稲村順一が徹底レポート「釣技最前線」第95回 吉田康雄の冬の浅ダナウドンセット釣り|へら鮒天国

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稲村順一が徹底レポート「釣技最前線」第95回 吉田康雄の冬の浅ダナウドンセット釣り

一年で最も厳しい釣りを強いられる厳寒期。取り分けへら鮒の動きが停滞する1月中旬から2月にかけてのこの時期は、アタリどころかウキにわずかな動きを出すことすら困難なことも珍しくない。そんな状況下にあっても釣る人は釣るもので、当然ながらそこには何らかの要因(コツ)があるはずだ。今回はそうした冬の難時合いを攻略すべく、マルキユーインストラクター吉田康雄に白羽の矢を立てた。この男、先の「釣技最前線」では盛期におけるペレ宙釣りというパワー溢れる釣りを見せつけてくれたが、厳寒期の超繊細な釣りにも長けた真のオールラウンダーだ。今回の取材では自ら生み出したグラスムクトップウキと、セット釣りには欠かせない「セット専用バラケ」に含まれる微粒子を生かしたバラケで、現代セット釣りに欠かせないレンジキープ力と摂餌誘発力を生みだすことを明示。まさに現代浅ダナウドンセット釣りの指針となる吉田流アプローチを見逃すな!

目指すところは「無理・無駄・ムラ」のない繊細なアプローチの追求!

厳寒期の釣りにおいて繊細なアプローチは至極当然のことで、誰しもが心掛け、そして実践していることだろう。しかしエサ・タックル・組み立て方等々その要素をつぶさに見ていくと、必ずしも的確とはいえないケースが少なくないのが実情だ。

「皆さん冬になると細いラインや浮力の小さな厳寒期仕様のウキを使ったり、バラケも粒状ペレットの量を控えて軽めの麩材を多くブレンドしたり、さらにはゼロナジミに代表されるような抜きバラケのアプローチを組み立て方の軸にするなど、色々と工夫を凝らして冬の釣りに臨まれているようですね。しかし現実には釣れる人と釣れない人の差が大きく開いてしまっており、多くのアングラーが悩み苦しんでいることも承知しています。でもその差はごくわずか。今日はそこのところを詰め切れるような釣りが見せられればと思っています。」

取材フィールドとなった管理釣り場「将監」は、厳寒期でもウキがよく動くことで人気が高い老舗管理釣り場だが、吉田自身久し振りに訪れる釣り場とのことで、スタッフが事前に入手した情報に基づき、午後から強くなるという北西風が避けられ、今回のテーマである浅ダナウドンセット釣りがやりやすい中央桟橋の中ほどに釣り座を構えてもらった。支度の最中に、昨今の厳寒期における浅ダナウドンセット釣り事情について訊ねてみた。

「活性が低下したへら鮒の食い気に合わせ、バラケを調整し、タックルを煮詰めていくといった組み立て方の根幹の部分に関しては、以前とそれほど変わっていないと思います。ただし、繊細さの面では以前よりもシビアになっていることは確かで、厳寒期の釣りで僕が心掛け実践していることは、まずシタズリを起こすことなく安定的にへら鮒をタナに滞留させるバラケのブレンド。そしてもうひとつは、そのバラケのコントロール幅を広げるために開発した新ウキ『センシービレ』(イタリア語で『繊細な・敏感な』という意味)のポテンシャルを最大限引き出すことです。」

詳細は後述するが、この日吉田はセット釣りの基本であるウキを深くナジませるアプローチからスタートし、徐々にナジミ幅を浅くしながらバラケの抜けるタイミングに変化をつけ、最もアタリが出やすくヒット率が高いバラケの扱い方を探っていった。そのときのウキの動きは動画のとおりで、吉田自身が無理なく、無駄なく、ムラのないアプローチで近代浅ダナセット釣りの方向性を明確に示してくれているのがよくわかるだろう。

使用タックル

●サオ
シマノ飛天弓「柳」8尺

●ミチイト
東レ 将鱗へら道糸「ストロングアイ」0.6号

●ハリス
東レ 将鱗へらハリス「スーパープロプラス」 上=0.6号-8cm、下=0.3号-40cm

●ハリ
上=ハヤブサ 鬼掛「極ヤラズ」6号、下=ハヤブサ 鬼掛「軽量関スレ」3号

●ウキ
吉田作 浅ダナセット専用ウキ「センシービレ」No.3
【0.8mm径ストレートグラスムクトップ8.5㎝/6.4mm径カヤボディ4.5cm/0.8mm径カーボン足7.5cm ※エサ落ち目盛りは7目盛りトップの4目盛りだし】

●ウキゴム
市販品

●ウキ止め
市販木綿糸(上下各一ヶ所)

●オモリ
0.2mm板オモリ1点巻き

●ジョイント
ハヤブサ鬼掛「軸付き丸カン」

バラケエサくわせエサ

 

吉田流冬の浅ダナケウドンセット釣りのキモ 其の一:ウワズリよりも怖い〝シタズリ〟を起こさないためのバラケブレンド

浅ダナに限らず、近年のセット釣りは強力な集魚材である粒状ペレットやさなぎの大量ブレンドに加え、高速で沈下させることでウワズリを抑制するといったバラケ使いが主流になっている。しかし、厳寒期に限っていえばこの抑制力が仇となり、狙ったタナに十分な量のへら鮒を寄せきれない、いわゆる〝シタズリ〟状態によってアタリをだしきれていない可能性が極めて高いと吉田は指摘する。

「水温が低下し活性が低くなったへら鮒は自ずとウワズリにくくなっています。その証拠に水面直下でバラケを抜いてしまうゼロナジミの釣りが成立するのは、特に寒さがピークを迎える1月上旬から下旬にかけてで、この時期にバラケを持たせてウキを深くナジませていたのでは、いつになってもくわせエサの周囲に寄って来ません。そのため狙いのタナよりも上の層からバラケを拡散し、一時的にタナに集まってきたへら鮒に小さなくわせエサをバラケの粒子に紛れ込ませ、誤飲させてしまおうというアプローチがセオリーになるのですが、これではタナに留まるへら鮒の数があまりにも少なく、余程うまくバラケをコントロールできなければコンスタントにアタリをだして釣り続けることは不可能です。そこで必要になるのがタナに寄ったへら鮒を一定時間足止めさせるための対策であり、そのカギとなるのがタナで滞留する微粒子バラケなのです。僕はその役割を『セット専用バラケ』に期待しており、この時期の浅ダナウドンセット釣りのバラケブレンドに欠かせない存在となっています。」

前述のバラケブレンドには高活性期にウワズリを抑制するための麩材も多く含まれているが、水中で一定レンジに滞留する適度な比重を持った微粒子を含む「セット専用バラケ」を加えることで、あたかもくわせを包むように繊細なバラケの粒子が漂い、食い渋ったへら鮒にも摂餌のチャンスが広がるという訳だ。

吉田康雄流浅ダナウドンセット釣りの水中イメージ

吉田流冬の浅ダナケウドンセット釣りのキモ 其の二:摂餌を促すトリガーはバラケの持たせ方と抜き方にあり!

バラケの作り方は前述の通りだが、吉田はこれをそのまま使い始めない。別のボウルに取り分けたものに3回ほど手水を加えてから十分に撹拌をし、見た目にもかなりしっとり感を増したものでエサ打ちをスタート。これが彼のルーティーンなのだ。

「冬のセット釣りで食いアタリをだすためには、食い気のないへら鮒にいかにエサへの興味を持たせるかがカギとなります。どんなに寒い時期でも根気よくバラケを打ち込み続ければへら鮒は寄りますが、さらにそのへら鮒の摂餌を促すためには何らかのトリガーが必要になります。それこそがバラケの持たせ方と抜き方であり、その決め手となるのがバラケのタッチとエサ付け方法なのです。近年のセット釣りでは常に精度の高いバラケコントロールが求められています。取り分け厳寒期の釣りではたった1目盛りナジミ幅が違っても、またわずかにバラケが抜けるタイミングがズレても食いアタリはでません。この微妙な加減を的確にコントロールするためにはこのしっとりしたタッチが必要不可欠であり、加えてへら鮒の寄る量や動きの変化に応じた臨機応変なエサ付けが重要になるのです。」

口で言うのは簡単だが、それがいかに難しいかは読者諸兄がよくお分かりだろう。実際のところほぼ毎投、微妙に変えなければならないエサ付けは繊細かつ根気のいる作業だが、それが実現できると必ず釣果につながるという証はウキの動きを見れば一目瞭然。だからこそ吉田は我々のオファーに応じ、そのコツを包み隠さず公開してくれたのだ。

吉田流冬の浅ダナケウドンセット釣りのキモ 其の三:バラケのコントロール幅を広げる浅ダナ専用グラスムクトップウキ!

「手前味噌で恐縮なのですが、ここ数年の釣りで僕自身が感じていたことの答えがこのウキに集約されており、このウキなくして厳寒期の浅ダナウドンセット釣りは考えられなくなりました。」

繊細なエサ付けによるバラケコントロールをイメージどおり水中において実現するためには、今回使用したウキの存在なくしては語れないと吉田は言う。このウキの最大の特徴は、厳寒期においてパイプトップは勿論のことPCムクトップですら現れなかった動きを出せること。ただし、誤解していただきたくないのは「繊細さ=グラスムクトップウキ」ではないということと、従来のウキでは出せなかった動きを出すためには、当然ながら越えなければならない高いハードルがあることを理解しておかなければならない。それはいうまでもなくバラケのエサ付けだ。取材時のへら鮒の動きはまだ活発で、ナジミ幅を一定に保つためには相当なテクニックが求められたが、一年のうちで最も活性が低下するこの時期はそうした心配はなく、むしろわずかなサイズ・形状・圧加減の違いによってトップのナジミ幅が変わることが容易に実感できるだろう。

「グラスムクトップウキの特性上その扱いにはコツが必要ですが、慣れれば大きな武器になることは間違いありません。基本的に抜きバラケのセット釣りに特化した設計になっていますが、まったくナジミ幅をださない、いわゆるゼロナジミはあくまで結果論であって、まずは一旦バラケを抱えさせてトップにナジミ幅をだすことが基本です。そこから徐々にナジミ幅を少なくしていき、その過程でどのくらいナジませ、どのタイミングで抜けば食いアタリがでるのかを探りますが、これこそが食い渋ったへら鮒の摂餌を促すトリガーであり、厳寒期のセット釣りの基本ですから是非マスターしたいテクニックですね。」

さらに吉田はパイプトップやPCムクトップウキでは制御不能領域であった持たせ方・抜き方が可能になると言う。それはより難しい釣況へのアジャストができることを意味するのだが、バラケの繊細なコントロール精度を高めるためには、エサ付けだけではなくエサの打ち込み(振り込み)も重要だ。

「エサの着水地点がズレただけでもエサ持ちは変わってしまいますので、エサのタッチから始まり、エサ付け、そして丁寧かつ繊細な打ち込みまでを含めてバラケのコントロールという意識を持つことが大切ですね。」

さらに彼は打ち返しのリズム・テンポも重要だと言い添えた。具体的には、吉田はサワリの現れ方で待つ/打ち返すの判断をしており、理想のナジミ幅がだせて狙ったタイミングでバラケが抜けると、5割を超えるヒット率でコンスタントに釣り込んでみせたのだった。

「ただでさえウキの動きが乏しい時期の釣りなので、わずかにでもサワリが見られるとついアタリ欲しさにサソイを入れながら待ってしまいがちですが、待つ際にもどのくらいと決めて、意識してテンポの良い打ち返しを心掛けることも重要なテクニックのひとつといえるでしょう。」

吉田康雄流 浅ダナケウドンセット釣り 基本アタリパターン

記者の目【徹底した基本の踏襲と飽くなき探求心が吉田の真骨頂】

アタリをだすために必要なグラスムクトップわずか1目盛りへのこだわり。それを維持するために繰り返えされる地味なエサ付け作業と正確無比なエサ打ち。およそ派手な見た目や言動からは想像もつかないような徹底した基本の踏襲が吉田の釣りの根幹であることは間違いない。さらに冬の難しい時合を少しでも容易に打開する術として開発された新ウキは、まさに彼の飽くなき探求心の現われであり、マルキユーインストラクターとなった現在、その結果を余すことなく一般アングラーに開示してくれた懐の深さもまた、彼の釣りをひと回り大きくした要因のひとつであろう。厳寒期の釣りは確かに難しく、途中で諦めて投げ出したくなることもある。しかしやることをやればへら鮒は必ず応えてくれるし、成果としても現れる。そう信じて迎えた新年、読者諸兄にとって良い釣りができる一年であることを祈念し、レポートを終わることとしよう。