稲村順一が徹底レポート「釣技最前線」第98回 コウテン×萩野孝之|へら鮒天国

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稲村順一が徹底レポート「釣技最前線」第98回 コウテン×萩野孝之

発売からひと月が過ぎた新エサ「コウテン」。早くもその優れたポテンシャルを体感された読者諸兄も多いことだろう。へらエサの特性を表す「ネバリ」と「重さ」。その交点に位置する「コウテン」は粘り過ぎず重過ぎずといった中間の特性を持つダンゴエサだが、そのマイルドな使い心地がややもすると没個性と思われてしまう恐れがある。しかし記者の思いはこれとは異なり、個性が強過ぎない分どの方向にも容易に調整でき、時合いの変化が激しい近年の釣況にマッチしたエサ合わせが可能になるのではないかと感じている。今回はこの記者の考えを確かめるべく、マルキユーインストラクター萩野孝之に「コウテン」の実践での扱い方についてのレクチャーをオファー。実釣は新型コロナウイルス感染拡大による緊急事態宣言発出に伴い営業を自粛し、宣言解除後に再開を果たした椎の木湖。その間、季節は既に本格的なダンゴシーズンに突入しており、彼もまた自粛明けという萩野のウキは新エサのポテンシャルと相俟って躍動し続けた。

ネバリと重さの交点(中間点)からスタートするとエサ合わせが楽になる!?

 新エサの開発には様々な背景が存在する。多くはへら鮒釣りを楽しんでいるアングラーの生の声や、常に最先端の釣りのなかに身を置くモニター、テスター、インストラクターからの要望を元に進められるが、さらにその中身は明らかな状況変化に対応するべく急ピッチで進められる個性的なものと、これとは逆に大所高所からへら鮒釣り本来の楽しみ方が味わえるよう、ゆっくりじっくり時間をかけて開発が進められる普遍的ベースエサに大別される。新エサ「コウテン」は後者に分類され、記者のファーストインプレッションではクセがなくニュートラルで扱いやすいエサという印象だが、基本的には両ダンゴ釣りのベースエサという立ち位置で、他の麩エサとのブレンドによって釣況に合せるのが適切な使い方であると感じた。

「個性が強いエサは反響が大きい反面、賛否が分かれやすいものです。『コウテン』はあまりにも普通過ぎてインパクトとしては決して強烈ではありませんが、個性を抑えてある分受け入れやすいエサなのではないでしょうか。とはいえ『コウテン』は普通にみえて、実は普通じゃないエサなんですよ。実釣中の映像や水槽内でバラケ方を確かめた映像でもハッキリと分かりますが、手を加えていない状態でもしっかりウキがナジみ、途中で割れ落ちすることなくジワジワと、でも確実にバラけて最後まで芯が残るんです。これは現代両ダンゴ釣りには欠かせない特性なのですが、今回はシンプルなブレンドでできる限り簡単にキモを押えた釣りをご覧に入れたいと思います。」

自信満々で言い切った萩野だが、実は取材2日前に同湖で実釣したところ、今回紹介しているブレンドパターンで爆釣!その釣果は6時間弱の実釣で驚異の124.06㎏/124枚。ご存じの方も多いだろうが、従来の彼の必釣両ダンゴブレンドは「バラケマッハ」+「凄麩」+「カルネバ」で、これまで数々の高釣果を叩きだしてきた。その伝家の宝刀を抜くことなく新たなパターンで同等の釣果を得られたことは、彼をしてオススメに値するエサだと断言する。

「メジャートーナメントを含めてプレッシャーのかかる大会や例会で高釣果を得るためには、簡単に作れて経時変化が少なく、安定的に釣れ続く再現性の高いエサが必要不可欠です。それを今回証明したいと思い試してみたのですが、思った以上にイケますね(笑)。」

比較する意味も含め、試釣のときとまったく同じタックルセッティングとブレンドでスタートした萩野。開始早々にファーストヒットを決めて間もなく連チャンモードに。ところがベストと思われたブレンドパターンではウキの動きに不満があると言い、この日最高の時合いを求めて本格的なエサ合わせに着手。そのプロセスは単純明快だ。では早速「コウテン」のポテンシャルと休養十分の大型べらがガッチリ噛み合った見事な釣りを紹介しよう。

使用タックル

●サオ
シマノ飛天弓「柳」8尺

●ミチイト
オーナーザイト「白の道糸」1号

●ハリス
オーナーばり「ザイトSABAKIへらハリス」0.5号 上=40㎝、下=50㎝

●ハリ
上下 =オーナー「 バラサ 」7号

●ウキ
一志「D-ZONE(ディーゾーン)」5番
【パイプトップ仕様/二枚合わせ羽根ボディ7.0cm ※エサ落ち目盛りは全8目盛り中6目盛り出し】

●ウキゴム
オーナーばり「強力一体ウキベスト」

●ウキ止め
オーナーばり「ピタッとストッパー」

●オモリ
内径0.3㎜ウレタンチューブ装着板オモリ1点巻き

●ジョイント
オーナーばり「Wサルカン(ダルマ型)」

今回使用したタックルは、いわば萩野流メーター両ダンゴ「椎の木湖Ver.」。注目すべきポイントはオモリ負荷量のやや大きめのウキを使い、他の釣り場では長過ぎと思われるほど長いハリスと大きなハリを基本としているところだ。これらのタックルが意図するところは、食い頃と言われるヤワボソタッチのエサを、適度に寄せたへら鮒の群れのなか、確実にタナに送り込むことに尽きる。

新エサ「コウテン」の特徴&使い方のポイント 其の一:エサ合わせのプロセスは単純明快。ブレンド品種を少なくし再現率を高める

マルキユーの「麩系バラケ・ダンゴの共エサ性質表」に表記されたバラケ性(横軸)と重さ(縦軸)の二軸が交差する中間点に位置する「コウテン」は、極めてマイルドでニュートラルな特性を持つ、穏やかな性質の麩エサである。およそこの付近にあるエサは両ダンゴ釣りのベースエサとして扱いやすく、エサ合わせに際しては他に加える麩材の持つ特性や分量によって比重やバラケ性を容易に調整できるという特徴を有する。取り分けど真ん中に位置する「コウテン」はいずれの方向にも自在に進める、いわば全方位型万能エサであることが最大のウリとなっており、今回萩野の釣りを通してエサの特性を改めて見てみると、その優位性は一目瞭然だ。なにより特筆すべきはブレンドの簡易性で、新エサ「コウテン」をベースにネバリが強くエサの芯を作りやすい「カルネバ」だけをブレンドし、釣況に応じて2種の比率と加える水の量でタッチ(おもに硬さとバラケ性)を調整するという、最もシンプルな手法で「コウテン」の使い方を指南してくれた。そのプロセスは以下の通りだ。

❶スタート時は試釣の際の好感触であった…
「コウテン」400cc+「カルネバ」400cc+水230cc(手水調整5~6回)

❷開始間もなく上層での受けが不足気味と感じると、2ボウル目は…
「コウテン」400cc+「カルネバ」300cc+水200cc(手水調整3~4回)

❸さらにナジミ際の追いが鈍く、もう少し開きが欲しいと感じた3ボウル目は…
「コウテン」400cc+「カルネバ」200cc+水200cc(手水調整2回)

❹開始2時間経過時点で上層のへら鮒の活性が高まり始めたのを機に一旦❷のパターンに戻したが、手水調整をあまり加えない方が反応は良いということが分かった時点で、仕上げは…
「コウテン」400cc+「カルネバ」300cc+水230cc(手水調整は必要最小限)

 これが当日のエサ合わせの進め方で、最終的には上記④のパターンが当日の決まりエサとなった訳だが、このエサを手に取ったスタッフのひとりがその軟らかさに驚いていたのが印象的であった。実際作った直後はエサ付けもままならない軟らかさで、およそ5分後に麩材が吸水してタッチが安定した状態でも、かなり軟らかめのタッチであることが分かる。しかもそのときのハリスセッティングが上40cm/下50cmという長めでありながらも釣れ続いているということは、このタッチのエサが確実に時合いにマッチしていることの証であろう。

「エサ合わせはできる限り単純明快に進めたいですね。エサ勘の鋭いアングラーは指先の感覚だけで合わせることができますが、そうした特殊能力がなくても、また多くのキャリアを持たないアングラーであっても容易にエサ合わせができることを今回示せたと思います。」

 と言う萩野。今回記者が注目したのは、水加減による硬軟の調整だ。一般的にはやや硬めに仕上げた基エサを小分けし、手水と押し練りを加えながら軟らかくするのがセオリーだが、今回萩野はグルテンエサのような〝一発合わせ〟による基エサ(決まりエサ)作りを披露して見せた。これはエサ合わせの途中で一定以上手を加えると、まるでそのエサを拒否するかのごとくウキの動きが悪くなったことを受けての対応だというが、「コウテン」に限らず現代両ダンゴ釣りにおけるキモのひとつである〝麩が立った状態〟を維持することの重要性を垣間見た瞬間であった。つまり麩の粒子を潰すことなく常に水中での働きを100%引き出し、へら鮒の興味を惹き続けるためにはこうした手法は極めて有効であり、なおかつ手を加えていない分同じエサを何度でも作り続けることができることで、安定したウキの動きをだし続ける再現率の高いエサ作りが可能になるだろう。

新エサ「コウテン」の特徴&使い方のポイント 其の二「やわらかく仕上げても芯が残る」特性が、幅広いヒットチャンスを生み出す

単にエサの芯を持たせればへら鮒が食うかというと、その答えはノーだ。基本的に軟らかいエサを好む(と考えられている)へら鮒に対し、エサの芯を持たせるためにエサそのものを硬くすることは好ましい対処方法とは言い難く、釣果を伸ばすためにはできる限り軟らかい状態で持たせることが求められる。しかしこうしたタッチのエサを自在に操ることは、初中級者はもちろんのこと上級者にとっても決して容易なことではない。萩野はこの点に関しても明確な回答を示してくれた。

「エサの持ち具合については、多くのアングラーがウキのナジミ幅で判断しているのではないでしょうか。これは決して間違いではありませんが、無理にナジミ幅をだそうとしてかえって釣りを複雑化させてしまってはいませんか?なぜなら単にエサが持っていれば食うという訳ではなく、肝心なことはタッチ(硬さとネバリ具合)を含めたエサの残存量を、その時々のへら鮒の好みに合わせることだからです。同じナジミ幅を毎投キープすることは事実上不可能です。エサを打ち込んだ直後に止められたり、ナジむ間に揉まれたりすることで毎投ハリに残るエサの残存量は異なります。私が心がけているのは、その日そのときでへら鮒が躊躇なく食う残存量がある程度分かった時点で、ウキの動きから逆算してそのサイズになったと思われるタイミングででるアタリにアワせることです。たとえばすんなりウキが深くナジんだときはタナまで大きな塊のまま届いたと判断し、少し間を置きエサが小さくなってからのアタリを取るようにします。一方上層でエサが止められウキが立つまでに時間がかかったときには早い段階で好みのサイズになっているものと判断し、ナジミ際の早いタイミングのアタリであっても自信を持ってアワせますね。」

アタリの取り方については動画にバッチリ収められているので、是非そちらを参考にしていただくとして、たとえ萩野のような高度なテクニックや水中を読み解く想像力、洞察力を持ち合わせていなくても、「コウテン」の確かなエサ持ちは幅広いヒットチャンスをもたらしてくれる。彼が言うように毎投同じタイミングでアタリをだすことは不可能だ。ならば多少バラツキはあっても確実にエサの芯を残したうえで、食いやすい状態になったタイミングででるアタリに素直にアワせた方がヒットチャンスが広がり釣れる確率が高まるにるに違いない。

新エサ「コウテン」の特徴&使い方のポイント 其の三:〝密〟を避け、無駄なウキの動きを抑えて食い頃のエサを送り込む

前項においてアタリの取り方について言及した萩野だが、彼のウキの動きを見ているとヒットペースに反比例するかのように、釣れれば釣れるほどウキの動きに無駄がなくなり静かになってくることに気づく。そしてヒットペースが安定すると、それまでバラツキが見られたアタリのタイミングもエサが完全にタナに入ったところに集中するようになり、やがて釣れてくるへら鮒もワンランク大きなものに入れ替わってしまったのだ。記者はこれを〝密〟を避けることによる時合いの好循環と推察する。つまりエサのバラケ過ぎや不用意な早アワセによるへら鮒の過剰な密集・密接・密着状態を避けることで適度な〝間〟が生まれ、食い頃に仕上げたヤワボソタッチのエサを確実に送り込める環境が整ったなか、ナジませて食いやすい状態を構築していたのだ。

「現代両ダンゴ釣りにおいて、完全にタナに寄せきってから釣り込むことはほぼ不可能です。打ち始めはどのタナに食い気のあるへら鮒が居るのか分かりませんから、ウキが立ち上がった直後からどのタイミングで食ってもアワせられるよう準備を整え、早いアタリであればエサ落ち目盛りを通過するあたりで、遅いアタリであれば深ナジミしたウキが戻し始めてからでも、食ったと思えばアワせます。大抵はどんなにバラケ性を抑えていてもウワズることが多いので、エサが入り難くなったら意図的に早いタイミングで食わせて上層のへら鮒を数枚引き抜きます。そしてエサが入りやすくなった時点で通常の食いアタリに狙いを切り替え、最終的にはタナに多くのへら鮒が入ってきたことが確認できたらアタリを送り気味してアタリ返しで良型を仕留めるのです。」

へら鮒の寄りは時々刻々変化する。バラケ過ぎを放置すれば過剰に寄ってエサが持たなくなり、抑え過ぎると寄りが不足しアタリを喪失しかねない。現実にはへら鮒の寄りは増減を繰り返すのが常なので、萩野のようにアタリをとるタイミングを意図的にずらし、へら鮒の寄りが〝密〟になり過ぎないようにすることがコンスタントに釣り続ける秘訣なのだろう。

記者の目【実践してみて分かった萩野流プロセスの確かさ】

プロセス明快!釣れて痛快!のサブタイトル。実は今回の取材の直後、私自身が自粛明け初釣行の場として椎の木湖を選び、萩野が明示してくれたエサ作り・プロセス通りに釣り進めてみたところ、初めて使った「コウテン」+「カルネバ」ブレンドで数年振りに100枚オーバーの釣果を得ることができたときに浮かんだものだ。あまたの名手の釣りに触れる機会が多い記者にとっても、これほど単純明快で効果絶大であった釣技は覚えがない。いまだかつてないほど鮮烈な体験をさせてくれた萩野の釣技は、間違いなく多くのアングラーの一助になると断言しよう。なぜなら上級者レベルの特別なテクニックを要せず、エサ合わせのルーティーンとアタリの取り方に注意を払うだけで、記者自身が迷うことなく結果を出せたからにほかならないからだ。当然ながら高釣果の背景に新エサ「コウテン」のポテンシャルが寄与していることは疑うべくもない。おそらく記者自身、今後いろいろな釣り場で新エサを試す機会があるだろうが、萩野が示してくれた明快なアプローチを忘れることなく実践してみたいと思う貴重な取材であった。