稲村順一が徹底レポート「釣技最前線」第120回 吉田流進化系チョーチンウドンセット釣り
長引くコロナ禍により開催中止を余儀なくされたトーナメントは数知れず、活躍の場を失った数多のトーナメンターは自らのモチベーションを維持しようと、新たな釣りにチャレンジする者も多かったと聞く。奇しくもこの間、経験のない釣りにトライする機会を得たアングラーが多かったことがせめてもの救いと前向きに捉える向きもあるが、やはり競技の釣りなくしてへら鮒釣りを語ることはできず、一日も早い再開を願うばかりだ。そこで今回はミドルエイジのトーナメンターを代表するマルキユーインストラクター吉田康雄に白羽の矢を立て、トーナメント再開を待ち焦がれているアングラーのモチベーションを高めるべく、トーナメンター応援企画と題し、彼自身この間にブラッシュアップしたトーナメント仕様の釣れる鉄板チョーチンウドンセット釣りを披露してもらった。
充電期間を経て研ぎ澄まされた吉田流進化系チョーチンウドンセット釣り!
吉田もまたトーナメント開催を待ち望むアングラーのひとり。コロナ禍をうけて軒並み中止を発表したメジャートーナメントはもとより、小規模な大会ですら自粛を余儀なくされ悶々とした日々を送っていた。競技の釣りばかりがへら鮒釣りではないとは分かっていても、腕を競い合う場を奪われた彼らにとっては暗黒の2年間と言わねばなるまい。
取材フィールドとなった三楽園は吉田にとって初めての釣り場だという。もちろん取材までの試し釣りは一切なしのぶっつけ本番なので、何が起こるかはスタッフにも皆目見当がつかない。今回のオーダーは近年競技の釣りでは無類の安定感を誇るチョーチンウドンセット釣りで、吉田自身最も得意とする釣り方のひとつだが、かつてメジャートーナメントの最高峰とうたわれたシマノジャパンカップのタイトルを獲ったときのそれとはまったく別物のアプローチだという。裏を返せばそれだけ釣り場の状況が変わったということだが、時代に合わせた進化を遂げることはトーナメンターの宿命ともいえよう。
「いまだもろ手を挙げて安心できる状況ではありませんが、今年は開催を決定したトーナメントがいくつかあるようですので、早速エントリーしました。確かにコロナ禍により大会は激減しましたが、もちろんその間も可能な限り釣り場に足を運び、ブラッシュアップできた部分も少なくありません。今日紹介する釣りは僕自身、最も自信をもって取り組んでいる釣り方ですので、ある意味すべてをさらけだすことになりますが、それでも同じ土俵で競い合うアングラーの皆さんの参考になればという思いで余さずお見せします。初めて竿をだす釣り場なのでメージしているシナリオどおりに釣れるかどうかわかりませんが、目一杯釣らせていただきますね(笑)。」
吉田が入った釣り座は2号池の中央に架けられた浮き桟橋の東向き6番座席。8尺竿一杯のチョーチンウドンセット釣りの支度が整い、朝日の照り返しが眩しい水面に第1投が打ち込まれたのは午前6時半。すると深くナジんだウキのトップにいきなり生命反応が表れ、既に三楽園のへら鮒は臨戦態勢。のっけからトーナメントさながらの爆釣吉田劇場の幕が切って落とされた!
使用タックル
●サオ
シマノ 飛天弓「柳」8尺
●ミチイト
東レ「将鱗へらTYPEⅡ道糸」0.7号
●ハリス
東レ将鱗へらハリス「スーパープロプラス」 上=0.6号-8cm、下=0.3 → 0.35号 – 50cm → 45 → 40 ↔︎ 35cm
※下ハリスの長さは状況に応じて5cm刻みで調整
●ハリ
上=ハヤブサ鬼掛「極ヤラズ」7号、下=ハヤブサ鬼掛「軽量関スレ」3号
●ウキ
吉田作「GTフォール」No.4 → No.3
①No.4【0.8mm径ストレートグラスムクトップ14.0cm/5.8mm径カヤボディ5.5cm/0.8mm径カーボン足9.0cm/オモリ負荷量≒0.75g】
②No.3【0.8mm径ストレートグラスムクトップ13.0cm/5.8mm径カヤボディ5.0cm/0.8mm径カーボン足9.0cm/オモリ負荷量≒0.60g】
※いずれもエサ落ち目盛りはくわせエサを付けて11目盛りトップの4目盛りだし(トップのほぼ中央付近)
基本エサブレンドパターン
●バラケエサ
「粒戦」100cc+「粒戦細粒」50cc+「サナギパワー」100cc+水200cc(吸水のため約10分放置後)+「セットアップ」100cc+「セット専用バラケ」100cc+(一旦ザックリとおおまかにかき混ぜてから)+「BBフラッシュ」50cc
最後は白い粒子が均一に混ざり合うように丁寧に撹拌しダマを解して仕上げる。調整方法については動画参照。
●くわせエサ
「感嘆」10cc+水12~13cc
「感嘆」は1袋に対して「さなぎ粉」30cc+「粘力」付属スプーン2杯をあらかじめ加えてよく混ぜ合わせておいたものを使用。作り方は200ccカップにあらかじめ水を注ぎ、「感嘆」を加えたら蓋をして素早くシェイク。固まったら指先で練り込みポンプに詰めて使用。
吉田流「鉄板チョーチンウドンセット釣り」のキモ そのⅠ:どんなに手を加えても機能する「サナギパワー」のポテンシャル!完成度の高いバラケがエサ付けに集中することを可能にする
バラケを構成する麩材や添加剤にはそれぞれに加える目的や意味があり、何かひとつが欠けても自らの釣りが成立しないことは多くのアングラーの知るところだ。トップトーナメンターにとってはなおさらのこと、彼らは長年に渡り積み重ねてきたキャリアを元に作られた基エサを駆使し、競技の釣りに臨んでいるに違いない。もちろん吉田もそうしたトーナメンターのひとりであり、独自のブレンドで作り上げた基エサを、その日その時のへら鮒のコンディションに合わせて釣れるエサへと仕上げていくというステップは、今も昔も変わらぬルーティーンだ。
「僕は何度も基エサに手を加え、タッチを大きく動かしながらバラケを仕上げていくタイプです。経時変化を嫌い、基エサのままほとんど手を加えずに使い切るアングラーも少なくないことは知っていますが、何度も何度も手水と撹拌を繰り返してタッチを合わせるのが僕の流儀であり、そうしたなかで個々の麩材の特性を損なうことなく、また経時変化を起こさずに使い切れるのは『サナギパワー』のお陰なのです。このエサは単体では全くまとまりませんが、ほかの麩材のまとまる力を借りて途中で開かせずに送り込めればタナに届いた直後から機能し、自分のイメージどおりの直下型のバラケ方をしてくれるのです。」
さらに吉田はこう続ける。
「釣りを難しくするのは大抵タナよりも上層にいるへら鮒の動きなので、落下途中の早い段階でのバラケの開きは禁物です。また時期的にダンゴチックとまではいかないまでも、かたまり感を維持したままタナに届けることで時合いが安定するため、開きの良い(良過ぎる)基エサを指先でまとめるエサ付けではどうしてもバラケ過ぎるきらいがあります。何より同じウキの動きをだすためには同じタッチのバラケが必要不可欠なので、ボウルのなかで完全にバラケを仕上げ、エサ付けのみでコントロールする方が時合いを安定させやすいと思います。」
吉田は「サナギパワー」に絶大なる信頼を寄せており、チョーチンだけではなく浅ダナウドンセット釣りのバラケにも欠かさない。まさにトーナメンター吉田康雄の生命線といっても過言ではないだろう。
吉田流「鉄板チョーチンウドンセット釣り」のキモ そのⅡ:トーナメントを制するパターンフィッシング!!
短時間勝負のトーナメントにおいて、いち早くその日その時の必釣パターンを探り当てることは必須条件で、そのためには日頃の釣りにおいても常にトーナメントを意識した姿勢で臨むことが肝心だと吉田は言う。
「もちろん直前のプラクティスも大事なのですが、どんなに落ち着いているつもりでも普通の精神状態ではなくなるトーナメントシーンでは、いかなる事態にも動じない自信とメンタルが重要だと思います。とりわけ自信の部分においては日頃の釣りに臨む姿勢と結果の積み重ねがなければ、決して自信にはつながらないはずです。釣技の自信はメンタルの面においても大きなアドバンテージになるので、たとえどんな釣りであっても竿を握った以上やれることはすべてやり尽くし、全力でへら鮒に対峙することがトーナメントで勝つための秘訣だと考えています。」
ここで当日の釣りの流れを振り返ってみよう。先に述べたようにウキはすぐに動き始めたものの、スタート直後は上層のへら鮒がハシャギ気味で動きが定まらずスレやカラツンを繰り返したが、そうしたなかでも吉田は毎投ウキをしっかりナジませ、トップが沈没したら軽く縦サソイを加えてバラケを促進し、アタリがでなければ2~3回同じサソイを繰り返して静かにアタリを待ち続けた。この序盤戦、吉田は上層のへら鮒の動きを落ち着けるためにバラケに手水と撹拌を複数回加えて落下中の開きを抑えることに注力していたが、その効果は徐々に表れ、バラケのタッチとエサ付けが決まるとトップ一目盛りを残してナジミきり、静かに縦サソイを加えた直後に鋭くツンと入るパターンで一気に10枚ほどを釣り込んでみせた。そして徐々にアタリが遅くなりはじめるとハリスを5cm詰めて釣り込み、再び早いアタリがカラツンになるとさらに5cm詰めてペースアップ。そしてこの日のターニングポイントとなったウキのサイズダウンに踏み切ると、以降は下ハリスを40cm⇔35cmの調整のみで見事パターン化されたアタリをだし続け、トーナメントさながらの爆釣劇をクライマックスへと導いたのであった。
「アタリがパターン化できれば自信をもって釣りに集中できますし、ランダムにアタリがでている状態では決してたくさん釣ることはできません。セット釣りに限らず同じようなウキの動きで釣れるようになれば、アタリが持続するのと同時に釣れるへら鮒の型も自ずと良くなります。実際、序盤戦は型に大小のバラツキがありましたが、ウキの動きが定まってからは良型が数多く混じるようになりました。こうした流れも非常に大事なところで、日頃の釣りでもここまで至るように常に意識しています。実際トーナメントで勝利したときには完全に自分の釣りが決まって楽に釣り込むことができましたからね。」
ヒットパターンは動画をご覧になっていただければ一目瞭然。序盤は予想を超えたへら鮒の過剰な動きに惑わされたものの、初めての釣り場でも己のスタイルとルーティーンを貫き通し見事に釣り込んでみせた。
吉田流「鉄板チョーチンウドンセット釣り」のキモ そのⅢ:賛否両論の縦サソイ。自身はサソイに頼らないスタイルを目指して
トーナメントには必ず大会ごとにレギュレーションが設けられている。一般通念上のへら鮒釣りでNGとされる行為が禁じられていることはいうまでもないが、近年物議を醸しているのがチョーチンウドンセット釣りにおける縦サソイの是非であろう。サソイそのものを全面禁止としている大会もあるようだが、メジャートーナメントの多くは回数を含めたサソイ方に制限を設けているものが多い。
「僕たち同じ土俵で釣技を競い合う競技者は常に公平であり、大会にエントリーした時点でレギュレーションに納得したうえで参加しているので否やを言うつもりは毛頭ありませんし、僕自身誰が見ても納得する釣りで勝つことを目指しているので、時流に従えば可能な限り縦サソイをしなくてもアタリをだせて釣れる釣り方を心掛けています。そのためのキモとなるのが、手前味噌ですが今回使用したウキ『GTフォール』であることを明かしておきましょう。もちろんウキだけで釣れる訳ではありませんが、設計を現代チョーチンウドンセット釣りに特化することでウキから得られる情報量を増やし、へら鮒自らエサを追って食うように組み立てることが可能になることは、自信をもって言いきることができますからね。」
記者も吉田と同じ見解を持つひとりだが、賛否はさておき現代チョーチンウドンセット釣りにおいて縦サソイはなくてはならないもの。極論すれば縦サソイ無しでは満足な釣果を得られないのが実態なのだ。こうした議論が生まれた背景には、かつて縦サソイをひたすら繰り返す特殊釣法の流行があったことは読者諸兄もよく知るところだろう。こうした特殊釣法の流行はへら鮒釣りの歴史のなかで形を変え数多く繰り返されてきた。そして多くのアングラーに認められたものだけが残り、今日のスタンダードとなっている。個人として楽しむ分には一向に構わないが、互いの釣技を競う場においては一定の制限を設けなければその価値も半減してしまうだろう。
そこで吉田の覚悟だ。彼は決してレギュレーションに抵触しないギリギリを狙うのではなく、可能な限りそこから離れた釣りを目指している。もちろん状況によってはボーダーラインギリギリを攻めなければ予選突破が危ぶまれることもあるだろう。それでも大事なことは自他ともに認め満足できる勝ち方をすることであり、その手段のひとつが吉田作「GTフォール」を軸としたアプローチなのである。実際、取材時の釣りを見ていて分かったことだが、徐々にへら鮒との間合いを詰めるがごとき組み立て方は百戦錬磨の戦術であり、見事シナリオどおりに釣りが決まったことは、彼にとっては想定内のことに違いない。
記者の目【トーナメントに臨む姿勢から垣間見える競技の釣りへの熱き想い】
取材を通して記者が見たものは、トーナメントに飢えた狼(吉田)が静かに灯し続けた熱き想いだ。図らずも競技から離れざるを得なかったトーナメンターの多くは、そうした吉田と同じ思いを持ち続けているに違いなく、再び始まろうとしているトーナメントを今や遅しと待ちわびている。その間自らの釣りを見直しブラッシュアップを図った者、新たな釣りにチャレンジした者と過ごし方は様々だが、そのすべてが再び臨む競技の釣りに必ずや生かされるに違いないと記者は確信している。さて吉田の釣りはというと、彼自身も公言するように大きく様変わりしていた。時代の変化、釣り場の変化と共に自ら進化しなければ、決してトーナメントシーンの中心に立ち続けて活躍することはできず、いわば進化は宿命であり、吉田はもちろん進化することを止めようとはしない。それどころか彼は自分の釣りを公にすることで自らを追い込み、さらなる高みへと踏み出そうとしている。まさに競技の釣りの魅力・魔力はここにあり、競技の釣りなくしてへら鮒釣りの進化や発展は叶わないのである。最後に記者も吉田と共に多くのトーナメンターにエールを送りたい。進化した釣技を披露する晴れの舞台は間もなくやって来ると。