稲村順一が徹底レポート「釣技最前線」第32回 Chapter1 追わせて食わせる両ダンゴ|へら鮒天国

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稲村順一が徹底レポート「釣技最前線」第32回 Chapter1 追わせて食わせる両ダンゴ

埼玉県さいたま市と富士見市の境を流れるびん沼川。関東は言うに及ばず、全国的にもその名を知られたこの釣り場は平日でも4~500人、盛期の休日には1000人にも迫ろうかというほどの釣り人が押し寄せる、名実共に日本一の野釣り場である。その人気の理由は釣れるからに他ならないが、休日の管理釣り場以上に混雑した中でも型が見られ、平日であればたとえ数百人の釣り人でにぎわっていても束釣りが可能なほど魚影が濃く、しかもグッドコンディションのへら鮒が多いのだ。 しかし釣れるということは、裏を返せばそれだけ攻められている訳で、当然のことながら数を釣るには一筋縄ではいかない難しさがあり、実際に釣り場で見ていると釣れる人とそうでない人、アタリはあるがスレや空振りばかりの人など、常連といえども決して楽に釣っている人達ばかりではない。ある意味難攻不落といった感のあるびん沼川だが、そこで今回は同釣り場に精通するマルキユーインストラクター伊藤さとしに、盛期におけるびん沼川攻略法を紹介してもらうことにした。

盛期のびん沼川攻略の傾向と対策

「確かに盛期のびん沼川は釣れるけど、攻め方が合わないと難しい一面もある。事実管理釣り場並みに魚影は濃いが、大勢の釣り人に攻められているので、かなりエサ慣れしたへら鮒も多くなっている。だから純然たる野釣りという攻め方ではなく、管理釣り場のテクニックを応用したびん沼川仕様のアプローチで臨む必要があるんだ。」

野釣りには必携の釣り台を設営しながら、こう呟いた伊藤。入釣場所は彼のお任せで決めたのだが、ここは砂塚橋のやや上流の富士見市側。通称「墓場下」と呼ばれる対岸のポイントで、見渡したところ既に30人近い釣り人が釣り支度を始めている。明らかに対岸の方に入釣者が多いが…

「どこもよく釣れるが、不思議とさいたま市側に人気が集中するね。入釣者が多ければそれだけエサが打ち込まれるので、自然とへら鮒の居着きも良くなるという訳だが、盛期になればポイント差というほどの大きな違いはないと感じている。要は釣り方次第ってとこかな。 これからの時期は浅ダナ狙いの釣りが中心になるが、管理釣り場のようにタナ規定がある訳ではないので、上手にタナを合わせることで釣果に大きな差がつくこともある。場所によって水深に差はあるが、概ね2m前後の水深が有れば問題はなく、水面下80cmくらいのところから底近くまでをエレベーター式に探って行くのがここの釣り方で、この狭いレンジの中で、いかにエサを追わせて食わせられるかがキーポイントなんだ。それに加えて流れ川の特徴でもある回遊性の強い浅ダナのへら鮒が相手なので、基本的に足止めするのは難しく、回ってきたときにいかに釣り込むかが重要だね。」

そうこうするうちに支度も整い実釣がスタート。まずは両ダンゴでタナ80cmから攻めるという。では早速伊藤の釣りを見ていこう。

使用タックル

伊藤さとし流 浅ダナ両ダンゴ釣り(びん沼川仕様)タックル

●サオ
シマノ「特作 伊吹」11尺 ※盛期は9~13尺

●ミチイト
東レ「将鱗へらSUPER PROプラス道糸」0.8号

●ハリス
東レ「将鱗へらSUPER PROプラスハリス」 上=0.4号30cm~40cm/下=0.4号40cm~50cm

●ハリ
上下=オーナーばり「バラサ」 5号~3号

●ウキ
①扶桑ファイナリスト五番
【0.8-0.3mm径テーパーPCムクトップ14cm/7.3mm径カヤボディ4cm/0.8mm径カーボン足9cm/オモリ負荷量≒0.70g/エサ落ち目盛りは全10目盛り中7目盛り出し】
②扶桑ファイナリスト四番
【0.8-0.3mm径テーパーPCムクトップ13cm/7.3mm径カヤボディ3.5cm/0.8mm径カーボン足8.5cm/オモリ負荷量≒0.63g/エサ落ち目盛りは全9目盛り中6目盛り出し】

●ウキゴム
オーナーばり「浮子ベスト」2.0号

●ウキ止め一式
市販木綿糸

●オモリ
ウレタンチューブ(内径0.3mm)装着板オモリ1点巻き

●ジョイント
オーナーばりWサルカン(ダルマ型)22号

びん沼川浅ダナ両ダンゴタックルセッティングのポイント

■サオ
両ダンゴで釣れるようになれば長ザオは不要で、概ね9~13尺あれば充分とのこと。取材時は平日ということもあって11尺を継いだ伊藤だが、周囲でも常連は皆同じくらいの長さのサオを振っており、実際にこの長さの実績が高いことがうかがわれる。

■ミチイト
野釣りではラインブレイクするとタックルの回収はほぼ不可能になるので、強度の面で信頼できるものを選びたい。また常時流れがある同釣り場では、とりわけ沈みの速いことが必須条件。釣れるへら鮒の型が平均尺クラスということからも、太さは0.8号を基準とする。

■ハリス
ミチイトとのバランスを考慮して、太さは0.4号を基準とする。長さに関しては、伊藤がキモと言い切る追わせる釣りを確実にするため長めを基本とする。取材時基準としたのは上40cm/下50cm。ただしこれが決まりではなく、ウキの動きを見ながら頻繁に微調整を加えるのが伊藤流の攻略法だ。

■ハリ
サイズは上下共にオーナーばり「バラサ」5号を基準とするが、これはサイズによるエサ持ちの良さというよりも、通常のコンディションのへら鮒が追える適切なエサの落下速度になることを目的としている。よって追いが悪くなる毎に4号、3号とサイズダウンさせ、軽量化することでエサの落下速度を遅くして追いやすくしている。

■ウキ
最近の浅ダナ両ダンゴの釣りではあまり見かけなくなった、ずんぐりしたショートボディにやや長めのPCムクトップという組み合わせは、その狙いがナジミ込み時の動いているエサを追わせて食わせることにあることを如実に物語っている。今回のような1m前後のタナでは五番が基準となり、追いが悪くなったときにハリスの長さ調整と合わせて、ウキのサイズダウンでも追いやすい状態を演出している。また流れがあっても決して大きな浮力のウキを使うのではなく、小さめの浮力のウキで追わせた方が、アタリのでるのが早いのがびん沼川の特徴でもある。

びん沼川攻略のキモ 其の一:エアーを噛んだ(含んだ)ボソタッチでへら鮒を誘引!

実釣は午前6時少し前から始まった。まずは伊藤が仕上げたエサから見てみよう。基エサのタッチはボソ感の強いものだが、指先で摘まんでみると思った以上にまとまりは良い。すこし指先で揉み込むと、いわゆるネバボソタッチになる。スタート時のエサ付けは、軽くつまんだ基エサを指先で丁寧にまとめ、上下共に直径13mm程の水滴形に整えたもの。これをテンポ良くポイントに打ち込んでいく。それにしても打ち返しのテンポが速い。グラスムクトップゆえのナジミ込みの速さもあるが、エサの重さに引っ張られる形でス~とナジんでしまったら即座に打ち返し、特にウキのトップを水面上に残そうなどとは考えていない様子である。

「へら鮒が寄れば自然とウキを止めてくれるようになるので、無理して調整する必要はなく、それよりもまずは近くに居るへら鮒にエサの存在をアピールして、ウキ下に寄せることに専念することが大事だね。そのためにはボソタッチのエサは欠かせないんだ。それに寄せるにあたっては大きなエサを打ち込むのではなく、エアーを含んだボソタッチの小エサをテンポ良く打ち込む方が良い。もちろん釣り込む際も同様に小エサが基本だね。」

すると数投でエサ打ち周辺にアワヅケが出ると、その後10投もかからずにトップにサワリが表れ、間もなく小さなアタリがでるようになると積極的にアワせ始める伊藤。

「まだ食うような動きではないが、目指すところはナジミ際に食わせること。ウキが立ってトップがナジミ始めた直後からヒットチャンスと考え、まずはエサ落ち目盛り付近、次いでそこから3目盛り程の間、そして最後がナジミきる瞬間というようにアタリが出るのを待っているんだ。そして、このアプローチの第一のキモになるのがボソタッチのエサ。初めに仕上げた『バラケマッハ』で締めたものが最もパンチの効いたボソタッチのエサで、今回のような上層から追わせる釣り方に適している。もしこのブレンドでナジミが悪くなるようであれば無理してエサのタッチを調整するのではなく『パウダーベイトヘラ』に締めエサを替えて、ボソ感を抑えるようにするのが得策だね。さらに上層でエサが揉まれるようであれば『BBフラッシュ』でもう一段階ボソ感を抑えるようにする。いずれのパターンも決してボソ感が無くなる訳ではなく、必ずエアーを噛んだボソエサ(※エアーを含むエサを伊藤はこう表現する)に仕上がるのが特徴なんだ。」

ちなみにウキの動きがピークを迎えたとき、参考にと言って『パウダーベイトヘラ』で締めたエサを試してもらったのだが、明らかにそれまでのウキの動きと異なりナジミ際のアタリが減少し、ペースダウンとなった。そして、その違いを改めて確認した伊藤が『バラケマッハ』を使った元のブレンドに戻すと、再びリズミカルにウキが動き始めたのが印象的であった。

さて、改めて伊藤のウキの動きに目を移してみよう。次第にメリハリのある動きを示し始めたトップが、明確な食いアタリを出すのにそれほどの時間はかからなかった。もちろん伊藤のエサ、そしてタックルセッティングが通い慣れた常連さながらの煮詰まったものであることは確かだが、開始十数分で9寸級のファーストヒットを決めると、あっという間にモーニングサービスの時合いをつかみコンスタントに絞り始めた。しかし、これでも決してベストの状態ではないというから驚きである。

「まだまだ良くなるはずだよ。見てもらった通り、ボソエサは上層からナジんで行く際、麩の粒子を散らしながら落下して行く。これがびん沼川のへら鮒の興味を惹くための重要なポイントで、コンスタントに数を釣るためには、これなくしては不可能なんだ。ボソエサを使いこなす上でのコツは、基エサのタッチを生かしきるために決して麩の粒子を殺さないこと。エサを調整する際には、ボウルの中で少しだけ取り分けた基エサに手水を加え、軽く揉んだ程度のものに止めることが肝心なんだ。それに気温が高くなるこれからの時期は、基エサに蓋をして保管するのも避けた方が無難かな。確かに蓋をすると乾燥は防ぐことはできるが、陽射しが強くなる夏場はボウルの中で蒸れてしまうことがあるんだ。よってできれば蓋をせず、乾燥する前に使いきることを考えた方が良い。先のエサの分量で作れば概ね1時間弱で使い切れるので、少量ずつこまめに作ることが肝心だね。」

びん沼川攻略のキモ 其の二:ハリスワークで食い気を刺激。エサの自然落下度をアップせよ!

ボソタッチのエサがいかに効果的であるかは伊藤のウキの動きを見れば一目瞭然だが、実は食いアタリをコンスタントに出し続ける裏には、もうひとつの重要なポイントがあったのだ。それは実にこまめなハリスワーク。実際にほぼ入れ食い状態になっていた時間帯に、伊藤は数え切れないくらい頻繁にハリス交換を繰り返していたのである。通常はカラツンが続いたときとか、ウキの動きが弱くなりアタリが途切れたときに交換することが多いが、伊藤は充分なへら鮒が寄っているにも関わらず、数投ナジむ速度が速かったり、強いアタリが僅かに減少しただけでハリスを伸ばし、ハリをサイズダウンさせて、その都度アタリを復活させて確実にヒットを重ねていったのである。

「ボソエサで興味を惹きつけておいて上層から追わせ、タナまで誘導して食わせるためにはエサの自然落下度が重要になる。それを決定づけるのがハリスの長さであり、ハリのサイズ(重さ)であり、ときにはこれにエサの打ち込み方が加わる。つまりウキの立つ位置に落とし込むのか、それともやや沖めに振り切って打ち込むのか。そうしたテクニックを交えながら、その時々のへら鮒が興味を示す落下状態に合わせることで、確実に食いアタリに結びつけることができるんだ。 当然のことながら長いハリスは滞空時間があり、またハリは軽い方がナジむ時間が遅くなる。またエサ打ちは沖に打ち込むほどにナジミきるまで長い時間がかかる。これらを組み合わせながらアタリを維持することが大切なのだが、浅ダナであることからハリスは概ね50cmを最長とし、ハリは5号で始めたものを4号、更には3号にサイズダウンさせる。これらはいわゆる微調整のレベルであり、根本的に追いが悪いと感じたときはタックル全体をゆっくりナジませるため、ウキ交換も頻繁に行うことも必要だね。」

この言葉通り、釣れるペースこそ入れ食い状態に近いのだが、その実態は真に細やかなというか、そこまでやるか?というくらい頻繁なハリス・ハリ・ウキ交換が繰り返さていたのだ。その目的はいかにエサを自然落下状態に見せられるかなのだが、安定的に釣れている裏では突然ウキがナジんだきりになることが繰り返されており、へら鮒の回遊が途切れたり、アオコ等食い気に悪影響を及ぼす汚水がポイント周辺に流れてくると突如として食い渋ったりするので、こうしたこまめな対応は、ここびん沼川においては必要不可欠な作業という訳だ。

びん沼川攻略のキモ 其の三:流れを制する者がびん沼川を制す!

川状の釣り場であるびん沼川には、常時流れがあることは既に述べた。へら鮒釣りにとって流れは嫌われがちだが、水路で荒川本流と直結するびん沼川ではへら鮒の供給は勿論、流れがあることで常時高活性でいられるというメリットもある。よって流れは嫌わず、むしろ上手く付き合うことで釣果に結びつける努力をすべきだと伊藤は言う。

「下流にある機場が稼働したときの流れはどうにもならないが、風や荒川本流の水位の増減による自然の流れはそれほど気にしない方が良い。基本的にナジミ際の早いアタリだけに的を絞っているので、食うときはウキが流される前に勝負がつくからね。よく流れが強いとウキを大きくする人が居るけれど、ここではその対策はむしろ逆効果になることが多い。なぜならエサの自然落下度が損なわれるからで、エサをナジませた状態でも食ってくるほど良い状態であれば話は別だが、たとえ流れがあっても軽めのウキで追わせ、流される前に食わせることを考えた方が得策だね。」

当日はスタート直後こそ気にならない程度の流れであったが、午前9時頃から風が吹き始めると徐々に川なりの流れが強くなり、ウキがナジミきった時点で30cm程流されるようになった。さらに時間が経過するとその流れが左右交互に変化し、否応なしに伊藤のウキから躍動感を奪い去っていった。そんなとき伊藤がとった対策はタナをウキ1本分深くし、さらにハリスを伸ばし、小さくする一方であったハリのサイズを5号に戻したこと。すると再びアタリが復活し、強い流れの中でも確実にカウントを伸ばしていったのである。

「両ダンゴを追ううちは、絶対にエサをぶら下げてアタリを待ってはいけない。特に流れが強くなったときは横に流されていってしまうだけになるので、ほとんど食いアタリは期待できなくなる。だから流れがある中でも追わせるアプローチはそのままに、ベストのタナを探り、ベストのトータルバランスを煮詰めることが大切なんだ。」

両ダンゴ編「びん沼川攻略のポイント」

実釣では噂に違わぬ爆釣を披露してくれた伊藤であるが、確かに他の釣り場でみせる釣り方とはひと味違った切り口であることが分かる。そこで、これまでの攻略ポイントを一旦整理してみよう。

ポイント1:アプローチは上層からエサを自然落下させ、タナで食わせる追わせ釣りを基本とする
ポイント2:エサは粒子を散らせやすいボソタッチ
ポイント3:ウキは浮力のマッチした、ストロークを活かした追わせ釣り向きのグラスムクトップ
ポイント4:ハリスは長めを基本とし、こまめな長さチェンジで追いをキープ
ポイント5:すべてはエサの自然落下のため、ハリも追うまで小さくする
ポイント6:ヒットチャンスは3回。アタリはエサがぶら下がるまでが勝負
ポイント7:アタリが減ったらタナを上下に調整(ウキ1本分程度)

概ねここまでがテクニカルポイントだが、それ以外にも重要なことがあると付け加えたのが…

ポイント8:アタリが出せずにどうしたら良いか迷ったら『迷わずバラケにヒゲトロのセット釣り』

ということだが、あまりにも決まっていた伊藤の浅ダナ両ダンゴの釣り。どこで釣り方を変更してもらおうかと思案していたところ、突如としてウキの動きに陰りが見え始めた。気がつくとポイント一体の水が異様に濁り、周囲でも極端にサオが立たなくなっていた。それでも手を替え品を替え、それまで伊藤自身が実践してくれた技のすべてを駆使して状況の打開を図ったが、どうにもならないことを察知した伊藤は「迷ったら迷わずヒゲトロセットだね(苦笑)」と言いながら、早速釣り方の変更に取りかかった。 おあつらえ向きとは正にこのことだが、実はこのヒゲトロセットでも見事な結果を披露してくれた伊藤。この釣りも詳細にレポートしなければなるまい。

追わせて食わせる伊藤の両ダンゴ釣りはいかがだったろうか。タックル・エサ・アタリの取り方といったすべての要素をびん沼川仕様にまとめ上げ、見事にトータルバランスのとれた釣りを披露してもらった訳だが、タナ1m前後の狭いレンジのなか、長ハリスで追わせるチョーチン両ダンゴ釣りをしているような錯覚さえ覚えるウキの動きは、一般的な管理釣り場では見られない伊藤らしい柔軟な発想の攻略法であった。では、この『追わせて食わせる両ダンゴ』釣法を頭の隅に置いたまま、引き続き『止めて食わせるバラケにヒゲトロのセット釣り』をご覧いただこう。

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