稲村順一が徹底レポート「釣技最前線」第115回 石井忠相の浅ダナウドンセット釣り
秋から冬にかけてのこの時季は両ダンゴからセット釣りに移行する端境期。気温・水温の低下に伴い活性のアップダウンを繰り返しながら徐々に渋さを増してくるが、難敵はこのとき起こる時合いの変化。ウキがナジまないくらい激しい寄りをみせたかと思えばス~ッと潮が引くように気配が消えたり、バラケをバクバク食ったかと思えば突如アタリを失ったりと、他の季節では考えられないほどの大きな変化を繰り返す。今回はそんな時合いの変化に面食らい、対処法を見誤ってしまうアングラーは少なくないだろうと、端境期の難時合いを攻略するセット釣りの術をマルキューインストラクター石井忠相に指南を仰ぐ。実釣のフィールドは巨べらで知られた椎の木湖。時々刻々変化する難時合いに合わせ、ダンゴタッチバラケで無理なく攻めるアプローチは必見だ!
無理強いは禁物!? 自然な流れの中で柔軟に対処せよ!
この時季の釣りの難しさは石井自身も十分理解しており、取材冒頭核心部分であるこの時季ならではの攻略法をこう言いきった。
「ひとことで言えば無理をしないことです。セット釣りだからといってくわせを無理に食わせようとするとか、バラケにアタるからといって意識的に狙ってバラケを食わせようとはせず、あくまで基本に忠実にバラケをタナに入れてタナを作る意識をしっかり持つことが肝心です。その結果バラケを食おうがくわせを食おうが、それはそれでどちらでも構わないのです。」
常に基本に忠実で、いかなるときも正攻法の釣りを貫く石井の言葉はストレートに記者の心を貫いた。強い釣り・正攻法の釣りというとガチガチのキメキメの釣りをイメージしがちだが、石井流の正攻法とはすなわちへら鮒ファーストの柔軟性に富んだアプローチを意味する。へら鮒釣りの1年を考えた場合、真夏の高活性期のピーク時と真冬の低活性期のドン底状態のときには、ある意味その時季に特化したキメキメの釣りしか通用しないケースも少なくないが、そうした極端な時合い下での釣りはごくわずかな期間でしかなく、残る期間は大なり小なり柔軟な対応が求められることが多い。
「両ダンゴで釣りきれるのは1年のうちの約半分、残る半分はセット釣りで凌いでいるのが実情です。なかでも秋から冬にかけてのこの時季の釣りは時合いの変化が激しく一筋縄ではいかない難しさがあり、それだけにへら鮒に対してゴリ押しの無理強いは禁物で、可能な限りフレキシブルな思考と対処法で臨むことが大切なのではないでしょうか。」
石井の言葉どおり、朝イチから激しい動きをみせた椎の木湖の巨べらたち。スタート直後こそ手こずったものの、アップダウンを繰り返す時合いのなかで徐々に石井の意のままに操られ始めた。
使用タックル
●サオ
かちどき「匠絆」8尺
●ミチイト
オーナーザイト「白の道糸」1.0号
●ハリス
オーナーザイト「SABAKIへらハリス」 上=0.6号8cm、下=0.5号-25~35cm(※当日のベストは30cm)
●ハリ
上=オーナーばり「バラサ」7号、下=オーナーばり「リグル」3号
●ウキ
忠相「T.S.BulletⅡ(ティーエス バレット ツー)」Lサイズ
【極細パイプトップ8.0cm/孔雀羽根一本取りボディ5.0cm/極細カーボン足6.5cm/エサ落ち目盛りはクワセを付けて全9目盛り中4目盛り出し】
基本エサブレンドパターン
取材時のベストバラケブレンドパターン
「粒戦」50cc+「粒戦細粒」50cc+水150cc+「セットアップ」100cc+「セット専用バラケ」100cc+「BBフラッシュ」100cc
吸水時間は気温・水温によって異なる。取材時の気温(20℃前後)水温(17℃前後)では5分程度で十分だが、低くなるほどに長く放置すると良い。
五指を熊手状に開き下から掘り起こすように大きくかき混ぜ、水分を全体に均等に行き渡らせる。仕上がりは「BBフラッシュ」のまとまり感が効いたしっとりボソタッチで、使用時は半分ほど別ボウルに取り分け、(手水+撹拌)×2回の調整を加えたダンゴタッチで打ち始める。なお持たせ具合はエサ付け時の圧加減でコントロールするのが石井流。タナを作るためには上層での過剰な開きは厳禁で、チモト部分はしっかり押さえ、エサ玉の下部をやや開き気味のラフ付けとすることでタナに入ってからのバラケ性を失うことなく、その特性を100%引き出してみせた。またこの日は「粒戦」の量が多いとバラケ過ぎてへら鮒のタナをコントロールすることが難しかったため、50ccと少なめにすることで落ち着いたウキの動きを演出してみせた。
くわせエサ/「感嘆」2種
「感嘆」10cc+水12cc
①感嘆(粘力入り)
「感嘆」1袋に「粘力」スプーン5杯を加えて混ぜ合わせたもの
②感嘆(さなぎ粉+粘力入り)
「感嘆」1袋に「さなぎ粉」20ccと「粘力」スプーン1杯を加えて混ぜ合わせたもの
作り方はいずれも同じで、100ccカップにシリンジで計った水12ccをカップに注いでおいたところに、計量スプーンで計った「感嘆」を10cc加えて指でかき混ぜ練り込み、ダマ無く混ざり合い十分にコシがでたところでアルミポンプに詰めて使用する。使い分け方については渋くなるほど誤飲効果が期待できる「さなぎ粉」入りのものが良くなるという。
石井流 秋~冬端境期の浅ダナウドンセット釣りのキモ そのⅠ:食われて当然!? ダンゴタッチの持たせバラケでタナを作る
この時季なぜダンゴタッチバラケが有効なのか、なぜ粒系バラケが有効なのか。その答えは極めて明快であった。
「それはこの時季のへら鮒がそうしたタッチのバラケを好むから…といっては語弊があるかもしれませんが、ダンゴタッチのバラケの方がアタリをだしやすいことは確かです。ひとことにダンゴタッチとはいっても近年両ダンゴの釣りの主流となっている『カクシン』ベースのヤワネバタッチでもなく、盛期のセット釣りで有効とされる『バラケマッハ』ベースのカタボソタッチでもありません。ベストと考えられるのは『粒戦』を含み、『セットアップ』や『セット専用バラケ』といったセット用の麩材を『BBフラッシュ』等のつなぎ役でまとめたものをダンゴエサに似たヤワネバタッチに調整したものです。」
石井はダンゴタッチとは言っているがこれはあくまで手触りを表現するための言い回しであり、指先の感触としては確かにダンゴエサのようなシットリしたヤワネバタッチではあるが、いざ水中に投入されると「BBフラッシュ」が落下中の開きを抑えつつも、タナに入るやいなや「粒戦」が開きを促進し、なおかつ直下に降り注ぐことで徐々にタナが形成される。もちろん芯はもろく、ハリに残ることはない正真正銘のバラケエサだ。
「端境期に適したバラケとは確実に持ってタナで機能するものでなければなりません。この時季はまだ麩系ダンゴエサに強く反応するので、今日のスタート直後のようにバラケばかりに向かって来ることもある一方で、朝のハシャギが落ち着くと後半にみられたようなバラケから一定の距離をとる完全なセット時合いになることもあります。こうした時合いの波があるのが端境期の特徴なので、どんな時合いにも柔軟に対応できるバラケが必要不可欠であり、こうしたダンゴタッチバラケがまさにピタリとハマるのです。」
石井流 秋~冬端境期の浅ダナウドンセット釣りのキモ そのⅡ:バラケの煙幕(粒子の拡散エリア)の広がりとくわせエサの位置関係を意識せよ!
バラケのタッチと同じくらい石井が重要視しているのが、バラケの煙幕(粒子の拡散エリア)とくわせエサとの位置関係だ。これはすべてのセット釣りのまさに核心部分なのだが、バラケの芯と有効範囲(粒子の広がり)、さらにくわせエサとそれらの位置関係を常に意識し正しくイメージすることが肝心であり、いわゆるバラケとくわせのシンクロが的確にコントロールできれば自ずとアタリが増えてくる。石井はこの状況を概ね3つのパターンで考えているという。
「まずくわせの位置に関係なくバラケを食うほど芯に向かってダイレクトにアタックしてくるパターン。次いで芯との距離は一定程度とるものの、バラケの煙幕の範囲内に位置するくわせまで接近するパターン。最後にバラケの有効範囲から遠く離れ、容易に近づかないパターン。それぞれ高活性期、端境期、厳寒期に適したアプローチであり、年内一杯は端境期のパターンになることが多いのですが、今日の前半は高活性期パターンに近く、へら鮒がハシャいで釣り難かったですね。しかし中盤以降へら鮒の動きが落ち着いてタナができてからは、ようやく端境期のセット釣りらしいアタリで釣れました。」
水中の様子はイメージイラストで、実際のウキの動きは動画で確かめていただくとして、注目すべきは食いアタリ直前のわずかにあおられるウキの動きだ。この日はバラケが完全に抜けてしまうとアタリがでにくかったので、ウキが深くナジんだ状態でしばし踏ん張るようにバラケのエサ付けを調節することで、バラケの煙幕内に位置するくわせのところまでへら鮒を引き寄せ、サワリに連動する流れのなかでアタリにつなげた。
石井流 秋~冬端境期の浅ダナウドンセット釣りのキモ そのⅢ:座して待たず、自ら積極的に動いてアタリを引き出す
手当たり次第、闇雲に動くのは軽挙妄動だが、石井は釣れないとみると積極的に動いてアタリを引きだし、一旦爆釣の導火線に火がつくと泰然自若として時合いを逃さず一気呵成に釣り込んでみせた。
「今朝のような激しい寄りと不規則なへら鮒の動きでは、想い描くような理想的なセット釣りは望めません。こうした状況下において漫然と釣りをしていると、釣れる人とそうでない人との差が大きく開いてしまいますので、時合いの変化に合わせてタックルを主体としたアジャストを積極的に行い、拾えるだけ拾いながら理想の時合いが訪れるのを待つようにしています。」
話は前後するが、この日の釣りの流れを簡単に振り返ってみよう。石井が難しいと言った朝の時合いは、エサ打ち開始直後こそ数枚は下バリのくわせを食って釣れたものの、すぐに水面直下に寄るへら鮒の動きが激しくなり、盛期のようなウキの動きで上バリばかりを食ってきた。これが石井の言うダンゴが食いたい状態というわけだが、こうした状況下ではいかに石井といえども下バリを食わせることは不可能だ。ここでバラケを食うのであれば意図的に狙って食わせる方向性も考えられたが、石井の選択肢にそれはなかった。難しい時合いのなかでも常にウキをナジませ、できるだけバラケをタナに入れてタナを作ろうする強固な意志が見てとれた。そうしたなかでバラケを食うものは仕方ないというスタンスで臨んでいたというわけだ。こうした時間は1時間ほど続いたが、その間石井はタナを作るために、よりバラケを抱えられるウキ「ツアースペックアローP」に替えて高活性のへら鮒に対峙した。ところがこの狙いは功を奏せず、力づくでバラケをナジませようとすることにへら鮒が拒否反応を示したのだ。やはり無理矢理はよくないようだ。そこで石井は一旦ウキを戻し、ハリスの長さを変えたりハリのサイズを変えたりするなど別のアジャスティングで事態の改善を試みる。すると徐々に下バリへのヒットが増え始めたが、時折上層でエサが捕まり引ったくるようなアタリでサオを持って行かれそうになる場面もしばしば。それでもウキをナジませることを第一に考えたアプローチを続ける石井。ようやくウキの動きが落ち着きをみせ始めると、石井の想い描くようなセット釣りらしいアタリで釣れ始めた。やがて狙いどおりにへら鮒がタナに入り始めたと見るやいなやウキのサイズを一番手落とし、さらにイメージどおりのウキの動きに近づいたことが確認できるとひとまわり大きなへら鮒が立て続けに水面を割ってでた。
「最初から最後まで何も変えずに釣れ続くということはありません。釣れないときほど積極的に動き、結果が悪ければ元に戻したりさらに別の対策を施したりと、思い立ったことは何でもやってみることが大切です。そうすることで経験値が蓄積され、やがて遠回りすることなく正解に近づくことができるようになると思いますよ。」
記者の目:ブレることのない地道なアプローチが端境期の釣りを熱くする!
ブレることのない石井流の正攻法アプローチは、ときに取材であることを忘れて見入ってしまう。そんなときいつも沸き上がるのが「すぐに実践してみたい」というワクワク感だ。両ダンゴの釣りでもセットの釣りでも、また宙釣りでも底釣りでも実に丁寧に組み立てるのが石井の釣りの真骨頂であり、難しい時合いをさばきつつ正解に向かって徐々に間合いを詰めると、最後はキッチリと決めてしまう。さらに特筆すべきは難しいはずのへら鮒釣りを簡単にみせてしまうテクニックであり、これこそが記者をはじめとして「すぐに試してみたい、真似してみたい」と思わせる要因であり、実際に石井の釣りをトレースしてみると好結果に結びつくのだ。もっとも決定的に異なるのが想像力とその正確性であり、ここに大きな差(壁?)があるため肩を並べることなどできようもないのだが、タックルセッティングに始まりエサ作りからエサ使い、さらに組み立て方のプロセスを真似てみるだけでも明らかにウキの動きが変わってくるのが実感できるはずだ。それは常々石井が言うように「じっくりタナを作って確実に釣り込む」ということがいかに大切であるかという証でもある。まだウキが容易に動く時季なのでつい安直に結果を求めたくなるが、焦る気持ちを抑えつつ繰り返す地道なアプローチが端境期のセット釣りを熱く、そして面白くしてくれるに違いない。