稲村順一が徹底レポート「釣技最前線」第113回 岡田 清のペレット系両ダンゴの底釣り|へら鮒天国

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稲村順一が徹底レポート「釣技最前線」第113回 岡田 清のペレット系両ダンゴの底釣り

底釣りの旬は?と聞かれて「夏」と答えるアングラーはいないだろう。ただでさえ上層に浮き上がろうとする夏のへら鮒の特性に加え、酸欠が常態化された高水温下での管理釣り場の底には、そもそもへら鮒が気持ち良く居続けられる条件は皆無といっていい。取材フィールドとして選定した隼人大池も例外ではなく、宙釣りではよく釣れる同池もこの時季の底付近の魚影は薄く、コンスタントに釣り続けることは容易ではない。そんなタフコンディションの隼人大池に挑むのは、トーナメントモンスターの異名をとるマルキユーインストラクター岡田 清。直前のオファーにも関わらず快諾してくれた彼の表情には、この極めてリスキーな取材に臨むにあたっての不安や緊張感は感じられず、いつもながらのポーカーフェイスで現われた。月例大会参加者の入場を待ってから釣り場へと向かう一行。朝から蒸し暑く、低く垂れ込めた分厚い雲に被われた空からは今にも雨が降り出しそうな気配のなか、静かに実釣が始まった。

難しい時合いこそ古典的かつ基本的なアプローチが強い?!

「そう多くは釣れないと思いますのであまり期待しないでください(苦笑)。でも底釣りは大好きな釣り方なので、今日の取材を楽しみにして来ました。基本的に自分の底釣りは昔ながらの地味なオールドスタイルなので、『釣技最前線』に値するかどうかは分かりませんが一日頑張ってみます。」

飄々とした表情で自信とも開き直りともとれる言葉を発しながら、バランスの底釣り支度を始めた岡田。タックルの準備が整うとウキがゆっくりと沈む程度の小さなタナ取りゴムに両バリを刺し、ポイント周辺の水深と底の状態を丹念に探り始めた。すると穂先に若干の余裕を残してタナは取れたものの、水面に残るトップの様子からはウキの直下に若干の起伏があるのが明らかであり、底の状態はお世辞にも良いとは言い難い。それでも手際よくタナを測り終えると、基準とする上バリトントンのタナに合わせて実釣をスタートさせた。エサは自身の定番であるペレット系両ダンゴ。直径1cmほどの小エサでゆっくりとエサ打ちを繰り返す。

ウキに変化が現われたのは開始から20分後。毎投2~3目盛りほどのナジミ幅をだしながらエサ打ちを繰り返しているとやがて小さな上下動が現われ、本来戻すべき目盛りまでウキが戻さないことに違和感を覚えた岡田が意図的に戻しをだそうと竿を前方に送りだすと、直後に「チクッ」とこの日初めてのアタリがでたが、残念ながらこれは空振り。以降サワリはあるもののアタリにつながらず、その原因をラインテンションの張り過ぎと判断すると、すぐさまウキ下を3cmほど深くしてウキの動きの変化を確かめる。すると数投後、それまでには見られなかった早いウキの戻しに連動したサワリから、「カチッ」と音が聞こえるくらい鋭いアタリでファーストヒットが決まった。やはり不自然なラインテンションがアタリを阻害していたようだ。

しかし釣れた次の一投では何の気配もウキに現われず、その原因を寄り不足と判断すると以降はやや早めの打ち返しを繰り返す。ファーストヒットから15分後、ウキの動きに躍動感が増して明らかな寄りの増加が感じられるようになるとその5分後、さらに10分後とヒットを重ね、一見すると順調な滑り出しのように見えたが岡田の見解は異なっていた。

「実は簡単に釣れている訳ではないのです。良いときは何をしなくてもへら鮒がエサを動かすことでウキが戻し、それに連動して自然に食いアタリがでるのですが、今はエサ打ちポイントがわずかにズレただけで気配すら現われませんし、良いところにエサが着底したとしてもナジミ幅が多過ぎたり少な過ぎたりすると戻しが悪く、意識してラインテンションをコントロールしないとアタリにつながりません。それだけへら鮒の食いが渋いということですが、それ以前にまだ寄り自体が少ないので、本当に釣れ始めるまでにはまだしばらく時間がかかりそうですね。」

そう言いながらもあらかじめ難時合いであることは折りこみ済みの岡田。たとえイメージどおりにウキが動かなくても慌てず騒がず己のスタイルを貫き通す。それは小エサでウキを確実にナジませた後、へら鮒に触らせてウキを戻し、その際のラインテンションの変化で摂餌を促す昔ながらのスタイル。言わば徹頭徹尾基本に忠実な古典的底釣りスタイルである。

使用タックル

●サオ
シマノ「普天元 獅子吼」16.5尺

●ミチイト
オーナーザイトSABAKIへら道糸(原着フロロ)1.25号

●ハリス
オーナーザイトSABAKIへらハリス0.6号 上=40cm、下=48cm

●ハリ
上下=オーナー「プロスト」5号

●ウキ
一志「底釣り」7番
【1.2mm径テーパーパイプトップ18.0cm/5.5mm径一本取り羽根ボディ19.0cm/2.0mm径竹足4.0cm/オモリ負荷量≒2.7g/エサ落ち目盛りは底を切った状態で全11目盛り中6目盛りだし※上バリトントンのタナでは7目盛り目が水面上にでる】

●ウキゴム
オーナーばり「強力一体ウキベスト」

●ウキ止め
オーナーばり「へらスーパーストッパー」

●オ モ リ
0.3mm厚板オモリ2点巻き(内径0.5mmウレタンチューブ装着)

●ジョイント
オーナーばり「ダブルサルカン」

基本エサブレンドパターン

その①:スタート時~前半戦/中盤戦

ペレ道」200cc+「粒戦細粒」50cc+「つなぎグルテン」25cc(ザックリと混ぜ合わせてから)+水150cc

水を加えたら素早くかき混ぜ、全体に水が行き渡ったら隅に寄せて吸水を待つ。硬さが安定したら小分けしたものに押し練りを加え、エアーを適宜抜いたものを直径10mm程の小エサで打ち始める。なおウキの戻りが早過ぎると感じた時点で「粘力」を専用スプーン1杯加えたブレンドも試しつつ、最終的にさらなるエサの芯持ち強化が必要と判断された時点で次のブレンドに切り替えた。

その②:後半戦~終盤戦

ダンゴの底釣り 芯華」150cc+「粒戦」50cc(ザックリと混ぜ合わせてから)+水100cc

作り方ならびに使い方は同上。このエサの特徴は「ダンゴの底釣り 芯華」の芯持ちの良さを生かし、集魚性が高く摂餌促進効果に優れた「粒戦」を確実に底に溜め、エサに寄ってきた大型のへら鮒を確実に足留めして食わせることができるところにある。イメージとしてはゆっくりとエサ玉が底で膨らむ課程で「粒戦」がこぼれ落ち、エサ打ちを繰り返すことでそれらが底に滞留すると回遊してきた大型べらが引き寄せられ、軟らかく膨らんだエサの芯まで吸い込んでしまうといった感じである。

岡田流両ダンゴの底釣りのキモ:その一 へら鮒が少ないレンジ内ではウワズリ厳禁!小エサで丁寧に組み立てる

スタート時のエサのブレンドパターンはかねてより岡田が常用する定番ブレンドであり、ベースとなる「ペレ道」の発売以来、自信を持って使い込んだ必釣エサである。このエサの特徴はペレット特有の集魚力の強さに加え、比重の大きさとまとまりの良さが際立っていること。さらに「つなぎグルテン」がその名のとおりブレンドの〝つなぎ役〟として、底でのエサの膨らみとエサ持ち強化を担っている、いわばペレット系両ダンゴの底釣りエサの決定版といったところであろうか。

「このエサは小エサで使うのがポイントです。食いが良ければ着底直後の早いタイミングで食ってきますが、基本は比重を生かして確実にナジミ幅をだし、ウキが戻してからのアタリに狙いを絞ること。私はこのスタイルを長年続けていますが、これに勝るものはないと信じています。」

当然ながら底釣りである以上、タナが合っているか否かは釣果を左右する大きなポイントになる。タナの正否に関してはアタリがでる/でないといった決定的な違い以外にも、着目すべき大切なポイントがあると岡田は言う。

「タナ取りをする際の基準となるのは上バリです。ナジミ幅はもちろんのこと、カラツンが続いてタナをズラす際にもこれを元に調整しますので、上バリを食って来る確率が高いときほど自分で決めたタナが合っていると判断できます。従って釣れてはいても下バリを食う確率が高いときはタナがあっていない可能性があり、いずれ釣れなくなる可能性が高いと判断し、できるだけ上バリを食ってくるタナを探り当てるようにしています。」

この言葉どおり、ヒットしてくるときは上バリを食っている確率が極めて高く、もちろん下バリを食うこともあるが、スレ掛かりの多くが下バリであることからも岡田の判断が正しいことが裏付けられるだろう。

岡田流両ダンゴの底釣りのキモ:その二 ラインテンションの抜き差しが難時合い下の食いアタリを引き出す

岡田の底釣りにはまったくと言って良いほど奇をてらったものが見られない。それだけ古典的でオーソドックスな底釣りであることの証であろうが、だからといってこれだけで好釣果が得られるとは到底思えない。何か彼一流のテクニックや秘訣があるものと一挙手一投足に注目していると、

「特別なテクニックも秘訣もありませんよ。ただラインテンションには気を配っています。底に着いたエサがラインテンションの強弱でどのように動いたり変化したりするのは分かりませんが、実際にテンションを抜き差しするとアタリがでることが多いので、これを無視することは自ら釣果を放棄しているに等しい行為と言わざるを得ません。」

詳細については動画で岡田自身が解説しているのでそちらをご覧いただくとして、ここではテンションに関する考え方を一旦整理しておくこととしよう。

●基本的なラインテンションはエサを打ち込んだらそのまま竿を竿掛けに置き、アタリを待つ姿勢で構えた状態でラインにかかるテンションとする。通常のエサの打ち込みではウキの直下よりもやや沖めにエサが着底するため2~3目盛りのナジミ幅がトップに現われるが、これよりも深くナジむときは強めのテンションがかかっている(ラインが張っている状態)と判断し、浅いとテンションが弱い(ラインが弛んだ状態)と判断できる。

●ラインテンションを強めるときは竿尻を手前に引いたり、水面にでたウキのトップが3~4目盛り沈むくらい竿先を深く水中に沈めたりする。この操作によりラインが張ることで、何らかの要因によってウキに伝わりにくかったアタリが伝達されることがある。

●ラインテンションを緩めるときは握った竿を前方に送りだすのが基本で、そのときの移動距離や速さで変化するラインテンションによりエサに何らかの動きが生じ、食うことをためらっていたへら鮒の摂餌を促すことができる。

取材時こうしたラインテンションのコントロールでアタリを引き出したケースが1度や2度ではなく、特に難時合い下ではこうした地味な操作がいかに重要であるかがお分かりいただけるであろう。

「とはいえ、私の底釣りはラインテンションありきではありません。こうした操作はあくまでアタリがでそうででないときの必須テクニックであり、へら鮒がエサに対して興味を示して自然に食ってくる状態を作ることがベストであることに変わりはありません。そういった意味では食いが悪かった今日の状況下では、ラインテンション操作が多くなることは当然といえば当然のことなのです。」

 

岡田流両ダンゴの底釣りのキモ:その三 冷静な状況判断が導き出した「芯華」+「粒戦」のシンプルブレンド

難しい釣りになることはある程度想像していたが、これほどの難時合いになろうとは岡田自身も想像だにしなかったに違いない。常態化した酸欠に加え、曇天から降雨、そして陽が射すと予報を遙かに上回る猛暑という、目まぐるしく変わった天候も災いしたのであろうか、岡田の腕をもってしてもウキが動かない状況が長時間に渡り続いたのだ。特に昼食後の後半戦は、アタリはおろかサワリすら維持するのに苦労するほど底のへら鮒の動きが完全に停止。しかしそうした稀に見る厳しい状況下においてもなお、前半戦の流れのなかでつかんだこの日の傾向を基に新たなブレンドで活路を見いだした。

「ここまで渋ると奇策は通じないでしょうし、むしろ徹底した基本の先にこそ何らかの手立てがあるはずです。今日1日通して感じたことは、ウキの動きが少ないにも関わらず戻しが早いことです。おそらく底に居着いた小魚によるものだと思いますが、へら鮒がエサを口にするまでに時間がかかるため、いざ食おうとしたときに肝心のエサの芯が持っていない可能性が疑われます。そこで従来のエサよりも芯を強化し、さらに食いが悪いなかでもエサの存在をアピールすることで摂餌を促すことができるエサを試させてください。」

そう言って作り替えたエサが「ダンゴの底釣り 芯華」+「粒戦」のブレンドだ。変更直後は釣況に変化は見られなかったが、その効果は徐々にウキの動きに現われ始めた。それまでわずかなサワリの後ですぐに戻していたウキは、少しずつ大きくなりつつある振幅のなかでもしっかりとナジミ幅をキープ。前触れの動きと思しき大きなサワリがでた後にフワリと戻し、直後に鋭く「カチッ」と決め始めたのだ。そして終盤に訪れたわずかなチャンスを逃すことなく確実にモノにすると、終了時間間際にヒットさせた最後の1枚まで気難しい大型べら相手に愚直なまでの基本底で挑み続けた。

「良いエサだとは思っていましたが、『芯華』イケますね!おそらくこれほどの食い渋りに遭遇しなければ思いつかなかった『粒戦』との組み合わせですが、これからは常に頭の隅に入れておく必要がありそうです(苦笑)。あくまで推測ですが、『芯華』のホールド力で包み込まれた『粒戦』が底でエサ玉から剥がれ落ち、それが底に溜まることで回遊してきたへら鮒の摂餌を促したのだと思います。『芯華』は食いが良いときの攻めの釣りに適していると聞いていましたが、これほどの悪条件のなかでも持ち堪える芯の強さは別格ですね。これなら待ちの釣りでも十分使えそうですので、今後は自身の底釣りの定番ブレンドとして加えたいと思います。」

記者の目:時代は変われど今なお強い岡田流「基本底」!

他の釣り方がそうであるように、両ダンゴの底釣りも時代と共に変化を遂げてきた。それでも今なお手堅く強いのは岡田流の基本底であることを証明してみせた今回の釣技最前線。多くの先達が作り上げた釣り方が今なお最前線の釣技として通用することは驚嘆に値するが、それを身につけて余りある結果を出し続ける岡田の釣技もまた秀逸。今回は思わぬ食い渋りに遭遇した取材であったが、真夏の管理釣り場における両ダンゴの底釣りという極めてリスキーなテーマにも関わらず果敢に挑み、持てる釣技のすべてを傾注し、知恵を振り絞って探り当てたブレンドエサでの粘釣は、マルキユーインストラクターとして賞賛に値するものと記者の心に深く刻まれた。読者諸兄もご存知のとおり、水面に沸き上がるほどへら鮒の活性が高い真夏の底釣りほど難しいものはない。多くのへら鮒が底から離れ宙層に居着き、底が空っぽになることは決して決して珍しいことではない。ならば無理して底釣りをする必要はないと思われる向きもあるだろうが、底釣りファンはいつでもどこでも底釣りがしたいものだ。そんなときに頼りになるのは紛れもなくオーソドックスな古典的底釣り。すなわち「基本底」に他ならない。基本は決して裏切らない。へら鮒釣りでは良いときもあれば悪いときもある。どんなときでも迷うことなく基本に則った岡田流底釣りで、盛期の底釣りにチャレンジしてみてはいかがだろうか。