稲村順一が徹底レポート「釣技最前線」第117回 萩野孝之の両グルテンの底釣り|へら鮒天国

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稲村順一が徹底レポート「釣技最前線」第117回 萩野孝之の両グルテンの底釣り

今シーズンの新べら放流もひと段落。釣り場に解き放たれた新たな仲間達は、食いが渋った旧べらに代わり厳寒期の釣りを底支えする。冬の釣りではこれらの動向を考慮することが肝心で、新べら次第で釣果は大きく左右されてしまう。とかく冬の釣りは守りの釣りというイメージが強く、事実段差の底釣りに代表されるような地味な拾い釣りがメインになることが多いが、「この時季口を使う確率が高い新べらを筆頭に既存の旧べらのなかでもコンディションがよく、口を使う可能性が高い良型のへら鮒に狙いを絞ることでまた新たな攻略法が見えてくる」と、自信たっぷりに口にするのはマルキユーインストラクター萩野孝之だ。今回はそんな厳寒期における突破口的釣り方を披露すべく、野田幸手園のアカシア桟橋に降り立った萩野。奇しくもこの日は新べら放流日と重なり、長旅の疲れをものともせず元気に池に放たれたニューフェイスを見届けてからのスタートフィッシングと相成った。

厳寒期の食いが良いへら、悪いへら。萩野が狙うのはもちろん食いが良いへら鮒だ!

桟橋先端付近に釣り座を構えた萩野は早速グルテンエサを作り始めた。さては今しがた放流されたばかりの新べらを狙おうというのか?今回の釣りの意図を萩野に問い正すと、

「運がよければ先ほど放流された新べらも回ってくるかもしれませんが、私が狙うのは既に今シーズン放流されている新べらに加え、厳寒期でも比較的エサ追いがいい既存の良型のへら鮒です。今回はそれらを底釣りで確実に仕留めようと思っていますが、エサ使いは厳寒期の定番である段差の底釣りではなく、バランス仕掛けでの両グルテンの底釣りをメインに組み立てます。」

グルテンエサが仕上がると、次いで「常時使うわけではないが無いと困る」というバラケエサ作りに取りかかる萩野。そしてエサができあがったところで、次に底釣りでは欠かせないタナ取りを始めた。今回彼が継いだ竿は釣り場規定最長となる21尺。ポイントの水深は4m弱なので、いわゆる半端ダナの底釣りということになる。タナ取りの手順は別項ならびに動画を参照して頂くとして、タナ取りをしながら彼はこう言い放った。

「多くのアングラーは『両グルテンの底釣り=新べら狙い』と認識しているようですが、既に放流から時間が経った釣り場であってもいくつかの条件が整えば、たとえ厳寒期であっても盛期並みの大釣りが期待できるのです。それも段差の底釣りで拾い続けるといった守りの釣りではなく、季節感を無視したような早いアタリで仕留める攻撃的なアプローチが成立することがあるので、今回はそんな釣りができればと思っています。」

言葉こそ謙虚そのものだが、無駄も淀みも一切なく釣り支度を進める萩野の表情は絶対に釣れるという自信と確信に満ち溢れている。そして午前7時半過ぎ、実釣準備が整うと早速エサ打ちを開始した萩野の口から金言が飛び出した。

「決して段差の底釣りを否定するわけではありませんが、もし狙ったポイントに新べらを含めて口を使うコンディションの良いへら鮒がたくさんいたとしたら皆さんはどうしますか?食いが悪くエサを容易に口にしないへら鮒であれば当然ながら段差の底釣りが有利ですが、食いが良いのにも関わらず無理に食い渋り仕様の釣りをする必要はないですよね。これを偶然ではなくあらかじめ口を使うへら鮒がいる確率が高いポイントで狙うとしたらどうでしょう。私が最初から自信をもって攻めの釣りに臨むことができる背景には、こうした理由があるのです。」

使用タックル

●サオ
シマノ「飛天弓 閃光L」21尺

●ミチイト
オーナーばり「白の道糸」1.0号

●ハリス
オーナーばり「ザイトSABAKIへらハリス」0.5号 上=50cm、下=60cm

●ハリ
上下=オーナーばり「バラサ」5号

●ウキ
一志「底釣り」六番
【パイプトップ16.5cm/一本取り羽根ボディ17.5cm/竹足4.0cm】
※エサ落ち目盛り=全11目盛り中7目盛り出し

基本エサブレンドパターン

両グルテンブレンドパターン

「わたグル」50cc+「新べらグルテン」50cc+水100cc

100ccの計量カップに「わたグル」を50cc取り、そこに「新べらグルテン」50ccを追い足してすり切り一杯にするのがコツ。それをボウルに取り、水を加えたら指先でかき混ぜ全体に水が行き渡ったらボウルの隅に寄せて放置。完全に吸水する少し前(ボウルを揺すって動かないくらい)に軽くほぐしておくのがミソ。タッチの調整はやや硬めに仕上げたうえで、随時手水を染み込ませて軟らかくする方向で進めるのが萩野流。なお調整は微量の手水と押し練り程度に止めるが、1:1で仕上げた基エサの硬さを基準とし、エサ持ちのいい硬めが良いときは「わたグル」60cc+「新べらグルテン」40ccに、バラケ性の良い軟らかめが良いときは逆の比率で仕上げる。このように常に計量カップ100ccのグルテン素材に対して水100ccで仕上げると、ブレンドによる仕上がりの違いも分かりやすく、同じエサを繰り返し作る際にもバラツキが少なく均一性が保てる。

バラケエサブレンドパターン

「ダンゴの底釣り夏」50cc+「ダンゴの底釣り冬」50cc+「バラケマッハ」50cc+水80cc

三種の麩材をボウルに取ったら水を注ぎ、五指を熊手状にしてかき混ぜて全体に水が行き渡ったらボウルの隅に寄せて放置。

●バラグルセット時のくわせエサ(参考)

「わたグル」50cc+水75cc

水を加えたら指先でかき混ぜ、全体に水が行き渡ったらボウルの隅に寄せて放置。なお前述のバラケエサとこのくわせエサは状況に応じて合体エサとして使用するケースもある。その際もそれぞれ同じ分量で仕上げるが、混ぜ合わせるときの比率はバラケ:グルテン=1:2を基本とし、均一に混ぜずにまだら状態に止めておくのがポイント。あくまで厳寒期の釣りなのでくわせ(グルテン)を主役(比率大きめ)にしたエサ使いがセオリーだ。取材時、萩野は集魚力の強さと流されにくい適度な重さを備えたこの合体エサを、底を汚すリスクも考慮のうえ、時折でる風流れに対する一手として織り交ぜて釣り込んでみせた。

萩野孝之の両グルテンの底釣りのキモ そのⅠ:ターゲットを絞り込み狙い澄ましたポイント選定

今回の取材をするにあたり、「この時季における両グルテンの底釣りの最重要ポイントは何か?」と萩野に問うと、間髪入れずに「ポイント選定」と返ってきた。つまり入釣する場所選びを誤ると、どんなにトータルバランスを整えても意味が無く、好釣果をあげることは不可能だということだ。ならば萩野は一体どのような基準でポイント選定を行っているのであろうか。彼から聞き出したのは、ひとことで言えばターゲットである新べら及びコンディションの良い既存の良型旧べらが居着く場所をピンポイントで攻めることであり、そのための条件を挙げると概ね次のとおりとなる。

❶底に変化のあるところ(特にカケアガリは◎。ただし凸凹や堆積物の溜まりやすいところは×)

❷他の釣り人の影響を受けにくい桟橋の付根や突端付近

❸水中から突き出た杭や常設されたバッキトーといったストラクチャー周辺

❹新べらの回遊が多く、またへら鮒が溜まりやすい仕切り網際

❺混雑時に新べらが待避しやすい沖めが狙えるところ(特に釣り場の外周が狙えるところは◎)

「こうした条件が揃えば揃うほどそのポイントは有望といえるので、少なくても3つ以上重なれば狙う価値は十分ありますし、5つすべて揃ったときは迷うことなく狙います。過去1月の厳寒期に開催された月例会で50㎏以上釣ったこともありますし、今日もまた桟橋先端付近で比較的仕切り網に近く、対岸には釣り人が入ることができないいわゆる外周ポイントですので、これから徐々に良くなると思いますよ。」

そう言って21尺での半端ダナという難しいシチュエーションながら、正確にポイントにエサを打ち込み続ける萩野。序盤こそウキの動きだしの遅さに手こずるも、時間の経過と共に活発になるウキの動きに今日の好釣果を確信すると、両グルテンでの理想とするナジミ幅をキープしながら、真冬とは思えぬエサの着底直後の早いアタリからエサ落ち目盛りを待ってからの繊細な食い上げアタリまで、バリエーション豊かな食いアタリを確実に捉えてみせた。

萩野孝之の両グルテンの底釣りのキモ そのⅡ:過不足無くへら鮒を寄せ続け、食わせ続けるエサ使い(ブレンドと使用例)

今日の主役はもちろん両グルテンだが、突然の釣況の変化により途中エサ使いを替えた萩野。簡単に釣りの流れをエサ使いと共に追ってみると、まずスタート直後はバラケとグルテンという、いわゆるセット釣りのエサ使いで3投打ち込んだだけで両グルテンに切り替えた。これについて萩野は「へら鮒に歩み寄らせるため」という表現をしていたが、記者の理解ではへら鮒を寄せるためのバラケエサの投入ではなく、両グルテンで釣り込むためのきっかけ作りというか、狙ったポイントに居着くへら鮒にエサの存在を知らしめるためのカンフル剤として打ち込んだものと推察した。

「考え方としてはそれで良いと思います。さらに付け加えるならば、高活性期であればこぼれたエサも寄っているへら鮒が余さず捕食してくれるので底は汚れにくいのですが、動き自体鈍く多くのエサを必要としない厳寒期のへら鮒は、たとえエサの近くに寄ってきても自ら積極的にエサを食おうとはしません。従って無駄にエサを打ち込み過ぎると散ったエサで底を汚してしまう恐れがあるため、必要以上にエサを打ち込むことは厳に戒めなければなりません。なぜなら広範囲に散ったエサが底に残っていると肝心のエサ本体に気付かず、極端に食いアタリがでにくくなることがあるためです。」

たとえるならば砂利道に落とした硬貨を探すようなイメージであろうか。常にこうしたことを意識しながらエサ打ちを繰り返している萩野であればエサの打ち過ぎによる失敗など無かろうが、一般的レベルのアングラーではアタリ欲しさについエサを大きくしたり、打ち返しのリズムを早めたりといった失敗をしがちだろう。

「確かにエサの打ち込み過ぎはアタリ喪失の原因のひとつです。私自身つい熱くなって手返しが早くなってしまうこともありますが、そんなときは思い切って〝床休め〟をするのが得策です。目安としてはトイレ休憩に席を立つとかすれば良いと思いますが、その効果は絶大で、それまでアタリが無かったにも関わらず再開した1投目でアタリがでて釣れたという現象は多くのアングラーが経験しているのではないでしょうか。またエサを大きくしてしまうクセのある人は十分な注意が必要で、どうしても直らないときはハリのサイズを意図的に小さくして、大きなエサを付けにくくしてしまうというのも一手でしょう。」

実釣半ば徐々に強く吹き始めた風によりウキが流されるようになりアタリが途切れがちになったところで、バラケにグルテンというセット釣りを試みたものの30分も経たずにセット釣りを止めた萩野。以降はバラケとグルテンを混ぜ合わせた合体エサによるアプローチで悪化した釣況を好転させてみせた。

「上下のエサを完全に分けたセット釣りでは、寄ってきたへら鮒がバラケに興味を示したときに食いきれずカラツンになる投が目立ちました。もちろん流れによる影響もあるとは思いますが、そこで両グルテンによる寄り不足を補うエサ使いとして実績のある合体エサに切り替えたところ、ベストとまではいえませんが再び良い感じでウキが動き始めましたね。やはりこの時季のバランスの底釣りはバラケ主導ではなく、くわせのグルテンを主役としたエサ使いの方がマッチするようです。」

これらのエサ使いはあくまで両グルテンで釣りきれなかったときの応急処置であり、こうしたリカバリー方法が手の内にあるからこそ、思い切った攻めの両グルテンに踏み切れるのだろう。

萩野孝之の両グルテンの底釣りのキモ そのⅢ:安定したアタリをだし続けるタナ設定(タナ合わせ)とアタリの取り方

順番は前後するが、最後に萩野流タナ取り方法を紹介しよう。詳細は動画で確認して頂くとして、ここでは手順を以下に示すことにする。

手順①:エサ落ち目盛り調整前のオモリの量は、ウキが静々と沈む程度にする。

手順②:ウキのボディにフロートを装着し、タナ取りゴムに両バリを刺してタナを計測する。
※フロートはオモリ負荷に勝る浮力のものであり、タナ取りゴムはそれらをすべて沈める重さがあることが必須条件。

手順③:トップ先端2~3目盛りが水面にでるようにウキ止めゴムを移動しウキ下を調節する。
※フロートの浮力が大きいためトップ先端1目盛り残しとする必要なし

手順④:水面にでた目盛りのところに目印のトンボを移動する

手順⑤:エサ落ち目盛りに決めようとするところ(今回は7目盛り目)とトンボを一旦合致させ、そこからズラシ幅として2~3cmウキ下を深くする。

手順⑥:タナ取りゴムを外してエサ落ち目盛りを決める(7目盛りだしにオモリ調整を行う)。

「従来のタナ取りよりも手間が少なく、実戦状態に近く計測できるのが大きなメリットです。こうして計ったタナを基準とし、実際にエサを付けて打ち込んだ際にバラケとくわせのセットの場合で3~4目盛り、両グルテンで2目盛り程度のナジミ幅がでれば、打ち始めのタナ設定としては及第点。このままエサ打ちを続けてアタリがでてコンスタントに釣れるようであれば問題ありませんが、地底の状態によっては打つたびにナジミ幅が変わってしまうこともあるので、そうした底の状態も早めに把握したうえで安定したナジミ幅がでるように打ち込むポイントを探り当てることも必要です。」

萩野は自らのタナ取り方法を解説する一方で、タナ取り方法については各自手慣れた方法で構わないとも言い、肝心なことは厳寒期の食い渋ったへら鮒がエサをみつけやすく、なおかつ捕食しやすい状態に着底させることであり、それが確実に果たせているか否かの判断基準がウキのナジミ幅であると力説する。

「私は1cm単位のタナ調整にはこだわりません。厳寒期といっても狙いはあくまで食い気のあるへら鮒ですので、ある程度へら鮒が食いやすいタナが決まり、過不足無くエサが打ち込めさえすればコンスタントにアタリはでるはずです。比較的長めのハリスセッティングのため食いアタリはへら鮒の状態次第で様々なパターンで現われますが、無理に一定にするようなことはせずに食ったと判断した動きには躊躇無くアワせます。そうしたなかでヒット率の高いパターンが分かればそれを中心に狙いますが、エサが着底した直後のアタリを最速のタイミングと位置付け、ウキがエサ落ち目盛り付近まで戻すまでの間を幅広く探る方がこの釣り方には適していると思います。」

記者の目:「座してアタリを待つよりは、攻めてアタリを見出さん」

守りの釣りよりも攻めの釣りが似合う萩野孝之。盛期における浅ダナ両ダンゴの釣りで爆発的な釣り込みを信条とする彼は、厳寒期においてもその姿勢にいささかのブレもない。短竿を長竿に、ダンゴエサをグルテンエサに、そして浅ダナを底釣りに替えてなお爆釣スタイルを崩さない。今回の取材ではあくまで優良ポイントありきの釣りと断りがあったものの、それだけで釣れるほど厳寒期の釣りは甘くはないはずだ。計算尽くの組み立て方に裏付けられた、高精度かつ確固たるアプローチあってこその爆釣劇であることは誰の目にも明らかで、ここで精神論を称えるつもりはサラサラないが、厳寒期の釣りに臨む際のポジティブな気持ちは極めて重要であり、萩野の姿勢はかの諸葛孔明が残した「座して死を待つよりは、出て活路を見出さん」の言葉さながらに、「座してアタリを待つよりは、攻めてアタリを見出さん」といったところであろうか。安全策をとるのであれば段差の底釣りが有利と誰もが知っているが、多くの好条件が揃ったポイント選定に始まる希有なチャンスに恵まれたならば、是非ともホットな真冬の両グルテンの底釣りにチャレンジしてみて欲しいものだ。