稲村順一が徹底レポート「釣技最前線」第106回萩野孝之の冬のカッツケウドンセット釣り
いまやセット釣りには欠かすことができない「粒戦」。その類い稀なる集魚力とくわせへの誘引力については今さらいうまでもないが、今回の釣技最前線ではその「粒戦」がまさに釣りのキモとなって記者の目を釘付けにした。たかが50cc、されど50cc。その差は歴然とウキの動きの差となって表れ、厳寒期の釣りとは思えないほどリズミカルに躍動し続けた。もちろん実釣を快く引き受けてくれたマルキユーインストラクター萩野孝之の卓越した釣技に依るところが大きいことは明らかだが、多くのアングラーの参考となることは間違いない。取材フィールドは冬でもウキの動きが良いと評判の上尾園。へら鮒のサプリ「粒戦」が生み出す理想の距離感と萩野の手による付かず離れず絶妙のレンジコントロールが冴え渡る!
へら鮒の素早い反応にハイレスポンスで応えるのがカッツケ釣りの醍醐味だ!
厳寒期の峠を超えたとはいえまだまだ厳しい釣りを強いられる日々が続く今日この頃、アタリ恋しさに10数年振りに訪れたという老舗釣り堀の上尾園で、開始早々萩野が魅せてくれた。電光石火とはまさにこのこと。エサ打ちを始めた萩野の釣りをトレースすべく取材の支度を始めようとした刹那、シュッと鋭い水切り音が聞こえたと思うとバシャバシャと水飛沫を上げて元気なへら鮒が玉網に収まった。聞けば開始3投目ででた消し込みアタリを捉えてのファーストヒットだという。そして1投おいて5投目でも見事な消し込みアタリでヒットを重ねると、次投のアタリは空振るも7投目で3枚目を仕留めた萩野。とても真冬とは思えない展開に驚く記者に、
「さすがにウキがよく動きますね。やはりアタリに飢えたら中小型のへら鮒が多いハコ釣りに限ります(笑)。これだけへら鮒のレスポンスが良いのであれば、いきなり抜き抜きのゼロナジミの釣りは危険です。少しだけ持たせ気味にして一気に釣り込んでいきましょうか。」
開始からわずか10分。5枚目をヒットさせて以降アタリが飛んだのを機にウキ1本分タナを浅くした萩野。小分けしたバラケに極少量の手水を振り掛け、さらに数回手揉みを加えてやや持たせ気味にすると、トップ先端ギリギリまでナジミきったところで一気に上バリから抜けるようになる。するとクワセがアオられた直後にスパッと消し込むアタリで3枚をまとめ釣り。結果的にはこのパターンがこの日の〝正解〟となるのだが、この時点ではまだ萩野自身も手探り状態。さらにリズム良くエサ打ちを繰り返すとこのタナでも時折ナジミ際にウキが止められるようになる。この動きに対してさらにウキ1本分タナを浅くした萩野。この時点でいわゆる〝折り返し〟のタナになった訳だが、ここまでバラケのタッチとエサ付け時の微調整を行ったのみで、タナ以外にはまったく手をつけずに釣り込んできた萩野は連続してでたカラツンを機に下ハリスを5cm詰めた。そして数枚をヒットさせるも本人はウキの動きに納得がいかないらしく、エサ落ち目盛りを3目盛りだしに変更すると同時にさらにハリスを5cm詰めて30cmとした。ここまで時間にして30分足らず。既に10枚以上の釣果は得ていたが、あまりにも素早い展開についていくのがやっとの記者。しかし萩野にとってはいつもの釣りのルーティーンに過ぎない。
「カッツケ釣りは対応の善し悪し・正誤がすぐに現われるので、結果としてスピーディーな展開になります。またタナの調整に制限がないので、へら鮒にもアングラーにもストレスが掛りません。タナが上がったなら上がったなりに、下がったら下がったなりにウキ下を変えるだけで釣況に合せることができるので、無理なく楽しめるのもカッツケ釣りの魅力です。そしてある程度タナが決まったところでタックルその他のアジャストに取りかかるのがセオリーで、この基本を守れば冬のカッツケ釣りを存分に楽しむことができるでしょう。」
既にこの釣りの核心部分に言及し始めた萩野。早速この釣りのポイントについて解説しよう。
使用タックル
●サオ
竿春 二代目「選」8尺
●ミチイト
オーナーばり「白の道糸」0.6号
●ハリス
上=オーナーループ付バリ/ハリス0.5号-8cm、下=オーナーザイトSABAKIへらハリス0.3号-40cm→35cm→30cm
●ハリ
上=オーナーループ付「バラサ」5号、下=オーナー「へら軽玉鈎」3号
●ウキ
一志「アスリートグラス」一番
【グラスムクトップ/ボディ3.8cm/オモリ負荷量0.33g】※エサ落ち目盛り=全5目盛り中2目盛りだしでスタートし、その後ややバラケを持たせ気味にした方が良いことが分かった時点で3目盛りだしに変更
●ウキゴム
オーナーばり「強力一体ウキベスト」
●ウキ止め
オーナーばり「ピタッとストッパー」
●オモリ
0.25mm厚板オモリ1点巻き(内径0.3mmウレタンチューブ装着)
●ジョイント
オーナーばり「Wサルカン(ダルマ型)」
取材時のベストバラケブレンドパターン
「粒戦」50cc+「粒戦細粒」50cc+水180cc(5分以上放置して各素材に十分吸水させたのち)+「セットアップ」100cc+「セット専用バラケ」100cc+「バラケマッハ」100cc
粒子が粗い麩材からエサボウルに投入し、各麩材を加えるごとに軽くかき混ぜることで水分を吸水しやすくするのが萩野流。仕上がりはしっとり感が際立つボソタッチ。使用時は別ボウルに取り分けて、主にエサ付け時の圧加減で持たせ加減をコントロール。当日は基エサのままでは開きが早過ぎたようで、表層に食い気に乏しい旧べらが寄り過ぎて釣り難くなったため基エサに手水を加えて軽く揉み込み、エサ持ちを強化したヤワネバタッチで理想のタナを作り上げて釣り込んだ。
くわせエサ
「感嘆」(「軽さなぎ」入り)15cc+水16~17cc
「感嘆」1袋に「軽さなぎ」20ccを加えて混ぜ合わせておき、計量スプーンで15cc計ったものを200ccの計量カップに投入。後から水16~17ccを加えて指でかき混ぜて練り込み、コシがでてひと塊になったところでアルミポンプに詰めて使用する。
萩野流 冬のカッツケウドンセット釣りのキモ:其の一 タナはへら鮒に作らせる!?
改めていうまでもなく、カッツケ釣りはへら鮒釣りの中で最も浅いレンジを攻める釣り方であり、手返しのよさやアタリの早さといったキレとスピードが魅力の釣り方だ。ひとことにカッツケ釣りといってもタナの深浅によってアプローチに微妙な違いがみられる。今回萩野は10数年振りという上尾園での釣りを始めるにあたり、やや深めのタナからスタートして様子をみながら微調整を行った。
「タナ規定がない釣り場でカッツケ釣りをする場合、私なりに釣況がつかめていなければ、とりあえず60cm前後のタナでスタートするようにしています。理由はこのタナであれば浅くするにも深くするにも動きやすく、また状況が読みやすいためです。たとえば複雑な動きやカラツンを含めた無駄な動きが目立つときにはタナを浅く、反対にアタリを含めて思うようにウキに動きをだせないときにはタナを深くしますが、いずれの場合もウキ1本分(20cm程度)移動させてウキの動きの変化を見るのがセオリーです。そして肝心なことはあくまでタナはへら鮒に作らせるものであり、アングラーが無理矢理作るものではないということ。実際にその時々のへら鮒のコンディションに合せてできたタナで釣ると、とても釣りやすいことが実感できるでしょう。」
ウキ下約60cmとしてこの日の釣りをスタートした萩野は、開始からおよそ30分が経過する時点で60cmから40cm、さらに20cmと攻めるタナを浅くして釣果を伸ばしていったが、途中で萩野の様子を見に来た同園オーナーの野本昌明氏によれば、このタナでこれだけ釣り続けるのは最近では珍しく、普段は水面下1m近くまで深くタナを取らないと容易に釣れ続かないという。事実周囲の常連らしきアングラーの多くはやや深めのタナでコンスタントに竿を絞っており、それだけに萩野の釣りがこの日いかに特出したものであるかお分かりいただけるであろう。
「私はいつも通りの組み立て方で進めただけのことであり、日並みによってはもっと深いタナでなければ釣れ続かない可能性もあったでしょう。いずれにしてもカッツケ釣りではへら鮒がストレスなく滞留しアタリをだすタナに合せることが肝心であり、その限られたレンジのなかでいかに寄せたへら鮒をくわせエサに誘導できるかの工夫を凝らすことが核心なのです。」
萩野流 冬のカッツケウドンセット釣りのキモ:其の二 適量の「粒戦」が生みだす理想の距離感!
改めて「粒戦」のポテンシャルについて語るまでもないが、その優れた集魚力と誘導力(誘引力)を否定するアングラーはいないだろう。しかし単に加えれば良いというものではなく、やはり状況に応じた〝適量〟を加えることが肝心だ。想像以上にウキの動きが良かったこの日、萩野はある程度釣りの方向性がつかめたところでバラケのタッチを大きく変えたり、基エサのブレンドを変更するなどしてウキの動きの変化をチェックした。単に釣れれば良いというのではなく、たとえ取材中であっても現状に甘んじることなくさらに高みを目指し、別のアプローチを試すといった向上心・研究心には頭が下がる思いだが、こうした気概や行動力はむしろ我々の方が持つべきものだろう。
「今日は明らかな違いがウキに現われましたね。ウキの動きや釣果だけを見ただけで、これを確かめなければへら鮒の食いがすこぶる良かったと勘違いしてしまったかもしれません。やはり水中はまだまだ冬であって、正解のエサ幅は思った以上に狭いのかもしれませんね。」
萩野が確かめたのは最初にバラケの持たせ方だ。トップにバラケの重さが掛ったところで一気に抜く〝やや持たせ〟が良かったこの日、塊状のバラケの抜けを良くするべく手水でしっとり系に調整したうえで持ちを強化するため「BBフラッシュ」を後差ししたものを試したところ、いきなり連チャンを決めて「これが正解か!」と思う間もなく突如としてアタリを喪失した萩野。一旦基エサに戻して寄せに徹した後、改めて同じパターンで臨んだところ似た症状がみられたことから、この手は不適合と判断。次いで基エサに加える手揉みを増やしてネバリで持たせたもので再チャレンジ。すると良い感じで釣れ続き、一応これを〝仮の正解〟として頭の隅にいれたうえで、今度はバラケの大幅な変更を試みる。なかでも明確な違いが見られたのが「粒戦」の量を倍の100ccにしたブレンドだ。タッチはペレットの粒子感が際立つ、いかにも〝たくさん寄りそう〟な感じのバラケだが、これで打ち始めるとすぐに数枚釣れたものの打つほどにウキの動きが静かになり、やがてアタリがでなくなってしまったのだ。これには萩野も驚いた様子で、
「大量のペレットによってへら鮒がくわせから遠巻きになってしまったようですね。もし寄っているへら鮒の活性が高ければ、これほど距離をとることなくくわせに積極的にアタックしてくるでしょう。なんとなく想像はしていましたが、ペレットの量だけでこれだけ明確な違いが現われたことはある意味良い勉強になりました。今日のところは『粒戦』50ccが正解!やはり状況によって『粒戦』の適量は変わるんですね(苦笑)。」
と自らの失策を逆手にとって今後の糧とすると、改めて先の〝仮の正解〟としていたバラケでリスタートし、やはり釣れることを確かめると納得の表情を浮かべた。
萩野流 冬のカッツケウドンセット釣りのキモ:其の三 情報量が少ない冬だからこそ、ウキが伝えるへら鮒のシグナルを見逃すな!
冬の釣りではウキの動きが極端に悪くなる。これにより知り得る(水中から伝えられる)情報量が少なくなってしまうことは致し方ないが、それだけにウキの選択や使い方には慎重さが欠かせない。萩野が用いたウキは、冬のカッツケウドンセット釣りに最適と自負する一志「アスリートグラス」。今回は状況が分からなかったこともあって最小サイズの一番(ボディ3.8cm/オモリ負荷量≒0.33g)でスタート。結果的には最上層に食い気のあるへら鮒が入ってきたことでベストの選択となったが、精度の高いレンジコントロールを実現した使い方には大いに参考にすべきポイントがある。
「スタート直後に見られた動きが続けばパイプトップ仕様のウキに替えてもいいかなと思いましたが、終日流れが収まらなかった状況や、軟らかめのタッチのバラケを狙いどおりに持たせたり、タイミング良く抜いたりする必要があったことを考えると、結果的にグラスムクトップウキで正解でしたね。そうしたなか早い段階でややバラケを持たせた方がアタリはでやすくヒット率も高かったことから、エサ落ち目盛りを1目盛り多めにだすように変更したことでさらに釣りやすくなったことは明らかです。近年浅ダナの釣りでもグラスムクトップウキを使うアングラーが増えていますが、バラケのコントロール精度やアタリのでやすさ以外に、水中から伝えられる情報を根こそぎ拾う性能に長けていることを忘れてはいけません。」
今回萩野が重要視したのがアオリである。それもバラケが抜けた直後に明確にトップに現われる、いわゆる〝くわせアオリ〟と称されるもの。ハリスが張りきりくわせが完全にぶら下がった周辺に食い気のあるへら鮒が居ればこの動きが高い確率で現われるので、たとえアタリがでない投があってもできる限りこのアオリが現われるようなバラケのコントロール、さらにはその動きが読みやすいタックルセッティングを心掛けることが肝心という訳だ。
記者の目【アタリに飢えたらカッツケ釣りでリハビリ&リフレッシュ!?】
今回もまた痛快な釣りを披露してくれた萩野。プロアングラーなのだから釣って当然と思われる向きもあるだろうが、釣れてなお、さらなる高みを見据えた研究心には、記者など足下にも及ばないと痛感させられた取材であった。萩野流冬のカッツケ釣りのキモについては既に述べたが、読者諸兄にそのプロセスを分かりやすく伝えるためには、何より動画に収めたウキの動きが重要だ。それにはアングラーのテクニックもさることながら、何よりへら鮒の働き・動きが必要不可欠だ。へら鮒釣りはウキが動いて(ウキを動かして)ナンボの釣りである。ウキが動かなければエサ合わせもタックルのアジャスティングも始まらない。そうした意味では、今回の上尾園の取材は大いに意義のあるものであろう。萩野も言っていたが、冬にウキが動く「釣り堀」は貴重であり、これからも大切にしていきたいと。厳寒期にアタリに飢えたら「粒戦」を携えてハコに足を運び、何の縛りもないカッツケ釣りでリハビリ&リフレッシュをしてみてはいかがだろうか。