稲村順一が徹底レポート「釣技最前線」第116回 綿貫正義の沖狙いの浅ダナウドンセット釣り
底釣りを除き、短竿が主流の現代管理釣り場のへら鮒釣り。それは冬でも変わることなく、たとえ混雑時でも規定一杯の短竿での釣りがズラリと並ぶ光景は、いわば厳寒期の風物詩でもある。もちろん釣況は厳しいのひと言だが、そんな釣りに我慢できないのがマルキューインストラクター綿貫正義だ。いかに魚影の濃い管理釣り場とはいえ、厳寒期の釣りには厳しいものがある。低水温により動きが鈍ったへら鮒は混雑によるプレッシャーによりさらに食い渋り、アングラーは寒さに痺れ、動かぬウキに思考は完全に停止する。今回はそんな冬のへら鮒釣りの厳しさから逃れ、より多くのウキの動きを演出し楽しむことができる沖め狙いの浅ダナウドンセット釣りを綿貫インストラクターに紹介してもらおう。中尺竿を使わせたら右にでる者はいないと称される彼が攻める沖宙エリアは、新べらを含め比較的素直なへら鮒、それも良型が数多く潜む別天地。ズラリと並びアタリが途切れがちな短竿組の釣りを尻目に、沖に立つ彼のウキは躍動し続けた!
メリットが多い沖宙エリアを狙わない手はないでしょう!
「長尺竿はもちろんですが、中尺竿でさえ扱い難いという声をよく耳にします。確かに正確なエサ打ちやへら鮒の取り込みには手こずるかも知れませんが、そうしたデメリットを埋めて余りある大きなメリットを皆さん忘れてはいませんか?事実、沖めには素直でコンディションの良い大型のへら鮒が居着いている釣り場が多く、時節柄これに新べらが加わればまさに鬼に金棒。みすみす指を咥えて見逃す手はないでしょう。」
沖狙いの釣りのメリットについてこう語る綿貫に、その釣技を披露してもらおうとスタッフが用意したフィールドは埼玉県さいたま市に在る管理釣り場、武蔵の池。取材時点ではまだ新べらの放流は行われていなかったが、釣況的には既に冬モードの釣りに移行しており、平日にも関わらず段底もしくは短竿での浅ダナウドンセット釣りで楽しむ多くの常連で賑わっていた。綿貫はそうした常連の間をぬうように歩を進め、比較的空いていたクランク奥の64番座席にバッグを置くと、氷点下まで冷え込んだ朝の澄んだ空気のなか、かじかむ手で支度に取りかかる。まだ昇ったばかりの朝日が眩しく、ウキのエサ落ち目盛りを確かめるのにも難儀していたが、いざ実釣が始まるとすぐに彼の言葉の意味が腑に落ちた。思わず「デカっ!」と記者が叫ぶほど大きなバラケをテンポ良く打ち込み続けることおよそ30分、それまでわずかな気配しか示していなかったウキが突如躍動し始め、トップ先端まで深くナジんだウキが返し始めたところで力強いアタリがで始めると、いずれも肉厚のグッドコンディションのへら鮒が次々とヒット。なかには新べらと見紛うばかりの体高のある美形べらが混じり、沖宙エリアを攻めるメリットをまざまざと見せつけたのだ。
「だから言ったでしょう!これなんですよ、私がこの釣りを選ぶ理由は!こんなへら鮒が潜んでいるのですから、これを狙わない手はないでしょう(笑)。」
使用タックル
●サオ
シマノ 普天元「独歩」13尺
●ミチイト
ルック&ダクロン タカモト「ナポレオン」0.6号
●ハリス
ルック&ダクロン タカモト「ナポレオン」 上=0.5号8cm、下=0.3号-30~40cm
●ハリ
上=ハヤブサ 鬼掛「極ヤラズ」7号、下=ハヤブサ 鬼掛「喰わせヒネリ」3号→4号
●ウキ
弥介「ノーマルⅡ」二番
【1.6-1.2mm径テーパーパイプトップ10.5cm/6.5mm径カヤボディ6.0cm/1.0mm径カーボン足7.0cm/オモリ負荷量≒0.8g】
※エサ落ち目盛りはくわせエサを付けて7目盛り中3目盛りだし。なおウキの動きが激しくなった時点で三番にサイズアップ
基本エサブレンドパターン
取材時のベストバラケブレンドパターン
「粒戦」100cc+「とろスイミー」50cc+「セットガン」100cc+水300cc(5分以上放置して吸水させた後)+「セット専用バラケ」200cc+「セットアップ」200cc+「GTS」200cc
3種の麩材を加えたら五指を熊手状に開いて下から掘り起こすように大きくかき混ぜ、均一に水分を行き渡らせる。基エサを多めに作るのは調整や経時変化によるネバリが生じたエサを、基エサを追い足しすることで元のタッチに戻すことを容易にするためだと綿貫はいう。なお途中での調整についてはバラケを開かせながらもへら鮒のウワズリを抑制し、くわせエサへの誘導力を増すときには「粒戦」を生のまま基エサに加え、落下途中の開きを抑えてタナで膨らませたいときには「GTS」を適宜絡めてエサ持ちを強化する。取材当日は「粒戦」を効果的に用い、活性の高いへら鮒のウワズリを見事に抑え、強く明確なアタリを持続させるテクニックを披露してくれた。
くわせエサ
「感嘆」10cc+水13cc
「感嘆」1袋に対し「軽さなぎ」20ccと「粘力」スプーン2杯があらかじめ加えられており、カップに水道水(凍らせて持参し、溶けたもの)を注いでおいたところに計量スプーンで計った「感嘆」を加えて指でかき混ぜ練り込み、ダマ無く混ざり合い十分にコシがでたところでアルミポンプに詰めて使用する。冷水を使用するのは経時変化によるダレを抑制するためで、加える水の量(10~15cc)で硬さを調整する。
綿貫流 沖狙いの浅ダナウドンセット釣りのキモ そのⅠ:デカバラケがデカべらをタナに呼び込み引きずりだす!?
釣り場にもよりますが…と前置きしたうえで綿貫は、
「12~15尺で届く浅ダナエリアには比較的スレていない良型のへら鮒が居着いており、その多くはカラツンをあまりださず、食いが素直であるという特徴があります。混雑したときにはなおさらそうした傾向がハッキリと現われるので、食い渋るへら鮒を短竿でシビアに攻めるよりも釣りやすいことは明らかです。今日はビッシリと埋まるほどの入りではないので多少無駄なウキの動きも目立ちますが、釣れてくるへら鮒はいずれも肉厚の良型なので、この釣り方はここでも有効だということが分かりますね。」
と言いきった。確かに良いへら鮒が居着いていることは実釣で証明されたが、ここまで型の良いへら鮒が揃うのには他にも秘密があるに違いない。それについて綿貫に問い正すと、
「秘密は何もありません(笑)が、あえて秘訣をと言われれば、ご指摘のとおり大きめのバラケが考えられます。これは多くのアングラーも知るところですが、良型のへら鮒は比較的大きなボソタッチバラケを好みます。時季的にはこれを積極的に食うわけではありませんが、これに引き寄せられた良型が数多く集まることで警戒心が解かれ、躊躇することなくくわせエサを口にするのではないでしょうか。」
綿貫が言うとおり、いかにコンディションの良いへら鮒が沖に居るとはいっても、必ずスレたへら鮒も一緒に居るに違いない。ネバリ過ぎたバラケや締め過ぎたバラケ、さらにはサイズの小さなバラケではこれらの方が先に反応してしまい、アタリの多くがスレやカラツンとなってしまう可能性は否定できない。確かに良いへら鮒は沖に居る。そしてこの宝の山を掘り起こすにはデカボソバラケが必要不可欠であることも理解できた。しかしこのサイズ、このタッチのバラケをトップ先端ギリギリでナジミ幅をコントロールし、良型べらのアタリを引きだす綿貫のテクニックも忘れてはなるまい。
綿貫流 沖狙いの浅ダナウドンセット釣りのキモ そのⅡ:「GTS」でまとめ、「セットガン」で無理なくナジマせる
規格外のデカボソバラケを無駄にバラケさせず沈没させることなくウキを深くナジませ、良型べらばかりを確実にタナに寄せきるエサ付けはさぞや難しかろうと、そのエサ付け方法について綿貫に聞いてみると、
「見てのとおりこんな感じで(と、カメラに向けて)チモトを丁寧に押えて付けているだけで、特にコツなんてありませんよ。強いて言えば強く圧をかけ過ぎないことくらいで、後はブレンドが肝心な役割を担ってくれますので思いきって打ちきるだけです。今回はしっかりウキを入れてからバラケを抜くパターンで決まりましたが、ウキを入れることとバラケを抜くという、相反するふたつの目的を実現するためには『GTS』と『セットガン』がキモになります。知ってのとおり『GTS』は両ダンゴの釣りでもベースとなり得る麩材であり、私のブレンドのなかではエサ付けをしやすくするタッチを生みだす役割を担っています。片や『セットガン』はセット釣り用バラケの中核ですが、私はこの麩材が持つ比重を利用してウキをナジませ、強力なバラケ性を利用してタナで開かせ、確実に抜けるようにしています。もちろん他の麩材もなくてはならない重要な麩材なのですが、すべての麩材が持つポテンシャルを引きだし生かしきるために、基エサに必要以上に手を加えないことを心がけています。」
もちろんエサ付けだけではへら鮒の動きを制御したり、摂餌を刺激したりすることはできない。それを補うのがタッチ調整ということになるが、それも至ってシンプルだ。当日は平日ということもあり、へら鮒の寄りが激しさを増すと一時的にウワズリの兆候が見られたが、それを抑えるために採った策が「粒戦」を生のまま基エサに加えるというものであった。なおこれについては「粒戦」が吸水することで徐々にエサが締まってくることを想定して量の加減をすることが肝心だと綿貫は言う。またバラケの開きを抑えるためのまとまり感を増す際には「GTS」を追い足しするのが綿貫のスタンダードなスタイルで、調整は主にこのふたつで行っている。
「今回は武蔵の池のへら鮒のコンディションが良く、寄りも食い気も申し分ない状態でしたのでウキを深くナジませてから抜くアプローチに終始しましたが、おそらく年末頃からはゼロナジミのアプローチが主体となるので、その際にはまとめ役である『GTS』をブレンドから外し、エサ付けの際の圧加減で抜くタイミングをコントロールしていきます。」
綿貫流 沖狙いの浅ダナウドンセット釣りのキモ そのⅢ:迷走無用、シンプルかつ理路整然と釣りを組み立てる!
沖狙いにデカボソバラケだけで良型バクバクなどという虫のイイ話はさすがに無いだろうと、綿貫の一挙手一投足に目を凝らしていると…、その大胆なエサ使いに隠れた繊細かつきめ細やかなアジャスティングの妙が際立つことに気づいた。まずはタナの考え方についてだが、今回はタナ規定のない武蔵の池での取材であったが、スタート時のタナ設定はウキ下1m。途中ウワズリの兆候が顕著になった際にウキ1本分ほど浅くしてみたが、アタリはでるようになったもののカラツンが増えたことと、釣れても型が小さいといったマイナス要素が増えただけであった。
「これは想定内でしたね。この釣り方における基本のタナは1m、もしくそれよりもやや深めのタナの方が良型揃いの釣りが実現しやすい傾向があります。これも大きなバラケの効果だと思いますが、最初に上層に小型のへら鮒やコンディションがそれほどよくないへら鮒が寄り、エサを打つほどにその下に良型が入ってくることが多いのです。ウワズリを訂正するのにバラケを小さくするという方法がありますが、私の経験上ウワズリが抑えられても釣れてくるへら鮒が小さくなることが多く、これでは面白みがないというのが正直なところ。従って自分流としては多少のウワズリには目を瞑り、良型が溜まったところで一気に釣り込める方を選択するようにしています。」
続いてタックルのアジャスティングに目を移してみよう。こちらはきめ細やかさと大胆さが相まったタイムリーな対応が際立った。流れに沿って振り返ってみると、下ハリス40cmでスタートした後、ウキの動きが活発化を示すなか決めアタリがでないことをハリスの弛み(くわせエサが張らない状態)と判断すると躊躇することなく35cmに詰めた。これでアタリがでるようになると一気に釣り込み、さらにウワズリの兆候が現われると前述のとおり「粒戦」を効果的に使って抑制。加えてこの頃になってくわせエサのあおられすぎが原因と思われるカラツンが増えてきたため下ハリスを30cmに詰めたが、これはへら鮒に嫌われたようでアタリ自体が激減。そこで別の対策でくわせエサの動きを安定させるべくハリをサイズアップさせることに着手。その際一旦ハリスは35cmに延ばした上でハリを3号から4号に変更すると、ヒット率が格段にアップ。傍目にはここまで順調に釣りが仕上がりつつあるように見えたが、綿貫自身にはストレスに似たある種の違和感があったようで、その原因がウキのナジミ幅にあると判断するとウキをサイズアップ。オモリ負荷量が増したことでナジミ幅が復元すると明らかに釣況が安定し、この日の釣りはコンプリートとなった。
「想像以上にへら鮒の動きがよく、ウキをサイズアップさせることに至るまで時間がかかってしまいましたが、冬場の混雑時にはおそらくウキが動かないことでサイズダウンさせることが多いと思います。いずれにしてもウキが決まれば釣りの組み立ても決まりますので、あとはハリスワークを主体にアジャストすれば完成です。」
記者の目:大胆かつ繊細なアプローチで〝金〟(良型べら)が眠る沖宙エリアを掘り起こせ!
今回の取材で明らかになったこと、それは沖宙エリアには確かに〝金〟(良型べら)が眠っている(潜んでいる)ということだ。なぜ多くのアングラーはそれを狙わないのか?なぜ綿貫はそれを狙うのか?そんな思いで取材に臨んだ記者の目には、大胆かつ繊細なアプローチで金脈に辿り着こうとする彼独特の世界観がハッキリと見てとれた。キモはズバリ、決して寄せ負けしないという自信と覚悟を盾に、冬の釣りとは思えないほどの大バラケを打ち抜く大胆さと、それとは真逆のきめ細やかな対応でジワリジワリと煮詰めていく繊細なアプローチに尽きるだろう。この両輪が回り続けてこその綿貫流沖宙狙いの浅ダナウドンセット釣り。さらに冬の厳しさが増すと抜き系バラケの釣りに移行するためエサ付け、エサ打ちにも高度なテクニックが求められるというが、そうした壁を乗り越えることで目指す〝金〟(良型べら)が手に入ることを信じ、中尺・長尺竿をシャベル代わりに持ち替えて、綿貫流で金を掘り起こせばゴールドラッシュも夢じゃない!?