稲村順一が徹底レポート「釣技最前線」第119回 西田一知流ダンゴにグルテンの底釣り
季節は春。ひとあし早く動き始めた野のへら鮒を求め、釣技最前線のスタッフ一行はマルキユーインストラクター西田一知を誘い、房総三湖のひとつに数えられる戸面原ダムに集った。狙いはもちろん巣離れした野べら達。ようやく動き始めた彼ら(彼女ら)を、春の釣りの代名詞でもある底釣りで楽しく釣ろうという趣向だ。野釣り場に精通した西田にとって戸面原ダムは勝手知ったるフィールドであり、この時季における野の底釣りはバラケにグルテンのセット釣りがセオリーだといわれるが、西田の口から放たれた釣り方はバラグルセットではなく、耳慣れない〝ダンゴにグルテン〟の底釣りであった。果たしてダンゴとはあのダンゴのことなのか?いかなる展開になるのか想像すらできないまま桟橋を離れたスタッフ一行。開始早々の予期せぬ場所移動は野釣りならではのハプニングであったが、エンディングは早春とは思えぬ西田らしい攻めの釣りで、ダンゴの有効性を示すと共に良型新べらの連続ヒットで締め括ってくれた!
野釣りは釣技の総合力が問われる究極のへら鮒釣りだ!
目の前に放たれた十分すぎる数のへら鮒を上げ膳据え膳で釣る管理釣り場とは異なり、野の釣りは自らの経験と情報収集能力を駆使したポイント選定に始まり、ボートの漕ぎ方や係留方法、エサ使いやタナの取り方、さらにはへら鮒の寄せ方やアタリの取り方に至るまでハイレベルな釣技が求められるが、何一つ欠けることなくすべてが満たされたとき、高釣果というご褒美が得られる最高峰の楽しみ方といえよう。
「確かに野釣りならではの難しさはありますが、それ以上に釣れたときに感じる、すべての力をだしきった感が味わえるのが野釣りの醍醐味ではないでしょうか。もちろん管理釣り場の釣りには管理ならではの個別の難しさがあることは承知していますが、季節感や自然のなかでの開放感といった付加価値を考えると、やはり野釣りに勝る面白さはありません。取り分け春はへら鮒の動きがリアルに感じられる季節であり、自分自身大好きな底釣りでたくさん釣れることもあって、気がつくと野釣り場に足が向いてしまいますね(笑)。」
スタッフよりもひとあし先に到着していた西田は、既にボートセンター管理者から直近の釣況とお勧めポイント情報を聞きだしていた。日々アングラーから寄せられるフレッシュな生情報に接している管理者は、いわば究極の情報源であり、それを元に桟橋を離れた西田が向かったのは通称「三本杭先」と呼ばれるポイントで、手際よくボートを岸に着けると情報どおり24尺を継いだ。 そしてタナ取りをしながらボートの向きを微調整しつつ比較的安定した地底を探り終えると、さらにエサを打ちながら理想とするナジミ幅がでるポイントを探り当てた。
するとすぐにアタリがでて、先に放流された元気な新べらがハリ掛かり。しかし良い状態の底面は思いのほか狭いようで、わずかにエサの着底位置がズレただけでウキがナジまなかったり、ナジんでもウキが戻さないといった投がしばらく続いた。それでも3目盛りほどのナジミ幅がでたときはほぼ確実にアタリへとつながり、カラツンはあるものの徐々にペースを上げていく西田。
ところが予報とは異なる方向からの風が強まるとウキが流されシモってしまい、折角探り当てたピンポイントの地底にまったくエサが送り込めなくなってしまう。すると、西田は躊躇することなく場所移動を決意。こうした状況を見越していたのか、第二候補として目星をつけていた「寮下」と呼ばれるポイントを目指し舫いを解いた。
ボートでひと漕ぎの移動先は風裏となっており、先のポイントとは別世界の穏やかな凪状態。手際よくボートを着けてタナ取りを済ませると、若干穂先とウキの間隔が余るものの底はほぼ平坦な状態だという。あとはへら鮒がいることを祈るのみとエサ打ちを再開すると、ものの数投でサワリが現れ、やはり3目盛りのナジミ幅がトップに現れるようにエサ付け、打ち込みを行うと、電光石火の早業で移動後のファーストヒットを決めてみせた。
「再開して10分ほどでアタリましたよね。実はこれが野釣りで良い釣りをするためには重要な要素で、アタリだしが早いほど高釣果が得られる確率が高いのです。やはり野釣りはポイントが第一で、へら鮒がいる所に入らないと勝負になりませんからね。最初のポイントも十分な量のへら鮒がいたと思いますが、ここもイケそうですね。」
ここから後は動画をご覧いただくとして、一時はエサの着底前にアタるほどの寄りをみせるなど、時間当たり10枚超のハイペースで釣り込む西田。ウワズリ気味になると極端にアタリがでにくくなったため、意識的にウキを深ナジミさせたりアタリを送り気味にしたりとへら鮒の動きを抑制し、この時季としては最高ともいえる好時合いを堅持しながらハイライトへと突き進んだ。
使用タックル
●サオ
シマノ 飛天弓「閃光L」24尺
●ミチイト
サンライン トルネードへら道糸「禅」0.8号
●ハリス
サンライン パワードへらハリス「奏」0.4号 上=40cm、下=48→50cm
●ハリ
オーナー「バラサ」上=5号、下=4号
●ウキ
忠相「S Position BOTTOM」No.17
【PCムクトップ210mm /一本取り羽根ボディ175mm/竹足50mm/オモリ負荷量≒2.4g】
※エサ落ち目盛り=全13目盛り中7.5目盛りだし
基本エサブレンドパターン
●バラケ(ダンゴ)エサ
「ダンゴの底釣り芯華」100cc+「GD」100cc(軽く混ぜ合わせてから)+水80cc
水を加えたらよくかき混ぜ、全体に水がゆきわたったら手を止め4~5分放置。硬さが安定したら小分けしたものに10回ほど押し練りを加え、まとまり感を増したものを直径10mm程に丸めてエサ付けする。
●くわせエサ
「野釣りグルテン ダントツ」1分包+「わたグル」30cc(軽く混ぜ合わせてから)+水70cc
仕上げ方はバラケ同様の作り方で、水を加えたらよくかき混ぜ、全体に水がゆきわたったら手を止め4~5分放置。硬さが安定した後小分けしたものに20回くらいしっかりと押し練りを加え、エサ持ちを強化したものを使用。エサ付けサイズはパチンコ玉程度。
西田流 ダンゴにグルテンの底釣りのキモ そのⅠ:野釣りは「一にポイント二にポイント、三、四がなくて五にポイント!」
確かに野釣りには管理の釣りにはない難しさがある。また野釣りならではのテクニックや心構えのようなものがなければ釣りきれないと記者は考えているが、西田はそうした違いは意に介さず、野釣りもあくまでへら鮒釣りのひとつのカテゴリーとしたうえで、絶対的な違いはポイント選定だと言いきる。
「野釣りは広大なフィ-ルドのなかの、どこにへら鮒がいるのかを探り当てることから始まります。へら鮒がいなければ、いかなる名手といえども釣ることはできませんからね。」
管理釣り場にもポイントの違いによって魚影密度の差はあるが、それでも目の前にいることが約束されたへら鮒を相手に、持てる釣技を駆使して勝負することを目的とする管理の釣りに対し、自らが選んだポイントにへら鮒がいないことも多い野釣り場では、ポイント選定という最初の判断を誤るとへら鮒に会えない可能性も否定はできない。
記者自身にも覚えがあるが、その昔ダム湖初釣行の際は釣れる場所がまったく分からず、釣り場管理者に聞く勇気もなかったことから己の勘を頼りに入った場所で、あまり釣れなかったほろ苦い記憶が蘇る。時は流れて現代は情報社会。釣れるポイント(へら鮒が居着いているポイント)は初めての釣り場でも容易に分かる。ところが底釣りには地底の把握というさらなるハードルが待ち構えており、たとえへら鮒がいても底の地形を正確に捉えられなければ釣りきることはできない。今回の取材では最初に入った「三本杭先」のポイントでは複雑な傾斜地にエサを送り込むテクニック、移動後は比較的平坦なポイントにおける底釣りの王道的攻略方法を披露してくれた西田。「一にポイント二にポイント、三、四がなくて五にポイント」は確かに野釣りのキモではあるが、さらに底釣りにはディープなキモがあるようだ。
西田流 ダンゴにグルテンの底釣りのキモ そのⅡ:芯華ベースの〝ダンゴ〟ならではの膨らみの良さでウワズリを抑制し、崩れにくい安定した時合いを構築!
今回の釣りのポイントは、もちろん〝ダンゴとグルテン〟と西田が言うエサ使いだろう。野釣りが主戦場と言ってはばからない西田にとって狙ったポイントにへら鮒を寄せ、足止めするためのバラケエサは必要不可欠なものに違いないが、なぜバラケではなく〝ダンゴ〟なのであろうか?さらに底釣りエサには必須といわれる比重の大きさがかえってマイナス要因となるケースが少なくないともいうが、一体それはどのような状況下での釣りを示しているのであろうか?
「早春とはいえ、既に動き始めたへら鮒を安定的かつ効率的に釣り続けるためには、単に寄せ効果が大きいだけのバラケエサでは役不足。取り分け春のへら鮒は勇みがちで寄ったと思うや否やウワズることが多く、それでも両ダンゴや両グルテンで釣れるときは多少のウワズリならば早いアタリで釣り続けることができるのですが、セット釣りの場合は早め早めの対応でウキをしっかりナジませ、ウワズリの初期段階で訂正しておかないと制御不能に陥ってしまいます。こうしたケースでウワズリの抑止力となるのが上バリに付けた『芯華』ベースのダンゴエサなのですが、『バラケマッハ』に代表される開く麩材を含むバラケエサに比べてウワズリにくく、へら鮒の動きをコントロールしやすいという大きなメリットがあります。」
このダンゴエサの最大の特長は膨らみの良さだと西田は言うが、このケースでは落下途中の開きを抑えたうえでの底での膨らみの良さとイメージすれば良いだろう。一般的なバラケの開きを粘る麩材などで抑えると底での膨らみがどうしても弱くなりがちで、結果的に集魚力の点で劣ることになってしまうが、「芯華」ベースのダンゴエサであれば適切なタイミングで膨らみ始めるため、集魚力を損なうことなくウワズリを抑えながらへら鮒を寄せ続けることができるという。
「今回は地底の状態が悪くてもダンゴエサとしての機能を最大限発揮できるよう、『GD』をブレンドすることで比重を軽くしているところがミソです。これは地底に凹凸が多いポイントでも凹みに埋没しにくく、私がよく行く山上湖の藻場の釣りでもエサが軽いことで藻面に止まり、良いアタリで釣れることが分かっていますので、今回の戸面原ダムでも良い結果が期待できると思います。」
同様の狙いで、くわせのグルテンも「野釣りグルテンダントツ」の特性を損なうことなく軽くすることを目的とし、軽量くわせ系グルテンの筆頭格「わたグル」をブレンドした西田。近年彼はこのブレンドパターンを常用しており、その膨らみと高集魚性、さらには芯持ちの良さに対する信頼感に微塵の揺るぎもない。
西田流 ダンゴにグルテンの底釣りのキモ そのⅢ:不安定な地底のタナ取りは単なる目安。釣れるタナはナジミ幅で分かる!?
基本的には野釣りと管理の釣りに大きな違いは無いと前置きしたうえで西田は、
「底釣りではタナ取りが重要だいわれますが、それは計測精度の問題ではなく釣れるタナ、すなわちへら鮒が食いやすい状態にエサを底に位置させることを意味しています。確かに野釣りの地底は平坦ではなく、大抵は傾斜や凹凸、藻(水草)やオダといったストラクチャーなどがあり、平坦で理想的なタナ取りができるところの方がむしろ少ないことは野釣りの宿命と思っています。しかし実際に釣れるタナというのはウキのナジミ幅で決まることが多く、自分の場合はダンゴにグルテンのセット釣りでは3目盛り程度、両ダンゴでは4目盛り、両グルテンでは2目盛り程度のナジミ幅がでれば概ね釣れるタナになっていると考えています。従ってこれ以上ナジミが大きくでる場合はタナが切れ気味になっている可能性が高く、反対にナジミが小さければタナがズレ過ぎているか、底にある何かにナジミを妨げられている可能性が疑われ、さらにへら鮒が寄っている状態ではエサが底まで持ってない可能性も否定できません。」
取材時、最初に入ったポイントの底は複雑な地形をしていたようで、右が浅く前が深いカケアガリで、やや沖めに打ち込むとナジミ幅が5目盛り程度と大きくなり、正確に落とし込むとエサ落ち目盛りで止まったままナジミ幅がでない投が多々あった。このため西田は安定した地底にエサを着底させるため、打ち込んでからのロッドワークでウキの立つ位置と向き(タナが深い方からエサがナジむようにするためウキの足を深い方に向けて浮かせておくことが肝心)、さらには水面の波立ちと表層の流れを考慮した的確なラインメンディングによってピンポイントにエサを送り込むといったきめ細やかな対応をいとわず、極めて丁寧なエサ打ちを繰り返していたのが印象的であった。
「タナ取りはアバウトですが、こうした作業は慎重かつ丁寧に行いたいですね。野釣りでは平坦な底で釣りができることが少なく、大抵はこうした不安定な地底のなかでも比較的安定した場所にエサを着底させると大釣りに結びつくことが多いもの。このとき自分がイメージしている理想のナジミ幅(セットの底釣りでは3目盛り前後)がでることが良い状態の地底に着底していることの証ですので、常にナジミ幅の変化には注意を払っています。」
そしてしばらくすると「良い場所がみつかった!」と言い、西田が明言する3目盛りのナジミ幅が安定してでる位置にエサが打ち込まれるようになると、ほぼ毎投ウキにサワリが現われるようになる。そして「良いナジミ幅だからこれはアタるよ!」という宣言に続き高確率でアタリがでるようになると、小型ながら2週間ほど前に放流されたと思われるピカピカの新べらが釣れ始めた。ところが予報に反して川なりの風が強まると良い状態の地底にエサが入らなくなり、やむなく場所移動を余儀なくされたのであるが、その後の展開は先に述べたとおりの爆釣劇であった。
西田流 ダンゴにグルテンの底釣りのキモ そのⅣ:ウワズリには最大レベルの警戒を!
西田が言うところの理想のナジミ幅がでるとほぼアタリにつながる展開は見応え十分であったが、それ以上に記者の目を引いたのはウワズリに対する処置の的確さと迅速さである。移動後のポイントの地底はほぼ平坦であったが、予想以上にポイント付近にへら鮒が溜まっていたことで、群れで移動する春先のへら鮒特有のウワズリの兆候が見え始めたが、それに対してエサに押し練りを加えて持たせる方向に調整したり、意図的にアタリを送ったりするなどの対策を織り交ぜながら、タナを上げようとするへら鮒をギリギリのところでコントロールしていたのである。
「ダンゴにグルテンの底釣りはへら鮒の寄りが多いときも少ないときも、また食いが良いときも悪いときも使える万能タイプの釣り方であり、野釣りでも管理の釣りでも私の底釣りの基本となるエサ使いです。今回のように徐々にウキのナジミ幅が少なくなり、アタリ自体がでにくくなる釣況においては底までエサが持っていない可能性が高く、たとえ目に見えるウキの動きは小さくてもウワズリと判断して間違いないでしょう。沢山食い気のあるへら鮒がいれば多少のウワズリはそれほど気にしませんが、まだ本格的な動きになっていないときには早めの対処が肝心です。やることは至ってシンプルで、自分は押し練りの回数を増やしてエサ持ちを強化するだけですが、肝心なことはウワズリが落ち着いたらすぐに戻し、できるだけテンポの良い打ち返しでナジミ返しの早いアタリを的確に捉えることです。いつまでもウワズリ抑制時のエサ付けを続けているとアタったときにカラツンになったり、へら鮒の寄りが少なくなったりしてしまうので、常に攻めと守りのバランスをとり続けることが求められるのです。」
西田が言うとおり、レスポンスが上がりきっていない数少ないへら鮒がウワズるとアタリを復活させることが極めて困難になる。このときウキの動きが徐々に減りアタリがでにくくなることから、多くのアングラーはへら鮒がいなくなったと勘違いするに違いない。事実この日の西田のウキの動きを見ていた記者もそうした判断を下したシーンが少なからずあったが、そうしたときでも西田はへら鮒を寄せるのではなく〝ダンゴとグルテン〟でウワズリを訂正するエサ使いを駆使し、大きく時合いを崩すことなくわずかなロスタイムでアタリを復活させていた。
記者の目【野釣りこそ総合力とクレバーな攻めが求められる!】
傍目には普通のバラグルセット釣りに見える西田流〝ダンゴにグルテン〟の底釣りだが、その内容を知れば知るほど理詰めでクレバーな組み立て方であることがよく分かる。野のへら鮒は食いが素直なので、魚さえいれば管理よりも簡単に釣れるという誤った認識があることは記者も承知しているが、ポイント選定(移動の判断基準も含め)から始まる彼の釣りを終日追い続けていると、やはり狙った場所にへら鮒がいることが大前提であるとはいえ、そこから先の釣るための組み立て方は、むしろ野釣りの方が難易度は高いものと改めて思い知らされた感がある。なぜなら折角いるへら鮒をタナ合わせの不手際で食わせきれなかったり、自らのミスでウワズらせたり寄せきれなかったり、またそうした兆候を見落として対処が遅れたりすると、即座にアタリを喪失してしまうことを西田自身が改めて示してくれたからに他ならない。彼の釣りは一見するとイケイケモードの力技の釣りに捉えられがちだが、その実態は極めて繊細かつ合理的な組み立て方に裏付けられており、その総合力の高さはへら鮒界で一二を争うといっても過言ではあるまい。ぜひ西田流の〝ダンゴにグルテン〟の底釣りを参考に、これから春本番を迎える野釣りに出かけてみてはいかがだろうか!