稲村順一が徹底レポート「釣技最前線」第105回 石井忠相のチョーチンウドンセット釣り|へら鮒天国

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稲村順一が徹底レポート「釣技最前線」第105回 石井忠相のチョーチンウドンセット釣り

 四季折々の釣趣が味わえるへら鮒釣りにおいて、冬ほどウキの動きを読み解く難しさを感じる季節はないだろう。ただでさえ動きが少なくなるうえに、中途半端な組み立て方や精度の低いアプローチではアタリどころかサワリをだすことすらままならない。エサ・タックルすべてにおいて繊細さを追求することは言うに及ばず、トータルバランスのわずかなズレも許されないなか、呼吸も止まるほどの集中力でへら鮒の気配を感じたら必然のアプローチでアタリを引き出す。今回はそんな誰もが痺れる厳寒期の釣りだからこそ、よりホットに楽しむ術を見てみたいとマルキユーインストラクター石井忠相に熱いオファー。確たるセオリーによって構築された厳しい冬のへら鮒釣り攻略法を披露すべく、清遊湖の凍てつく桟橋へと降り立った。

おざなり厳禁!クールな判断とホットな気持ちでへら鮒と対峙せよ!

 石井のチョーチンセット釣りは幾度となく釣技最前線で取り上げているが、今一度その軸となる4パターンのアプローチについて振り返ってみよう。

パターン①:高活性時の接近戦

「ホタチョー」と称される太く大きなウドンを付けたチョーチンウドンセット釣り。「バラケマッハ」をベースとした開きの良いバラケを上バリに抱えさせた状態で一旦ウキを深ナジミさせ、竿先をシャクリながらアタリを待つ強い釣りの代表格

パターン②:高活性時の遠隔戦

大きめのくわせをメインとしながらも、バラケに対してやや距離を置くへら鮒を「やや持たせ」気味のバラケで誘引して仕留めるアプローチ(ウキのトップのナジミ幅は4~5目盛り程度)

パターン③:低活性時の遠隔戦

やや小さめのくわせをメインとし、バラケに対して一定の距離を置くへら鮒を「チョイ持たせ」気味のバラケで食わせるアプローチ(ウキのトップのナジミ幅はトップ1~2目盛り程度)

パターン④:低活性時の超遠隔戦

くわせもハリも極小サイズをメインとし、バラケに対して容易に近づいてこない食い渋ったへら鮒を、早いタイミングで抜いたバラケとサソイを駆使して食わせるアプローチ(ほぼゼロナジミ状態)

 こうした異なるアプローチは季節だけに囚われるものではなく、その日その時のへら鮒の状態に合わせて使い分けるもので、石井がチョーチンウドンセット釣りをする際に基準としていることは過去の釣技最前線でも既に紹介しており、今回の実釣もこれを元に進められたことはいうまでもない。直近の釣況を知る限りお世辞にも好調というほど釣れてはおらず、年の瀬のこの時季にあっては低活性であることは疑うべくもなく、従ってパターン③もしくは④がセオリーであることは記者にも容易に想像できた。

「取材に臨むにあたって清遊湖の近況をリサーチしてみたのですが、ハッキリ言えることはまだ厳寒期の釣りにはなっておらず、だからといって活性が高いわけでもないので、なんともつかみどころのない難しい釣りになるかもしれないということです。ただ、比較的早めにバラケを上バリから抜いてしまう抜きセットでなければ釣れないことだけは確かなので、バラケのコントロールがキモになることは間違いありません。おそらく簡単には決まらないでしょうから、そうした難しい釣りに悩み苦しむ私の姿を見て何らかのヒントをつかんでいただけたら幸いですね(苦笑)。」

 いつになく殊勝な面持ちでこう切り出した石井であったが、結果から述べてしまうとスタート直後からウキが動き始め、30分も経過する頃には連チャンで新べらをヒットさせるなど、釣況の不安をまったく感じさせないほど絶好調。ところが、さらにへら鮒の寄りが増すに従ってウキの動きが複雑化し、やがてアタってもアタっても乗らないカラツン地獄にはまり込む。もちろんあらゆる策を講じて状況の打開を試みたが思うように決まらず、一時は竿を替えて攻めるタナを変えてみるも好転することはなく、やがて周囲でも竿が立たない食い渋りモードに…。しかし、この最悪の時合い下においてもなお手堅く拾い続けた石井の釣りを支えたものは、クールな状況判断と的確な対処法。そしてそれを可能にしたのは、水中のへら鮒の状態を的確に伝え続けたへらウキ「ネクストビート」。表現力豊かなこのウキから伝えられる情報を正しく理解できれば、渋い冬の釣りも心弾むものになるに違いない。

使用タックル

●サオ
かちどき「匠絆 忠相」10尺

●ミチイト
オーナーザイト「白の道糸」0.8号

●ハリス
オーナーザイトSABAKIへらハリス
上=0.6号-8cm、下=0.3号-50cm

●ハリ
上=オーナー「バラサ」8号、下=オーナー「リグル」3号

●ウキ

忠相「ネクストビート」Lサイズ
【極細グラスムクトップ19.0cm/孔雀羽根二枚合せボディ6.3cm/極細カーボン足7.8cm/オモリ負荷量≒0.95g/エサ落ち目盛りはクワセを付けて全13目盛り中4目盛り出し】

●ウキゴム
Foot Fit (S) パープル

●ウキ止め
Dual Hold M

●オモリ

0.3㎜厚板オモリ(内径0.4㎜ウレタンチューブ装着)

●ジョイント

オーナーばりWサルカン(ダルマ型)24号

取材時のベストバラケブレンドパターン

「粒戦」100cc+「とろスイミー」50cc+水200cc(最低でも10分以上放置して各素材に十分吸水させることが肝心で、気温・水温共に低い厳寒期は放置し過ぎになることはないと言う)+「セット専用バラケ」100cc+「セットアップ」100cc+「BBフラッシュ」100cc

 五指を熊手状に開き、下から掘り起こすように大きくかき混ぜ、水分を全体に均等に行き渡らせる。仕上がりはダマの無いサラッとしたしっとりボソタッチ。使用時は半分ほど別ボウルに取り分け、エサ付け時の圧加減でバラケの抜き方をコントロールする。釣れ続くときはほぼ基エサの打ち切りとなるが、厳寒期でも起こるウワズリを訂正する際は、手水+「粒戦細粒」の追い足しによって重さとネバリ(特に経時変化による自然のネバリ)を加えるのが石井流。

くわせエサ各種

①「魚信」

 1分包に対しポーションタイプのミルク1/2個と水65ccを加えて加熱処理した後、小さな塊にしてラップで包んで釣り場に持参しポンプに詰め替えて使用。3つのくわせエサの中では最も重いが、状況に応じて適宜サイズを変えられるのがメリット。

②「力玉大粒」(「さなぎ粉」漬け)

 石井が基準とするくわせエサがこの「力玉大粒」で、3つのくわせエサのなかではサイズ・重さ共に中間に位置する。フォルムが小さくならないよう長時間漬け込み過ぎないことがポイント。

③「感嘆」(「さなぎ粉」入り)10cc+水10cc

 先に水10ccをカップに注ぎ、「感嘆」1袋に「さなぎ粉」20ccを加えて混ぜ合わせたものを計量スプーンで10cc計って後から加えて指でかき混ぜ練り込み、ダマ無く混ざり合い十分にコシがでたところでアルミポンプに詰めて使用する。3種のくわせエサのなかでは最も軽く、ポンプの押し出し方次第では直径3mm以下の極小サイズにすることも可能で、最も食いが渋くなる厳寒期における抜き系アプローチではメインとなる。

石井流 厳寒期のチョーチンウドンセット釣りのキモ:其のⅠ 抜きバラケでも常にタナを意識せよ!

 近年厳寒期のチョーチンウドンセット釣りは早いタイミングでバラケを抜いてくわせだけでアタリを待つ「抜きセット」が主流となっているが、石井は無闇やたらにバラケを抜くアプローチに警鐘を鳴らす。

「いつまでもバラケを上バリに残したままではアタリがでにくくなるのが、厳寒期における現代セット釣りの特徴ですが、だからといって単にバラケを抜けばアタリがでるのかといえば、決してそのようなことはありません。こうした点が現代抜きバラケの釣りの難しいところなのですが、やはりポイントは〝タナ〟だと私は考えています。実際、今日の釣りでも早めにバラケを抜くことでアタリを維持できましたが、そうしたなかでも常にタナを意識することが大切です。私が目安にしているのが上バリのバラケがタナに入るタイミングで、最短でもわずかにバラケの重さがウキに掛かるようにすることでウワズリを抑制しています。」

 このタイミングをコントロールするのは名手石井忠相のフィンガーテクニックだけではなくバラケを構成するブレンドを軸としたタッチ、そしてそれを時々刻々変化する状況にアジャストする調整が三位一体となって初めて可能となる。取り分け石井は活性が低下した厳寒期のへら鮒が必要以上にウワズったり遠巻きになったりしないよう、微粒子系でも比較的重さを備えた素材をベースにバラケを仕上げており、実際に石井が使用しているバラケを指先でまとめてみると、バラケらしいザラつき感を強く感じるものの「BBフラッシュ」の接合力が効いたまとめやすいタッチであることが実感できる。これを直径12~13mm程の水滴型にハリ付けすると、エサ落ち目盛りよりも1~2目盛り沈みかけたところでス~とトップが返してくる。これが石井の言うわずかにバラケの重さがウキに掛かったところで抜けるタイミングであり、これを基本として状況に応じて早めたり遅くしたりしてアタリを引き出し続けた。

石井流 厳寒期のチョーチンウドンセット釣りのキモ:其のⅡ アタリは必然〝リーチ目盛り〟が食いアタリを教えてくれる!?

 手前味噌とお叱りを受けるかもしれないが、石井の厳寒期の釣りを支えているのは紛れもなくへらウキ忠相「ネクストビート」に他ならない。食い渋るこの時季のチョーチンセット釣りに特化したこのウキは、極細グラスムクトップを用いることで水中のわずかなへら鮒の動きをよりリアルに伝えてくれる。石井はこのウキのキャッチコピーに「心弾む厳寒期…」と始まる一文を添えているが、このひと言こそが彼のフィッシングスタイルを如実に表している。四季を通じて楽しめるへら鮒釣りだが、ウキの動きが最も少なくまた小さくなる厳寒期こそ、ウキの動きを読み解く術を学ぶ絶好の機会であり、まさに心が弾むようなエキサイティングなゲームが楽しめるのだ。

「確かにウキの動きを読み、自らの対策に結びつけながら釣りをするのは楽しいものですし、それこそがへら鮒釣りの原点であり本来の楽しみ方だと思います。しかし厳寒期のウキの動きは少なく、しかも小さいために読みにくいことは事実であり、多くのアングラーが思い悩むことも承知しています。だからこそ、たとえ厳しい冬の釣りであってもウキの動きを楽しめるウキが必要であり、そうした背景があって生まれた『ネクストビート』ですから、心弾むウキの動きが表現できると自負しています。」

 さらに石井は続ける。

「今日はことのほかカラツンが多いようですが、冷静に見れば食いアタリなのかカラツン(おそらくはその多くが糸ズレ)なのかの区別はある程度可能です。私はエサ落ち目盛りのひとつ下の目盛りを〝リーチ目盛り〟と呼んでいますが、これはエサに近づいたへら鮒のアオリで水面上に現われる目盛りで、これがでればほぼ食いアタリにつながります。しかしアタリの少ない厳寒期ですので、たとえアオリがないところからのアタリでも手は止まりませんね(苦笑)。」

石井流 厳寒期のチョーチンウドンセット釣りのキモ:其のⅢ くわせチェンジにタックル変更、やれるべきことはすべてやる!

 へら鮒のエサ追いが良くコンスタントに釣れるときはウキの動きに逆らうことなく釣り込み、折り悪くエサ追いが良くないときには集中力を高め数少ないウキの動きからへら鮒の様子を読み解き、やれるべきことはすべてやりきるのが石井の真骨頂。この日いきなり順調に釣れ始めた序盤戦を単にへら鮒の食いが良かったからと捉える向きもあるだろうが、さにあらず、スタート時のセッティングの精度の高さがあってこその結果であることを見逃してはならない。バラケもくわせもこの時季の釣りの定番であり、いきなり釣れたのはたまたまだと石井は謙遜するが、最初に選択した竿の長さ(タナ)やウキの番手(サイズ)、さらにはハリのサイズやハリスの長さは総合的に判断した結果、彼が導き出したいわば清遊湖におけるスタート時のベストセッティング。これが正解から大きくかけ離れていると最初の連続ヒットは生まれなかったに違いない。

「スタート時の基準としているところはどこの釣り場でも概ね一緒なのですが、これに事前の釣況を加味して若干のアレンジを加えるだけでさらに精度は高まります。実際このスタート時のセッティングがある程度ハマれば、その後の調整は微調整で済むので迷いが少なくなることは確かです。とはいえ、最初から決まらないことの方が多いので、肝心なことはやれるべきことをすべてやるということに尽きます。とかくアタリが極端に少ない時季なのでつい億劫になりがちですが、やってダメなら元に戻せば良いだけの話ですから、とにかく思い立ったらすぐに実行です。」

 いかに食いが良かったとはいえ、開始直後のアタリの出方や釣れ具合から判断すると概ねセッティングに誤りがないことは明らかで、このことから前半戦はバラケのコントロールのみで凌いだ石井であったが、中盤になりへら鮒の寄りが増すに従い警戒していたウワズリが生じると、それまでヒットしていたアタリがことごとくカラツンとなり、天を仰ぐシーンが幾度となく続いた。この状況を打開すべく石井が採った策は、くわせを重めの「魚信」に替え、明らかな効果がでていないとみるとハリスを詰めて対応。しかしこの対策によってアタリそのものが少なくなると、この策は現時点では適合しないと判断し、元のセッティングに一旦戻したうえで再びバラケの調整に集中したのである。

石井流 厳寒期のチョーチンウドンセット釣りのキモ:其のⅣ サソイはアワセる準備のルーティーン!

 サソイが厳寒期になくてはならない必須テクニックであることはいうまでもなく、現代チョーチンウドンセット釣りではサソイの代名詞でもある〝シャクリ〟といわれる縦サソイの良否によって釣果に差がつくことが少なくないと記者は見ているが、石井の見解はこうだ。

「確かにサソイを駆使して釣果を伸ばしているアングラーは少なくありません。私もサソイは頻繁に行っていますが、その目的は大きく分けてふたつあります。ひとつは想定よりもバラケが持ち過ぎてウキが沈没したときにバラケを促進させるための強めの縦サソイ、もうひとつはくわせだけになった後のアタリを待つ間に行うソフトで小さなサソイです。前者のサソイでは明らかにエサ自体が動きますが、後者の小さなサソイではほとんど動いてはいないと思っています。それにも関わらずサソイを続けるのはアワセる準備のための私のリズムであり、いわばルーティーン。実際サソイを入れた直後にアオリがでてアタリにつながることが少なくないので、自然にバラケが抜けた直後ウキに何の動きも現われないときにはほぼ毎投サソイます。」

 石井のサソイはバラケを促進する(抜く)ためのサソイこそ〝シャクリ〟といった感じはするが、それ以外のサソイは2~3目盛りにとどめることが大半で、確かにこの程度のストロークのサソイではラインテンションに変化が生じる程度で、くわせを動かすことによるリアクションバイトを期待するものではないようだ。

記者の目【へら鮒釣りは夏でも冬でも、オールシーズン心弾ませウキの動きを楽しむべし!】

 へら鮒釣りを生業とする石井忠相は、いついかなるときでもへら鮒釣りに対する姿勢はブレることがない。激しくウキが踊りズバズバ消し込む真夏の釣りも、わずかに押える小さなアタリをとる真冬の釣りも、同じように心弾ませてウキの動きを楽しんでいる。へら鮒釣りはウキでアタリをとる釣りだが、アタリそのものが少なく極小アタリとなる厳寒期は楽しみたくても楽しめないという声を多く耳にする。腕に覚えのあるアングラーであればお分かりだろうが、厳寒期には厳寒期に適した、またチョーチンセット釣りにはチョーチンセット釣りに適した冬仕様のウキを使うことで格段に釣りが楽しくなる。もちろんそれに見合ったエサやタックルのアジャスティング、さらに精度の高いアプローチが必要不可欠であることはいうまでもないが、これは単に釣れるようになるということではなく、ウキがへら鮒の動きを表現してくれることでへら鮒釣り本来の楽しみ方である「ウキの動きを読む」ということが可能になるからに他ならない。石井は自らが世に送り出したへらウキと自らの釣技を通じ、そうした楽しみ方を多くのアングラーに伝えてきた。おそらくそうしたスタンスはこれからも続くだろうし、我々アングラーもそうした石井の思いを理解することで、さらにへら鮒釣りの奥深さに気づかされるに違いない。