稲村順一が徹底レポート「釣技最前線」第112回 杉本智也のハイパワーペレ宙釣り|へら鮒天国

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稲村順一が徹底レポート「釣技最前線」第112回 杉本智也のハイパワーペレ宙釣り

真夏を代表する釣りといって思い浮かぶのは、なんといってもペレ宙だろう。知ってのとおり現代ペレ宙はかつてのようなパワー系ではなく、エサもタックルもマイルドにシフトされたいわゆるライトペレ宙が主流だが、往年のペレ宙を知る者にとってはなんとも物足りなさを感じてしまう。そこで今回のテーマはズバリ〝パワー系ペレ宙〟とし、かつてのペレ宙を彷彿させるようなシーンが見たいとの思惑から、マルキユーインストラクター杉本智也に〝強い〟ペレ宙釣りをオファー。ライトに歩み寄るくらいならペレ宙なんてやらないと言いきる杉本のペレ宙は、知る人ぞ知る真のパワー系。それもへら鮒が湧き湧きになるくらいヤル気を見せれば見せるほど力強さを増すハイパワーペレ宙だが、果たして杉本流ペレ宙は夏真っ盛りのフィールドで炸裂したのであろうか!

へら鮒ワキワキ、心ワクワク! 真夏の筑波流源湖はペレ宙パラダイス!?

実釣の舞台は茨城県結城郡八千代町にある筑波流源湖。良型揃いで人気の大型管理釣り場だが、つい先頃まで大減水が続き本来のポテンシャルには今ひとつの状態であった。ところが満水位まで水位が回復すると同時にへら鮒のコンディションは急上昇。連日大釣りが記録されているが、こちらが意図するほど盛り上がるペレ宙は年に1度あるかないかというのが実情。果たして狙いどおりにことが運ぶかどうか一抹の不安はあったが、取材のなかで終始杉本が見せていた笑顔がすべてを物語っているように、筑波流源湖の大型べら達は真夏のパラダイスのような荒食いを見せてくれたのだ。

「こんな時合いは久し振りですね。エサもタックルも予想以上に強めでイケているし、なによりへら鮒が湧き湧きになるくらいヤル気を見せているので、いやぁー最高に楽しいです(笑)。」

動画をご覧になっていただければ一目瞭然なのでここでは多くを語るまい。事実、杉本のウキの動きからもこの日の筑波流源湖のへら鮒の寄りと活性は近年稀に見るレベルであり、これに怯むことなく果敢に挑んだ杉本流ハイパワーペレ宙はまさに圧巻のひとこと。なかでも記者が注目したのは単なる力任せの釣りではなく、時々刻々変化する釣況に応じて的確に繰り出された対処法だ。ペレ宙では豪快なアタリや大型べらの乱舞にばかり目が向いてしまいがちだが、わずかにウキがナジミにくくなればすかさずエサのタッチやエサ付けに調整を加え、それだけでは済まないと判断するとためらうことなく次の一手を繰り出す。そして徐々にトータルバランスを煮詰めていくと、これに筑波流源湖の大型べらが次から次へとハリ掛かり。「クゥ~腕が痛い…(泣)」と言いながらも満足そうな笑顔で絞り続ける杉本。狙い通りの展開に往年のペレ宙復活か!?とスタッフ一同大満足の取材となった。

使用タックル

●サオ
がまかつ「がまへら幻将天」16尺

●ミチイト
東レ「将鱗へらストロングアイ道糸」1.2号

●ハリス
東レ「将鱗へらSUPER PROハリス」0.8号 上=40→30cm、下=55→40cm

●ハリ
上下=がまかつ「ギガリフト」11号→13号

●ウキ
①TOMO「S-1」No.14
【パイプトップ14.0cm/二枚合わせ羽根ボディ14.0cm/カーボン足4.5cm/オモリ負荷量≒2.1g/全10目盛り中8目盛り出し】
②TOMO「S-1」No.17
【パイプトップ17.0cm/二枚合わせ羽根ボディ17.0cm/カーボン足4.5cm/オモリ負荷量≒2.9g/全10目盛り中8目盛り出し】

●ウキゴム
かちどき「フィットホールド」

●ウキ止め
かちどき「魔法の糸」

●オ モ リ
0.3mm厚板オモリ一点巻き(内径0.5mmウレタンチューブ装着)

●ジョイント
サルマルカン

基本エサブレンドパターン

ペレ軽」600cc+「BBフラッシュ」200cc+「粒戦細粒」25~50cc(ザックリと混ぜ合わせてから)+水200cc

五指を熊手状に開き30~40回まんべんなくかき混ぜる。当日は「粒戦細粒」25ccのパターンからスタートし、その後の強烈な寄りとアタックに対しては「粒戦細粒」を50ccに増量したうえで、あらかじめ強めの練りを加えてエサ持ちを強化したもので正解を導きだした。なお練ることでまとまり感が増した基エサはバラケ性が劣るため、エサボウルのなかにできた塊は一旦丁寧にほぐしておき、エサ付け前にウキの動きを見ながらその都度手揉みの回数を調整するのが杉本流だ。

杉本流ハイパワーペレ宙釣りのキモ:その一 強烈な寄り・煽りに負けない比類なきハイパワータックル

スタート時のタックルに記者は少なからず驚いた。今回のテーマはペレ宙釣りだというにも関わらず、仕掛けに取り付けられたウキはなんと底釣り用のパイプトップウキだ。

「底釣り用のウキを使うのにはもちろん理由があります。私の底釣りウキは太めのパイプトップ仕様で、スムーズにエサをタナに送り込み、ウキをしっかりナジませて釣るアプローチに適しているので、まさにペレ宙向きのウキなのです。スタートはNo.14(ボディ14cm/オモリ負荷量2.1g)で入りますが、これでエサがタナに入りにくくなるようであればさらにサイズアップも考えています。」

このとき既に杉本は予想していたのであろうか。事実この後にウキのサイズアップが図られることとなるのだが、番手としては一気に3サイズアップという大きなタックルチェンジが果たされたのだ。

「必ず1番手ずつ変えなければいけないというセオリーはありません。もちろんわずかに足りないなと思えばワンサイズアップで良いのですが、状況によっては2サイズ3サイズ、場合によってはそれ以上になることもあるでしょう。今日のところはこれがラインナップの限界ですので、とりあえず手持ちの中で一番大きなものを使うことで、今の時合いに適合できるか試したてみたいと思います。」

結果的にはこのウキの交換とハリスの長さ調整(最終的には上30cm/下40cm)、さらにハリを11号から13号に変えたところでほぼタックルのアジャストが完成したのだが、参考までにこの日の釣りの大まかな流れと杉本がとった対策について時系列で紹介しておこう。

6:15 実釣スタート。30分ほどでアタリがでるが1枚も釣れることなく1ボウル目を打ちきる。

7:10 やや練り込みを加えた2ボウル目にした直後にファーストヒット。その後連チャンも…。

7:30 ウキがナジむ前にアタることが多いためハリスを上下5cmずつ短くする。これでウキがナジんでからのアタリが増え、狙いどおりに良型のへら鮒がコンスタントにハリ掛りするようになる。

8:10 2ボウル目を打ちきった時点でさらにハリスを詰めて上30cm/下40cmとする。3ボウル目のエサは「粒戦細粒」を50ccとし、重さを増してナジミを強化。練り込みも強めに加える。

9:00 しばらく順調に釣れていたが、さらに寄りが増したところでスレやカラツンが急増。4ボウル目に入る前にウキをNo.17に交換。さらにハリを13号としてハリスは一旦上35cm/下50cmに戻し、エサは3ボウル目と同様のブレンドでリスタート。

9:30 約30分はコンスタントにヒットを重ねたものの、上層でエサが止められウキがナジミにくくなったタイミングでハリスを詰める。上30cm/下40cmとすると明らかにすんなりナジミ過ぎるようになったため、この日初めてタナを30cmほど深くしてウキの動きの変化を注視した。

10:00 深めのタナではウキの動きにメリハリが見られなくなったため一旦元のタナに戻し、エサ付けをラフ気味にしてさらにエサを打ち込み続けると徐々に理想的なウキの動きに近づき、トップが深くナジんだ直後からわずかに戻したところでの消し込みアタリが増えたところで、この日の釣りの方向性がほぼ見えてきた。

10:30 表層のへら鮒の湧きはピークを迎えるも、タックルもエサもほぼ整っていたのでヒットペースは衰えず、さらにアタリを深い位置で取ることで安定した時合いを構築し、コンプリート!

「自分にも覚えがあるのですが、ただ漫然とエサ打ちを続けているとズルズル行ってしまうことが多いんじゃありませんか?そうならないためには、こうしたら良いんじゃないかと思い立ったら即実行することです。ダメならすぐに元に戻れば良いだけの話ですから。」

この言葉どおりウキの動きに変化が見られたタイミングで次々と新たな一手を繰り出す杉本。狙い通りに釣れるようになることもあれば、思ったような効果が得られずさらに新たな策を考えなければならない場面もあったが、その行動にためらいは見られない。常にこうしたプロセスで釣りを組み立てる習慣を身につけていると、後々必ず役立つときが来ると杉本は積極的なアプローチを後押しする。

杉本流ハイパワーペレ宙釣りのキモ:その二 エサ合わせは超シンプル。「粒戦細粒」の量で時合いにアジャスト!

このくらい強いタックルを用いるのであれば使用するエサも「ペレ道」メインの比重が大きなエサの方がマッチングは良いのではないかと記者は思い、この点について杉本に尋ねてみた。

「その可能性はあると思います。ただしそれは大中小と様々なサイズのへら鮒が混在する釣り場において、狙いのタナよりも上に寄ったターゲット外のへら鮒にエサを揉ませ削らせながらタナに送り込むアプローチで有効であって、ここ筑波流源湖のようにすべてが大型で、しかもコンディションが良いへら鮒を狙って釣り込むには『ペレ軽』ベースのやや重い程度のエサの方が良いと思います。そのうえでもう少し重さが欲しいと判断したときは『粒戦細粒』を多めに加えますが、経験上その量は25ccから50ccの範囲内で十分コントロール可能であると思っています。」

この言葉どおり、当初「粒戦細粒」25ccのブレンドで始めた杉本は、徐々に激しさを増すウキの動きをみて比重を増すことの必要性を察知。最終的には50cc+強めの練り込みというエサ合わせで見事時合いにアジャスト。もちろんウキのサイズアップやハリスの長さ調整、さらにはハリのサイズアップも含めてのエサ合わせであるが、この日の正解タックルがほぼ決まってからは前述のシンプルなブレンドパターンで、過不足ない理想のアタリで見事に筑波流源湖の大型べらを攻略してみせた。

杉本流ハイパワーペレ宙釣りのキモ:その三 やや深めのレンジに潜む選りすぐりの良いへら鮒がターゲット!

話は前後するが、この日杉本はタナを1.5mほどとやや深めにとって実釣を始めた。先に述べたように近年のペレ宙はライト系が主流であり、そのためタナは規定上限の1mを攻めることが多い。ところがこのタナの深さだ。杉本は一体どのような攻め方・組み立て方を見せてくれるのだろうかと記者は興味深く見守っていたのだが、このタナのせいなのだろうか、ウキの動き出しは予想よりもかなり遅かった。エサ打ち間もなく上層に寄り始めたへら鮒によってサワリはすぐに現われたものの、肝心のアタリがみられ始めたのはエサ打ち開始からおよそ30分後で、最初に作った1ボウルのエサを打ちきった時点でも1枚も釣れなかったのだ。これには杉本始めヘラブナのコンディションはすこぶる良い状態と聞いていたスタッフにも一抹の不安が過ぎったようだが、徐々に近づく良型のモジリを確認した記者は間もなく釣れ始めるであろうことを確信していた。

「アタリはまだ単発ですが、狙いのタナよりも上にはかなりのへら鮒が寄って来ていますね。それが証拠にウキのナジミが悪くなっていますし、糸ズレらしき動きが目立ち始めました。タナを浅くしてライトに攻めればすぐに入れ食いになると思いますが、それでは僕が目指している強いペレ宙にはなりませんから、ここはさらにエサ持ちを強化して辛抱強く下のタナに良型のへら鮒を寄せきることに専念します。それにこのくらい深めの方がコンディションの良いへら鮒とそうでないへら鮒のタナを分けやすいので、それが果たされればかなり面白い釣りができると思いますよ!」

そう言って杉本は2ボウル目のエサを作る際、やや強めの練り込みを加えてからほぐしたものを十分な手揉みを加えてからエサ付けし、これぞという強いアタリ以外には目もくれず、ただひたすらに丁寧なエサ打ちを繰り返した。パワー系の釣りはともすれば粗く見られがちだが、杉本は丁寧かつ正確なエサ打ちの重要性についても記者に説いた。

「パワー系とはいってもタナに集魚しきれてこそのペレ宙ですから、前後左右にエサ打ち点がズレていたのでは話になりません。まだ時合いをつかみきれてはいませんが、釣れ始めてからはもちろんのこと、釣れ始める前の今だからこそ、なおさら丁寧な打ち込みが肝心なのです。それにオモリ負荷量の大きなウキを使うのは何も重いエサを支えるだけが目的ではなく、このエサ打ち精度を高めるうえでも大きな役割を担っているのです。」

この日は真夏の太陽が照りつけペレ宙釣りには絶好のコンディションであったが、杉本が入った場所は南向きの釣り座で、夏特有の南寄りの風が正面もしくは斜め前方から終始吹きつけていた。水深的には明らかに大き過ぎると思われるウキの選択をした杉本に対し、こうした狙いを彼の口から聞かされるまではウキのオモリ負荷量が大き過ぎて、果たして狙い通りに釣れるのだろうかと危惧していた記者。しかし、そんな心配は2ボウル目のエサを打ちきる頃には完全に払拭されていた。やや深めのタナに十分過ぎる良型のへら鮒が溜まり始めると、これでもかといわんばかりの消し込みアタリを連発させて次から次へとキロ級の大型べらを玉網に収める杉本。そして完全に時合いを掌握し送り気味のアタリにアワせてダブルヒットを決めると、桟橋に仁王立ちして「筑波流源湖、最高~!」と繰り返し叫んでいた。

記者の目:力と力の勝負にこだわる強い信念と、安易に歩み寄らない潔さ!

久し振りにペレ宙らしいパワー溢れる釣りを見せてもらったというのが率直な感想である。近年のペレ宙釣りは総じてライト系になりがちで、多くはペレット系ダンゴエサを用いた単なる浅宙釣りで終わることが多いのだが、これには釣り場の魚影密度やへら鮒の型が時代と共に変化してきたことが起因しており、致し方ないものと認識している。しかし杉本のペレ宙釣りはこうした変遷とは関わりなく今も昔も一貫しており、パワー系のペレ宙釣りが成立しない時合い下においてライト系へ移行するなどという考えは毛頭なく、そのようなときは潔く普通の両ダンゴの浅宙釣りで勝負するのが彼のスタンダードとなっている。そして運良く今回のような好時合いに遭遇したときは、彼自身理想としている力と力の勝負に徹底してこだわり、世間一般的な常識やセオリーに縛られることなく、また自らの限界を作ることもなくただひたすらにへら鮒と対峙し、理想のウキの動きを追い求める。そうした彼の強い信念が底釣り用最大サイズのウキのチョイスや、13号という両バリのサイズに現われているわけだが、ここまで躊躇なくアジャストできる彼のメンタリティーはやはり並みではなく、我々が大いに見習うべき点は多い。今回ほど極端な高活性好時合に遭遇する機会は稀かもしれないが、チャンス到来の際にはぜひ杉本流ハイパワーペレ宙釣りにチャレンジしてみてはいかがだろうか!