稲村順一が徹底レポート「釣技最前線」第99回 小泉伸行の両マッシュダンゴ釣り|へら鮒天国

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稲村順一が徹底レポート「釣技最前線」第99回 小泉伸行の両マッシュダンゴ釣り

野の巨べら釣りに欠かせないマッシュ系ダンゴエサ。フレーク状のマッシュポテトをベースに集魚材を控えた麩エサをブレンドした基エサをしっかり練り込み、ビワの実ほどに大きくエサ付けしてウキをどっぷりナジませるスタイルが一般的だが、今回記者の目の前で繰り広げられたのは、これとは対照的なライト系ともナチュラル系ともいえるアプローチで巨べらを仕留める異次元の釣りであった。そのアングラーの名は小泉伸行。関西の野釣り場を舞台に活躍するマルキユーインストラクターだ。野釣りのなかでも取り分け巨べらといわれるカタモノ狙いの釣りはタイミングが命といわれ、取材のタイミングを合せることは容易ではない。今回も決して好調とはいえない難時合いのなか、小泉は孤軍奮闘、真摯に巨べらと対峙してこだわりの釣りを披露してくれた。そしてそんな彼に巨べらの神は粋な計らいで取材を盛り上げてくれた!

へら鮒釣りを始めたときからこだわり続け、磨き続けた孤高の追わせ釣り!

舞台は奈良県北部、三重県との県境に近い山間部にある上津ダムだ。周辺には高山ダム(月ヶ瀬湖)や室生ダムといった巨べらが釣れるダム湖が点在しており、この辺りの釣況に詳しい小泉の薦めで現在コンディションが安定している上津ダムをチョイス。前週のまとまった降雨による増水後には一時的とはいえ釣況が上向いたというが、一旦満水位になった後に減水傾向に転じてからは、食いは今ひとつらしい。それでも未明から訪れる熱心なファンや、まるでキャンプのように数日間泊まり込みで腰を据えて巨べらを狙い続ける強者も少なくないようで、まだ夜も明けやらぬ湖畔の道路を数多くの車や人影が行き交っている。早速釣り支度を始めた小泉に今日はどんな釣りを見せてくれるのか尋ねると、

「こちら(関西圏)ではごく普通の釣り方ですが、マッシュ系の両ダンゴエサを使った切り返しの早い釣りで大型のへら鮒を狙います。私自身関東の巨べらスポットである亀山湖や片倉ダム(笹川湖)にも出かけますが、あちらの釣り方とは違うようですね。特徴的なのはグラスムクトップの通称〝かんざしウキ〟を使い、水中落下するエサを追わせて食わせるところでしょうか。主にエサ落ち目盛り付近からトップがナジミきるまでの間にでるアタリを狙うのですが、エサのタッチやハリスワークなど、すべてはこの間に食いアタリがでることを目指して調整を加えます。」

彼の話をかみ砕いて理解し、なんとか釣りのイメージが頭に浮かんだが、関東でこうしたアプローチで巨べらを狙うアングラーを記者は知らない。長めのハリスでゆっくり落下させることはあっても必ずウキをナジませて一旦エサの動きを止め、そこから食いアタリがでるまでじっくり時間をかけて待つスタイルがスタンダードであり、ナジミ際にでるアタリで食わせるという話は聞いたことがない。

「ところ変われば釣り方も変わって当然ですし、30数年前にへら鮒釣りを始めたときからこうしたスタイルなので、これが特殊だとは思ってもみませんでした。しかし関東で竿を出すようになり、名だたる巨べらハンターと竿を並べる機会が増えるに従い、『小泉さんの釣りは独特だね』とか、『その〝かんざしウキ〟はイヤラシいアタリをだすよね』と言われることが多く、私の釣り方が個性的な釣り方であることを認識するようになりました(苦笑)。」

初めてへら鮒釣りをしたときから変わらぬアプローチ。釣れると信じてこだわり続け磨き続けた結果、自身の巨べら記録を次々と塗り替え続けている小泉。これまでの釣り人生でヒットさせた尺半級は数知れず、既に50cmオーバーを9枚仕留めているという話はタダ者ではないことを示すには十分過ぎる記録であろう。上津ダムの釣り規定では、釣り時間は日の出から日没まで。果たしてどの様な釣りが展開されるのか、時折大型のへら鮒のモジリが散見されるなか、午前4時45分の日の出を待って静かな湖面に第一投が打ち込まれた。

使用タックル

●サオ
シマノ「朱紋峰 嵐月」18尺

●ミチイト
オーナーばり「白の道糸」1.5号

●ハリス
オーナーばり「ザイトSABAKIへらハリス」0.8号
上=55cm、下=70cm

●ハリ
上下=オーナーばり「サイト」15号

●ウキ
①「水芳(すいほう)」

【元径0.8mmスローテーパーグラスムクトップ25cm/直径10.8mm羽根6枚合わせボディ6.0cm/2.4mm径竹足7.0cm/オモリ負荷量≒2.3g/エサ落ち目盛りは全11目盛り中5目盛り出し】

②「天ヶ瀬(あまがせ)」

【元径0.8mmスローテーパーグラスムクトップ26cm/直径9.8mm羽根6枚合わせボディ4.5cm/2.0mm径竹足9.0cm/オモリ負荷量≒1.3g/エサ落ち目盛りは全11目盛り中5目盛り出し】

ウキゴム
松葉+ゴム管

ウキ止め
ウレタンストッパー

オモリ
ウレタンチューブ装着+0.3mm板オモリ

ジョイント
ヨリモドシ

取材時決まりエサブレンドパターン

「マッシュポテト(徳用)」200cc+「巨べら」100cc+「GD」100cc+「カルネバ」100cc(軽く混ぜ合わせてから)+水300cc

ザックリとかき混ぜ、全体に水を行き渡らせたらボウルの隅に寄せて5~6分放置。吸水が完了して固まったところで天地をひっくり返し、丁寧に解した後で掘り起こすように大きくかき混ぜ均一になるように仕上げる。使うときは小分けにし、押し練りと手水を加えながらタッチを調整。スタート時のエサ付けサイズは直径18mmほどで、寄りを確信したうえで食わせにかかるときはひとまわり小さくエサ付けをする。

小泉流『追わせて仕留める両マッシュダンゴ釣り』のポイント その一:巨べらにマッシュは必須のエサ使い。練らずに開かせアピール力増し増し!

アプローチの差こそあれ、古今東西巨べらにマッシュはなくてはならない必須のエサ使いである。今回小泉はやや食い気の落ちた上津ダムの巨べらに対し、開きを損なうことなく練らずに持たせるために「カルネバ」や「GD」といったまとまりを増強する麩材をブレンドに加え、見事に食い渋る巨べらの口を開かせた。ちなみに普段使う小泉流マッシュダンゴのブレンドは以下の通り。

「マッシュポテト」200cc+「巨べら」200cc+水300cc

水を加えてからの作り方は同様だが、開きの良いマッシュをまとめるのはグルテン成分を含む「巨べら」のみで、より強いアピール力で巨べらの摂餌を刺激するという。

「最近では多くのダム湖で麩系ダンゴエサや、『ヒゲトロ』『力玉』といったくわせエサを用いたセット釣りでも50cmオーバーの巨べらが釣れるようになりましたが、経験上、より大きな巨べらが釣れる確率が高いのはやはりマッシュ系のダンゴエサだと私は信じています。特にエサを開かせ、追わせて食わせる両マッシュダンゴの宙釣りは私の釣りの原点であり、現在の釣りスタイルの核でもあるので、今までも、そしてこれからもずっとこだわり続けたいですね。」

記者が知るマッシュ系ダンゴエサの巨べら釣りでは、たとえエサの傍に居ても容易に口を使おうとはしない警戒心の強い巨べらの摂餌を待つ間、長時間に渡る持久戦に耐えうるよう、強くたくさん練り込みを加えることは至極当然のことである。さらにそれでもまだ持ちが不十分だと判断したときには増粘剤「粘力」を加えることも辞さない。ところが今回注目していた小泉のエサ使い、エサ合わせのプロセスには練り込むという行為は一切見られなかった。それどころか、記者が普段よく目にする麩系ダンゴエサよる両ダンゴの宙釣りのような、繊細かつ丁寧な調整が1投毎にボウルの中で繰り返され、容易に食いついて来ない巨べらの口をなんとか使わせようと、実にきめ細やかなエサ合わせが終始行われたのである。

「エサをぶら下げて待つ釣り方では、エサを練ることは必要不可欠なことかもしれません。しかし、私のようにエサを動かしながらの釣りではむしろ逆効果で、動くエサに反応させるためには程度の差こそあれ〝開き〟を維持しなければなりません。スタイルの異なる関東圏では難しいという人もいますが、こちらでは皆そうした考え方で釣りをしているのでまったく気になりません。それどころか、その時々の巨べらのコンディションや食い気に合わせ、どの程度のエサのタッチでどのくらいのエサ付けにすれば食ってくれるのかを考えながらやっていると、あっという間に1日が終わってしまうほど楽しいし、ある意味忙しい釣りかも知れません(笑)。」

小泉流『追わせて仕留める両マッシュダンゴ釣り』のポイント その二:エサが動いている間がヒットチャンス。気配なくナジミきったら待たずに即打ち返し!

小泉が口にした「忙しい釣り」と「巨べら釣り」は相容れないもののように思われるが、実際に彼の釣りを目の当たりにすると、忙しさの意味と重要性が良く分かる。そのキモとなるのがアタリの取り方、というよりもアタリの出し方というべきだろうか。

「忙しいというと語弊があるかもしれませんが、食いアタリのでるタイミングはエサが動いている間にほぼ限られますので、ナジミ際に何の気配も変化もなくエサがぶら下がったら勝負あり。この状態で待っていても食いアタリは期待できないので、ウキが戻すのを待つことなく、たとえ深ナジミした状態でも即打ち返します。当然ながらエサ打ちの回転は自ずと早くなり、ボウル1杯分のエサであれば50分程度で打ちきってしまいます。」

 実際カラツンも含めてこの日でたアタリの9割近くが、ウキのトップのエサ落ち目盛り付近からナジミきる間に集中しており、元も早いアタリはナジミ始めたトップが一瞬受けた直後で、この早いタイミングのアタリにも躊躇することなくアワせられるということは、いかにこの釣り方が体に染み込み、しかも早いアタリでもカタモノを仕留められるという自信の表れであることがうかがい知れる。ちなみにこの日釣れた巨べらの食いアタリは、やや食いが渋かったこともあり普段よりも遅めのタイミングであったとは取材後の小泉の弁である。

小泉流『追わせて仕留める両マッシュダンゴ釣り』のポイント その三:ハイレスポンスな〝かんざしウキ〟を軸とした繊細かつ余裕のあるタックルセッティング

記者は必ずスタート時のタックルセッティングについてアングラーに聞き取りを行う。今回もエサ打ちを始めてすぐに小泉に使用タックルについて訊ねたが、あわよくば50cmオーバーを狙おうという巨べら釣りにも関わらず驚くほど繊細なタックルに〝二度見〟ならぬ二度聞き直すほどであった。

「乗っ込み期に短ザオで浅場の底を狙う釣りと違い、長ザオで障害物のない中層のへら鮒を狙う釣り方なので、この程度のセッティングでも余裕をもって臨めますね。むしろラインブレイクを警戒しての太仕掛けでは、私が求めるエサの自然落下度(水中でのナチュラル感のある動き)が損なわれてしまうので、これ以上は必要ないと考えています。」

こう断言する小泉。さらに記者が注目したのは見た目にも特徴的なウキである。これに話が及ぶとこの釣りがこのウキなくしては成り立たないことを熱く語り始めた。

「関東では大きなマッシュダンゴを止めて食わせる必要性から、その重さを支えるために浮力の大きな太いボディに極太のパイプトップを装着したウキが主流ですが、エサを追わせて食わせる釣りではできるだけその動きを損なわないためのスペックが求められることから、グラスムクトップはなくてはならない要素のひとつになっています。細く長いグラスムクトップは水中の巨べらの動きをリアルかつ正確に知らせてくれます。サワリのでる位置やタイミングで寄っているタナはもちろん、求めているエサのタッチまで判断することが可能です。ちなみに今日は基エサに近い開きの良いタッチのエサに興味があるようで、カラツンが続いたときに食わせにかかろうとしてタッチを軟らかくまとまりの感の強いタッチに変えると途端にウキの動きが悪くなりました。こうした変化がリアルタイムで分かることが対策の遅れ防止に役立ちますし、上手く使いこなせればここぞというタイミングで食わせることができるのです。」

取材中、小泉が釣り座を構えた「堂前」というポイント周辺で竿をだしていたアングラーの釣況を見て回ると、ひとりの例外もなく彼と同じか、もしくは〝かんざしウキ〟に良く似たタイプのウキを使っており、釣り方もまた同じマッシュ系の白い両ダンゴエサを用いた浅いタナの宙釣りであったことから、エサを追わせて釣るアプローチが広く浸透していることが腑に落ちた。加えて彼が使うウキのトップは通称「点塗り」といわれ、色分けされた1目盛りをよく見ると一般的な塗りつぶしではなく、コンマ数mmの隙間ができている。遠目にはまったく分からないが、これは視認性に関わるものではなく、ウキがナジむ際の〝抵抗〟を増すために施された工夫だという。小泉曰く「この点塗りトップのお陰で僅かにブレーキがかかり、エサのアピール力がさらに高められている」とのこと。

小泉流『追わせて仕留める両マッシュダンゴ釣り』のポイント その四:野釣りのタナ調整は必須テクニック。臨機応変な対応でためらう巨べらを振り向かせる

この日、小泉がとった策のうち目立ったものとしては、アタリが出難かった際に行ったウキの交換(サイズダウン)とハリス調整、そしてタナ調整の3点のみ。ウキを半分ほどの浮力のものに交換するとアタリが倍増し、数回のカラツンの後にハリスを5cmほど詰めた直後に42cmがヒット。さらに時合いが落ちた午後になって容易にアタリがでない局面でタナをウキ1本分ほど深くすると、それまで見られなかった明確な反応が現れた。数投同じような動きが続いた後に今度は数cm浅くすると、直後の1投目にナジミきったウキの戻し際に明確なアタリがでて、この日最大の43.5cmが釣れて今回の取材を見事に締め括ってくれたのである。

「ダム湖の巨べら釣りにおいて、タナは大変重要な要素のひとつです。私の釣りの軸はあくまで追わせ釣りですが、狙っている巨べらのレスポンスが悪くどうしても追わせきれないときは、このタナを深くしたり浅くしたりすることで反応を引き出しています。私なりのセオリーとしては、まったくウキに変化が見られないときはウキ1本程度深くし、何らかの動きがあるにも関わらず食いついてこないときには数cm単位で浅くしたり、深くしたりを繰り返します。ただし今日このポイントにおいてはタナ2本(水深約2m)よりも深くするとコイが釣れてしまうので、これ以上深くすることはできません。今日のところはタナ1本半ぐらいがベストですね。」

タナ(エサの到達レンジ)を変えることで、自ら動こうとはしない巨べらの目の前にエサを送り込むことができる他に、エサのバラケ方や持ち具合に違いが生じることで、ためらう巨べらの摂餌を促すこともできるという。常に目の前に数多くのへら鮒が居続ける管理釣り場とは異なり、野釣りは時合いの変化やへら鮒の寄り方の変化が激しく、自ずとヒットチャンスが限られる。無用なトラブルによりエサ打ちの手を休めたり、時間のかかるタックル変更を頻繁に行うったりすることは、自らそのチャンスを放棄するに等しい。的確かつ短時間で大きな効果が期待できるタナ調整は、巨べら釣りでは是非とも手の内に入れておきたい必須テクニックといえるだろう。

記者の目【関東の巨べら相手に試してみたくなる、小泉流「追わせ釣り」】

従来型のマッシュダンゴの釣りは、エサ取りとなるジャミ類やへら鮒以外の大型魚の寄りを抑制しつつ、良型のへら鮒のみを引き抜くといったスタイルが一般的である。従ってマッシュエサ本体の開きを抑えるために十分に練り込んだ大きなエサを用いるのがセオリーだが、こうしたアプローチは見方によっては守りの釣りであり、これとは真逆ともいえる攻撃的なスタイルの釣りが、今回紹介した小泉流の追わせて仕留めるアプローチである。実際に一連のプロセスを目の当たりにし、しっかりと結果をだしてくれたことで巨べら釣りに対する見方を大きく変えざるをえなくなると共に、すぐにでも関東の巨べら相手に試したいといった衝動を抑えきれなくなってしまった。小泉によれば彼自身関東遠征の際にもこのスタイルを貫き通し、見事50cmオーバーの巨べらをものにしているというから、攻撃型のアプローチが関東の巨べらにも通用するということを自ら証明していることになり、記者自身もまさに〝目から鱗〟の取材であった。