稲村順一が徹底レポート「釣技最前線」第80回 横山天水のチョーチン両ダンゴ釣り|へら鮒天国

管理釣り場・野釣り場の、最新釣果情報が満載!「へら鮒天国」

稲村順一が徹底レポート「釣技最前線」第80回 横山天水のチョーチン両ダンゴ釣り

へら鮒釣りをするうえで避けて通れないのがエサ合わせ。異なる特性を持つ複数の麩材を組み合わせ、その配合比率や加える水量、果てはかき混ぜ方や練り方を変えることでへら鮒が求めるエサへと仕上げる作業だ。ところがこのエサ合わせ、ある意味へら鮒釣りの醍醐味であると同時に最も難解な作業でもある。へら鮒界の巨匠、横山天水は、この難しいとされるエサ合わせをいかに簡単に、そしてたくさん釣ることができるよう多くのアングラーに伝えることを生業としているマルキユーインストラクター。そんな横山が改めてエサ合わせの妙を披露してくれた今回の釣技最前線。釣り方は今が最盛期のチョーチン両ダンゴ釣り。決め手は意外(?)にもグルテン配合のロングセラー「グルバラ」の持つ唯一無二の〝膨らみ〟であった。

エサを決めるのはアングラーではなくへら鮒だ!

マルキユーでは様々な大会やイベントでエサ教室を開講している。生徒はもちろんアングラーである読者諸兄であるが、名だたるマルキユーインストラクター陣のなかにあって名講師の誉れ高い横山は、懇切丁寧な講義で釣れるエサ作り、エサ使いを広めている。そんな横山が常日頃口にするのは、エサ教室などの講義を参考にしてエサを作るのはアングラー自身だが、最終的に食いたいエサを決めるのはへら鮒であり、それを察知して食いたいエサをタイムリーに供給することがエサ合わせの極意だということだ。

「とかく自分の得意なパターンに持ち込みたがるアングラーが多いが、へら鮒釣りに自己中心的な考え方は禁物だよ。特にエサ合わせに関してはへら鮒の声を聞いてあげて欲しい。なぜならエサを食うのはアングラーではなくへら鮒であり、へら鮒の好みに応えてあげなければ決して良い釣果を得ることはできないじゃないか。ところがこの〝好み〟ってやつがコロコロと変わるから厄介なんだ。ひとつ覚えのエサでは『NO』と言われたときに釣れなくなってしまうことは容易に想像がつくだろう。そんなとき少々手を加えて好みのタッチに仕上げてやるんだ。するとアタリを出さなかったへら鮒が反応し始め、良いアタリで釣れるようになる。これがエサ合わせの極意であり、千変万化するへら鮒の好みに対して完璧にエサを合わせることは不可能かも知れないが、少しでも合わせようとする努力に必ず応えてくれるはずだよ。」

なにがへら鮒の好みなのか、どんなタッチのエサを欲しているのかを知る手がかりは何かと訊ねると、横山からは「それはウキの動きだ」という答えが返ってきた。サワリがあるのかないのか、アタリは多いのか少ないのか、そうしたウキの動きから水中の見えないへら鮒の動きを読み解き、食いたいエサはどんなものなのか、物言えないへら鮒の声なき声を聞くことがへら鮒釣りの神髄だと横山はズバリ言い切る。そんなエサ合わせの妙が垣間見えた今回の釣技最前線。へら鮒が食いたいエサを取り揃え、オモテナシの心で迎える「ビストロ天水」これより開店!

使用タックル

●サオ
がまへら「天也翔抜」8尺

●ミチイト
1号

●ハリス
0.5号 上40→23cm/下50→35cm

●ハリ
上下がまかつ「改良ヤラズ(ゴールド)」10号

●ウキ
忠相「チョーチン用グラスムクトップ (プロトタイプ)」No.11
【全長43cm/オモリ負荷量≒2.1g/ エサ落ち目盛りは全13目盛り中8目盛りだし】

●ウキゴム
手製松葉+ゴム管

●ウキ止め
木綿糸

●オモリ
ウレタンチューブ装着0.3mm厚板オモリ

●ジョイント
極小丸カン

タックルセッティングのポイント

サオ
チョーチン釣りでは竿の長さ=タナとなるため、その選択は極めて大きな意味を持つ。初めから食い気のあるへら鮒が数多く居るタナを攻めた方が効率的であることはいうまでもないが、情報がないケースにおいて一発でベストの長さの竿を選択することができないことも多いので、その際のリカバリー方法をしっかり身につけておいた方が良いと横山は言う。実際取材時も初めに継いだ10尺で思うように釣れず竿交換を余儀なくされたのだが、その際ナジんでいく途中でサワリはあるが、深くナジむほどに生命感がなくなり、竿を上げる際に時折上層でスレ掛かりするといった症状がみられた。そこで周囲での釣れ具合も含めた判断の結果8尺に変更すると、見違えるようにウキの動きがよくなり結果として決まり竿になったことは、改めて竿選択=タナ選択の重要性を知らしめるには十分な対応であった。

ミチイト
1.0号は横山の盛期の管理釣り場における標準仕様。太過ぎず細過ぎず、グラスムクトップウキの動きを干渉することなく自然なナジミやアタリを出すのに適している。

ハリス
最初のセッティングは上下共に0.5号、上40cm/下50cmで探りながらのスタートとなったが、サワリやアタリの出方から長過ぎると感じた横山は、開始早々に5cm、さらに5cmと詰めていった。しかし、結果的にはこの長めのハリスが上層に食い気のあるへら鮒が居ることを知らせてくれることとなり、早めの竿の交換に至ったことから、正解への近道を一気に突き進むことになったのである。そして最後は上23cm/下35cmでコンプリート!

ハリ
エサのタッチが軟らかめになることも想定し、ハリは大きめの「改良ヤラズ」10号を選択。これによりカタボソタッチから極ヤワタッチのエサまで探ることができ、最終的にはほぼ基エサのまま使い切れるネバボソタッチの小エサを絶妙な圧加減でギリギリ持たせ、気難しい大型べらを次々と仕留めていった。

ウキ
このところ横山は次期チョーチンセット釣り用として中核をなすであろう、このプロトタイプのグラスムクトップウキを両ダンゴ釣りでも使い込んでいる。それは従来タナまで持たせることが困難であった甘めのダンゴエサを、グラスムクトップの特性によりタナまで送り込むことができるためであるが、今回は長めのグラスムクトップ特有のナジミ際の動きからタナの不適合を知ることに至り、竿の長さを的確にアジャストすることができた。さらにエサ追いが悪いへら鮒に対してロングトップのストロークがエサの動きのナチュラル感を演出し、エサの膨らみと相俟ってアタリの増加に寄与していた。

横山流チョーチン両ダンゴ釣りのキモ 其の一:竿の長さ(=タナ)が合ってこそのチョーチン釣り

実釣フィールドとなった加須吉沼への釣行は久し振りだという横山は、事前に池主を始め各方面に連絡を取って釣り場の状態をリサーチしたと言うが、最終的には当日の天候や混雑度、さらには常連らしきアングラーの釣り方(主に使用している竿の長さや釣っているタナ)等を参考にしたうえで10尺を継いだ。

「穂先一杯の位置にウキが来るチョーチン釣りは竿の長さがほぼ釣るタナ(水深)となる訳だが、釣果を含めた釣りやすさを求めた場合、この竿の長さがとても重要な意味を持ってくる。たくさんへら鮒が放流されている管理釣り場であっても、すべてのタナに均等に居る訳ではない。もちろんエサを打ち始めればある程度エサの傍に寄せることはできるが、初めから居るタナにダイレクトにエサを送り込んで食わせるのと、無理にタナを変えてまで食わせるのとでは、へら鮒が感じるストレスに大きな違いがあることは容易に想像できるだろう。へら鮒は天候(日照や風の有無、気圧の変化等)や水温の変化、さらには溶存酸素量や混雑度の違いによって居場所やタナを変動させる魚なので、こうした変化を読んで釣り方を合わせるのもアングラーの技術であり、へら鮒釣りの面白いところなんじゃないかな。とりあえず今日は10尺から始めてみるが、おそらくこれで決まることはないと思うよ。」

そう言いながら実釣をスタートした横山。結論から言えば数枚ヒットさせた後、このタナの釣りに違和感を覚えた横山はウキの動きからへら鮒のタナが高いことを確信し、9尺にするか8尺にするか迷った挙げ句8尺に変更。するとリスタート直後から明らかにウキの動きに変化が現われ、それまでウキが立った直後に目立っていた不規則な上下動が収まり、次第にトップのナジミ際に規則的なサワリが現われ始めると、やがてナジミきった直後から1~2目盛り返す間に横山が理想とするズバッと消し込むアタリが出るようになった。

「竿以外、何も替えていないのに、これだけウキの動きが変化したということは明らかにタナがズレていた証拠だね。もちろん10尺のまま続けていても釣れるようになるかもしれないが、自ら動くことで釣りやすい状況になるのであれば、積極的に動いた方が良い。もし動いた結果が悪ければ元に戻すか、さらに違う長さの竿を出せば良いだけの話だからね。」

へら鮒のコンディションが良ければエサのあるところ(釣っているタナ)に次第に集まってくるので、1~2尺のタナのズレは大した問題にならないが、エサに対するレンスポンスが低下するほどへら鮒はタナを変えたがらなくなるので、竿の選択の重要性は極めて大きいと横山は言う。今回は10尺→8尺という1回の変更で決まったが、もちろん9尺が良いこともあるので、釣行の際には、釣れると予想されるタナの前後2~3尺は1尺刻みで準備しておく必要があるだろう。

横山流チョーチン両ダンゴ釣りのキモ 其の二:エサを持たせるだけでは釣れない難時合い。決め手は「グルバラ」の〝膨らみ〟だった!

へら鮒天国「釣技最前線」では登場アングラーに釣り方だけを指定しておき、釣り進んでいく課程における特筆すべきテクニックや、実釣時に何が釣況に与えた重要なポイントであったかをピックアップしている。今回の横山の釣りにおいてはエサを持たせてウキを深ナジミさせるという基本テクニックに加え、単にエサを持たせただけでは食いアタリが出難く、仮に出たとしてもヒットしなかったという当日の釣況を踏まえ、そこからのエサ合わせのプロセスにおいて「グルバラ」を用いたことに間違いないだろう。

横山のエサ使いの特徴は、ブレンドする個々の麩材の特性を引き出し、活かしきること。今回も正解エサに辿り着くまでいくつかのブレンドパターンを試したが、そのプロセスは至って明快で見ている記者にもよく理解できた。まず当日の釣況を予想したうえで基準となるブレンドでスタート。その課程で何かしらの過不足が無いかを判断し、ある場合は2ボウル目以降の基エサ作りにそれを反映させるのだ。ちなみに当日の釣況を開始1時間ほど経過した時点で尋ねると、

「へら鮒の寄り自体は表層に偏っているが食い気のあるものは少なく、8尺一杯のタナ付近に比較的エサ追いの良いへら鮒が居るようだ。とりあえずアタリが続いてヒット率が高いエサのタッチを探ったところ、基エサのままではボソッ気が強過ぎて表層のへら鮒が騒ぐ傾向があり、それを抑えようと手水と押し練りでヤワネバの方向へと調整していくと、ある一線を越えたところで極端にエサ持ちが悪くなってしまうラインがあることが分かった。そこでエサ持ちを強化しようとネバリを強めてみたところ、単にネバリで持たせるとエサの芯が強すぎてしまうのか、良いアタリがことごとくカラツンになってしまった。こうしたことから分かることは、表層に寄った食い気に乏しいへら鮒の層を突破できるだけの芯持ち力があり、タナに入ったところで適度に膨らむエサが必要だということ。そしてそれが実現できるエサを考えたとき、グルテンが含まれた麩材である『グルバラ』の〝持って膨らむ〟という個性的な特性が必要不可欠だと感じている。もちろん『カルネバ』だけのネバリで十分なときもあるが、今回はどうしても『グルバラ』の膨らみが欲しいし、そうかといって、『グルバラ』だけではエサ持ちの点で若干の不足を感じるので、ふたつのエサの良いとこ取りをすればエサが決まるんじゃないかな。」

と、横山。その言葉通り、最終的に当日の決まりエサとなったのが前述のブレンドパターンだが、実際にこのエサを使い記者がスタッフの釣り座で試し釣りをさせてもらったところ、ボウルの中の基エサのままエサ付け時のサイズと圧加減だけで釣り続けることができた。このとき横山からは「①手水で軟らかくし過ぎないこと②強く手揉みを加えてボソッ気を殺し過ぎないこと③エサを大きくつけ過ぎないこと」という3つのポイントが指示されていたので、それだけを忠実に守った結果釣れたことが証明されたことになる。このように横山のエサ合わせのプロセスは、正解までの課程では何度も手水を加えたり押えたり練ったりすることもあるが、方向性が定まった時点でブレンドする麩材の割合と水の量が決まると、その後はあまり手を加えずにほぼ基エサのまま使うことができる完成度の高いものに仕上がるという特徴がある。

「両ダンゴのエサ合わせは決してブレンドだけで決まるものではない。基本的なエサの方向性はブレンドする麩材が持つ特性で決めるが、最終的なタッチやエサ付けのサイズ・形状・圧加減はアングラー個々の裁量に委ねられている。僕の場合ブレンドに対する信頼度が高いので、ブレンドが決まればそれほど細々したテクニックは用いずに釣りきる自信があるね。ただし、そのためには麩材の持つ特性を正しく理解しておく必要がある。たとえば『グルバラ』は、その名の通りエサに含まれるグルテンによってエサの保持力が高められている。これは増粘剤系の保持力とは異なり、吸水するとゆっくり芯が〝膨らむ〟という特徴があるため、芯をガッチリ固めてしまうとアタリが出難くなったり、芯が持ち過ぎてカラツンになったりするときに用いると効果的なエサなんだ。僕自身はどちらかといえば野釣りを中心に宙底問わず使うエサだが、今日のような釣況もままあるのでバッグにはいつも忍ばせているよ。」

横山流チョーチン両ダンゴ釣りのキモ 其の三:アタリを絞り込んで高ヒット率を維持!

元来〝速攻〟の釣りを得意とする横山だが、老獪さを増した現在のフィッシングスタイルからは、速さよりもむしろヒット率重視の方向転換が見て取れる。

「スピードでは、もう若い連中にはかなわないからね(笑)。ヒット率を高めるためには、なによりもまず数多くアタリを出すこと。それにはエサのブレンドを始めとしたエサ合わせが重要であることはいうまでもないが、ある程度エサ合わせができてアタリが続くようになったら、さらにヒットするアタリの絞り込みが必要なんだ。今回のようにエサを軟らかくして早い段階でのアタリで食わせようとするとボケてしまう場合は、しっかりしたエサで確実に食うタイミングを見計らう必要がある。今日などはナジミ際に結構良いアタリは出ているが、ここで無理に食わせようとするとかえって時合いが不安定になってしまったよね。ここでポイントになるのがエサの持ち具合と膨らむタイミングなんだ。今日のエサの場合ちょうどよかったのが、ウキがナジミきる瞬間からナジんだトップが2~3目盛り返すまでの間で、傍で見ていると遅いと思うくらいのタイミングじゃないかな。おそらく水中ではこのタイミングで、エサがへら鮒の好みの状態になっているんだろう。それが証拠に早いアタリで空振った後にはアタリが飛ぶことがあったが、ウキが深ナジミしたところでの空振りの後ではアタリが続いただろう。この辺りの見極めはすごく大事で、エサの好みも含めて食うタイミングもへら鮒に訊くことが大事だね。」

アタリを絞り込むということは、アタリを送る(2回目、3回目のアタリを取る)こととは別物だ。この日のヒットパターンもそうだが、普段の釣りも含めて元来最初に出る強いアタリにアワセて食わせていくのが横山流で、そのタイミングは早いときもあれば遅いときもある。もちろん理想とする早い食いアタリが出るのに超したことはないが、そうではないときにへら鮒に無理強いさせることなくウキの動きを読み解き、その声を訊きながらベストのタイミングを計ることが肝心なのだ。

総括

難しいテクニックをマスターするには時間もお金もかかるが、エサのブレンドに関しては、作り方も含めて名手のそれを参考にすればたやすくできるだろう。ちなみに横山のエサ作り、エサ使いはまさにシンプルで、際立った特別なテクニックは用いてはいない。それにも関わらず釣れるのは、エサの特性を知り尽くしたブレンドの妙に尽きると記者は見た。

「断っておくが、今回のブレンドが良かったのは当日のへら鮒がそれを求めたからであり、いつでもどこでも釣れるベストなブレンドだという訳ではない。あくまでエサはへら鮒が決めるものであり、ワンパターン化させないことが大切なんだ。だからと言って難しく考える必要はない。いたずらに種類を増やすことなく自分が基本とするダンゴ用ベースエサを2~3種類、さらに持たせ加減がコントロールできるエサを2~3種類手の内に入れ、それらの種類や分量の組み合わせを変えるだけで大抵の釣況には対応できるだろう。今回ターニングポイントになった『グルバラ』はマルキユー製品のなかでも屈指のロングセラー商品であり、今なお多くのアングラーから支持されている名エサだけに、衰え知らずのその実力を今回証明できたことは嬉しいよ。」

図らずもいつもバッグに持ち歩いていた「グルバラ」が主役となったことに喜びをあらわにすると共に、改めてそのポテンシャルに自信を深めた横山。チョーチン両ダンゴ釣りは秋も旬が続く息の長い釣り方だ。秋が深まりさらにタナが深くなれば、適度な比重も釣りやすさを強力にサポートしてくれるに違いない。ぜひ皆さんも「グルバラ」をバッグに忍ばせ、そのポテンシャルを確かめてみてはいかがだろうか。