稲村順一が徹底レポート「釣技最前線」第109回 高橋秀樹流ダンゴバラケの浅ダナウドンセット釣り|へら鮒天国

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稲村順一が徹底レポート「釣技最前線」第109回 高橋秀樹流ダンゴバラケの浅ダナウドンセット釣り

季節の移ろいは早く、平場の乗っ込みがひと段落すると両ダンゴで釣れ始め、各地の釣り場からは続々と高釣果の報が届き始めた。しかし本当の意味での最盛期の釣りには程遠く、この時季は不安定な釣況に見舞われることも少なくない。へら鮒の食い渋りはいつ何時起こるか分からず、突然の食い渋りに遭遇した際、セット釣りに切り替えたくてもエサの準備がないという理由で断念せざるを得なかったという経験は誰しもあるだろう。そこで今回はそんなピンチをものともせず、むしろチャンスに変えて釣り込む術をもつマルキユーインストラクター高橋秀樹に実釣をオファー。彼は自他共に認めるダンゴマンだが、セット釣りにも一家言を持つマルチアングラーで、取り分け盛期のセット釣りには個性的かつキラリと光る〝技〟が数多くちりばめられている。取材フィールドは高橋のホームグラウンドともいえる北浦 渚。勝手知ったる釣り場だが早朝釣り場に来てみると、釣り場と北浦本湖を仕切る網際では多くのへら鮒がハタキの真っ最中。乗っ込みに夢中なへら鮒がエサに興味を示さないことは周知のことだが、取材時はまさにそのとおりの展開となり、高橋流セット釣りの有効性を計るにはうってつけのシチュエーションとなった。

近年その幅を広げるセット釣りアプローチ。バラケの使い方も多種多様だ!

セット釣りのキモはズバリ「バラケの使い方」であり、同じレシピで仕上げたバラケエサでも使い方次第で釣れる/釣れないといった明暗がクッキリと現われる。さらにセット釣りの難しさに拍車をかけているのが、近年その幅を拡大しつつあるアプローチだろう。記者の考えるアプローチの幅とは、端的にいえばバラケの抜き方によるアタリの待ち方である。

一方の側の代表例が厳寒期に有効とされるウキをまったくナジませない抜きバラケ(ゼロナジミ)のアプローチで、着水とほぼ同時に上バリから抜いてしまう即抜きを最速としながらも、水中のどの位置(タイミング)で抜くかによって無限のバリエーションを生み出すことができる。もちろん食いアタリはくわせエサのみで待つことになるため総じて遅く、さらにサソイによってくわせを動かしリアクションバイトを促すことも必須テクニックとなる。そしてもう一方の側の代表例が近年脚光を浴びているホタチョーやホタメーターと称される盛期に有効とされる持たせバラケ(ダンゴバラケ)のアプローチで、こちらは「バラケマッハ」などのダンゴ向きの麩系エサをベースとしたバラケをタナに送り込み、バラケの開くタイミングや拡散エリアのコントロールによってへら鮒を惹きつけ、バラケを上バリに残した状態で近接するくわせエサを躊躇なく食わせることができる。今回紹介するセット釣りのアプローチは後者である持たせバラケのアプローチに属するが、高橋自身最盛期においては両ダンゴ釣りで臨むことが圧倒的に多いなか、ダンゴでアタリをだしきれない難しい時合い下において釣る術として活用しているため、ウキを中心としたタックルセッティングもくわせの種類も盛期向きにしてはライトな味付けがされている点が高橋流の特徴であろう。

これはあくまで記者の基準であるが、セット釣りおいては大まかに分けて5段階のアプローチがあると考えている。仮に上記厳寒期における抜きバラケ(ゼロナジミ)を5段階レベルの1とすると、最盛期の持たせバラケは5。抜いたり持たせたりが交互に必要な時合い下でのアプローチが3で、ここから抜き寄りになったアプローチが2となり、持たせ寄りになったものが4となる。従って高橋流のアプローチは記者の基準に照らし合わせるとレベル4に相当し、まさに今回のようなシチュエーションにおいてベストなパフォーマンスを発揮するものと期待しつつ高橋の釣りを見守った。

使用タックル

●サオ
がまかつ「がまへら我楽」9尺

●ミチイト
サンラインパワードへら道糸「奏」0.8号

●ハリス
サンライントルネードへらハリス「禅」 上=0.6号7cm、下=0.4号35cm→45cm→40cm→30cm→26cm

●ハリ
上=がまかつ「改良ヤラズ」8号、下=がまかつ「コム」3号→同4号→「リフト」5号

●ウキ
水幸作「NEW MS」4番→3番→4番
【元径1.6mmテーパーパイプトップ仕様/オモリ負荷量≒0.8g(四番)/エサ落ち目盛りは全7目盛り中くわせを付けて3目盛半だし】

●ウキゴム
オーナー「一体式ウキベスト」2号

●ウキ止め
サンライン「とまるウキ止め糸」黄(S)

●オモリ
内径0.5mmウレタンチューブ装着+厚さ0.25mm板オモリ

●ジョイント
オーナー「へらマルカン」黒(SS)

取材時使用エサ

バラケブレンドパターン①:スタート時のノーマルバラケ

粒戦」50cc+「とろスイミー」50cc+「セットガン」50cc+水150cc(5分以上放置して各素材に十分吸水させたのち)+「パウダーベイトヘラ」200cc+「BBフラッシュ」100cc+「セット専用バラケ」100cc 

五指を熊手状に開いて大きく撹拌し、まんべんなく混ざり合ったら完成。仕上がりは指先で摘まんで押えただけでもまとまるシットリボソタッチ。基本はタナまで持たせてから抜くタイプ。

バラケブレンドパターン②:最もウキの動きが良かった当日のダンゴバラケ

「バラケマッハ」300cc+「凄麩」100cc+「BBフラッシュ」100cc+水100cc

 水を加えたら五指を熊手状に開いて撹拌し、十分エアーを含ませながらまんべんなく混ざり合ったら完成。仕上がりはヤワボソながら指先で圧を加えるとしっかり芯ができるボソ系ダンゴタッチバラケ。タナまで持つことはもちろん、アタリがでるまで確実にハリに残るタイプ。

くわせエサ

「感嘆」(ブレンド)10cc+水16cc(スタート時)→15cc(後半は硬め)

「感嘆」1袋+「感嘆Ⅱ」1袋をあらかじめ混ぜ合わせたものを計量スプーンで計り、200ccの計量カップに注いだ水と合わせたら指を使って十分練り込み、しっかりコシがでてひと塊になったところでアルミポンプに詰めて使用。食い渋りとはいえ、へら鮒自体の寄りは多く動きも激しいので、エサ持ちに少しでも不安が生じたらこまめに作り直し、常にハリにエサがついているという絶対的安心感を担保する。

高橋流ダンゴバラケの浅ダナウドンセット釣りのキモ其の一 ダンゴ時合いの食い渋りはダンゴバラケで打開せよ!

取材フィールドとなった北浦 渚では既に盛期を思わせる釣れっぷりを見せる日もあると、取材に先だっての事務所インタビューで高橋はこう言っていた。彼の言葉を裏付けるように直近では両ダンゴによる釣果が目立つようになっており、釣り場を訪れる常連各氏も当然のごとく両ダンゴでの釣りを始めていた。ところが、だ。いざフタを開けてみると思いのほかエサ追いが悪いようで周囲からは嘆きの声が聞こえてくる。こうした状態はセット釣りでスタートした高橋にも及んでおり、当日の釣況を計るべく作ったスタート時のバラケでさえ思うようにウキを動かすことができず、苦悶の表情を浮かべていた。

「これほど渋るとは思ってもいませんでした。恐らくハタキに入ったことが要因だと思いますが、このアプローチではこれ以上のペースアップはできそうもありません。セット釣りの組み立て方には厳寒期に有効とされるゼロナジミの抜きバラケから、近年流行りつつあるホタメーター(ホタチョーを浅ダナにアレンジした盛期向きのウドンセット釣り)まで色々あり、現在は控えめながらも『粒戦』をブレンドしたバラケを使った抜きでも持たせでもイケるノーマルバラケのアプローチですが、抜き寄りにするとアタリらしいアタリがほとんど見られず、手揉みでやや持たせ気味にすると単発ながらも強いアタリがではじめました。ハリスも長短試してみましたが、どちらかといえば短い方がウキの動きにメリハリがでるので、方向性としてはダンゴっぽいバラケを使った接近戦を挑んだ方が良さそうですね。」

そう言うとバラケをパターン②に切り替え、くわせエサも改めて作り直してリスタートすると明らかにウキの動きに変化が現われた。さらにハリスを段階的に詰めるに従い単発的だったアタリがコンスタントにでるようになると、それまで曇り気味だった高橋の表情にも明るい兆しが見え始めた。

「このバラケが正解ですね。それでもへら鮒の食い気はいまひとつのようで、本来のコンディションであればもっとバラケを食ってくるはずですが、今日はそれがほとんどみられません。それだけへら鮒がエサに接近せず〝間〟を取っていることの証ですので、この後はその〝間〟を詰める対策を施しながらもう少しペースアップできないか探ってみましょう。」

当然ながらこの程度の釣れ具合で満足する高橋ではなく、悪いながらもベストを目指し改めてタックルの細部に至るまで見直し始めた。

高橋流ダンゴバラケの浅ダナウドンセット釣りのキモ其の二 ウキでバラケを抱え、ハリの重さでくわせを自在にコントロール

当初アタリがでにくかった要因を食い渋りと判断した高橋は、「粒戦」がブレンドされたノーマルバラケを駆使しながらウキをサイズダウンさせたりハリスを伸ばすなどの対策を施し、少しでもくわせの動きをナチュラルに見せることでへら鮒の摂餌を促そうと試行錯誤を繰り返した。しかし厳寒期や低活性時には有効とされるこうした対策も取材時のへら鮒には通用せず、バラケを締めて持たせ気味にすることでアタリがでやすくなったことから確信を得たダンゴバラケに活路を見いだすと、一転、ウキを元のサイズに戻してバラケのホールド力を増すと共に、ハリスを短く詰めて改めて接近戦に備えた。そしてさらにウキの動きが増したところでハリをサイズアップ。明らかにメリハリが現われたウキの動きのなか、理想的な消し込みアタリで良型を連続してヒットさせてみせた。

「この釣りではウキが重要な役割を担っています。私のウキはボディが細いにも関わらずかなり太めのパイプトップが装着されていますが、これによってエサを自然な状態のままタナまで送り込み、大きなバラケでも沈没することなくしっかりホールドすることができるのです。」

ちなみにバラケのエサ付けサイズは直径18~20mmと浅ダナセット釣りにしては大きめだ。しかしこれこそが高橋流ダンゴバラケのセット釣りの特徴であり、いわゆるホタチョー/ホタメーターと呼ばれるセット釣りと同じ狙いであることは明らかだ。加えて個性的なのがくわせの「感嘆」で、ホタチョー/ホタメーターではビッグサイズのタピオカ系ウドンを使うのが一般的だが、高橋は先に紹介したブレンド「感嘆」以外は使わず、その代わりハリのサイズや種類を使い分けることで、くわせを含めた重さに変化を持たせる工夫を凝らしている。

「くわせはアングラー個々によって好みがあるようですが、私はエサ付けサイズが自在に変えられる『感嘆』を常用しています。両ダンゴのシーズン中はもちろんダンゴの釣りを好んで行うのですが、急な食い渋りに見舞われたときや魚影の薄い釣り場ではどうしてもセット釣りが必要になるケースも少なくありません。そうしたときでも『感嘆』をバッグに忍ばせてさえおけばいつでも使うことができますし、その際バラケ自体は両ダンゴ釣りで使用するものとほぼ同じなので、わざわざセット用のエサを用意する必要もなく大変手軽で重宝しています。」

高橋流ダンゴバラケの浅ダナウドンセット釣りのキモ其の三 ボソタッチバラケを好む良型べらをタナに溜めてバクバクに!

盛期のセット釣りではバラケを抱えさせたままアタリを導く組み立て方、いわゆる持たせバラケのアプローチがセオリーであり有効であることは今回の取材においても明らかであった。

「単にバラケを持たせるだけであれば他のブレンドで作っても何ら問題はないはずです。しかし現実には『粒戦』がブレンドされたバラケでは粒子が拡散し過ぎてしまい、高活性期のへら鮒が間を取る(くわせから距離をおく)ような感じが近年みられるので、バラケっぽいバラケではなくダンゴに近いバラケでくわせに接近しやすい状況を作った方が、アタリをだしやすい傾向であることは間違いないですね。」

また一般的に両ダンゴの釣りに比べると型の点で劣るといわれるセット釣りだが、高橋流ダンゴバラケのセット釣りにおいてはそのセオリーは当てはまらないという。なぜならボソエサを好むといわれる良型べらに対し、軽めで大きなボソタッチバラケが極めて有効に機能するからに他ならない。

「ダンゴバラケといっても両ダンゴで釣り込むようなヤワネバタッチではなく、あくまでボソ感を生かしエアーを十分含んだバラケなので、時間と共にボソを好む良型がタナに数多く溜まってきます。このとき不用意にウワズらせたり遠巻きにしたりしないようにして釣り込めばかなりの型揃いの釣りができるので、たとえ数で劣っても型で勝負できる点も大きなメリットと考えています。」

記者の目【万能くわせ「感嘆」さえあれば盛期の食い渋りも恐るるに足らん!】

タイトルに〝備えなくても憂いなし〟という古来のことわざをもじったサブタイトルを付けさせてもらったが、この真意は携帯に便利な万能くわせ「感嘆」さえバッグに忍ばせておけばいついかなるときも、あえてセット用バラケを持ち歩かなくても盛期の食い渋りに対応できるという意味であることをご理解いただきたい。そのうえで今回の釣りを総括すると、近年その有効性が注目されている最盛期におけるホタメーターのセット釣りほど極端なアプローチではなく、むしろ汎用性という面ではこの方が高く、手軽に楽しめるといった容易性の面でも優れていると思われる高橋のセット釣りであった。先にも述べたように高橋は生粋のダンゴマンだが、記者も負けず劣らずのダンゴ好きアングラーのひとりだ。従って盛期における突然の食い渋りには幾度となく煮え湯を飲まされた経験がある。そうした食い渋りが想定されるときはセット釣りの準備をしておけばいいだけの話だが、悲しいかなダンゴマンにはそれができない。プライドなどと言うつもりはないが、今回高橋の釣りを目の当たりにすると素直に「いつでも『感嘆』を持ち歩こうか」という気持ちになる。実際には〝備えあれば憂いなし〟なのだが、そこはひとつダンゴマンのプライドを傷つけることのない優しさとご理解いただくと共に、ぜひセットマンにもチャレンジしていただき、その威力の程を体感してみていただきたい。