稲村順一が徹底レポート「釣技最前線」第41回 石井旭舟のチョーチン両ダンゴ|へら鮒天国

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稲村順一が徹底レポート「釣技最前線」第41回 石井旭舟のチョーチン両ダンゴ

「とんでもないエサに仕上がったもんだ!」言わずと知れたチョーチン両ダンゴ釣りの名手、石井旭舟が唸った。「『凄麩』も凄かったが、これが加われば鬼に金棒だぞ!」氏をしてこう言わしめたのは、5月発売予定の新エサ『粘麩(ねばふ)』である。既に最終調整に入っている新エサだが、まだ両ダンゴの釣りが本格化する前のプラクティスにおいて、計り知れないポテンシャルを感じ取った氏が発した驚嘆の声。今回は未だかつて体験したことのない新境地に我々を誘ってくれるであろう、新エサ『粘麩』の実釣レポートをお届けしよう。フィールドは伊豆修善寺に在る早霧湖。石井が演出する驚きのウキの動きをとくとご覧あれ!

チョーチン両ダンゴの基本は、昔も今も「ナジんでズバッ!!」

石井の代名詞ともいえるチョーチン両ダンゴ釣り。氏が若かりし頃から最も得意とする釣り方だが、見た目のスタイルこそ以前と変わらぬものの、その実態は大きく様変わりしたという。

「今さら言うのも何だが、決定的に違うのはへら鮒のサイズと魚影密度だろう。かつては中小のへら鮒が多く魚影密度(※厳密には口数)も濃かったので、比較的短めのハリスでカタボソタッチとかネバボソタッチといわれる、やや硬めのしっかりしたタッチのエサが主流だった。ところが現在はその頃に比べると比較にならないほど大型のへら鮒が多く、密度的にはそれほど薄くはなっていないのかもしれないが、口数自体は間違いなく減っているため、ハリスは長めでエサもネバリのある軟らかめのタッチでなければ食わせきれない場面が多くなっているのが実情だ。 ところがこのヤワネバタッチのダンゴエサがクセ者で、へら鮒が多く寄って来るとエサ持ちが悪くなりアタリが出難くなってしまう。このときエサを重くしたりネバリを強めてナジませようとするとス~ッとナジんでしまい、へら鮒がまったく見向きもしなくなることが多い。このため以前に比べると釣り自体が難しくなり、チョーチン釣りを敬遠するアングラーが多くなってしまった。これは俺自身にとっても業界としても、とても残念なことなんだよ。なぜならチョーチン両ダンゴこそ、盛期のへら鮒釣りを満喫できる王道釣法だからね。確かに釣り場の状況も釣り方自体も変わったところはあるが、チョーチン両ダンゴの基本は、昔も今も変わらず『ナジんでズバッ!』だよ。つまり狙ったタナまでしっかりエサを持たせなければ釣れないんだ。実際にエサを持たせることが難しくなっている現状は俺たちにも分かっている。だからこそ背水の陣で『粘麩』の開発に取り組んだんだよ。」

一昨年『凄麩』が登場した際に石井が言っていた言葉が思い起こされるが、現代の両ダンゴ釣りが難しいと言われる原因のひとつに、エサの持たせ加減があるという。あれから2年が経った今もそれは変わらず、相変わらずエサを持たせようと(ナジませようと)して硬くしたりネバリを加えたりすると、へら鮒を寄せきれなかったり持ち過ぎによるカラツンに悩まされたり、それを解消しようと今度は軟らかくしたりネバリを抑え気味にするとエサが持たなくなって、その結果アタリを失ってしまうという悪循環に陥ってしまうという訳だ。

こうした現場の状況を誰よりも良く知る石井が『粘麩』の開発に深く関わっているということは、当然ながらそうした悩みを解消してくれる性能が秘められているであろうという期待は大きい。実際に石井が作ったエサに触れてみたが、出来上がったばかりの基エサ自体既にまとまりやすいタッチに仕上がっており、指先で軽くつまんで形を整えるだけで容易にエサ付けが出来ることが確認できた。例えるならば、それは名手がエサ合わせを繰り返す中で辿り着いた完成度の高いエサのようなタッチなのである。

『粘麩』って一体どんなエサ?

まずは石井に新エサの特徴を聞かねばなるまい。詳しくは動画のなかで石井本人が語っているのでそちらをご覧になっていただくとして、主な特徴をまとめると以下の通りとなる。

■特徴1.何といってもエサ付けがしやすい
まず仕上がりに驚くはずだ。前述のレシピに沿って仕上げた基エサは、全体を軽く混ぜ合わせただけにも関わらず軽くつまみ取って丸めるだけで、簡単にハリに付けられる状態にエサがまとまることが実感できる。もちろん強く揉んだり圧を加える必要はなく、これだけで打ち始めの段階から確実に持つ(ナジむ)エサになる。しかし実際のまとまり感とは異なり、ブレンドするすべての素材が完全に生きているので、ボソタッチのエサと同等の開きが期待できるのだ。

■特徴2.素材自体は重いのに、完成すると軽くなる
まことに不思議な感触だが、袋に入ったままでは重いのに、釣るためのエサとして仕上げて打ち込んでみると、その軽さに違和感さえ覚える。それはへら鮒が寄っていない状態でのエサ持ち具合(ナジミ幅)でも分かるし、へら鮒がエサを追い始めたときのウキのナジミ方(サワリ)でも容易に分かる。何より摘まんで水に落としたエサ玉が浮くことに驚いたのだが、それが良い感じで開く(膨らむ)のにはさらに驚かされるだろう【※動画参照】 一般的に重いエサやネバリの強いエサはサワリなくス~ッと一気にナジんでしまい、打ち始めの段階では沈没してしまうことが多い。ところが『粘麩』をブレンドしたエサにはこうした現象は見られない。その要因は他の粘るエサに比べて圧倒的にエアーを噛むからに他ならない。つまりネバるエサにありがちな目詰まり感がなく、内部に細かな空洞が出来ていることの証なのである。これが意味することは、触ったときには強いまとまり感を感じるが、水中では軽いエサと同じようにゆっくりナジむのでへら鮒が追いやすく、しかも確実に持つのでしっかりナジミ幅が出るという、正に未体験ゾーンの使い心地を体感できるだろう。

■特徴3.ネバ系なのにエサをいじれる
従来のネバるエサ(※特に増粘剤を含んだエサ)は、どちらかといえば一発合わせの感が強く、仕上がったエサに手を加え過ぎるとコントロールが難しくなるとてもデリケートな性格を持っていた。そうした面が『粘麩』には感じられず、どのような使い方をしても自分の思い通りにいじれるので、エサ合わせの際のストレスがまったく感じられなくなるだろう。これによりいつも使っているエサと何ら変わりなく思いきって手を加えることが出来るので、今まで難しかったタッチのエサにも容易にチャレンジすることが出来るに違いない。

■特徴4.練り込みも自由自在。手水を打ってどんどん練り込める
ネバリの強いエサは練ってはいけないという誤解があるようだが、決してそのようなことはない。確かに練り込み過ぎると麩の粒子の密着度が増し、開きが損なわれる恐れがあるものもあるが、『粘麩』に関してはそのような心配は皆無だ。むしろ手水を加えながらどんどん練り込むことで使えるタッチの幅が広がり、今まで使いこなせなかったようなヤワネバタッチのエサが持つようになり、アタリの持続性アップやカラツンの防止効果にも期待が持てる。

■特徴5.練り込むほどに手にベタつかない不思議な感触
ネバリの強いエサの特徴であるベタベタしたり、ヌルヌルしたような感触を嫌う向きもあるようだが、『粘麩』に関してはどんなに練り込んでも不思議とベタつき感がなく、むしろサラッとした不思議なタッチに驚くはずだ。それにも関わらずエサ持ち力はまったく落ちないので、いつものブレンドに1杯加えるだけで不思議とエサが持つようになり、知らぬ間に釣りが上手くなったように感じるかもしれない。

使用タックル

●サオ
江戸川 旭舟「夢」12尺

●ミチイト
オーナーばり ザイト1.0号

●ハリス
オーナーばり ザイト「サバキ」 上0.4号-55cm、下0.4号-70cm

●ハリ
オーナーばり 上下=サスケ7号

●ウキ
旭舟「太(赤)」二番
【PCムクトップ19cm/一本取り羽根ボディ11cm/カーボン足8cm/オモリ負荷量≒2.0g/エサ落ち目盛りは全11目盛り中8目盛りだし】

●ウキゴム
オーナーばり 浮子ベスト2.0号

●ウキ止め
木綿糸

●オモリ
0.25㎜厚板オモリ2点巻き

●ジョイント
オーナーばり へら回転サルカン20号

「使い方のコツなんてないよ!」こう言い放った石井の真意とは?

取材時の石井の釣りはというと、時期尚早ともいえるチョーチン両ダンゴで、この時期最高とも思える時合いをたぐり寄せ、陽春のまぶしい陽射しのなか大きく竿を絞り続けた。とはいえ簡単に正解にたどりつけた訳ではない。「どんな時でもやることは一緒さ」と石井が言うように、まずは出来上がったエサをそのままつけてへら鮒を寄せることに専念し、寄り始めたら強いアタリが出るタッチ、エサ付けを探りつつ、コンスタントにヒットするパターンをひたすら目指す。その過程においての一進一退は一度や二度では終わらずに、これでもかと執拗に、かつ一歩ずつ丁寧に近づいていく。やがて、費やした苦労の分だけへら鮒が楽しませてくれる至福の時間が訪れる。こうしたプロセスを地道に繰り返す石井の釣りは、一切の誤魔化しのない王道のなかの王道ともいえるブレないスタイル。小手先のテクニックに頼らない強い釣りは、誰もが手本とできる基本的な釣り方なのだ。

「このエサに限ってはコツなんてないよ。今までの釣り(エサ)に1杯加えるだけで確実にダンゴエサのコントロールがしやすくなるし、エサ持ちが良くなることでエサがナジまないとか、アタリが出ないといった悩みからも解消されるだろう。あえてコツと言われれば、それは『粘麩』を最初に水で溶いておくことくらいかな。こうすることで後から加える麩材にまんべんなく混ざり、エアーをたっぷりと含んでいながらも、しっかりとしたまとまり感が生まれるんだ。さらに簡単な応用法として『粘麩』の分量を調整することで全体の重さとネバリ具合を変えることが出来ることを覚えておくと良いね。」

実際に石井のエサの手直しを見ていると、僅かな手水と押し練りの繰り返しだけで、他に目立った調整は一切加えていない。自身ブレンドパターンに関しては未完成というように、現時点で相性の良いことが確認できている『凄麩』と『バラケマッハ』を軸としたブレンドで実釣を披露してくれたが、当日も品種は一切変えることなく、当日のウキの動きからへら鮒の食い気の良し悪しを判断し、エサ全体の重さを若干軽くすることで見事に時合いを捉えたのである。

総括

「釣り人がやるべきことは、まずしっかりナジミ幅を出す(エサを持たせる)こと。エサが持たなくなったら手揉み(押し練り)を加えてエサ持ちを強化し、ナジミ過ぎたりカラツンが続いたりしたら手水を加えて軟らかくする。軟らかくしてエサ持ちが悪くなるようなら一旦硬めのエサに戻れば良いだけの話。基本はこれの繰り返しで、後はエサのポテンシャルを信頼するだけさ。 それにしても最近のエサは性能が良過ぎだよ。昔はエサ合わせのテクニックが釣果の差になっていたけれど、簡単に麩材と水を混ぜるだけでこれだけのエサに仕上がってしまうようになったら、俺達でも容易に太刀打ち出来なくなってしまうかも知れないよ(苦笑)。」

石井のこの言葉は『粘麩』のポテンシャルの高さを素直に表しており、一昨年の『凄麩』に続いて多くのへらアングラーに自信を持ってお勧めできるエサに仕上がったことに対する自信の表れでもある。最後の「インストラクターでも負けてしまうこともあるかも…」というくだりは、『粘麩』を駆使して石井らを超えるチョーチン両ダンゴの名手が表れることへの期待と、「来るなら来い。まだまだ負けないぞ!」という気概も感じられる。我こそはと思われる読者諸兄!『粘麩』で御大:石井旭舟に挑戦してみないか!!