稲村順一が徹底レポート「釣技最前線」第104回 吉田康雄の沖め狙いの両グルテン浅宙釣り
両グルテン=新べら狙いの釣りと思い浮かべる読者諸兄も多いことだろう。確かにグルテンエサは新べらを狙うのに適しており、その実績も枚挙にいとまがない。しかしグルテンエサの効用は新べらだけにとどまらず、時季によっては既存の旧べらまでもがターゲットとなる。それが多くのアングラーが両ダンゴからセット釣りへと釣り方を切り替える、まさに今。そしてこの釣り方を誰よりも愛し、この時季この釣りばかりにのめり込むアングラーがいる。マルキユーインストラクター吉田康雄だ。その釣りを端的に言えばパワフル&デリケート。沖めに潜む大型べらをダイナミックに引き抜く見た目の力強さの裏側には実に繊細できめ細やかな技がちりばめられており、シビれるアタリで良型連発!今回はそんな両グルテンの魅力をつぶさにお届けする。なおこの釣りにハマり、グルテン中毒になっても記者は一切関知しないからそのつもりで…。
新旧べらが入り交じる、この時季ならではのシチュエーションが織りなすグルテンワールド
「新べらの放流が本格的に始まる10月下旬から年内いっぱいがこの釣り方の〝旬〟なのですが、気がつくと取り憑かれたように夢中でこの両グルテンの浅宙釣りばっかりやっていますね。(笑)。」
取材フィールドとなった筑波流源湖の、最深部を控えた北桟橋で大好きだという両グルテンの浅宙釣りの支度を始めた吉田は、開口一番笑顔でこう言い放った。そして自ら相当釣り込んだという両グルテンの釣りの魅力について、
「グルテンというのはとてもデリケートなエサですが、その繊細さがなんともいえず面白いんです。それに普段は使うことが少ない長竿というアイテムを駆使し、ハリ掛かりすることの多くない沖めに潜む大型べらをターゲットとすることで、とてもスリリングな釣りが味わえるのです。この時季ですので当然ながら放流された新べらまでもがターゲットに加わりますが、イメージどおりのアタリでこれが混じり始めると気持ちはさらにヒートアップ。やれば間違いなくドハマりしますよ(笑)。」
取材当日、まず手始めに13.5尺でスタートすると、想定内と言いながら良型の旧べら主体の数釣りを早々と決めてみせた吉田。この時点で両グルテンの釣りのポテンシャルをまざまざと記者に見せつけると、さらに沖めに潜む大型の新べらを狙うべく18尺、そして21尺と竿を伸ばしていく。
「これだけウキが動くのであればセット釣りはまだまだ早いと思いませんか?いずれもっと水温が下がればへら鮒は共エサを追わなくなるので、セット釣りにするのはそれからでも遅くはありません。今は両ダンゴとセット釣りの端境期などではなく、この釣りのまさに〝旬〟なのですからやらない手はないでしょう(笑)。」
吉田の釣りを見ていると、記者もなんだか長竿が振りたくなってきた。では早速実釣する前からハマりそうな刺激的な両グルテンの釣りを見ていこう。
使用タックル
●サオ
シマノ「普天元 獅子吼」13.5尺→18尺→21尺
●ミチイト
東レ「将鱗へらストロングアイ道糸」0.8号
●ハリス
東レ「将鱗へら SUPER PRO Plus ハリス」0.5号
上=45cm(※18尺/21尺時は50cm)、下=60cm(※18尺/21尺時は75cm)
●ハリ
上下=鬼掛「ダンゴヒネリ」5号(※18尺/21尺時は同6号)
●ウキ
吉田作「ティースリー」
【テーパーパイプトップ(元径1.4mm、先径1.0mm) /カヤボディ(最大直径7.2mm)/カーボン足(直径1.0mm)/エサ落ち目盛り=全サイズ7目盛り出し】
①13.5尺時=1番(トップ9cm/ボディ5cm/足9.5cm/オモリ負荷量≒0.7g)
②18尺時=4番(トップ12cm/ボディ6.5cm/足9.5cm/オモリ負荷量≒1.1g)
③21尺時=7番(トップ15cm/ボディ8cm/足9.5cm/オモリ負荷量≒1.5g)
竿の長さによって使用するウキのサイズが異なるが、これは単に竿の長さの違いによる使い分けではなく、攻めるタナの違いによって使い分けていると言った方が適切であり、これについては後述しているので参考にしていただきたい。
●ウキゴム
市販品「ウキゴム」
●ウキ止め
市販品「タナキーパー」
●オモリ
0.35㎜板オモリ一点巻き
●ジョイント
「サルカン」(ウレタンチューブ付き)
基準エサブレンドパターン
「新べらグルテン底」50cc+「グルテン四季」50cc+「わたグル」20cc+水140cc
3種のグルテンを軽く混ぜ合わせてから水を注ぎ、全体に水を行き渡らせてからもしっかりかき混ぜてグルテン繊維を均等に混ぜ合わせ、まとまり感がでたところでボウルの隅に寄せて5分以上放置。使用時はエアーを抜き過ぎず、つまみ取ったグルテンを指先で軽くまとめる程度でエサ付けするのがポイント。標準エサ付けサイズは直径10~12mm。
吉田流両グルテンの浅宙釣りのキモ:其のⅠ 正確な計量と繊細な作り方で仕上げられたグルテンエサ 生かすも殺すもタッチとエサ付け次第
繊細さが際立つところはエサ作りとエサ使いだろう。まずエサ作りに関してはブレンドする各種グルテンおよび水の正確な計量に尽きる。これが不正確で毎回仕上がりのタッチが異なると決して良い釣果には恵まれず、せっかくの良型べらを目の前にして指をくわえて見ていなければならないことになる。
「僕自身この釣りが繊細であるということを実感するのがこのエサ作りです。グルテンは元来デリケートなエサですが、作り方さえ間違えなければ誰でも同じタッチに仕上がります。まずここが徹底できなければその先に待っているエキサイティングな釣りを味わうことはできません。逆に言えばレシピさえしっかりしていれば、良い釣りが約束されたも同然ということです。」
グルテンエサの作り方や使い方に関してはアングラーごとに異なる流儀があるだろう。それはそれで尊重すべきことであるが、吉田ならではの特徴を挙げるならば、この正確な計量によって仕上げられたエサの均一性、再現性に加え、その後のエサ使いで魅せたボウル内のエサの部分ごとに異なるタッチの使い分け方だ。見た目にはひと塊のグルテンエサだが、ボソッ気が最も強く残る上部、水分量が多くシットリタッチの下部、そして裏返すことで徐々にボソッ気が薄れシットリ系に変化する部分と、3つのタッチを使い分けている。ボソッ気が強い上部は最もエアーを噛んでいるためエサが早くナジミ過ぎるのを避けたい場面で、シットリタッチの下部は安定したアタリが持続しているときに、変化したシットリボソタッチはその中間的な場面でと臨機応変に打ち分けている。そして最後の決め手となるのがエサ付けだ。詳細については吉田自身が動画で解説しているが、エサ付けにこの釣りのデリケートな面が集約されており、サイズこそ直径10~12mmを基本としているが、つまみ取ってからの丸め方や圧加減がナジミ際のウキの動きに決定的な違いをもたらしている。
吉田流両グルテンの浅宙釣りのキモ:其のⅡ ターゲットは竿の長さとレンジで攻め分ける
この日、吉田は13.5尺でタナ1本半からスタートし、次に18尺でタナ2本、さらに好時合いを求めて21尺でタナ3本と、異なる長さの竿とタナの組み合わせで筑波流源湖の大型べらを見事攻略してみせた。
「釣り場によっても日並みによっても、理想の釣況に持ち込める竿の長さとタナは変わります。ここ筑波流源湖では長い方が良いようで、放流して間もないキロ級の大型新べらが混じる確率が高まります。」
今回スタッフは読者諸兄に竿の長さとタナの違いによる差を見ていただくために、あえて3本の竿を使い分けてもらうオーダーを吉田に課した。最初の13.5尺ではまだ活性の高い旧べらをメインに数釣りを目指してもらったところ、思いのほか早い釣れだしからある程度予想どおりの釣況に持ち込めたが、やはりこのセッティングでは新べらの居着くエリアに届かなかったようで、期待の新べらが混じることはなかった。しかし、この結果は折り込み済みで、頃合いをみて18尺に切り替えてもらったのだが、実はこの18尺で急ブレーキ。切り替えのタイミングが悪かったのか時間的な食い渋りタイムと重なり、ウキが動く割にはヒット率が低く、狙いの新べらも釣ることができなかった。すると吉田はスタッフがさらなる長竿を促すよりも早く、18尺を見切って21尺を継ぐ。すると釣況は徐々に上向き、やがてウキの動きが安定すると吉田が理想とするウケ後のアタリが連発。グッドコンディションの良型旧べらに混じって狙いの新べらも顔をだすと、改めてこの釣り方のポテンシャルに感嘆せざるを得ない記者であった。
「多くの管理釣り場では沖めに大型べらが居着くため、この釣りでは長竿有利の傾向は否めません。このため中尺・長尺ロッドの操作テクニックは必須であり、特に水中落下するエサのアピール度を増すために、ウキが立つ位置のやや先にエサを打ち込む精度の高いロッドワークが求められます。幸い長くなる(沖になる)ほど攻めるレンジが深くなるので、その分ウキを大きくすることで仕掛けが送り込みやすくなり、思ったほど難しく感じないでしょう。」
慣れないと簡単ではないかも知れないが、何かアドバイスは?という記者の問いに対し、直下の落とし込みよりはむしろ振り切り気味の方がアタリはでやすいという吉田の言葉は、長竿の操作に不慣れなアングラーにとって力強い後押しとなるに違いない。
吉田流両グルテンの浅宙釣りのキモ:其のⅢ 「ウケてチャッ」ウキ主導のタックルセッティングで理想の食いアタリを誘発!
この釣りでは特有の食いアタリが見られる。それは新べらをメインターゲットとする両グルテンの釣りでよくみられる「ムズ」、「モヤッ」といった変化系のアタリではなく、ウキが立ち上がった直後からナジミ始めるまでの間に見られるやや長めのトメの後、エサの軽さをリアルに感じることができるゆったりとしたナジミの間に「チャッ」と1~2目盛り入る食いアタリだ。吉田はこのタイミングにでるアタリを理想の食いアタリとし、この動きがでるようにエサやタックルを整えることに注力。トメやナジミ際のサワリが少なくエサがスルーされたときには躊躇することなく打ち返していた。
「ウキがナジミきってしまったら勝負は負け。そうならないようにエサ付けに最大限注意すると共に、タックルセッティングにも気を配っています。手前味噌になりますが『ウケてチャッ』とアタらせるためにはウケがでやすいパイプトップウキが必要不可欠です。それもヒットチャンスの幅を広げるため、長めのパイプトップが理想なのですが、それを追求した結果生まれたのが今回使用した『ティースリー』(TYPE Ⅲの略称)というわけです。」
ウキがこの釣りを成立させるための重要な役割を果たしていることは間違いないが、それ以外にもウキの特性に合わせて整えられたタックル類も見逃せない。なかでもエサのアピール度を増す長めのハリスと、エサの持ち過ぎを抑制するために考え抜かれたハリのサイズは、理想のアタリを誘発するために必要不可欠なアイテムだ。ちなみにウキは竿が長くなり攻めるレンジが深くなるほどにサイズを大きく、これに合せてハリスも長めとし、タナが深くなる分ハリもサイズアップさせるのが吉田流タックルセッティングのキモである。
「こうしたタックルセッティングは、この時季のへら鮒にストレス無くエサを追わせ食わせることを目的としたものですが、徐々に釣りが合ってくるとパターン化されたアタリで釣れ続きます。そのときの僕はへら鮒以上にストレスフリー。エサを食わせるまでのプロセスも繊細で面白い釣りですが、掛けた瞬間一変するパワフルでダイナミックな釣り味も堪えられません(笑)」
記者の目【改めて両グルテンの釣りの奥深さと可能性を示してくれた至高の技】
決して盛期の両ダンゴの釣りのような躍動感溢れるウキの動きではないが、無駄なく必要最小限の動きのなかで水中の情報を伝えながら、自身「ウケてチャッ!」と表現するデリケートな食いアタリで次々と大型べらをヒットさせる吉田の釣りを目の当たりにすると、確かにこの時季の釣りが両ダンゴorセット釣りという二者択一ではなく、両グルテンという第三の選択肢が極めて有効であるかがよく分かる。
「こんなにも夢中になれる釣りがあることを多くのアングラーに知ってもらいたくて、披露できるチャンスを待っていたのですが、今回、その思いが果たせて大変満足です(笑)。確かにやれる時季や釣り場は限られるかもしれませんが、こんなにもパワフルで繊細な釣り方があることを知ってもらい、実践していただけたらインストラクター冥利に尽きます。僕の身近にもこの釣りの魅力に取り憑かれた両グルファンがいますが、今シーズンもエキサイティングな釣りを楽しんでいますよ。」
単にグルテンをハリに付けて打ち込めば釣れるというわけではないことくらい容易に想像できるが、決して臆することなかれ。トライ&チャレンジ!たとえ高度な操竿テクニックがなくても各自できる範囲で長い竿をだし、両グルテンの浅宙釣りに適したウキがなければ手持ちのなかから浮力が合致するウキを選べば良い。そしてレシピ通り繊細に仕上げたエサを付けてテンポ良く打ち込んでみて欲しい。さすれば道は開かれよう!