稲村順一が徹底レポート「釣技最前線」第56回 岡田清の新チョーチンヒゲトロセット釣り
セット釣りにおけるアプローチは日進月歩。これは常に変わり続ける釣り場の状況に追従するためであり、ガラパゴス化しないための釣法の進化に他ならない。新たな釣り方は理詰めによって構築されたものばかりではなく、トーナメントをはじめとした極限状態の釣りのなかから偶発的に生まれるものも少なくない。今回紹介するマルキユーインストラクター岡田 清のチョーチンヒゲトロセット釣りはまさにその代表的なもので、大会の決勝戦という切羽詰まったなか、奇跡的ともいえる爆釣を機に注目されるようになり、その後岡田をはじめとしたトップアングラーがブラッシュアップさせた「バラケマッハ」単品のバラケで攻め抜くという、極めて斬新なアプローチである。
「強い釣り」を求める岡田の心を鷲づかみにしたまったく新しいアプローチ
「相変わらずウドンセット釣りの難しさは続いていますね(苦笑)。特に自分を含めたサンデーアングラーにとって日曜日の食い渋りの釣りは毎回神経戦のようなもので、難解のひとことに尽きます。それでも夏場くらいはスカッと迷いのない強い釣りで乗り切りたいと思いませんか?」
そんな岡田の目に止まったのが、今回、椎の木湖で披露してくれた「バラケマッハ」単品バラケを軸としたチョーチンヒゲトロセット釣りなのだが、基本的なスタイルは岡田自身が編み出したものではなく、昨年開催された某メジャートーナメントの決勝の舞台で一躍脚光を浴びた釣り方であり、以来多くのトップトーナメンターらが勝負できる釣り方として、自らの手の内に入れようと研究を重ね続けている、いわばニューカマー。しかしこのシンプルで強いアプローチが岡田の心をつかんだ。
「僕自身の釣りとしては、ある程度のところまで煮詰められてきたと思うのですが、完全に手の内に入れたという訳ではありません。まだ改良の余地はありますが、基本的なところは押さえてあるので、同じ悩みを抱える多くのサンデーアングラーの参考になれば幸いですね。」
岡田の言う強い釣りとは、単に勝てる釣り方ではない。現在のウドンセット釣りのようにバラケのブレンド自体多岐に渡り、抜いたり持たせたり、またくわせエサの種類も多くローテーションを繰り返すといった、神経質ともいえるスタイルの釣りを繰り返すのではなく、バラケもくわせエサも不動のキメキメスタイルで、もちろん小手先の繊細なサソイなどは一切なし。当然ながらアタリもズバッと明快で、一旦決まればどれだけ釣れるのと思えるくらいの地合いを引き寄せられる、そんなストロングスタイルの釣りを目指しているのだ。 しかし弱点がない訳ではない。今回はスタッフの都合で空いているウィークデーの、しかも雨の中での実釣スタートとなってしまったため、水面直下に大量に寄った上っ調子のへら鮒によりエサを止められてしまう場面が頻繁に見られた。やがて、どうしてもナジませることができなくなるといった、土日祝祭日やトーナメントシーンでは考えられない状況に陥ってしまったため、スタッフの判断で仮想混雑時を作り出すべく釣り人の多いエリアに移動。読者諸兄の参考にしていただくため、動画にてこの釣りの理想とするウキの動きを捉えたことをご承知おき願いたい。
使用タックル
●サオ
シマノ 「景仙 桔梗」9尺
●ミチイト
オーナーばりザイト「へら専用白の道糸」1.25号
●ハリス
オーナーザイトSABAKIへらハリス 上=1号-10cm、下=0.8号-16cm
●ハリ
上=オーナー「サイト」15号、下=オーナー「セッサ」8号
●ウキ
一志チョーチン用グラスムクトップ(プロトタイプ)
【1.0-0.6mm径テーパーグラスムクトップ26.0cm /6.5mm径二枚合わせ羽根ボディ10.5cm / 1.0mm径カーボン足8.0cm /オモリ負荷量≒2.0g ※エサ落ち目盛りは全13目盛り中12.5目盛り出し(ほぼトップ付け根となる半目盛り沈め)】
●ウキゴム
オーナーばり「浮子ベスト」2号
●ウキ止め
オーナーばり「スーパーストッパー」1.5号S ※下側ダブル
●オモリ
ウレタンチューブの上に0.3mm板オモリ一点巻き
●ジョイント
オーナーばり「ダブルサルカン」ダルマ型22号
タックルセッティングのポイント
■サオ
この釣り方の適応範囲は釣り場規定最短尺から長くても10尺止まり。これは夏場を中心とした高活性期の釣りであると共に、桟橋下の大型べらをターゲットとするためである。当日は9尺から入り、終日この長さで通した岡田。エサがタナに入り難いにも関わらず短くしなかった理由については「経験上、椎の木湖では8尺で決まったことがあまりない」からだというが、状況や釣り手によっては規定最短となる8尺でもいけるだろう。
■ミチイト
全体的に太仕掛けを基本とするタックルの軸となるミチイトなので、当然ながら太めとなる。一般的なラインでは1.0号のワンサイズ上は1.2号となるが、彼が愛用するオーナーザイト「へら専用白の道糸」では1.25号がラインナップされている。これが太いハリスを使うこの釣り方に、バランス面で真に都合が良いと岡田は言う。
■ハリス
基本セッティングは別図の通りで、上ハリスは1.0号/10cm、下ハリスは0.8号16cm。これは基本というよりも、もはや不動のセッティングであり、基本的に長さは固定し、釣況の変化に対してはハリスワーク以外で対応する。セット釣りとしては異色の釣法だが、それゆえに強い釣りが可能になるのだ。
■ハリ
ハリもまた驚くほど大きい。従来のセット釣りではほぼ使うことのない、通常巨べら釣り専用として使われる「サイト」15号を上バリとして使用しているが、これはとりもなおさず開きの良い「バラケマッハ」をタナに送り込むための必須アイテム。極論すれば、これ無くしてこの釣りは成立しないと言っても過言ではない。また下バリも大きく、通常のチョーチンセット釣りの上バリで使うレベルの「セッサ」8号をくわせ用としているが、これはターゲットである大型べらのアオリによってトロロが抜けるのを防止することに加え、いち早くハリスを張らせて明確で強いアタリを出すためには必要不可欠なセッティングである。
■ウキ
この釣りのもうひとつのキーアイテムがウキである。岡田は「細めのグラスムクウキがないとこの釣りの完成はない」と言い切るが、彼が理想と思い描くウキはまだ手にしておらず、今回はそのイメージに近いものとして一志のグラスムクトップウキ(※テスト中のプロトタイプだがほぼ完成に近く、そう遠 くはない時点で新作ウキとして発表される見込み)を実釣に持ち込んだ。ポイントは大きめの重り負荷量と長く細いグラスムクトップ。これこそが「バラケマッハ」を確実にタナに送り込み、深ナジミさせながら明快極まりない強いアタリを導き出すためのポイントで、今回はそのウキの動きを動画で確認していただければ、なぜこうしたタイプのウキが必要なのかがお分かりいただけるだろう。
岡田流チョーチンヒゲトロセット釣りのキモ 其の一:「バラケマッハ」の特性を100%引き出す
この釣りの主役はいうまでもなく、バラケの麩材として唯一使用される「バラケマッハ」だ。実際そのシンプルなエサ使いには驚かされるが、当然ながら使用量も尋常ではない。標準的な地合いでも2袋(大袋タイプ)では足りないと言い、釣れるときにはさらにその量は増大する。なぜこれほどまでに大量のバラケが必要かというと、
「それは軽いボソタッチを好む大型べらを引き寄せるためにほかなりません。」
「バラケマッハ」はボソタッチの開きの良さがウリのベースエサであるが、バラケとして使用するには、現在の釣り場状況を考えると極めて持たせ難いエサといえるだろう。否、練ることで持たせることは可能だが、それではバラケマッハのポテンシャルを100%引き出すことはできないという。なかでも大型べらに対するアピール力は唯一無二の魅力があるという。
「まさにそこに単品使いの答えがあるのです。へら鮒に強いプレッシャーのかかるトーナメントや、混雑によるへら鮒の取り合い(※寄せ競争)になる日曜日の釣りにおいて、ウィークデー並みにコンスタントに釣るためには、それ相応の対策が必要です。それには何より強力な集魚力が必要不可欠であり、加えてくわせエサへと引き寄せる誘導力もなくてはなりません。一般的なウドンセット釣りでは、顆粒状ペレットを軸に作られた粒状バラケがスタンダードなエサ使いとして定着していますが、これでは横一線になって釣る場合抜きん出ることは不可能です。これに対して『バラケマッハ』単品の粒子はタナでの開きはもちろんのこと、縦バラケでありながら大型べらの集まるタナでの滞留というかキープ力に優れており、特に椎の木湖のような大型の多い釣り場では、その威力は圧倒的といえるでしょう。ただしそのポテンシャルを100%引き出すにはコツがあります。それは決してエサを固めないこと。つまり タナまで持たせるために必要以上に圧をかけてエアーを抜いたり、練ることでネバリを加えたりしないことが肝心です。あくまで基エサのままのエアーを含んだボソタッチのバラケを持たせなければその効果は半減してしまいますので、エサ付けのテクニックだけに頼るのではなく、むしろエサ付け時にストレスを感じないよう、タックルに工夫を加えて持たせるようにすることで『バラケマッハ』の持つ特性を引き出してやることが必要なのです。」
岡田流チョーチンヒゲトロセット釣りのキモ 其の二:バラケを持たせるために煮詰められたタックル。グラスムクトップウキを使いこなせ!
主役が「バラケマッハ」ならば、それを固める脇役はタックルだ。先に述べたように「バラケマッハ」の特性を引き出すためにはタックルのアジャスティングが極めて重要であり、なかでもその筆頭格はハリとウキである。既に基準となるタックルは構築されており、岡田自身のスタート時のセッティングに反映されている。そのことは実釣時にほとんどタックルに手を加えなかったことでも明白であるが、バラケを持たせるという一点からハリは大きめになることは想像に難くない。ただそのサイズが特別大きく、それを陰で支えているのがグラスムクトップウキであることを見逃してはならない。
「人によっては必ずしもグラスムクトップウキでなくても釣れると言いますが、私は明らかに細めで長いグラスムクトップウキの方がエサを持たせやすく、アタリも出しやすいと感じています。そのため萩野さん(一志作者)には無理を聞いてもらっていますが、グラスムクトップウキは過去にも流行した時期があり、今後他の釣りに応用できる可能性を秘めているので、やはりここではグラスムクトップウキにこだわりを持ち、それを使いこなすことが肝心でしょう。」
と岡田は言う。 理論的に言えば、比重の大きなグラスムクトップであれば、たとえ数多くのへら鮒が上層に寄ってきても、トップ自体が沈もうと働くことで無理なくエサがナジむようになる。さらに細く長いものであれはナジミ途中のサワリも読みやすく、前触れの動きからその一投がアタることが分かるというのだが、これは後日記者が試した結果、確かにグラスムクトップの方がパイプトップやPCムクトップよりもバラケを持たせやすく、実際に良いアタリが多くなるという確証を得ている。ただし細め(※概ね1mm以下)のPCムクトップであればグラスほどではないにしても、それに近いイメージの動きになることを付け加えておこう。
岡田流チョーチンヒゲトロセット釣りのキモ 其の三:深く、ひたすら深くナジませて強いアタリを出すべし!
バラケをしっかり持たせることの重要性については既に述べたが、単に持たせるのではなく、グラスムクトップウキのストロークをギリギリ使い切るのがポイントだと岡田は言う。
「この釣りではナジミ際の動き(アタリ)には手を出しません。理想とする食いアタリはトップ先端1目盛り残しまで深くナジミきった瞬間からトップがやや戻したところで出る消し込みアタリであり、これ以上待ってもアタリは出難く、何よりへら鮒の寄りがキープできなくなってしまうので、ここでは待たずにテンポ良く打ち返すことが肝心です。またナジミ幅が少なくなり始めたら要注意で、しっかりというよりも丁寧なバラケのエサ付けを心掛け、一旦トップが沈没するくらいまで深くナジませます。そこでは軽く1回竿先をあおってバラケを促進させてトップを水面上に出しますが、一気にトップが戻さないようにすると共に、何度もシャクらないとトップが出ないようなエサ付けも良くありませんので、へら鮒の寄り具合を見ながらエサ付けの際の圧加減に注意してください。またナジミ際に良いサワリがトップに出ているのにアタリが出ない場合は、トロロの持ちが悪くなっている可能性がありますので、打ち返しの際のトロロの残り具合に注意してください。」
ウキの動きや食いアタリのヒットパターンについては、ぜひ動画で確認していただきたいのだが、くれぐれもトップがナジむ途中はあまり大きなサワリが出ないよう、また一方でナジんでからはあまり待たずにアタリが出るよう、毎投丁寧なエサ付けとテンポの良いエサ打ちを心掛けよう。
総括
エサ使いやタックルのゴツさには驚かされるが、見た目にもシステム的にも実にシンプルな釣り方であることがお分かりいただけたであろうか。強い釣りを目指す岡田がついにたどり着いた新たなアプローチだが、冒頭でも述べたようにまだ発展途上というか、100%以上の釣りに大化けしそうな予感がするのは記者だけだろうか。
「強い釣りとは、いつの時代でも単純明快なものです。しばらくの間セット釣り自体が複雑化し過ぎてしまったことで、釣れたとしても決まったと感じることが少なくなったように感じますが、実際 問題私のようなサンデーアングラーにとって日曜日に両ダンゴで釣り切ることは困難であり、だからと言って小手先のテクニックに頼る釣りではストレスが溜まってしまい、楽しいはずのへら鮒釣りを心底楽しむことが難しくなってしまいます。やはり夏場の釣りでは明快で豪快な釣りがしたいですし、今回その可能性が大きな釣り方が見えてきましたので、さらにブラッシュアップして磨きをかけたいと思います。」
へら鮒釣りにはその難しさを楽しむという一面もあるが、過剰な難しさは返って釣り人離れを招きかねない。確かにどんな釣り方にもコツのようなものはあるが、せめてアプローチを含めた釣りのシステム自体は単純明快な方が良い。今回紹介した釣り方は今後のへら鮒釣りの方向性を示唆しているようにも受け取れるのだが、果たして読者の皆さんはシンプルに釣れるへら鮒釣りはお嫌いだろうか?