稲村順一が徹底レポート「釣技最前線」第37回 凄麩バラケの新パワー系チョーチンウドンセット釣り|へら鮒天国

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稲村順一が徹底レポート「釣技最前線」第37回 凄麩バラケの新パワー系チョーチンウドンセット釣り

去る10月12日(日曜日)茨城県の友部湯崎湖で開催された2014シマノジャパンカップ全国大会決勝戦で、見事チャンピオンに輝いたマルキユーフィールドテスター吉田康雄。並み居る強豪のなかにあって、近年彼の代名詞となっているチョーチンウドンセット釣りで、他を寄せつけない圧倒的な強さを見せつけた。実は今回の釣技最前線の取材は優勝者の釣りをクローズアップしようと企画したものではなく、ここ数年数多くのメジャー大会で必ず上位に顔を出している吉田流の「イケてる」チョーチンウドンセット釣りを紹介しようと、決勝大会よりもはるか以前に決めていたものである。奇しくもその釣りでメジャータイトルを獲得した吉田。改めてその威力を見せつけただけではなく、これ以上ない説得力をもって釣技最前線の取材に臨んだ。

ハリスを張らせてこそ生かせる新パワー系チョーチンウドンセット釣り

見た目の豪快さに惑わされてしまうと、彼の緻密な計算に裏付けられた繊細な組み立て方に気づかないだろう。これは取材開始直後に感じた記者の率直な感想である。ご存じの方も多いだろうが、彼のチョーチンウドンセット釣りで使用されるバラケは大きい。ときには500円玉よりも遥かに大きなものをテンポ良く打ち込み、間断なく繰り返される縦サソイのなか、ズバッと豪快に消し込むアタリで次々と大型ベラを釣り上げる様は、まさにパワー系の名に相応しい豪快な釣りである。しかし大きなバラケを打ち込むだけで釣れるのかといえば、決してそのようなことはない。確かに大きなバラケが彼の釣りを支えているのは確かだが、それを軸としてタックル・エサ・アタリの取り方等すべてを高次元で融合させ、臨機応変にアジャストさせることは容易なことではない。

「大会で数多く釣るためには、他人よりもたくさんへら鮒を寄せることが第一です。しかし単にたくさん寄せただけでは従来のタックルセッティングでは対応しきれません。特に近年流行のさなぎ粉入りの「感嘆」やさなぎ粉漬けの「力玉」といった軽く小さなくわせエサではハリスが張りきらず、かといって「彩」や「魚信」といった比重やサイズが大きなウドンではへら鮒の興味を惹くことが出来ません。これは現在のセット釣りが、いわゆる“誤飲”を誘発させるアプローチであり、寄せる量を適量にコントロールしないと非常に釣り難くなってしまうためです。 私も初めはこの釣り方をマスターしましたが、他人よりも抜きん出るには同じやり方では限界があることを知り、やはり人一倍へら鮒を寄せても釣れる方法を考えたところ、従来では明らかに寄せ過ぎと思われるレベル以上に寄せることでパイプトップのウキ+短バリス+比重の大きなウドンの組み合わせでハリスを張らせることが可能になり、しかも活性が高いへら鮒が数多く寄ることによる競い食い状態が持続することで、それまでよりも確実に釣果が上がるようになりました。しかも誤飲でなければ釣れないへら鮒がターゲットではなく、大量に寄ったなかでも明らかに食い気のあるへら鮒がウドンめがけて食いにくるので、盛期の完全なダンゴ時合いでも両ダンゴを凌ぐ釣果が可能になったのです。」

吉田が言うように近年のウドンセット釣りは“誤飲”を意識して、拡散するバラケの粒子に如何にくわせエサを紛れ込ませるか、ナチュラルな状態でシンクロさせるかにかかっている。事実そうしたアプローチをハイレベルで駆使できるアングラーでなければ釣れないという現実がある訳だが、同じ土俵に上がるだけでは自ずと限界があると悟った彼は、頂点を極めんとさらに上を目指すなかで異なるアプローチを求めたのである。 ジャパンカップ制覇という大きな目標を達成したことで、吉田流のパワー系チョーチンウドンセット釣りは一応の完成を見た訳だが、ここまで来るのには紆余曲折多くの困難があったという。

「ヒントはやはりトーナメントの中にありました。今日の私の釣りの基礎となったのは過去ジャパンカップを制した岡田さん(ご存じマルキユーインストラクター岡田清氏)や伊丹さん(今年のマルキユーM-1カップ王者の伊丹信人氏)の釣りで、彼らの釣りには短バリスでハリスを張った状態で食わせるという共通点があります。しかし皆さんご承知の通り、ウドン+短バリスでくわせエサを張らせてしまうと簡単にはアタリを出してくれません。そこで大きなバラケを使い今までよりも寄せるへら鮒の量を増やせば、ハリスが張った状態でもくわせエサが煽られて動くようになり、しかも食うへら鮒も多くなるのではないかと考えたのです。ところが大きなバラケを使うと確かに寄るのですが、肝心のタナ にへら鮒が集約できずコントロール不能になってしまいました。そんなとき両ダンゴエサの新機軸として発売された「凄麩」に出会い、ボソなのにまとまってしかも開くというキャッチフレーズが目に飛び込んで来ました。直観的に「これは使える」と思い、バラケのメインとして使ってみるとこれがとても良い感じで、激しく寄るなかでも自分のイメージ通りにコントロールすることができるようになり、今では「凄麩」なしではこの釣りは成立しないと言い切れるまでに大切なパートナーになりました。」

使用タックル

●サオ
シマノ「朱紋峰 煉」8尺

●ミチイト
東レ「将鱗へらSUPER PROフロロ(オレンジ)」1.0号

●ハリス
東レ「将鱗へらSUPER PROプラスハリス」
上=0.8号10cm(ほぼ固定し変えることはない)、 下=0.6号24cm(最短は18cmで高活性期は長くても30cmまで)

●ハリ
ハヤブサ鬼掛 上=「極ヤラズ」9号、下=「ストロングストレート」3号

●ウキ
吉田作「深ダナパイプ」10番
【1.2-1.4mm径スローテーパーパイプトップ13cm/6.0mm径カヤボディ10cm/1.2mm径カーボン足6cm/オモリ負荷量≒1.6g/エサ落ち目盛りは空バリで全9目盛り中7目盛り出し】
※ウキのセット位置
サソイ重視の際は穂先(リリアン部)からトップ3目盛り程度出る位置に、 サソイを多用しないときはトップ先端と一致させる

●ウキゴム
市販品

●ウキ止め
市販品(ウキ止め糸)

●オモリ
0.3mm板オモリ一点巻き

●ジョイント
鬼掛「軸付サルカン」(ウレタンチューブ付き)

タックルセッティングのポイント

■サオ
ほとんどのケースで8尺を使うが、釣り場によって(椎の木湖など)は9尺の方がマッチする所もあるという。また休むことなく縦サソイを繰り返す釣り方なので、軽いことは勿論のことだが、サソイに対してレスポンス良くサオ先が働く張りのある硬めサオがベター。

■ミチイト
ハリスだけではなくタックル全体の張りを強く意識する吉田は、比重の重いフロロ系ラインを愛用。これにより高活性期にはエサのナジミが良くなり、アタリの伝達も明確になるという。太さは1.0号が標準。

■ハリス
上ハリスはトラブルを起こさないために0.8号とやや太めとし、バラケを持たせつつもへら鮒をくわせエサに誘導できる長さとして10cmで固定する。下ハリスは夏場をメインとした高活性期の釣りなので、太さは0.6号を基準とする。長さは24cmをスタート時の標準的な長さとし、ハリスワークは基本的に2cm単位で行う。吉田が理想とする早いアタりがガンガン出るときには最短で18cmまで詰めるが、反対にへら鮒の活性がやや低いときにはバラケを遠巻きにして寄るものと考え、30cm位まで伸ばすことも。もちろんそれでもアタリが出にくいときは40cm、50cmと長くすることもあるが、それはイレギュラーなケースであり、盛期の釣りでは基本的に短バリスを旨とする。

■ハリ
この釣りの重要なポイントであるバラケのエサ持ちを支えるのが上バリで、サイズは勿論のこと形状も重要である。吉田が最もエサ付けのコントロールがしやすくエサ持ちも良いと愛用するのが鬼掛「極ヤラズ」9号。下バリはエサ持ちと落下速度、さらには張りきった状態でのくわせエサの動きにも影響を及ぼす。以前は状況により変えることも多かったというが、現在では鬼掛「ストロングストレート」3号で定着。特に吉田がこのハリを愛用する理由は、ハリ先が僅かに外側に向いているところ。へら鮒がエサを吸い込んだ際、この分だけ口の奥にフッキングすることで、取り込み寸前で外れてしまうようなケースにおいて、勝負を左右する貴重な一枚を逃すことがなくなったという。

■ウキ
へらウキ作家としても活躍する吉田自身の手による、いわばこの釣りに特化したスペシャルウキだ。最大の特徴は盛期のチョーチンウドンセット釣りにおいて、エサをタナに送り込む際のナジむスピードコントロールがしやすい点だ。それにはこの釣りに見合ったフォルムと浮力(オモリ負荷量)が重要であ ることは言うまでもないが、彼自身が研究に研究を重ねた結果生み出されたものだけに、そのポテンシャルと使いやすさは折り紙つき。ちなみに取材時、記者もそのままのセッティングで竿を振らせてもらったが、初めて触れるバラケエサ・初めてのウキにも関わらずしっかりエサがタナに送り込まれ、さらにぎこちない記者の縦サソイにもウキは的確にサワリを伝え、最後は明確極まりないアタリで良型ベラを釣ることができた。

吉田流 新パワー系チョーチンウドンセット釣りのキモ 其の一:中途半端はNG。タナで漂う凄麩の大バラケで摂餌欲求をMAXまで刺激せよ!

スタート直後の吉田のバラケの付け方を見たとき、その大きさもさることながらかなりのラフ付けに驚かされた。正直どの程度エサが持つのか疑問であったが、水中での抵抗が大きいためなのか、ややゆっくりとしたスピードながらもウキのトップは確実に沈没した。すると間髪入れずにトップ付根が出る程の縦サソイ。これが3回繰り返されたところでバラケが割れ落ちたらしく、トップが水面に静止しくわせエサのみが残ることを表すエサ落ち目盛りを示すと速やかに打ち返す。次投ややチモトを押さえる回数を増やしてエサ付けされる と、今度は5回ほどでバラケが上バリから抜け落ちる。その後も5~6回の縦サソイでバラケが抜けるエサ打ちが繰り返されると、間もなくサワリが表れ、開始から10分程でアタリが出始めると難なくファースト。その後は一気にへら鮒が寄り始めたのか、ナジミ際のトップの上下動が増えるが、それでもトップは沈没しバラケが確実に持っていることを示している。

「初めからあまい大バラケを打つことはタブーと言われていますが、それは中途半端な大バラケだとガサベラばかりがウワズッてしまい、肝心のタナに食い気のあるへら鮒を寄せきれないからで、それ以上のある意味限界を超えるレベルでバラケを打ち込めば、食い気に乏しいウワズるへら鮒は上層に、食い気のあるへら鮒はタナに溜まるようになるのです。ただし上層から開いてしまうバラケや、タナに届いたとしても下層にばかり沈下してしまうものでは狙いのタナに寄せきれません。私はこのようなへら鮒の棲み分け(分離)を意識していますが、これができるようになったのは「凄麩」をブレンドに加えたバラケを使うようになってからなのです。こうして食い気のあるへら鮒の密度の濃い状態ができあがるとやがて競い食いが始まり、縦サソイをやる間もないほどナジんだ直後の早いアタリでガンガン食うようになるのですが、これが摂餌欲求MAXの状態です。 「凄麩」の特性はボソタッチなのにしっかり持ってタナで開くというところ。しかも練っても開くので調整域が広い点も魅力です。これをバラケの軸にすることでエサ付けが楽になり、しかも簡単に持たせ加減をコントロールできるので、変化対応力が格段に向上しました。また従来の直下型縦バラケのエサよりもタナで漂う粒子が増えるので、くわせエサとのシンクロを意識しなくてもアタリが続くような感じがします。私自身「凄麩」発売以来約1年間使い込んだバラケであり、ほとんどの状況でイメージ通りに釣れることを確認していますので、確実に今のセット釣りに合っていると思います。」

吉田流 新パワー系チョーチンウドンセット釣りのキモ 其の二:縦サソイは大胆に、恐れず怖がることなく大きくサソえ!

吉田流のようなパワー系に限らず、現代チョーチンセット釣りでは縦サソイを抜きには語れない。それほど重要なテクニックである縦サソイについて吉田の考えはこうだ。

「縦サソイの狙いはタナでのバラケを促進させることと、くわせエサを動かすことによるリアクションバイトを引き出すためです。私の縦サソイでは極端なサソイの強弱は加えません。基本的にはやや強めのサソイで通します。このときバラケは絶対と言って良いくらい抜けないことが条件です。なぜなら上バリから抜けてしまうとアタリが出ないからです。理由は定かではありませんが、食い気のあるへら鮒が目標を失ってしまうというか、引きつけられるべきバラケが目の前から無くなることでソッポを向いてしまうのかも知れません。いずれにしても食いアタリのほとんどが縦サソイをしている間に出ることは確実で、寄りと食い気がMAXに達すると竿を持ち上げているときにガツンと食いついてくることもあるくらいです。こうなればサソイを1~2回加えただけですぐに食ってきますが、大抵は何度も繰り返しているなかで、持ち 上げたウキの再度のナジミ際にアタってきますので、これを積極的にアワせることが大切です。 また盛期の釣りにおいてはサソイを止めてアタリを待つことはありません。基本的にはバラケが抜けるまで、またこれ以上サソイを加えてもアタリがでそうもないと判断したときには速やかに打ち返します。なぜならアタリを待つことはへら鮒の寄りの減少に直結してしまうからです。常に深ナジミを心掛け、4~5回大きくサソイを加えても抜けないバラケを打ち切ることが肝心です。くれぐれも抜けないように手加減をするのではなく、大胆に怖がることなく大きくサソってください。」

打ち込まれた直後のトップは毎投必ず沈没し、すぐさまトップの付根が水面上に出るまで大きく穂先が持ち上げられる。そして竿先が戻されるとトップはサワリながらナジんで沈没。これをアタリがでるまで繰り返す訳だが、特別なインターバルやサソイの強弱は認められない。むしろ一定のテンポで同じくらいのサソイ方をした方がバラケを持たせやすく、確実に食いアタリに結びついているように見受けられた。ただしこのサソイ方は盛期の高活性時のパターンであり、厳寒期における超食い渋り時のサソイとは一線を画することをご承知おき願いたい。

吉田流 新パワー系チョーチンウドンセット釣りのキモ 其の三:バラケは練って持たせるのではなく“押さえて”持たせるべし!

へら鮒の活性が高い時期のチョーチンウドンセット釣りにおいてバラケが持たなくなるという現象は、恐らく多くのアングラーが悩むところであろう。そうしたことをあらかじめ想定して、重い素材やまとまる力の強い粘る素材をブレンドに加えることも一手であろうが、そうした方向性の調整では、やはりへら鮒を寄せる効果を減少させてしまうことになるだろう。実際にこの点については吉田自身大いに悩んだポイントであるというが、先に述べたように昨年登場した「凄麩」の効果により確実に持つ力が強化されたバラケは、へら鮒 が寄りを増してもしっかりと深ナジミ(沈没)をキープするようになり、この釣りを確立させるに大いに役立ったという。しかし、それでも1日通してやっていると必ずエサ持ちが悪くなることがあるというが、たとえそうした場面に遭遇しても決して練って持たせてはいけないと吉田は言う。

「バラケを持たせようと意識し過ぎるとエサを練ってしまう可能性があります。確かに練ればバラケは持ちますが、同時に開きが悪くなり寄りが減少してしまうリスクがあることを忘れてはいけません。寄せてナンボのこの釣りでは、寄りの減少は致命傷になりかねませんので、「凄麩」のポテンシャルを信じ、エサ付け時のハリのチモトを押さえる回数を増やすことだけでエサ持ちをコントロールすることが重要なポイントです。また開きを抑えるとアタリがでやすいときには、バラケ自体をシットリまとまり感のあるものに調整するのも効果的です。基本的には小分けした基エサに手水を加えてかき混ぜるだけのシンプルな手直しですが、これを数回繰り返すこともあります。また大きなバラケはエサ付けの際の手揉みの回数が少なくても持たせることができますが、小さなバラケほど手揉みの回数を増やさないと持たないことも知っておいてください。」

実釣ではエサ持ち具合のコントロールに関し、チモトを押さえる回数を具体的に何回とカウントして実践している吉田だが、良く見るとエサ付けサイズにも一投毎に調整を加えていることが分かる。見た目の豪快さに惑わされてしまうと見落としがちだが、こうした地道な作業もメジャータイトル制覇に大きく寄与しているポイントなのである。

吉田流 新パワー系チョーチンウドンセット釣りのキモ 其の四:アタリはタイミング重視。豪快な消し込みアタリばかり追うべからず!

へら鮒の寄りが増してアタリが多くなると、ナジミ際の小さなアタリにも積極的に手を出す吉田。理想的なアタリは消し込みアタリなのでは?と訊ねると、意外にもその答えは「ノー」であった。

「釣れ始めなどへら鮒の寄りがMAXになるまでは大きく消し込むアタリが多く、比較的アワセやすいのが特徴ですが、寄りが多くなるに従いアタリの出るタイミングや大きさは一時的にバラバラになり、慣れていないとどこでアワセて良いのか分からなくなるかも知れません。しかし、その状態を超えてさらに食い気のあるへら鮒がタナに溜まってくると、初めのナジミ際や遅くても1~2回目の縦サソイの直後のナジミ際のエサ落ち目盛りを通過する辺りで出る、小さく鋭いアタリでヒットすることが多くなります。これは一旦張りきった(ぶら下がった)くわせエサからテンションが緩み、一瞬フリーフォールに近い自然な状態になることで、それまで食いつくことをためらっていたへら鮒が思わず飛びついてくるためで、完全にハリスが張る前に食われることによりアタリの伝達が小さくなるためと思われます。この違いを理解していないと大きなアタリばかりを追うことになり、みすみすヒットチャンスを逃してしまうことになるので注意が必要です。」

吉田流 新パワー系チョーチンウドンセット釣りのキモ 其の五:ハリスワークは2cm単位で、ウキの動きを注視してこまめに対応せよ!

吉田の釣りを支えているのは「凄麩」ベースの大きなバラケエサと、大胆にして繊細な縦サソイであることは間違いないが、その陰で見落とされがちなのがこまめなハリスワークであろう。盛期の釣りでは上ハリスは10cmで完全に固定されているため、重要なのはくわせエサの下ハリスとなる。下ハリスの長さの調整範囲は、盛期においては最短18cm~最長30cmで、それ以上の長さも状況によっては使用することもあると言うが、今回紹介しているようなアプローチは不可能だ。実釣ではシマノジャパンカップ決勝と同じ24cmでスタートし、ウキの動きを見ながらベストのセッティングを目指して2cm単位でこまめに長さ調整を行っていた。もちろん初めから良い状態が続いていれば変える必要はないが、ウキの動きに変化が見られたときにはまずバラケやサソイでコントロールし、それだけでは補えない場合には躊躇することなくハリスの長さの調整に踏み切るのだ。

「実際にシマノジャパンカップの決勝戦では、直前の予選数試合を含めて24cmの下ハリスで決まっていましたので、ほとんど調整は必要ありませんでした。このときは当日何となく試した小さめのバラケが好調で、基準とする24cmの下ハリスとのマッチングも良く釣り込むことができました。しかし今日はややへら鮒の機嫌が悪いようで、小バラケでは寄りがキープできずアタリが続きませんし、時折ナジミ際にゴツゴツと引っ掛かるようなウキの動きも見られるため、同じ長さでは釣りきることができません。そこで2cmずつ詰めたり伸ばしたりして、その時々でベストの長さに合わせなければなりません。通常はこうしたことの方が多いのですが、理想は食い気のあるへら鮒が寄りきった状態で狂ったようにエサに食らいつく状態で、こうなればしめたもの。最短18cmでもナジんだ直後のアタリでバクバクになるのです(笑)」

総括

メジャートーナメントの中でも最高峰と謳われるシマノジャパンカップを制覇した吉田康雄の新パワー系チョーチンウドンセット釣り。噂通りの豪快なパフォーマンスを披露してくれたが、やはりその裏には様々な工夫が凝らされていることがご理解いただけたのではないだろうか。基本はタナに滞留する大バラケで食い気のあるへら鮒を寄せ切り、ウドン+短バリスでもクワセがナチュラルに動く環境を構築するというアプローチ。多くのアングラーは自らの限界を自ら決めてしまっているようだが、今日限りそれまでの限界を取り払ってみては如何であろうか。必ずやそれまで体感したことのない新たな世界に踏み込めるに違いない。

実釣では紹介しきれなかったが、吉田のチョーチンウドンセット釣りは極めて懐の深い釣りであり、オールシーズン対応可能な汎用性も高い。今回は取材日が決勝から1週間後ということもあり本番さながらの盛期バージョンの釣りを紹介してもらったが、これから迎える冬の釣りには些か不向きな点もあり、その破壊力を体感するにはやはり来年春以降までお預けということになろうか。しかし今後のセット釣りのヒントとなるところは随所にあり、特に「凄麩」ベースのバラケエサは一度試していただく価値のあるものと断言したい。