稲村順一が徹底レポート「釣技最前線」第90回 南 元彦の長竿チョーチン両ダンゴ釣り|へら鮒天国

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稲村順一が徹底レポート「釣技最前線」第90回 南 元彦の長竿チョーチン両ダンゴ釣り

否応なくへら鮒が寄り過ぎ、ウキの動きが複雑になりがちな夏の釣り。取り分け深いタナを攻める長竿チョーチン両ダンゴ釣りはエサの着水地点を始めとし、数多くのへら鮒が上層に寄ることでウキがナジまず、エサがタナまでまったく入らなくなることすらある。おそらくこうしたことが要因となり釣りの難易度が増してしまうからなのだろうか、夏のチョーチン両ダンゴ釣りが無意識のうちに敬遠されがちな釣り方になってしまっている感がある。しかしこうした現状に逆行するかのように、あえて長竿で深場を攻めることでグッドコンディションのへら鮒を狙い続ける男がいる。それが今回登場いただくマルキユーインストラクター南 元彦だ。記者も多くのアングラーの様々なスタイルのチョーチン両ダンゴ釣りを見てきたが、今回紹介する南の釣りはひと味違ったアプローチであり、その釣りをひと言で表現すると「無駄を省いた効率的な釣り」とでもいえようか。取材フィールドとなった岐阜県海津市にあるつつじ池の大型ベらを相手に、今では少数派(?)ともいえる二代目チョーチンだんご「天々」ベースのヤワネバダンゴを駆使し、落ち着いたウキの動きを演出しながらも明確極まりない食いアタリで、次々と地べら化した大型を深場から引き抜いてくる釣りは圧巻の一言。さあ「天々」オン・ステージの始まりだ!

あえて集魚力を抑え、食い頃のヤワネバダンゴを的確にタナに送り込む

現在のチョーチン両ダンゴ釣りは概ねふたつのアプローチに分けられる。ひとつは「バラケマッハ」をブレンドの主役とした硬めのネバボソタッチのエサを使い、長めのハリスで意図的に上層に寄ったへら鮒にエサを削らせながらエサをナジませ、タナに入ったところで丁度食い頃にするアプローチ。そしてもうひとつはまとまる(ネバリのある)麩材主体のブレンドで開きを抑えた〝食い頃〟のヤワネバタッチのエサを使い、比較的短めのハリスで上層のへら鮒をできるだけ刺激しないようにナジませて、タナに入った直後に食わせるアプローチだ。傾向としては夏場多くみられる8~10尺程度の短竿チョーチン両ダンゴ釣りでは後者のアプローチが多く、18~21尺といった長竿チョーチン両ダンゴ釣りでは前者のアプローチが主流となっている。今回紹介する南の釣りは厳密に言えばいずれのカテゴリーにも属さないようにみえる。なぜなら長めのハリスを使いながら「天々」をベースとしたヤワネバダンゴを的確にタナに送り込み、ナジミ際の早いアタリよりもむしろナジミきったところででるアタリに照準を絞り込んで高いヒット率で釣り込んでいくためだ。

ここで改めて二代目チョーチンだんご「天々」というエサの特徴ならびに〝取説〟を見てみよう。マルキユーエサカタログによると、

ヤワネバ系のチョーチン釣り用ベースエサ
チョーチン釣り用 両ダンゴのベースエサ。粒子が細かく、混ぜた瞬間からまとまりがいいヤワネバタッチが簡単にできます。タナが深いチョーチン釣りでは「ガッテン」とのブレンドで、ナジミぎわの早いアタリをガンガン攻めることができます。さらにエサ持ちを良くしたいときは「BBフラッシュ」を加えると、軟らかいタッチでも深いタナまでエサを持たせることが可能。寄せながら釣るには「バラケマッハ」をブレンドすると、さまざまな状況に対応できるダンゴエサになります。まとまりがいい特性を利用し、セット釣りのバラケエサにブレンドすると余分なバラケを押さえ、タナでジワーッと膨らむバラケエサができます。

とある。取材冒頭、滋賀県に居を構える南は…

「関東圏の釣り場に比べると、魚影密度の点ではどうしてもこっちは劣りますね。そうした環境下で関東と同じエサを使っていると余程注意していないと簡単にウワズリ気味となり、折角深いタナに潜んでいるコンディションの良い貴重なへら鮒を釣ることが難しくなるのです。浅ダナで数を釣るのであれば関東と同じような攻め方で可能ですが、私が好きな釣り方はあくまで長竿を使ったチョーチン両ダンゴ釣りなので、好みの釣りを突き詰めていったら自然とこのエサ使い、このアプローチにたどり着いたという感じですね。」

逆の見方をすると、南の釣り方は魚影密度の濃い関東では通用しないということにならないか?

「そんなことはありません。毎年数回は関東にも遠征をしますが、大型べらの多い椎の木湖や西湖などの山上湖、魚影密度の濃い三名湖などの準山上湖でも同じ釣り方です。むしろ寄せを必要としない関東圏の釣り場の方が向いている釣り方かも知れませんよ。」

余裕の笑みを浮かべながら長尺竿を継ぐと、強い向かい風をものともせずに大きめにエサ付けされたヤワネバダンゴを正確にポイントに打ち込み、あっという間に時合を構築して釣り込んで見せた南。では早速その釣りの核心に迫ってみよう。

使用タックル

●サオ
シマノ 「普天元大我 」18尺

●ミチイト
オーナーばり「ザイトサバキへら道糸フロロ」1.25号

●ハリス
サンライン「パワードへらハリス奏」 上0.5号-50cm、下0.5号-65cm

●ハリ
オーナーばり上下「バラサ」8号

●ウキ
旭舟「赤太」7番 【PCムクトップ/オモリ負荷量≒3.1g/エサ落ち目盛りは全13目盛り中7目盛り出し】

●ウキゴム&ウキ止め
市販品+木綿糸

●オモリ
フィッシュリーグ絡み止めスイッチシンカー0.8g+ウレタンチューブ装着の上に0.3mm板オモリ巻き

●ジョイント
極小マルカン

南流チョーチン両ダンゴ釣りのキモ 其の一:あえて寄りを抑え、静かにタナに送り込めるヤワネバタッチのダンゴエサ

南のチョーチン両ダンゴ釣りの柱は、もちろんエサである。そしてその中核を成すのが二代目チョーチンだんご「天々」であり、さらに南の狙いをサポートしているのが「ガッテン」「グルバラ」「BBフラッシュ」といった微粒子&まとまる系の麩材陣である。ちなみにマルキユーへらエサカタログには、「天々」はヤワネバ系のチョーチン釣り用ベースエサという記載があり、特徴としては粒子が細かく、タナが深いチョーチン釣りでは「ガッテン」とのブレンドで、ナジミ際の早いアタリをガンガン攻めることができ、さらにエサ持ちを良くしたいときは「BBフラッシュ」を加えると、軟らかいタッチでも深いタナまでエサを持たせることが可能になるという。南はまさにこの〝取説〟に従ったエサ作りを実践し、自分の釣りの柱としている訳だ。

「ダム湖などで極軟タッチのマッシュ系ダンゴエサを愛用している自分にとって、このエサが特別に軟らかいエサだとは思っていませんが、このくらい開きを抑えた軟らかいエサであれば、たとえ魚影が薄い釣り場でも貴重なへら鮒をウワズらせることなくタナに寄せて、なおかつ高いヒット率で確実に食わせることができるのです。現在のチョーチン両ダンゴ釣りでは多くのアングラーが『バラケマッハ』をベースにしていることは承知していますが、私のエサと似たようなタッチにしようとするとどうしても強い練り込みを加えなければなりません。その結果、似たようなタッチであっても水中落下中の開き方には違いが生じてしまい、さらにタナに入った時点でタイミングよく食い頃にすることも難しいと思います。私は基エサを小分けして使いますが、状況によってはさらに手水や押し練りを加えてタッチを調整します。その際、最初からネバリがあってまとまるエサとそうでないエサとでは加える加減に大きな違いがあるので、そうした観点からも微粒子&まとまる系の麩材でまとめる必要があるのです。」

今回の取材では、特別に記者も南に並んで彼のレシピ通りのエサで試し釣りをさせて頂いた。その際気が付いたことをレポートさせて頂くと、まず計量カップでキッチリ正確に計って作るとかなり軟らかいタッチに仕上がるという点だ。これを南に見てもらうと「チョット軟らかすぎるかもしれませんね…」とつぶやき、記事にする際に「天々」を山盛りにするか、気持ち水量を少なめにすれば比較的扱いやすい硬さに仕上がるだろうと言い添えてくれたので、試す際には参考にして頂きたい。

南流チョーチン両ダンゴ釣りのキモ 其の二:「GD」後差し+αの工夫で深いタナまでヤワネバダンゴを送り込む

ところで盛期においては短竿でもたくさん釣れるのに、なぜ南は長竿で深いタナを攻めることにこだわるのだろうか?

「それはへら鮒の〝質〟が良いからです。もちろん浅ダナで良いへら鮒が釣れる釣り場もありますので、そうしたところではチョーチンにこだわることなくペレ宙釣りで攻めますが、多くの釣り場では深いタナの方がコンディションの良いへら鮒が釣れる傾向があり、しかも釣れ始めてから比較的安定的に釣れ続くことが多いことも、私が長竿の釣りにこだわる理由なのです。」

そう答えながらも次々と黄色味がかった大型のへら鮒を玉網に収める南。しかし隣で釣る記者は徐々にペースダウン。時間が経つにつれ南のウキの動きとは異なる不規則な動きがトップに現れ、取り分けナジミ際の動きが不規則でナジミ幅が一定しない。

「明らかなウワズリの症状ですね。先ほどから兆候は見えていましたが、訂正のための対策が遅れたためにエサが持たなくなっているようですね。」

そう言うと自らもエサの手直しと称し、小分けした基エサに少量の手水を加えてから新エサ「GD」をひとつかみ加え、差し込むように混ぜ合わせてエサ持ちを強化した。

「この『GD』の後差し、結構イケるんですよ。従来は主に『BBフラッシュ』を後から加えてエサ持ちを強化していたのですが、つい先頃『GD』を試しに使ってみたところ、とても良い感じでエサが持つようになったのです。しかも想定外の効果としてエサがぶら下がった状態からでも食いアタリがでるようになったため、無理にナジミ際の早いアタリを狙う必要がなくなり、さらに時合が安定するようになりましたね。」

こうしたエサの手直し以外にもヤワネバダンゴをタナまで送り込む+αの工夫があるのでまとめて紹介しておこう。

1.高浮力ウキの活用
南がこの釣りで使うウキの浮力(オモリ負荷量)は1~2ランク大きいのが特徴だ。これこそが落下途中でへら鮒にエサを触らせない(削らせない)ための最大のポイントで、短時間で上層に寄るターゲット外のへら鮒が密集するレンジを突破させ、オモリが張り切ったところから後は長めのハリスでソフトに刺激しながら摂餌を促すといったアプローチが可能になる。もちろんトップはムクトップ(旭舟「赤太」はPCムク)仕様だ。

2.ハリ抜けし難いエサ付け
エサ付けにも注目して欲しい。硬めのエサであればそこそこエサの中心にハリを位置させていればタナまでエサは持つが、微粒子系のヤワネバダンゴではそうはいかない。動画や写真で確認していただければ一目瞭然だが、ハリの位置はエサ玉の最下部。エサの大きさ(直径≒20mm)からするとハリのチモト部分がエサの中心近くに位置し、振り込み時に多少の遠心力がかかっても容易にエサ玉から抜けないように工夫されている。

南流チョーチン両ダンゴ釣りのキモ 其の三:チャンスは2回。無理にアタリを追わず、自然と手の出るアタリにアワせればOK!

先に述べたチョーチン両ダンゴ釣りのふたつのアプローチでは、やはりアタリの取り方にもそれぞれに特徴がある。硬めのエサ+長ハリスでエサをへら鮒に削らせて食わせるアプローチでは、エサ落ち目盛りを過ぎたあたりからの小さな動きにも積極的にアワせてみて、エサの持ち具合(食い頃になるタイミング)を考えながら徐々にヒット率の高いタイミングででるアタリに狙いを絞り込んでいく。一方軟らかめのエサ+短バリスで一気にエサをタナに入れて食わせるアプローチでは、深ナジミしたところから一気に消し込む強いアタリ一本に絞り込むのがセオリーだ。そして南流のアプローチだが、軟らかめのエサ+長ハリスという組み合わせにおいてウワズリは厳禁なので、ナジミ際でもできるだけ深くナジんだところからのアタリにアワせるように心がけたい。そして一旦ナジミきってしまったときでもトップの戻り際にサワリ(アオリ)が認められるときには少し待ってからでも食いアタリがでることがあるので、決して早いアタリばかりを狙うのではなく、ナジミ際のエサが動いている間とナジミきってエサが止まったときと、チャンスは2回あるものと考えよう。

「軟らかいエサの特徴として、ウキの動きに変にゴツゴツした感じが現れ難いというメリットがあり、このことは食いアタリを判断するうえでとても有利に働きます。アワせようかアワせまいか悩むような動きはすべて見送っても構いません。なぜなら食いアタリは躊躇することがないくらいハッキリしたものが大半だからです。従って自然と手がでるアタリが食いアタリであり、無理に食いアタリを識別しようとしなくても大丈夫です。」

 

記者の目【今こそ見直されるべき二代目チョーチンだんご「天々」のポテンシャル】

現代へら鮒釣りには〝寄せてナンボ〟といった考え方が確かに存在する。しかし現在の魚影密度では必ずしも数多く寄せれば良いといった考え方が通用せず、むしろ適度な間をキープするために寄りを抑制した方がかえって釣りやすく、結果的に釣果が上がるといったケースも少なくない。取り分けウキの動きが複雑化する夏場のチョーチン両ダンゴ釣りでは「無駄に寄せない、ハシャがせない」ことが時合を安定させるうえでのキモであり、微粒子&まとまる系の「天々」ベースのバラケ性を抑えたヤワネバダンゴが、極めて有効なエサ使いであることを南の釣りが示してくれた。それには二代目チョーチンだんご「天々」のポテンシャルが必要不可欠。今こそ、その真価が見直されるべきときかもしれない。