうか。目指すところは〝大釣り〟であり、たくさん釣れるときは例外なく小手先のテクニックなど無用なシンプルな釣りになっているはずです。自分が自信を持って使っているバラケ主導の釣りを完璧にまとめるにはこれだけで十分。基本は基本としてマスターしたうえでぜひこうしたアプローチを参考にしていただき、皆さんの〝夢〟を膨らませてみてはいかがでしょうか!」
記者の目【見ていて楽しく〝夢〟が膨らむ強く正しいフィッシングスタイル!】
釣果を目指す釣りばかりではなく、近年魅せる釣りにも磨きがかかってきた都祭。今回は記者の質問に先んじて、読者諸兄のために基本から応用までを余すことなく紹介してくれた。さて、釣りを難しくしているのはアングラー自身であるとよくいわれるが、小手先のテクニックに頼りすぎて出口の見えない迷路に迷い込んでしまうとか、やることなすこと裏目にでるといった負のスパイラルに陥ってしまうことは往々にしてある。確かにへら鮒釣り自体年々釣り難しくなっていることは否めないが、一方で大釣りしたときは決まって正攻法の強い釣り、シンプルな釣り方であることもまた変わらぬところであろう。都祭が目指すのはもちろん後者だが、誰もが手本とすることができる普遍的な基本の釣りを自らの手の内に入れたうえで、そこにプラスαの釣技を加えて確率された都祭流浅ダナヒゲトロセット釣りは、見ていて楽しく〝夢〟が膨らむ強く正しい釣り方であり、記者自身もかくありたいと強く思うと同時に、読者諸兄にはぜひ参考にしていただきたい価値ある今回の取材であった。